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私の初恋

* プレゼントよりサンタさん

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 「乙ちゃーん、もう一枚腰にお願いします」


 「もう、何枚貼れば気が済むのよ…」


 「だってぇ寒いんだもん…」


 季節は12月、クリスマスイヴまであと三日に迫り、町はイルミネーションやクリスマスツリーで溢れかえっている。


 花白家のリビングにもクリスマスツリーが登場し、今年もこの時期がやって来たんだなと実感する。


 クリスマスのこの時期は大好きだけど寒いのは昔から苦手だった。冬より夏の方が私は好きだ。


 「乙ちゃーん、もっとくっついて歩こう…寒すぎる…」


 「離れなさいよ、歩きにくいでしょうが」


 無理矢理体をくっつけて進む私に乙葉は迷惑そうに顔をしかめた。


 時刻は午後5時半過ぎ、私たちは一時間後の電車を待つため時間を潰そうと駅の近くのファストフード店に向かっていた。


 そのお店には私の大好きな彼氏の樹君が働いている。今日もバイトだと聞いていたからきっと会えるはずだ。


 カランっ。


 「いらっしゃいませ」


 寒さから逃れるために慌てて入った店内は暖房で暖かくて外の寒さを一気に忘れさせてくれた。


 お店の入り口にはクリスマスツリーがあり、電飾とカラフルな可愛らしい小物が飾られていた。


  一番最初に声をかけてくれたのは樹君の先輩にあたる霧島さんだった。
 女性的な綺麗な顔立ちに優しい雰囲気はどことなく葉月先生に似ていた。


  「いらっしゃいませ、あれ?柚子と乙葉ちゃん電車待ち?」


 霧島さんの声で振り向いた奥にいた店員さんが笑顔で近づいて来た。


 樹君だ。樹君を見た瞬間、心臓が駆け足で動き出す。付き合ってから3ヶ月経つ今も樹君を見るとドキドキして体中が熱くなる。


 「こんにちは上崎先輩、そうなんです。それに、柚子が会いたそうにしてたから連れて来ました」


 私が樹君に見とれている横で乙葉が勝手なことをベラベラ話すから慌ててごまかす。


 「えっと、あのっ会いたかったです!」


 ごまかすつもりが逆に自分の口から爆弾を放り出した。私って何で嘘がつけないんだろう。


 確かに樹君に会いたくてここに来たのに、それを本人にストレートに伝えて迷惑になってしまったらどうすれば良いのだろう。


 「俺も会いたかったから嬉しい!ごめんな、クリスマス…」


 樹君はバツが悪そうに眉根を下げた。


   この時期は繁忙期…一年でも忙しい時期らしく、樹君はバイトに明け暮れていた。
 クリスマスも朝から晩までバイトが入っているらしく、私とクリスマスは一緒に入れないことを申し訳ないと何度も謝ってきた。


 確かに恋人として樹君とクリスマスを過ごしたいという気持ちはあるのだけど、こうやって会えるだけで幸せだし、クリスマスにこだわらなくても一緒に入れるだけで充分だ。


 「大丈夫です、それに頑張ってる樹君を見るの好きですから、時間が出来たらゆっくり遊びましょう」


 「我慢してないか?」


 「へ?」


 未だに悲しそうな表情の樹君と乙葉を交互に見て、樹君の言う我慢の意味を探した。


 「柚子が上崎先輩に気を遣ってないかって先輩は心配してるの!本当にこの子は…」


 何もわからなかった私に呆れた乙葉は、やれやれと言わんばかりに肩を落とした。


 「そう言う意味だったのか、それなら大丈夫です。私、我慢はできないですから!この間もお小遣いないのにたい焼き二個も食べちゃったりしたし、だから、気にしないでください!」


