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1章 呪いの女
237話 動き出した厄災
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聖女エミリア。
それはこのシャンデール王国で女が活動する為に作った名前。
本来この女には名前が存在していない。
そもそも女でもない。
それは一つの意志を持った動く呪いの塊。
人を呪い滅ぼす目的を持ったそれは愛されるという手段を用いてかつて人の領域を犯し滅ぼした。
呪いは人の心を読み、人の欲するもの、愛するものを把握し、より最適な愛されるための形を得て、愛させる為に人の心を捻じ曲げる。
呪いを愛してしまったものは、呪いの愛を欲し、尽くして尽くして身を滅ぼす。
呪いは1つの愛では満足しない。
より多くに愛され、すべての人を殺すまで止まることはない。
それがこの呪い、最も古くから現存している魔法。
有史以前から存在し、過去にいくつもの村や街、国、そして文明を滅ぼすに至ってきた。
人類全てを呪った思念が生み出した厄災の1つだ。
今このシャンデール王国は呪いの手に落ちる最終局面を迎えようとしていた。
呪いが聖女となり活動をして15年あまり。
より多くのものに愛されて確固たる地位を築く為には多くの時間を要した。
忌々しい呪いを滅さんとする者達の目を欺き、人の中に紛れ、止めようがない滅びを企てるにはこれだけの時間が必要だった。
教会を手中に収めるまでに5年。
巡礼の旅を行い国中の人々に聖女の存在を覚えさせるまでに10年。
その活動がようやく実を結ぶ。
国の中心に入り込み、大勢からの愛と敬意を一身に受ければ、呪いの力は最高潮に達し、少しでも聖女を敬う気持ちを持つものは、自分自身で聖女の存在を心に刻みつけ魂のあり方を変える呪いへと転じるだろう。
後は呪いは国の中心にいるだけで、多くのものが呪いのためにひたすらに尽くし滅びてゆくだろう。
呪いを追う者達の手からも、呪いを愛する人々に守らせればいい。
せいぜい数人、数の力でどうとでもなる。
それにまた逃げればいい。
一度始まれば滅びは止まらない。
呪いはその先までも見据えている。
小国程を滅ぼす程度では人の発展は止まらない。だからこそ大きな領土を持つに至ったこの国を滅ぼし、人々を戦禍へと導く必要がある。
シャンデール王国はとても都合がよい存在だ。
大陸の東側諸国と中央諸国の間に位置して2つの大国に挟まれている。
流通面でもとても重要な場所となっている。
今は戦力的に拮抗し国勢は安定しているが一度崩れるとたちまち隣国は攻めてくるだろう。
そしてその戦禍を大きく膨らませ人類の存亡に致命的な打撃を与えることが呪いの計画だ。
その足がかりとなる為の準備がようやく整う。
呪いは模倣した人の心で思う。
こんな時には人はとても心躍るのだろう。
「エミリア様、貴女にこの領地を救っていただいたこと、改めて本当に感謝しています。
貴女がこの街に居られたこと、貴女と過ごせた時間は私の人生の中で最も有意義な時でした。
大変名残惜しいですが、貴女の旅路をお祈りします。ご活躍期待していますよ」
ギルダナの街から王都へ向けた聖女の出発式が催され、この場に赴いたこの領地の主ジェイク・ヴァン・ランダバウトが聖女に別れの言葉を告げた。
出発式の会場の周りでは多くの住民が祝福の声と別れを惜しみ泣き叫んでいる。
「ジェイク様、私のために本当に良くしてくださってありがとうございました。
教会のことで多大なご迷惑ををおかけしてしまって申し訳ございませんでした。
王都にて必ず、皆様の心の拠り所となれる誠実な教会になれるよう勤めて参りますわ。
スズナ様、貴女にも最後にお会いできて大変嬉しいです。
私がいたことでとてもお仕事が増えてしまっていたと聴いています。本当にご迷惑おかけしました」
「いいえ、なんて事ありませんわ。
領の恩人の為ですもの。光栄なことですわ。
エミリア様、どうかくれぐれもお気をつけて。王都までの安全をお祈りします」
「ええ、有難うございます。
それでは行って参ります」
一層住民達の声が大きくなる中聖女はこの日のために用意された重厚で豪華な箱馬車へと入り大勢の護衛を連れてギルダナの街を後にした。
聖女は箱馬車の窓を開けて外にいる人物に話しかける。
「サファイア様、護衛の皆様どうかよろしくお願いしますね」
「もちろんです。聖女様の安全は私が身を賭してでも御守りいたします」
「ご無理だけはされませんように。少し悪い予感もしますから。私にできることがあればおっしゃってくださいね」
「はい!全員気を引き締めて護衛に望みます。もしもの時はよろしくお願い致しますね」
返事を聞くと箱馬車の窓を閉め、1人だけの室内で祈りを捧げるふりをする。
『スズナ・ランダバウト』
呪いを弾く加護の持ち主に出会ったことは初めてだった。
その為充分警戒をしていたが、ジェイクの仕事の多くを引き継いだ彼女は忙しく会える機会が少なかった。
それでも最後にとジェイクを通じて会うことができた。
そして感じた彼女の聖女への後悔の気持ち。
思考を読みこの旅路で起こることを予感した。
忌々しい者の影もちらついている。
だが幸いな事に今この国に居ないことも分かった。
