聖女の母と呼ばないで

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「そなたは、聖女の母として召喚された。」

遙香が言われた言葉を反芻している間に、王は玉座から立ち去った。

回りにいたローブ姿の人々は、王が退場するや否や、最初の歓声と同じ熱量で騒ぎ始めた。


「本当に成功したぞ!」

「見たか、あの、魔方陣の輝きを!」

「聖女様の文献と同じ、平らな顔立ちだ!」

「小柄だし、瞳が黒いわ」

「髪も、、、」


ふと、静かになる。


「髪が、黒くない?」


先ほどまでのうるささとは打って代わり、小声でヒソヒソ囁きあっている。

「まさか、失敗か?」

「いや、そんなはずは。」

「だって、髪が黒くないぞ。」

「そうね、あの色は茶か、よくて焦げ茶だわ」

「・・・」


回りから取り囲まれるように、じっと見つめられる。

先ほどまでは何と言っているのかが分からなかったので、気にならなかったが、翻訳の呪文?により彼らの言葉の意味が分かるようになると、遙香は居心地悪く感じた。


「すみません。髪は染めているんです。少し明るい印象にしたくて。」


遙香の小さな声は、広間にきちんと届いたらしい。

再び、がやがやがよみがえってきた。








「騒がしい者達で申し訳ありません。」

遙香の隣にいたローブの人が声をかけた。

「ここではなんですので、お部屋へご案内致します。」

そう言うと、床に置いていたロッドを拾い、流れるように遙香の手を取り歩み出す。

「あ、あの、」

遙香の言葉を遮るように、振り向き微笑む。

有無を言わさぬ笑顔に、遙香は「今はダメなのだろう」と空気を読んでついていった。





「こちらです。」

案内をされた部屋は、ソファとテーブルがある、応接室のような場所だった。

「温かいものと冷たいもの、どちらになさいますか?もしよろしければ、こちらでご用意させていただいても?」

「あの、」

「飲み物と軽くつまめるものを、数種類。」

相変わらず遙香の返事を待たず、部屋にいた人に指示を出す。

遙香をソファに座らせると、ローブの人は向かい合うように腰を掛けた。


すぐに、ポットと軽食がテーブルに運ばれてきた。
それらを並べた者達が、礼をして出ていくのを見計らい、ローブの人は口を開いた。

「フォン・ヴァッハヴェルと申します。フォンとお呼びください。」

「小林 遙香です。」

「どうぞ、気持ちを楽に。とは言っても、難しいかも知れませんが。」

フォンは、方をすくめるような仕草をしながら遙香を見た。

「王の説明では、理解するのが難しかったのではないかと思います。私から補足させていただきます。」

どうぞ、と、カップを勧めながらフォンは遙香に話し始めた。








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