聖女の母と呼ばないで

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「私が気を付けたらいいこと、何かありますか?」

遙香は皆に聞いた。


「そうですね。やはり、最初に気になるのは呼び方でしょうか。」

「敬称は、あまり付けないんですか?」

遙香が聞くと、イザベルもリンジーも首をふる。

「そのようなことはありません。ただ、貴族社会ですので、自分と相手の地位を明確にするために使います。
特に、家名は、貴族にとって、「個人」ではなく「家」を指す意味合いが強いです。」

「ハルカ様は、今、この国で王に次ぐ地位にいますしね。呼び方を間違えると、相手や、その回りにいる人に誤った印象を与えてしまうかもしれませんね。」

イザベルに続き、リンジーも言う。



「ちょっと待ってください。私が、王に次ぐ地位!?」

リンジーの言葉に遙香は驚く。

「そうですよ。」

イザベルが首肯する。

「いやいやいや、私は一般市民ですよ。」

「召喚され、この国に来られたハルカ様は、王の貴賓です。そして、そのお役目は、誰にも代わることのできないものです。」

「偉いんだぞって、ふんぞり返ってもいいんですよ。」

リンジー、腰に手をあて、ふんぞり返る真似をする。冗談めかしたその様子に、遙香は肩の力をぬく。


「そんなこと、しないですよ。
でも、そうですね。そうなると下手な物言いはできませんね。」

「昨夜、お話しした通り、このお部屋の中はハルカ様が一番過ごしやすい方法でお話しになって大丈夫です。私達も、その方が嬉しく思います。

ですが、貴族には、主人とお仕えする者が同じ席につくことなどをよく思わない方もいます。」


遙香は、メモを取りながら聞く。


「ハルカ様が、その一族や家の力に対して話をなさるのであれば、家名と爵位で、個人の功績や力に対して話をなさるのであれば、名前を呼ぶのがよいと思います。」

「なるほど、そういうことであれば、郷に入れば郷に従え、そう呼ぶようにします。
呼び捨てが失礼には当たらないんですね。」

「はい、むしろ、名前に敬称をつける場合、家臣や下位貴族に対して、他人行儀な、信頼していないことを示すことになります。」

「!?
イザベル、リンジー、ごめんなさい。そんなつもりでは。」

「わかっていますよ。大丈夫です。」

遙香は、慌ててイザベルとリンジーに謝罪した。


「アルベルト、さん。
やっぱり、年上の方を名前で呼ぶのは抵抗感が。尊敬の意味であって、決して信頼していないという訳ではないのですが。」

「呼びやすいように呼んだらいい。今までの話で意図は理解している。

ただ、年齢は変わらないぞ。」


「えっ?」

「今年32になる。」

「同い年?」

「数えかたが同じならな。」


1年が365日であることは、同じだった。時間の長さは10進法で表されているという。1日の長さが同じかは判断がつかないが、年齢としては、遙香とアルベルトは同じと見てよいのだろう。

「すみません、てっきり年上かと。落ち着きというか、貫禄というか。」

遙香は重ねて誤解していたことを謝る。会社の同期は、アルベルトと比べてしまうと軽い感じがする。危機管理の差か。それとも死生観なのだろうか。どんな経験を重ねるとこうなるなか、遙香は、部屋の外のこの世界がどのようなところなのか気になった。

「いや、いい。俺もてっきり年下だと思っていたから。」

目の前であれだけわんわん泣けば、そう思われても仕方がない、そう、遙香は思った。そこにリンジーが口を挟む。

「ハルカ様、小柄で黒い目がクリクリしてて可愛らしいですもんね。私も、同い年くらいかなぁって思ってました。」

遙香の身長は、156cm。日本でも低い方かも知れないが、特段気になるほどではない。対して、イザベルとリンジーは、遙香より10-15cmほど背が高いようだ。その2人より更に背の高い頭アルベルトの身長は、185cm位だろうか。遙香には、よくはわからないが、こちらの人達に比べると、年齢より若く感じる風貌らしい。欧米人がアジア人に対して感じるのと同じかな、と遙香は思った。


「そう言うリンジーは、幾つなの?」

「今年21になりました。落ち着いた大人の女性ですよ。」

「イザベルは?」

「・・・ご想像にお任せします。」


顔は笑顔のまま、有無を言わせない雰囲気で、イザベルがこの話題を終了させる。

この部屋で、イザベルは最強の地位を確立しつつあった。









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