 「柚子らしいな。でも、我慢するようなことがあったらすぐ話してほしい、他の人みたいに時間取れないからさ…あっ、お客様来たから行くわ、じゃあゆっくりしていって」


 樹君は駆け足でお客様の方に向かっていった。
 我慢か…考えたことなかった。


 「柚子たちっていつまで経っても初々しいよね」


 「そうかな?」


 「柚子って天然だし、上崎先輩大変そう…さっきだって恋愛に関する我慢とたい焼きを引き合いに出すんだもん、聞いてて吹き出しそうだったよ」


 「だって、我慢って言われて思いついたのがそれしかなかったんだもん」


 「先輩、苦労するだろうね」


 「うぅ…」


 言い返す言葉もなく、項垂れた。


 席に座ると乙葉がホットココアを二人分注文してくれた。


 樹君は厨房にいるのかなかなか姿が見えなかった。


 「乙ちゃん、クリスマスどうする?」


 「写真部で集まろうって話も出てるよ」


 「そうなの?!集まりたい!」


 「私もどうせ一人だから柚子と遊ぶくらいしか予定ないからちょうどよかった」


 乙葉が一人と言ったのは最近木村君とうまくいっていないからかもしれない。


 木村君と喧嘩した話は聞いていたがそれからずっと木村君の話は聞いていなかった。 


   「ねえ、柚子…柚子たちは喧嘩したりしないの?」


 唐突に切り替わった話題に私は動揺してしまう。


 「えっ、なんで!?」


 「クリスマスの話ししてたら思い出したの、壮馬のこと…実はさ別れたの…」


 「えっ、、」


 「なんかさ…柚子たち見てたら私は壮馬のことそんなに好きじゃなかったような気がするんだ…柚子みたいに好きな人の意思を尊重してあげられるくらい好きじゃなかった、だから私は壮馬と別れたの」


 「尊重とか…私は…」


 「壮馬の家に行った時にね…エロ本があって、捨てて欲しいって言ったら喧嘩になって、嫌気がさして別れたんだ…もし、柚子だったら捨てろなんて言わないんだろうなって思ってさ…」


 こんな風に悲しそうな乙葉は初めて見た。確かに私なら気にしないかもしれないが、それは尊重とかではなく個人の感じ方の違いだから、乙葉が気にする必要はない気がする。


 「乙ちゃん、元気だして!私と乙ちゃんは違うんだからその時に思うことも違うよ、木村君とはうまくいかなくても今の乙ちゃんを好きになってくれる人を見つけたらいいんじゃないかな?ごめん…偉そうに話しちゃった。」