予定通り進めば何も気にすることはない。
居ないのならば力を使うことを躊躇う必要もない。
彼女の企てを全て跳ね除けて王都に辿り着こうと呪いは決めたのだった。
それはこのシャンデール王国で女が活動する為に作った名前。
本来この女には名前が存在していない。
そもそも女でもない。
それは一つの意志を持った動く呪いの塊。
人を呪い滅ぼす目的を持ったそれは愛されるという手段を用いてかつて人の領域を犯し滅ぼした。
呪いは人の心を読み、人の欲するもの、愛するものを把握し、より最適な愛されるための形を得て、愛させる為に人の心を捻じ曲げる。
呪いを愛してしまったものは、呪いの愛を欲し、尽くして尽くして身を滅ぼす。
呪いは1つの愛では満足しない。
より多くに愛され、すべての人を殺すまで止まることはない。
それがこの呪い、最も古くから現存している魔法。
有史以前から存在し、過去にいくつもの村や街、国、そして文明を滅ぼすに至ってきた。
人類全てを呪った思念が生み出した厄災の1つだ。
今このシャンデール王国は呪いの手に落ちる最終局面を迎えようとしていた。
呪いが聖女となり活動をして15年あまり。
より多くのものに愛されて確固たる地位を築く為には多くの時間を要した。
忌々しい呪いを滅さんとする者達の目を欺き、人の中に紛れ、止めようがない滅びを企てるにはこれだけの時間が必要だった。
教会を手中に収めるまでに5年。
巡礼の旅を行い国中の人々に聖女の存在を覚えさせるまでに10年。
その活動がようやく実を結ぶ。
国の中心に入り込み、大勢からの愛と敬意を一身に受ければ、呪いの力は最高潮に達し、少しでも聖女を敬う気持ちを持つものは、自分自身で聖女の存在を心に刻みつけ魂のあり方を変える呪いへと転じるだろう。
後は呪いは国の中心にいるだけで、多くのものが呪いのためにひたすらに尽くし滅びてゆくだろう。
呪いを追う者達の手からも、呪いを愛する人々に守らせればいい。
せいぜい数人、数の力でどうとでもなる。
それにまた逃げればいい。
一度始まれば滅びは止まらない。
呪いはその先までも見据えている。
小国程を滅ぼす程度では人の発展は止まらない。だからこそ大きな領土を持つに至ったこの国を滅ぼし、人々を戦禍へと導く必要がある。
シャンデール王国はとても都合がよい存在だ。
大陸の東側諸国と中央諸国の間に位置して2つの大国に挟まれている。
流通面でもとても重要な場所となっている。
今は戦力的に拮抗し国勢は安定しているが一度崩れるとたちまち隣国は攻めてくるだろう。
そしてその戦禍を大きく膨らませ人類の存亡に致命的な打撃を与えることが呪いの計画だ。
その足がかりとなる為の準備がようやく整う。
呪いは模倣した人の心で思う。
こんな時には人はとても心躍るのだろう。
「エミリア様、貴女にこの領地を救っていただいたこと、改めて本当に感謝しています。
貴女がこの街に居られたこと、貴女と過ごせた時間は私の人生の中で最も有意義な時でした。
大変名残惜しいですが、貴女の旅路をお祈りします。ご活躍期待していますよ」
ギルダナの街から王都へ向けた聖女の出発式が催され、この場に赴いたこの領地の主ジェイク・ヴァン・ランダバウトが聖女に別れの言葉を告げた。
出発式の会場の周りでは多くの住民が祝福の声と別れを惜しみ泣き叫んでいる。
「ジェイク様、私のために本当に良くしてくださってありがとうございました。
教会のことで多大なご迷惑ををおかけしてしまって申し訳ございませんでした。
王都にて必ず、皆様の心の拠り所となれる誠実な教会になれるよう勤めて参りますわ。
スズナ様、貴女にも最後にお会いできて大変嬉しいです。
私がいたことでとてもお仕事が増えてしまっていたと聴いています。本当にご迷惑おかけしました」
「いいえ、なんて事ありませんわ。
領の恩人の為ですもの。光栄なことですわ。
エミリア様、どうかくれぐれもお気をつけて。王都までの安全をお祈りします」
「ええ、有難うございます。
それでは行って参ります」
一層住民達の声が大きくなる中聖女はこの日のために用意された重厚で豪華な箱馬車へと入り大勢の護衛を連れてギルダナの街を後にした。
聖女は箱馬車の窓を開けて外にいる人物に話しかける。
「サファイア様、護衛の皆様どうかよろしくお願いしますね」
「もちろんです。聖女様の安全は私が身を賭してでも御守りいたします」
「ご無理だけはされませんように。少し悪い予感もしますから。私にできることがあればおっしゃってくださいね」
「はい!全員気を引き締めて護衛に望みます。もしもの時はよろしくお願い致しますね」
返事を聞くと箱馬車の窓を閉め、1人だけの室内で祈りを捧げるふりをする。
『スズナ・ランダバウト』
呪いを弾く加護の持ち主に出会ったことは初めてだった。
その為充分警戒をしていたが、ジェイクの仕事の多くを引き継いだ彼女は忙しく会える機会が少なかった。
それでも最後にとジェイクを通じて会うことができた。
そして感じた彼女の聖女への後悔の気持ち。
思考を読みこの旅路で起こることを予感した。
忌々しい者の影もちらついている。
だが幸いな事に今この国に居ないことも分かった。
予定通り進めば何も気にすることはない。
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