聖女の母と呼ばないで

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4-6. (方針)

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フォン・ヴァッハヴェルは、朝から王の執務室で、王と宰相を相手に昨日の遙香の様子を報告していた。

「終始、硬い表情でしたが、取り乱す様子は見られませんでした。淡々と、こちらの言葉の意図を探るような感じです。

その様子から、過去の聖女達と異なり、多少なりとも社会的に自立した生活環境にいたものと思われます。」

宰相が、フォンに聞いた。

「これまでの聖女と同じ国の者か?」

「翻訳の呪文で読み取った言葉は、「日本語」でした。このことから、これまでの聖女と同じ国からの召喚であると考えています。」

フォンの言葉を聞き、宰相が溜め息をもらす。

「浄化の力がある者は、やはり「日本」の国の者になるのか。」

召喚される聖女は、いつの時代も「日本」からの転移者だった。元の場所には魔法がないとのことだが、いくつかの例外を除き、ほとんどの者が魔法に対するイメージの確立が早かった。

他方、過去の聖女に比べ、ここ3, 4代の聖女は、召喚されたことを知ると、その能力の対価を過剰に要求する例が相次いだ。

それまでの自己犠牲的にも取ることができる献身さと比べ、そのさまは異様だった。


フォンは、自分の考えを述べた。

「年齢や思考の成熟度から鑑みるに、近代の聖女とは異なるように思いますが、今の段階では判断できません。

ただ、理性的に判断するだけの社会性、能力が備わっていることから、物事の本質、こちらの隠している意図を読み取る可能性も否定できません。」



王は暫しの思考のあと、フォンに言った。

「此度の召喚は、過去の聖女の暴走を教訓にした対策だ。召喚された者は聖女ではない。従って、特別な権限は与えない。

聖女が生まれたら、この国の者を乳母につけ、グリーンベル王国の者として教育を施す。その方針を変更することはない。

聖女の母が安定期に入ったら、国民の不安を払拭するために、盛大に聖女の母を披露する。その準備だけは怠るな。」

「はっ。」

「魔の森の状態は?」

「大きな変化はありません。瘴気及び魔物の遭遇状況は、いずれもレベル2の状態です。過去の統計から、レベル5への到達見込みは15-20年後。

今後の観測としては、瘴気がレベル3となる時期を注視しておく必要があります。」

フォンは答えた。王は、頷くと、

「時に、隣国の状況はどうなっている?」

と、宰相に尋ねた。

「変化ありません。召喚の術を行使したことで、大きく魔素が動いたことは認知されているものと思われます。」

宰相は答えた。

王は再びフォンに向かって言う。

「時が来るまで、「聖女の母」は最重要機密だ。抜かるな。」

「はっ。」

フォンは返事をし、深く礼をすると王の執務室を辞した。








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