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3-1.
しおりを挟むイザベルとリンジーが、4人分の飲み物を用意する。
遙香は、ホットミルクを頼んだ。
コップに手を添えると、じんわりと温かい。わずかに揺れる湯気を見て、少し気持ちが落ち着いた。
イザベルとリンジーは、遙香の向かいのソファに座った。遙香から見て、左側がシルバーの髪色で菫色の瞳のイザベル、右側が赤色の髪で明るい茶色の瞳のリンジーとなった。
アルベルトは、書斎から椅子を持ち出し、遙香の右側に少し離れて座る。
「ハルカ様とお呼びしてよいですか?」
イザベルが、遙香に微笑みながら言った。
「はい。」
遙香は、この世界に来て、初めて名前で呼ばれたことに気づいた。
「イザベルでも、ベルでも、呼びやすいように呼んでください。」
「イザベルずるい。私も!私もハルカ様とお呼びしたいです。私のことは、リンジーとお呼びください。」
イザベルの言葉に被せるように、リンジーも声をあげる。
その様子に、遙香は微笑した。
「ふふっ。二人とも、よろしくお願いします。」
「ハルカ様、笑うと可愛いですね。」
リンジーが、遙香を見て言った。
「ずっと難しいお顔をしているし、最初なんて、泣いて瞼どころか顔がすっごい状態で、うっ。」
言葉の途中で、リンジーが脇腹を押さえてうずくまる。
右から、イザベルの肘打ちが入ったようだ。
「すみません、ハルカ様。リンジーは口を開くと残念さが増すのです。」
「なんで!増すってなによー」
コントのような、姉妹のような二人のくだけた様子に、遙香もつられて笑った。
そんな遙香の様子をみて、イザベルは言った。
「心配していたのは本当ですよ。召喚されたばかりとはいえ、この別邸に来られたときから硬い表情でしたので。」
「借りてきた猫の方が、よっぽどくつろぐ、ふぐっ。」
リンジーの脇腹に、イザベルからの2発目がお見舞いされたのをみて、遙香は声を出して笑った。
「あははっ。心配かけてごめんなさい。」
遙香は、イザベルとリンジーが、自分の様子を心配してこの時間を作ってくれたのだとわかった。
二人には自分のことを話しておきたいと思った。
「ここに呼ばれる直前に、大切な人を亡くしたばかりなんです。ちょうど、葬儀が終わったあと、この世界に召喚されました。
現実を受け入れる間もなく、取り巻く環境が変わってしまって、頭では理解しようとしていたけれど、心が追い付いていかなかった。。。」
コップを揺らしながら、遙香は話す。視線は、中のホットミルクに注がれている。
これまで、どこか業務的だった遙香の様子が変わったのを見て、イザベルとリンジーは、口を挟まず遙香の言葉を待った。
「この世界のこと、聖女のこと、簡単に説明を受けました。私が、なんで召喚されたのかも。
大変なことだなぁと思います。国民の生活が脅かされるのも、国として対応しなければならない大切なことだと、理解しています。
・・・個人の感情なんて、些末なことであることも。
受け入れるしかないことも。
あの部屋に戻れたとしても、雄飛が帰ってこないこともわかっているつもりなんです。
でも。。。」
遙香の頬には、涙が伝っていた。
「雄飛に会いたい。」
言葉にして、口にして、感情が自覚される。
会いたい。
突然、いなくなってしまった雄飛に、会いたい。
もう一度、顔を見せて。
もう一度、名前を呼んで。
もう一度、抱き締めて。
お願い。。。
ただ、会いたいの。
淋しい。
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