黄昏一番星

更科二八

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1章 呪いの女

110話 薄暗い部屋の男

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窓から月明かりが差し込む薄暗い部屋の隅に男は座っていた。
そろそろ駒の1人が来る頃合いだろうか。
1人思案に更けていた。

これまでに失敗をすることなど無かった駒が失敗をした。
殺したはずの男がまだ生きていた。
気持ちが焦った。
駒を探る動きがある。
あの方の世界にいていはいけない存在がまだ生きている。

駒の働きは信用していた。
殺したというのならば、確実に致命傷を負わせたはずである。
そうさせる命令だからだ。
生きているはずがない。
でも生きている。
生かした奴がいる。
許せない。
それをしていいのは・・・

男は焦っていた。
だから多少犠牲が増えても仕方がないと駒を再び放った。

コトン

小さな扉が静かに音を立てて開いた。
現れたのは黒いローブに身を包んだ人物。

「・・・」
男は察した。

「ジェシカがしくじったぜ、どうする?」

・・・なぜそうなった。
「誰が」
「あの犬っころの近くにいたオーガだ。
ジェシカが手も足も出なかった。
前の時も犬っころの近くにいたからな。治したものあいつかもな」

何ということだろう。
駒の能力はよく知っている。
たとえ駒の能力を知っていようと、簡単に対処できるようなものではないはずだ。
そう作った。
能力の高い子供を攫い時間をかけて作り上げていた駒だ。
それなのに負けるなんて。
手間をかけたのに何故期待に応えない。
価値がない。

「いりません。明日中にお願いします」

不要と切り捨てたなら早めに処理しなければ。
奴隷印があるうちは猶予がある。

「簡単に言ってくれるぜ。あいつ魔法兵団の詰め所だぜ」
男は沈黙を返す。
「了解主人様」

ローブの人物は入ってきたドアを再び潜り部屋から去った。

残された男は酷く憤る。
いれない、これではいけない。
あの方に尽くさなければならないのに。
それなのに自分のことにしか手が回らない。
そんなこと許されていいはずがない。

男には自由がない。
本当ならば全てを捧げたい。
しかし男の立場がそれを許さず、そしてまだあの方の為には男の立場は必要だ。

歯がゆい。
でも今は耐えるだけだ。
いつかきっと全てを捧げられる時が来る。
それに男は思いを馳せた。
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