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5-2.
しおりを挟む「聖女の残した手記ですか。」
フォンは、少し考えるような素振りを見せる。
「聖女の手記は、この国の機密を含んでいます。閲覧の許可及び開示の範囲については、持ち帰り検討させてください。」
「わかりました。よろしくお願い致します。」
フォンは即断を避けて言った。
遙香は「聖女の母」となる者であって、「聖女」ではない。
出産後、聖女の育成にも、無論、国の運営にも携わらせる予定はない。
過去の聖女達の残した手記には、遙香が知る必要のないことを多く含んでいる。
フォンは、「宰相と相談しないと」と、頭に刻み込んだ。
「他に質問はよろしいでしょうか?」
遙香は、頷く。
「明日以降は、朝と夕、もしくはいずれか片方の時間にのみご挨拶に伺います。要望などがありましたら、その時か、侍女に言付けて下さい。
医局へは、近衛騎士が同行します。」
それでは。と言ってフォンは立ち上がり、遙香に礼をすると食堂から去っていった。
遙香も慌てて立ち上がったが、既に、フォンの姿はなかった。
遙香は肩をすくめて、アルベルトに向かって言った。
「私、質問、間違えました?」
聖女の手記のことを尋ねたのは早計であったかもしれない。フォンの表情を見て、そう、遙香は思ったのだ。
「いや、あいつの側の問題だろう。」
アルベルトは、短くそう答えると、遙香に聞いた。
「このまま出るか?それとも一度部屋に戻るか?」
「んー、メモ帳を取りに戻ります。」
遙香の返事を聞いて、アルベルトは部屋へ向かって歩き出した。
**************************************
遙香は、リンジーが準備してくれた肩掛けのハンドバックを持って、馬車に乗り込んだ。
アルベルトが続いて同乗し、馬車が動き出す。
小窓から、よく整備された街並みが見えた。道幅は広く、馬車が行き交うのに十分なようだ。
別邸は住宅街の中にあるのか、見えてくる景色は、広い庭のある屋敷ばかりだった。
遙香はちらりとアルベルトを見る。馬車の斜め向かいに座り、腕を組んで、目を瞑っている。
「なんだ。」
アルベルトは、薄く目を開き遙香を見ると、そのままの姿勢で声を出した。
見ていたことに気付かれ、遙香はびっくりした。
「アルベルト、お昼ご飯は?」
遙香は、気になっていたことを尋ねた。
「気にしなくていい。医局での待機中に済ませる。」
「そう。」
短い会話は終了した。
その後、遙香は窓の外に視線を戻した。
医局に到着するまで二人は無言であったが、気まずさはなかった。
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