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およそ1年の交際を経て、結婚してから、たったの5ヶ月。
雄飛は、帰らぬ人となった。
会社から帰宅途中の事故だった。
青信号を横断中に、右折してきたバイクにはねられたらしい。
病院からの連絡を受け、駆けつけたときには、もう、雄飛が息を引き取った後だった。
処置が施されたのであろう。額から側頭部にかけ、ガ包帯が巻かれ、右の頬にもガーゼが当てられていた。
チューブが外されていく。看護師達の無駄のない動きと衣擦れの音が、遙香に現実を突きつけるようだった。
表情のない顔も、握り返さない手も、全く現実のものとは受け入れられないのに。
茫然としている間に、義父母が到着し、病院での手続きを行ってくれていた。義母が泣いて雄飛に声をかけているのを、遙香は、ただただ見ているだけだった。
そこからは、流されるようにあっという間だった。義父母が整えてくれるままに、葬儀が執り行われた。
遙香は、親族達の、
「可哀想に。」「辛いでしょう。」「まだ新婚だったのにねぇ。」
との声かけにこたえられず、ただお辞儀を返すのみだった。
事故を起こした相手側が謝罪に来ていたが、義父母が感情を抑え込みながら応対しお帰りいただくのを、ただ眺めていた。
**************************************
青白い電気の照らすアパートの部屋で、遙香はようやく一人で自分の感情と向かい合うことができた。
もう、いない。
もう、戻らない。
自分から何がなくなったのか、日常のあった場所に戻ってきてはっきりと自覚させられた。
頬を涙が伝う。
喪服のまま、ラグにしゃがみこみ、膝を抱えた。
「なんで。。。」
嗚咽から漏れる声は、答えのない疑問だった。
雄飛の事故の状況は、流されるように過ぎた日の中で、警察や病院から聞かされていた。
小雨でバイクの運転手の視界が悪かったとか、夜の闇にスーツが溶け込んで見えにくかったとか、きっと要因は色々あるのだろう。
ただ、遙香には、到底納得できるものではなかった。
「なんでっ。うっ。くっ。」
遙香は、涙の溢れるがままに、声を圧し殺して泣き続けた。
どのくらい時間が経ったのか。
相変わらず青白い光の中の無機質に感じる部屋で、しゃがみこんだラグが暖かく淡く輝き始めた。
泣きすぎて、視界がぼやけている。
目の錯覚?
突如、淡い光が急激に輝きを増し、遙香の視界は真っ白になった。
雄飛は、帰らぬ人となった。
会社から帰宅途中の事故だった。
青信号を横断中に、右折してきたバイクにはねられたらしい。
病院からの連絡を受け、駆けつけたときには、もう、雄飛が息を引き取った後だった。
処置が施されたのであろう。額から側頭部にかけ、ガ包帯が巻かれ、右の頬にもガーゼが当てられていた。
チューブが外されていく。看護師達の無駄のない動きと衣擦れの音が、遙香に現実を突きつけるようだった。
表情のない顔も、握り返さない手も、全く現実のものとは受け入れられないのに。
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との声かけにこたえられず、ただお辞儀を返すのみだった。
事故を起こした相手側が謝罪に来ていたが、義父母が感情を抑え込みながら応対しお帰りいただくのを、ただ眺めていた。
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もう、いない。
もう、戻らない。
自分から何がなくなったのか、日常のあった場所に戻ってきてはっきりと自覚させられた。
頬を涙が伝う。
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「なんで。。。」
嗚咽から漏れる声は、答えのない疑問だった。
雄飛の事故の状況は、流されるように過ぎた日の中で、警察や病院から聞かされていた。
小雨でバイクの運転手の視界が悪かったとか、夜の闇にスーツが溶け込んで見えにくかったとか、きっと要因は色々あるのだろう。
ただ、遙香には、到底納得できるものではなかった。
「なんでっ。うっ。くっ。」
遙香は、涙の溢れるがままに、声を圧し殺して泣き続けた。
どのくらい時間が経ったのか。
相変わらず青白い光の中の無機質に感じる部屋で、しゃがみこんだラグが暖かく淡く輝き始めた。
泣きすぎて、視界がぼやけている。
目の錯覚?
突如、淡い光が急激に輝きを増し、遙香の視界は真っ白になった。
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