 いつもと反転した立場にたじろいでしまっている私に乙葉はそっと微笑んだ。


 「あーあ、柚子にそんなこと言われたら元気出すしかないじゃん。柚子を嫁にもらいたくなった…。柚子、ありがとう」


 「私は乙ちゃんがお姉ちゃんになってほしいなって昔から思ってたよ。元気出た?」


 「元気出た!よし、新しい恋探すぞ!」


 「応援する!」


 「柚子たちみたいなほんわかしたカップルになりたいな」


 「ほんわか?」


 「喧嘩もなく、ベタベタしてるわけでもなくて、見てるとこっちまで幸せになるような感じ」


 「そうかな?」


 「そうなの!」


 私が首を傾げていると、霧島さんがココアを運びにやって来た。


 「お待たせいたしました…失礼致します」


  霧島さんにお礼を言って、運ばれて来たココアを口に含んだ。


 一口飲んだだけで冷えた体が温まるのをしっかりと感じた。


   ココアの入ったカップを両手で囲んで指先を温める。冷えた指先もだんだんに熱を取り戻し始めた。


 「乙ちゃんは大人っぽいから歳下の男の子とかいいんじゃない?」


 「歳下か…理想は歳上がいいんだけどね…」


 「樹君はあげないよ…」


 乙葉と取り合いになったらきっと勝ち目はない気がして、慌てて選択肢から消してもらおうと争ってみた。


 「人の彼氏を横取りするほど飢えてないから大丈夫!それに上崎先輩は柚子しか見てないと思うけど」


 「そうかな…私なんて個性がないから飽きられちゃいそう…」


 「上崎先輩は柚子にそんなこと言ってくる?」


 「ううん、言わない」


 「もっと安心しなさいよ」


 「うん」


 乙葉は私の頭を優しく撫でた。私はそれに甘えてされるがままになる。


 「話は戻すけど、クリスマスは写真部で集まるって話、愛理先輩に確認しておくね!」


 「うん!楽しみ」


 私は三日後に迫るクリスマスの予定に胸を膨らませた。写真部で集まって遊ぶことはなかなかないから楽しみだ。


 「よし、そろそろ行くか!」


 「うん!そうだね」


 私たちは飲み終えたココアを返却口に返して店から出ようとした。


 「ありがとうございました」


 霧島さんの優しい笑みと挨拶の後の厨房にちらっと見えた樹君が手を振ってくれていた。


 私も笑顔で手を振り返した。


 頑張ってね樹君…会えてよかった。


 私は一段と寒く感じる外の世界へ飛び出して、乙葉に身を押し付けて歩いた。


 「そういうのは、上崎先輩としなさいよ」


 「樹君にはこういうことしたことないもん」


 「じゃあ、私にもしないでよ」


 「乙ちゃんに引っ付かないとうごけないの、だから許して」


 「もう、変な目で見られるから恥ずかしいのよ」


 「そんなこと気にしてたら凍え死んじゃうよ」


 「大袈裟でしょ、全くこの子は…」


 私達はこうして寒い一日を乗り過ごした。


 クリスマスまで待ち遠しい。 


  
 12月24日 午後3時


私たちは穂乃果先輩の家に集まっていた。写真部で集まろうという計画は実行に移され、みんなでお菓子を食べたり世間話をしたりで盛り上がっていた。


 話題は愛理先輩の大好きな恋の話がほとんどだった。愛理先輩は現在、お付き合いしている人はいないらしいが、穂乃果先輩によるとそこそこモテるらしい。


 そういう穂乃果先輩はさっぱりしている性格のせいか彼氏はおらず、この4人の中で彼氏がいるのは私だけという事実に少し緊張感があった。


 「葉月先生ってなんで独身なんだろうね?」


 「さあ、愛理先輩まだ葉月先生を狙ってるんですか?無理ですよ、高嶺の花過ぎて手が届きません」


 「んー、恋人が無理なら…別の関係になりたいと思いはじめたこの頃です」


 「こら、一年生に変な知識を与えないでください!有坂ちゃんはよくても花ちゃんを汚さないで!」


 穂乃果先輩に不意に抱きしめられたが、先輩たちがなんの話をしているのか私には分からなかった。


 「だってぇ花ちゃんだっていつかは…」


 「愛理先輩そこまで!柚子を汚さないでください!私の柚子を壊さないで!」


  乙葉が愛理先輩の口元を塞いで言葉の続きを遮った。そうまでされると逆に気になってくる。


 「もう!分かりました!花ちゃんのピュアを壊す計画は諦めますよーだ」


 愛理先輩は指を目の下に当てあっかんべを皆に向けてしてみせた。可愛らしい顔のせいか何をしても愛らしい。


 「愛理先輩、可愛いです」


 私が呟いた言葉に愛理先輩は嬉しそうにウインクで返した。


 「ああ、花ちゃん可愛い、誘拐したい」


 「愛理先輩、それ犯罪ですよ」


 「ダメです!柚子は私のですから!」


 何やら三人で私の取り合いが起こっているらしい。嬉しい気持ちからくるむず痒さに縮こまってしまう。 


   「えーっと、みんなで分け合いませんか?そしたら解決です!」


