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しおりを挟むフォンは、遙香に話し始めた。
グリーンバル王国は、魔の森を内包している。
魔の森の植生は、ほかの地とは異なり、魔法の力を使ったり、薬にするなど、国に恩恵をもたらすものである。
しかし、ある周期で魔の森は瘴気が満ちてしまう。瘴気に満ちた森には魔物が生息するようになり、いずれほかの地に侵食するようになる。瘴気自体も人間に病をもたらすものであると言う。
これまで、魔の森が瘴気に満ちる頃、世界には聖女が現れ、魔の森をなだめ、もとの状態に戻してきた。
聖女を呼ぶ魔方陣は古くから存在し、建国の祖が神から与えられたギフトであるとする古書が存在するそうだ。
真偽は不明だが、これまで、その魔方陣で呼ばれた聖女により、魔の森が浄化されてきたのは事実である。
「以前、聖女を召喚した際に、この世界に馴染み浄化魔法を使えるようになるまでに時間がかかり、いくつかの村が犠牲となりました。
先代の王は、なるべく早い段階で聖女を召喚し、この世界に馴染ませるよう魔術師団に研究を進めさせたのです。
数年前から、魔の森の瘴気が濃くなってきていると報告が上がっていました。
そこで我々は、先日組上がった術式を用いて召喚を行ったのです。
あなたが、こちらに召喚されたのは、魔の森の浄化を行う聖女を宿しているからです。」
そこまで説明すると、フォンはコップに口をつけた。
遙香もつられてコップを傾けた。
ほどよい温かさが保たれたお茶は、癖がなく遙香の喉を潤した。
「あの、質問してもよろしいでしょうか?」
「私に答えられることであれば。」
遙香は、会社での業務のように事務的に聞いた。
「私が期待されている役割は理解しました。ですが、私は自分が妊娠しているか分かりません。特段兆候も出ていないと思います。何か、判断できる方法があるのでしょうか?」
フォンは、一瞬、驚いたような顔をしたあと、また笑顔に戻って言った。
「あなたが、聡明な方で感謝します。
我々の魔方陣によって召喚されているため間違いはないのですが、のちほど担当する医師を紹介致します。
その者と、これからの生活の中で気を付けることなど相談なさるとよいでしょう。」
フォンの言葉は丁寧だが、質問の本質から少し外れた答えが返ってきた。
遙香が聞きたかった本質を、フォンは理解しているようだ。
「生まれていないのに、本当に聖女と分かるのか」と。
この内容は、機微に触れるようだと判断した遙香は、質問を変えた。
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