黄昏一番星

更科二八

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1章 呪いの女

264話 跡地

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(引き続きトレイ視点)

「この式神が聖女の位置を見張ってくれてたはずっす」

もう一体の式神の元へといきシモン達に説明をした。

「この辺りで激しくやり合ってたのは確かだね」
「いまは虫1匹この辺りにはいやしねえぞ」
「とりあえず降りて調べてみようか」

激しく荒れた森の真ん中にシモンの誘導で着地した。
こんな荒んだ場所なのに何故かとても清らかで心地よさを覚えて奇妙だ。
そしてこの状況を作り出した者たちの姿は既に無い。
清らかな印象から聖女の魔法なのかと思い不安が募る。

「どうなってんだ?」
「凄く濃い氣が残留してるけど、これは浄化の力も帯びてる?」
「獣の仕業じゃねえな。魂の覚醒者か。しかもだいぶ覚醒進んでるな」
「トレイくん、鬼くんの魔力は何属性か知ってるかい?」
「水っす」
「ならもう間違いないねー守護者といい質のいいのが生まれてきてるね」

シモンたちの会話がさっぱりだ。
「魂の覚醒者って何すか?」
「人が強い感情をいだくとたまに体の意識が魂の中にある心と混ざってしまう事があるんだよ。その状態の魂は普通の何十倍も出力が上がって強力になるんだ。そう言う状態の人のことだよ」
「死んで生き返れば手っ取り早いんだけどな」
「タイガは死んでは無いと思うっすけど、ギルダナを出る前に魂を守るための対策したら出力がバカになったって言ってたっす。それのことっすかね?」
「それ自分で気づいてやったってこと。凄いな」
「ははは!こんな奴は初めてかもなー!やっぱおもれー!
しかもこんなバケモンみたいな氣、もしかすっと糞獣をここで倒してるかもしれんな。
1番濃いのはあっちか」

ライが氣が1番濃いという方向に歩き出したのでついていくと、地面が直径5メートルほどの摺鉢状に窪んだ場所があった。
底の方には水が湧いてたまっている。
そして周りの空気は魔法の光のようにキラキラと輝いている。

「凄い、高濃度の聖水が湧いてる。でもこれは別の呪いが生まれそうな程氣が濃いね」
「浄化の力が強すぎるから大丈夫だろ。
呪いというかそのうち確実に精霊が湧くな。
それよりあの水湧いてる底が微かに臭うな」
「獣の残滓かい?」
「だなーしかも本体だろう。もうほっといても勝手に浄化されて消えるな」
「そうか、やっぱり鬼くんが倒しちゃったのか。念の為祓いの儀式はしとこう」

シモンは空間に現れた穴に手を突っ込んで引き抜くと杖が現れてそれを摺鉢状の穴に向けぶつぶつと呪文を唱え出す。
周辺が魔法の光に包まれるとその中央、獣の残滓があると言われた場所からより強い光が立ち昇っていき数秒して消えた。

「あっという間に終わるんすね」
「鬼くんのお陰さ、本当なら僕は命懸けで対処するつもりだったからね。本当に感謝しかないよ」
「なあシモン、俺来なくて良かったんじゃね?」
「それはそうかも、僕が鬼くんの実力わかってれば協力してやれたかも。
これはほんと僕のミスだなースズナ様の話を真剣に聞いてれば・・」
「俺達程実力ある奴なんて今のところほぼ居ないからな。実力者の話聞いたところで全く当てにしてなかったんだろ」
「その通りだよ、兎に角、鬼くんを探そうか。絶対に知り合っておきたい」
「式神はタイガの場所わかるっすか?」

俺の周りを飛んでいた2体の式神に尋ねるも反応がない。

「探せない程遠くにいるか死んでるかってところかな。死体でも残ってれば生き返らせられるしかもしれないし手がかり探そうか。サーチ!」
シモンが魔法を唱えると周辺を魔法の光が駆け巡っていく。
そして一際輝く場所が2箇所か見つかる。
「ここは血溜まりだね。大怪我を負っていたみたいだね」
一つ目の場所はボコボコになった地面の一画だった。
見にくいが血の滲みも見える。
千切れた足と思えるものも落ちていてゾッとする。
そして一つ木筒が見つかる。