 「この天然さは罪だわ」


 穂乃果先輩がため息を吐いた。穂乃果先輩のため息と同時に私の取り合いは落ち着いたらしい。


 三人は新しい話題で盛り上がり始めた。次の話題は三年生の格好がいいと言う話題らしい。


 私には誰のことかよく分からないから上の空でお菓子を食べ始めた。


 樹君は今頃忙しいのかな…火傷してないかな…。


 先輩や乙葉と過ごす時間は楽しいはずなのに、何故が頭の中は樹君のことでいっぱいだった。


 最後にあったのは3日前だった。あの日から連絡も少ししか取れてなくて心配していた。


 学校でも移動教室で廊下の前を歩いて通りすぎた時、机に突っ伏して寝ていた。


 よっぽど疲れているみたいだ。樹君のバイト先は樹君の叔父さんがお偉いさんのせいもあって樹君は事あるごとにバイトに駆り出されていた。


 平日も休みが不定休だから私の部活や習い事と被ると会えないし、土日は決まってバイトに出向いているから会えるのは夕方に少しだけだった。


 会えるだけで幸せだし、不満を覚えたことはないけれど、体を崩さないかだけが心配だった。


 朝から私の携帯は樹君からのメッセージを受信していなかった。


 いつもなら休憩時間に連絡してくれるから、余計に心配してしまう。


 私は両頬を両手でパシッと叩いた。しっかりしなきゃ、きっと今頃樹君は忙しさに疲れてるだろうから次に会ったらゆっくり休めるように何か考えてあげればいいだけなんだから!


 今は写真部の一員として楽しまなきゃ。


 「柚子はどう思う?」


 全く話を聞いていなかったから、なんのことなのかさっぱり分からなくて乙葉の顔をじっと見た。


 「ごめん乙ちゃんなんの話だっけ?」


 「だから、柚子は浮気されても許せる派?許せない派?」


 浮気…?いつからこんな話題になるになっていたのか全く気づかなかった。


 「浮気か…まず理由を聞いて理不尽な理由なら許さないけど、理由があったなら話し合って決めます、きっと浮気される私にも落ち度があるかもしれないから」


 三人は私に視線を集め耳を傾けていた。 


   「さすが花ちゃん、意見が違うわ」


 「えっ、そんな」


 三人は感慨深げに私を見ていた。


 「そんなに見つめられると穴があきそうです…」


 私は少しでも視線を避けたくて縮こまった。穂乃果先輩が私の頭を優しく撫でてくる。


 「まあ、花ちゃんには浮気とか無縁だから大丈夫だよ。上崎なんて浮気する度胸も女もいないだろうし」


 「そうだといいです」


 樹君はきっと浮気はしないだろう。そう信じたい。


 「ねーねーこの話はお開きにして、双六しない?愛理持ってきたの!懐かしいでしょう」


 この場から逃れたい私は愛理先輩の提案に右手を真っ先にあげた。


 「はい!参加します!」


 「よし、花ちゃんがやるなら私もやる」


 「私もやります!」


 そんなこんなで四人全員が参加することになった。愛理先輩は何かを思いついたように立ち上がると怪しい笑みを浮かべて皆を見下ろした。


 「ねえ、せっかくだから罰ゲームしない?」


 愛理先輩の提案に私たちは首を傾げた。


 「負けた人は自分の秘密をばらしてください!負けた人は三人分の質問に答えるの、拒否権、黙秘権はありません!さあ、始めるよ!」


 愛理先輩は意気揚々と駒を配りはじめた。


 赤色が愛理先輩、青色が穂乃果先輩、緑色が乙葉で私は黄色の駒を配られた。


 じゃんけんで順番を決めてゲームがスタートした。


 「じゃあ愛理からいくよー!」


 いきなり6マス進んだ先輩は満足げな表情で皆を見ている。


 次は私の番だった。コロンっと可愛らしく転がったサイコロは1を示していて、私は一歩だけ前に進んだ。


 その後は穂乃果先輩、乙葉と続いて、最後は愛理先輩と乙葉の接戦の末、乙葉が負けて勝負は終わった。


 「はい、愛理の勝ち!有坂ちゃん残念!」


 「じゃあ、罰ゲームはじめちゃおっ」


 愛理先輩がよからぬことを企んでいるのは目に見えて分かった。 


   「花ちゃんから質問していこうか!有坂ちゃんに聞きたい聞ことはある?」


 乙葉とは毎日のように会っているし特別に質問は思い浮かばなかった。だけど何か言わないといけない空気に負けてしまっている自分がいた。


 「乙ちゃんはきのこの山とたけのこの里どっちが好きですか?!」


 咄嗟にに思いついた質問はきっと皆が聞いたことのある質問だと思う。私の質問に三人は吹き出して笑った。


 「柚子ってば、笑わさないでよ。質問の答えはたけのこの里です」


 笑いながらも答えてくれる乙葉はやっぱり優しい。


 「じゃあ次私!初キスはいつですか?」


 勢いよく手を挙げたのは穂乃果先輩だった。乙葉は何故が私の後ろに来ると、私の耳を両手で覆った。乙葉が私に回り込むような形になっているから乙葉の姿も見えないし、何も聞こえない。


