黄昏一番星

更科二八

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1章 呪いの女

105話 罠

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切り裂き魔が入れられた牢屋は何の変哲もない牢屋だった。
石造の部屋に鉄格子が嵌め込まれ、その向こうには木の寝台と排泄用の桶と水瓶があるのみ。一つの檻の広さは4畳ほどだろうか。

一番奥の檻に切り裂き魔は寝かされていた。
首には魔法封じの首輪、腕には枷が嵌められ足は鎖で牢の壁に繋がれている。
口にも舌を噛まないよう口枷がかけられている。
服も替えられてボロい麻の貫頭衣1枚だ。
下も穿いてなさそう。
いっさいの抵抗を許されないスタイルだ。

俺は檻の前でここに仕掛ける魔法陣の罠について考えを巡らせる。

特定の人以外に反応させる仕組みどうすっかな。
魔法陣作成の時に魔力を記憶させてその人には反応させないというのが簡単な方法だが、
今いるコリンズとロージーはいいとしてもここを誰が見張るのか選別はまだ出来ていないようだ。
なので後から魔力を登録する仕組みにしたい。
ただ、誰でも魔力を登録できると罠の意味がなくなってしまう。情報さえ分かれば突破は容易い。
ここは既に魔力を登録した人物が別の人の魔力を登録できる仕組みにしよう。
初回は俺がやりその後はコリンズかロージーにやらせればいいだろう。

「罠にかからない人物の魔力を登録させるが、既に登録した人が他の人の魔力を追加できる仕組みでいいか?」
「ああ、そうしてくれると助かるな」

そんじゃちゃちゃっとやりますか。
罠の魔法陣なんて九孫の魔法学園で嫌ほどかかったし、仕掛けるのも散々やったからな。
手慣れたもんだ。

檻の手前の地面に四角く魔法陣を作り固定していく。
最後は隠蔽の魔法で隠して終わり。

「できたぞ、魔力の登録をするから空の魔石とかあるか?」
「早いな、もう出来たのか。
魔石はロージー、探してきてくれるか」
「了解でーす」
すっかり影が薄くなっていたロージーが元気よく走り去っていった。

「かなり複雑な模様だったが、大掛かりなものなのか?」
「いや・・、複雑なのはそう見えるだけで、俺の書き方が汚いからだな。
仕込んだのは4つ、魔力を登録する術と軽い電撃、眠りと麻痺の付与だな」
「確かに一つひとつの魔法は難しくないものだが、知らずにこれを踏むとなかなかエグいな」
「だろ、かかるのが楽しみだ」

こんな魔法兵団の詰め所なんかに果たして忍び込むやつがいるのかとは疑問だが。
せっかくだしかかってほしいなー

「コリンズ隊長ー!空の魔石持ってきました!」
ロージーが一抱えもある箱に大量の空になった魔石をいれて持ってきた。
1個で充分って言うの忘れたな。

「すまないロージー、1個で良かったんだ。伝え忘れてしまった」
「そうだったんですね、その辺にいっぱい転がってるんで全然苦労してないから大丈夫ですよ」

それはそれでどうなんだろうと思う。
一応空の魔石も建材として価値があったりする。
砕いて壁に埋めたりすると強度が上がるのだ。
建材屋なんかがかなり安値だが買い取ってくれるだろう。

ロージーから空の魔石を一つ受け取りコリンズに渡す。
「これに魔力を少し込めてくれるか。
これを使ってコリンズの魔力を魔方陣に登録する」
「わかった」

魔石を受け取ったコリンズはぐっと握り込み魔石に魔力を込める。
普通の物質なら魔力は流し続けないと直ぐに抜けてしまうのだが、空の魔石は多少だが一時的に留めておくことができる。
それでも本当に短時間だ。
なので魔力を沢山溜め込んだ魔石というのはかなり用途があってそれなり高価だ。

「これでどうかな」
コリンズから魔石を受け取り確認すると少しだけコリンズの魔力を感じる。
「うん、問題ない。
魔法陣への登録だが、既に登録されたものがこの魔石を持って魔方陣の中に入り真ん中あたりにこれを置くだけだ」

説明した通りに実演してみせる。
コリンズの魔力のこもった魔石を持ち魔法陣へ踏み入れて魔石を中に置く。
魔石はほのかに一瞬光る。

「これでコリンズはこの中に入っても大丈夫だ。魔石は空になっているから使い回してくれ。やってみるか?」
「これまた簡単でいいな。是非ともやらせてくれ。2人分でも可能かな?」
「大丈夫だ」
「ロージーとエドガーも魔石に魔力を込めてくれ。今度は俺が登録してみる」

そう言って2人は魔石に魔力を込める。
エドガーはすごく必死だ。
魔法が上手く扱えなくなっているエドガーにはここ数日魔力操作を教えている。
俺がエドガーの魔力を動かせるので感覚の掴みは早いが、ほんの数日でものになるようなものではない。まだまだ苦戦中だ。

「できました!」
「タイガ、これできてるか?」
「大丈夫、ちゃんと込められてるぞ」
エドガーめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしている。

今度はコリンズが2人の魔力の籠った魔石を持ち、魔法陣の中へ入り床に置く。
魔石は一瞬ほんのり光りすぐ収まる。

「これで2人も登録できたから中に入って大丈夫だ」
そういうとエドガーは興味津々にロージーは恐る恐ると言った感じに魔法陣の中には踏み込むも何も起きない。

「本当にこれ動くのか?」
エドガーが不思議そうにしている。
魔力登録が動いているので大丈夫なはずだがまあ確認しておいて損はない。

「登録してない人の魔力が入った魔石があれは確認できるが」
「それじゃ私すぐ近くの人からもらってきます」
ロージーは空の魔石を手に持って出ていく。
待つこと1分ぐらいで戻ってきた。

「もらってきましたよ」
「それじゃその魔石を魔方陣の外から投げ入れてくれ」
ロージーは言われた通り軽く魔石を放り投げ床に落ちる。

バチンッ!

乾いた音と共に魔石が弾かれる。

「よしよし想定通りだな。電撃は人に対して意識を失うかどうかぐらいにしてある。
眠りと麻痺は見た目にはわからなかったが魔力の動きでは問題ないように見えた」
「へーすごーい。
これ、ここ以外でも役立ちそうですよ団長!」
「そうだな。タイガ殿これの魔法陣の写しもらえないか?
すぐには無理だが報酬は出す」
「そりゃありがたい。どのみち俺の魔力で出来てるものだから1週間ぐらいで消えるし、写しは必要だよな。
紙と魔法インクを貸してもらえれば後で渡そう」
「ありがとう。もう少し話もあるからここは移動しようか」

魔法陣の罠で金が稼げるなんて思ってもみなかった。
なんだかんだ魔法学園の騒がしかった日々も役に立つなーとしみじみ思った。
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