再恋 -最後の時に 最後の場所で-

華景和音

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Scene14

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リクは部活を終え、忘れ物を取りに教室へと戻ってきた。教室のドアを引くと、教室には誰もいなかった。

教室は夕焼けの光が長く伸び、静まり返っていた。リクは自分の席に行き、引き出しから忘れ物を取り出した。そのときリクは誰かに「リク。」と呼ばれたような気がした。リクは声がした方を振り返ったが、そこには誰もいなかった。

リク(・・・誰だよ。)

リクが前を向くと、今度は女子の笑い声が聞こえたような気がした。リクは驚いて振り返ると、教室の後ろの窓際に女子が立っていた。

オレンジ色の光が女子を包み込み、彼女のシルエットはどこか儚げに見えた。リクは突然現れた女子の姿に驚いたが、不思議と恐怖は感じなかった。何も言わず窓の外を眺めている女子にリクは話かけた。

リク「・・・おい、どうかしたのか?」

声をかけると女子はゆっくりと振り向いた。その顔は良く見えなかったが、柔らかい笑顔を浮かべていることが分かった。

女子「リクはどうしたの?」

リク「いや、オレ、忘れ物取りに来ただけだけど。お前、ここで何してるの?」

誰もいるはずがない教室に、窓際に1人でぽつんといることが不思議だった。女子は視線を外し、窓の外を見つめた。

女子「・・・夕焼けがきれいだから。ちょっと見てたんだ。」

リク「夕焼け・・・?」

リクもつられて窓の外を見た。地平線がオレンジと紫に染まり、雲が静かに流れていた。どこか別世界に繋がっているような美しさだった。

リク「夕焼けって人を惹きつけるよな。」

少しの沈黙が流れた後、その女子が小さく呟くように言った。

女子「ねえ、夕焼けが昼と夜を分けてるのって不思議じゃない?」

リク「昼と夜を分ける?」

女子「うん。ここは何も変わってないのに、太陽が地平を沈むまでが昼で、沈んだら夜になる。ただ陽の光がここに届くか届かないかで昼と夜を区別する。それが不思議だと思うのよ。」

リクは不思議そうにその女子の姿を見つめた。彼女は言葉を紡ぐたびに、どこか遠くにいるような表情をしていた。

リク「・・・お前、変なこと言うよな。」

女子はくすっと笑った。

女子「そうかな。でも、リクも分かるでしょ?特別な瞬間って、いつまでも残ってる気がするの。」

その言葉にリクは少しだけ考え込んだ。そして、教室の中を見回しながら言った。

リク「・・・なんだろうな。最近さ、教室とか、いつもの場所がちょっと違って見えるんだ。」

女子はじっとリクを見つめた。

リク「例えばここ。窓際のこの席。何でか分かんないけど、誰かが座ってたような気がするんだよ。」

その女子は一瞬だけ悲しそうな表情をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。

女子「・・・そうなんだ。」

リク「ここで誰かと話してたりした?」

リクが聞くと、その女子は少し困った顔をしながら、ゆっくり首を振った。

女子「・・・ううん。でも、リクが感じていること、たぶん大事にした方がいいよ。」

リク「大事にって?」

その女子は窓の外を再び見つめながら静かに続けた。

女子「忘れたくないこととか、誰かと過ごした時間って・・・ちゃんと心の中に残るものだから。」

その言葉は、どこか遠い場所から聞こえてくるようだった。

リク「なんか、今日・・・いつもと違うな。」

女子「そう?」

そう言ってその女子は笑ったが、その笑顔の裏に何かを隠しているようだった。しかし、リクにはそれが何かは分からなった。ただ、胸の中に小さな痛みが残った。

リク「・・・まあいいや。オレ、忘れ物取ったから帰るわ。」

そう言ってリクは忘れ物をカバンにしまった。その間も、女子はずっと窓の外を見つめていた。帰り際、リクはもう一度その女子に声をかけた。

リク「・・・お前も帰るだろ?」

女子はリクに視線を向け、ゆっくりと首を振った。

女子「ううん。私はもう少しここにいたい。」

その言葉が妙に引っかかったが、リクはそれ以上何も言わず教室を後にした。ドアを閉める直前、リクは振り返った。

その女子はまだ、夕焼けの光の中に立ち、どこか遠くを見つめていた。

リク(なんだろう、この感じ。)

リクの胸に言葉にできない不安と、彼女への小さな違和感が残った。

――

気がつくとリクは自分の部屋のベッドの上にいた。カーテンの隙間から陽の光が入ってきて、外からはスズメの鳴き声が聞こえていた。

リク(何だ・・・あれは夢か?)

リクはそう思いながら寝返りをうった。

リク(いや、あれは夢なのか?)

リクはベッドから飛び起きた。

リク(あいつ誰だ?オレはあいつのこと知ってる!)

リクは手で顔を覆った。

リク(けど、何でオレは知ってるんだ?オレはあいつの名前は知らない。あいつと話をした記憶もない。なのに、オレはあいつのことを知っている!何でオレはあいつのことを知ってるんだ?)

リクはベッドの上で呆然とした。
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