 私に内緒ということなのだろうか。確かに親友でも知られたくない話は沢山あるだろうし、乙葉の行動を不審には思わなかった。


 私の知らない間に愛理先輩の手が上がっている様子を見るに最後の質問をしているようだ。


 相変わらず何も聞こえないまま罰ゲームの質問大会は終了した。


 乙葉の両手から解放されると三人は何事もなかったようにお菓子を食べはじめた。


 私も負けじとお菓子に手を伸ばした。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、時刻は午後7時半に差し掛かっていた。


 愛理先輩は単車で来たということで単車で帰宅して行った。


 私たちは電車に乗るために駅に急いだ。穂乃果先輩の家から駅までは5分ほどの距離だった。


 「楽しかったね!」


 「そうだね、お菓子食べ過ぎちゃった」


 「私、クリスマスケーキも食べなきゃ!」


 「すごいな、柚子の食欲は」


 「ありがとう!」


 「褒めてないよ」


 私たちが笑いだしたのは一緒だった。


 乙葉と別れると駅まで父が迎えに来てくれていた。 


   「ありがとうお父さん」


 「お帰り柚子」


 父の車に乗り込みドアを閉めた。乙葉も家族が迎えに来ていて先に、帰っていった。


 父と家に着くと着替えを済まし、お風呂に入った。冷たい体に温かいお湯が沁みるくらい幸せな気持ちになった。


 「ふぁ、いい気持ちぃ」


 お風呂には入浴剤が入れてありお湯は白く染まっていた。


 一時間くらいお風呂で過ごして身支度をした後、半日ぶりに自分の部屋に戻った。


 ベッドに横になり、携帯の画面を見つめた。


 『メッセージ一件、不在着信一件』


 と、そこには表示されていた。誰だろうと指で操作して見ると、私は体を慌ててベッドから起こした。


 不在着信があったのも、メッセージがあったのも30分前で今、一番会いたくて、声を聞きたい人からだった。


 メッセージを開くと、彼らしい文面に頬が緩んだ。


 『メリークリスマス!もう家に帰ってるのかな?楽しく過ごせた?俺もなんとか乗り切りました!寂しい思いさせてたらごめん…今日はゆっくり休んでね、おやすみ』


 私は携帯を耳に当て、心から祈った。


 電話に出てくれますように…。


 私の祈りが通じたのか、耳に当てた携帯から優しい声が聞こえた。


 『もしもし?柚子?』


 「もしもし、樹君?」


 勢いよく出た言葉はただのおうむ返しで、自分で自分に呆れてしまう。


 「ごめんな、クリスマスなのに一緒にいれなくて…今日は楽しめた?」


 「謝らないで樹君、明日は家族で過ごすし気にしないで!今日は楽しかったよ…」


 だけど、わがままを言ってしまうと、樹君に会いたい気持ちは膨らんでいた。


 「そっか、ならよかった…あのさ柚子」


 「はい」


 「26日の放課後会えないかな?バイト休みにしてもらったからピアノ行く前に会えたらと思ったんだけど…」


  「本当ですか!?会います!会いたいです!」


   私は嬉しくて胸の前で手を握り、飛び跳ねていた。


 「良かった、じゃあ放課後会いにいくね。今日はもう遅いしゆっくり休んで。柚子は寒がりだから暖かくして寝ろよ!じゃあまた」


 「樹君も暖かくして寝てください!おやすみなさい!26日待ってます!」


 樹君の優しい声の余韻に浸りながら布団に入った。幸せ過ぎて頬が緩む。


 「はあ、幸せ…柚子は寒がりだから…か、優しいな…早く会いたいな」


 柚子は寒がりだから。その一言で樹君が私のことをちゃんと知っていてくれてると感じて嬉しかった。


