黄昏一番星

1章 呪いの女

244話 眷属への命令

「ライアン・・諦めて・・くれた・・のか」

目覚めたばかりのガルシアが掠れた声でライアンに話しかけた。
内容は聖女の妨害の事だろう。

「馬鹿が！絶対に諦めないからな！」
「ライアン・・なんてことを・・俺はどうして・・生きて・・確かナイフを刺したはず」
「タイガが生き返らせてくれたんだよバカ！なんで死んだりするんだバカ！バカ親父！」
「どうして・・俺は生きてちゃいけない・・聖女様の為にはいちゃ行けないんだ。聖女様にしでかした罪は死んで償わないと」
「くそ！わけわかんねえこと言うな！生きてくれ！死ぬなんて僕が許さない！」

そんな事だろうと予想していたが、ガルシアは聖女を崇拝するあまり、自分の行いが許せなくなり自死を選んだ訳だ。
モーガンも同じだろう。
きっと聖女に会った際に行いを悔いるようにでも言われたのだろう。
そうすれば聖女を崇拝した人間ならば誰しも死を厭わないだろう。
本当に許せない。人の意志を捻じ曲げて無理やり敬わせて、死を選ばせるなんて。
奴はこうなる事が分かっていてやっている気がする。

静かに猛りながら俺の中にできた新たな繋がりを意識する。
ガルシアへ続く繋がりを感じるとそれに向けて俺の意志を伝える。
ガルシアの方を向き声にも出して伝える。

「眷属ガルシアに命じる。死ぬことは許さない。絶対に自死はするな。聖女を敬うな。それはお前の意志じゃない。お前は本来の自分の意志で、自由に生きろ。いいな！」
「なっ・・・いや・・・わ、わかった・・・だが、聖女様・・どうしたらいいんだ。わからねえ、わからねえ！」

俺の眷属への命令が効いたようだが、すぐに聖女への想いは捨てられるようなものでもなくガルシアは混乱し苦しんでいる。

「だったらまた冒険者を目指してくれよ！僕の父さんに憧れてたんだろ！僕は父さんの夢を叶えてほしい」
「ライアン・・でもそれはまたお前を1人にしちまうかもしれない」
「僕は結婚するんだよ！もう1人じゃない！子供だって作ってやる！だからもう父さんは自分のために生きていいんだ」
「ライアン・・お前久々に父さんって」
「うるさい！タイガ睡眠魔法！」

ライアンの気迫ある言葉にすかさずガルシアに睡眠魔法をかけた。
まあしばらく寝といて欲しいのは確かだ。
まだまだ体は本調子でもないしエドガーの時と同様体が自由に動かせないようだ。
寝ているガルシアに俺の氣を分けて体の調子を上げてやる。

「ライアン、モーガンが目覚めたらお前は2人を連れて戻れ。
蘇生から目覚めても数日かけて体を補助して動きを取り戻してやらないといけない。
あと体の魔力の流れをが変わってしまってるから魔法も扱えない。
そんな状態で連れていくことはできない」
「そうだよね、本当は僕も聖女を追い詰めたいけど2人は放って置けない。わかったよ」

ライアンが抜けることは正直とても痛手だ。
念話スキルが便利すぎた。
なんとか魔法で再現したいが理論がさっぱりだ。

「そいや、トレイのことすっかり忘れてた」
「あ！今繋ぐね！
トレイー！」

このドタバタで定期的に連絡を取るはずだったトレイを放置していた。
空はもう既に赤色をさして暗くなり始めている。

「わっ！びっくりっす！どうしたんすか！今日はちっとも連絡来なかったっすけど、何か問題あったのかと心配してたっす！」
「大問題だねー兵長とモーガンが死んだ」
「ええええ！！！！」
「ライアン！いらん混乱は招くな！トレイ大丈夫だ、俺が蘇生した」
「いやいやいや、やっぱり死んだんじゃないっすか！何があったんすか？」
「どうも聖女が直接ガルシアたちに会いに来たっぽい」
「マジすか。てことは2人とも呪われて、なんやかんなで死んだんすか」
「そういうことだ。蘇生はしたがエドガーの時と同じで数日は動けないだろうからライアンに連れて帰らせる。
トレイは3日目の宿場で待っててくれるか。俺と合流しよう」
「わかったっす。けどまだ続けるんすね」
「当然だ、絶対に足止めする」

聖女は俺の仲間に手を出したんだ、絶対に赦しはしない。
一旦ここで念話は終えた。
また夜に会話をしようと思う。
もう暗くなり出した頃。
だがまだまだする事は多い。