「この筒についた血は別の人のだね」
「タイガの友人からもらったって言ってたっすね。これを飲めば傷が治るって言ってたっす」
「なるほどーやっぱり先祖返りかな。魔物の血が濃いんだね」
「これを飲んだら魔物になるかもって言ってたっすよ」
「そうだね、鬼は本来人喰いの魔物だ。それが人として生活してるだけでも凄い。鬼くんは凄い境遇の人物だね。魔物になってない事を期待しよう」
「魔物になってりゃさ、罪人でもたくさん食わせて育てれば武器にはなりそうだな」
「ライ、それ制御できる自身ある?」
「ガリバー連れてくれば何とかなるだろ?」
「んーまあそうかな?」
「ガリバーって魔王じゃないっすか?!」

とんでもない名前が出てきてびっくりしてしまった。
伝説の冒険者ともなれは魔王とも知り合いなのか。

「彼は魔物でも人でもなんでも眷属にできちゃうからねー。守護者の1人でもあるんだよ。だから協力してくれるはずさ」
「魔王が意外っすね」
「彼は温厚で優しい人物だよ」
「もっと意外っす」

この場所にもう手がかりがないとわかりもう一つの光る場所にいどうした。
そこにはショルダーベルトの切れたバッグが落ちていた。

「タイガのマジックバッグっすね」
「これ最新式の高級モデルのやつじゃないか。いいの使ってるなー」

なんでも5年分の給料の結晶とか言っていた。
最新式高級モデルなんて気絶するほどの高いものをタイガは使っていたのか。流石だ。

「何入ってんだ?」
「見てみようか、鬼くんの思い入れの強いものがあれば鬼くんを探し出す魔法も使えるしね」

シモンはマジックバッグをあけて中身を広げ出した。

「食料が多いなー・・・あ!!!!!!」
「どうした?」
「ライ!!!!これ!!!」
「おああああああああああ!!!!」

シモンがタイガのバッグから何やら黒い棒を取り出してライに見せるとライが大声をあげて驚いている。

「なんでこいつが持ってんだ!!!!」
「まって、何か鬼くんのことがわかるもの!あった!ギルドカード!名前、神多羅木 大鎧カタラギ タイガ!ライ、君の子孫の一族だ!」
「ええ!!」
「まじか!!」

俺たち全員が驚きすぎてしばらく固まってしまった。
タイガからはそんな話は全く聞いたことが無かったし、冒険者ライのことも知らないようだったから、本人もこのことは知らないのだろう。

「いやーこれはまあこの太刀を持っている事は納得だね、どうやらこれを持って生き延びていてくれたみたいで良かった」
「どうりでどこ探しても見つからないわけだ。全く、これ持ってるならさっさと国に戻りゃいいのによ」
「あの、なんなんすか、全くついていけないっす」

聞いていい事なのかわからないが教えてくれることに期待して聞いてみた。

「これはね、聖女のような獣の1体を封印してある太刀だよ」
「えええ!そんな危険なものを持ち歩いてたんすか!」
「鬼くんは知ってたのかな?知っていればここに放置もしないだろうけど」
「あとライ様の子孫ってのも気になるっす。ライ様は珠夏国の出身なんすか?」
「俺の出身っつうか俺らが作った国だ」
「ええー国を作った!?」

もう驚きが止まらない、伝説の冒険者はやっぱりとんでもない。

「元々この太刀を隠して守ってもらうために作った国でね、ライと珠夏ちゃん、あとはカイトっていう僕らの仲間の3人の血縁の者を中心にして国を起こしてもらって、僕らが国の叩き台作った感じだね。
神多羅木ってのは珠夏ちゃんの苗字、ライと珠夏ちゃんは夫婦だったからね、初代の神多羅木家のものもライと珠夏ちゃんの子供さ、だから鬼くんは血が途切れてなければライの子孫ってことになるね」
「へーなるほどっす。珠夏国ってライ様の奥様の名前からきてるんすね」
「奥様!奥様か・・へへへ」

ライは強面のかおが笑顔でへし曲がり顔を押さえて喜んでいる。
相当好いていたんだな。

「ははは、ライ良かったねー。
元々国作ってみたいとは珠夏ちゃんの発案だったしね、この太刀の持ち主も珠夏ちゃん、この太刀の中に珠夏ちゃんも封印されてる。もう国の名前にしない訳はないだろ」
「ちなみになんすけど、何年前の話しっすか?」
「1300年ぐらい前かな」
「うわぁ・・・」

スケールが違いすぎる。
そもそもライが活躍した時期というのも300年前と言われていたが、この人達はそんなに昔から生きているのか。
そして聖女みたいなやつの戦いが1300年前にもあったことがわかる。
この冒険者たちはいったい何者なんだ。
俺の中の疑問がますます強まってきた。

「貴方たちはいったい何者なんすか?」
「んー何者かと言われると。トレイくんの知りたい内容で言えば、僕らは前文明の生き残りとか、現人類を作った存在とかかな」
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