 26日まで待ち遠しくてうずうずする。


 そんな幸せの余韻に浸りつつ、私は眠りに落ちていくのでした。


  26日の放課後、私は用意したプレゼントを握りしめて教室で待っていた。


 乙葉は家の用事があるといい、先に帰っていった。


 生徒たちがいなくなり始めた教室で大好きな樹君を待つ時間はすごく長く感じた。


 「柚子!!」


 廊下から教室を覗いていた人影に呼ばれて慌てて教室から出た。


 「樹君!」


 「ごめん待たせて、葉月先生の話が長くてさ…進路希望調査がなんたらとか冬休みの宿題を早めに配るとか、他所のクラスは帰り始めてるのにさ…」


 どうやら葉月先生に対して怒っているらしいが、そんな樹君も愛おしくて、見ていて頬が緩む。


 「樹君、あの…会いたかったです…これ、良かったら…」


 私は用意していたプレゼントを渡した。


 中身は靴下とマフラーだった。本当は手編みで作りたかったが、編み物の知識がなく断念してしまった。来年こそは手編みのものを渡したいと思う。


 「え…本当に貰っていいのか?俺、クリスマスだって一緒に居られなくて寂しい思いさせたんだぞ?本当にいいのか?」


 「はい、貰ってください!本当は手作りしたかったんですけど…あのっマフラーはお揃いにしました!嫌だったらすみません…」


 樹君のプレゼントを選んだ時に、一緒のものを身に付けたいな、なんて思い始めてお揃いにして買ったわたしがいた。


 「俺、世界一幸せだわ。」


 「大袈裟ですよ」


 「柚子、本当にごめん…俺、プレゼント選ぶ時間なくて…こんなのしかあげられない…」 


   樹君が、私に手渡したのは小さな小包だった。中を開いていいか聞いて、そっと開けると可愛いらしいラッピングをされた飴やチョコレートが入っていた。


 忙しい中、私のために時間を割いて選んでくれたのだと思うと涙が溢れた。


 「ゆっ柚子!?どうしたんだ!?泣くなよ」


 慌てて私を泣き止まそうと優しく肩に手を置いてさすってくれた。


 それでも溢れ続ける涙を見た樹君は私をそっと抱きしめてくれた。


 「柚子、ごめんな…俺なんかが彼氏で…」


 私は首を横に振った。初めて抱きしめられてドキドキするかと思っていたけど安心感の方が強くて、自然と涙が治まってきた。


 樹君はとってもいい匂いがして、離れたくなくてしばらくしがみついていた。


 教室から私たちを観察している生徒の視線で我に帰り樹君から離れた。


 「樹君、ありがとう…忙しいのに、プレゼントくれて…嬉しかった。」


 「もっと早く用意しとけばよかったんだけど…来年はもっと豪華なの渡すから!楽しみにしとけよな」


 「ううん、プレゼントより樹君に会えるだけで幸せです…。樹君がプレゼントです」


 「俺、泣きそうになってきた…」


 「樹君?!泣かないで!?」


   私の言葉を聞いた樹君は涙目になって、照れ臭そうに微笑んだ。


 それから少しだけ話をすると、別れの時間はすぐにやってきた。


 「柚子、プレゼントありがとう…気をつけて帰れよ!またな」


「はい、こちらこそありがとうございました!樹君、バイト頑張ってください!」


 樹君は私の頭を優しく撫でると駆け足で去っていった。大好きな人の体温はまだ、私の体を優しく包んでくれているような気がしていた。


 人生でプレゼントよりサンタさんが待ち遠しいと思ったのは初めてだった。


 きっと来年も樹君が私にステキなクリスマスを届けてくれるのだろう。


 その日までよろしくお願いします、サンタさん。
 


  

 
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