黄昏一番星

更科二八

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1章 呪いの女

102話 切り裂き魔

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人気のない薄暗い広場を俺たち4人は警戒のそぶりを隠して抜ける。
前方からはこちらの事を構う様子もなく全身を隠すローブを身に纏った人物がこちらに近づいてくる。
深く被ったフードと暗さもあり顔は分からない。
注目しようとしてもすぐに意識が外れてしまう。
認識阻害魔法によるものだ。

相手との距離が近づき5メートルほどになる。
すれ違うのではない。
明らかにこちらに歩みを向けて歩いてきている。
堂々としすぎているのは俺たち全員を相手にするつもりなのだろう。

エドガーが立ち止まり、すかさずトレイとモーガンが庇うようにエドガーの前に立つ。
ローブの人物はそのまま3メートルほど離れた位置まで寄りようやく立ち止まる。

「どうして生きてるの?」
ローブの人物が小さな声で短く問う。
答えを聞くつもりはないとエドガーたちの目の前で魔力が鋭く爆ぜた。

ガンッ!!!

大きな音が響いた。
魔力に反応してあらかじめ発動準備をしていた俺の防御魔法を発動させて魔法を防いだ。
俺の防御魔法は真っ二つだが後ろには届きていない。
正直もっと余裕持って耐えると思ってた。
結構魔力注いだのに。

二発目の備えが無いので俺は切り裂き魔の前に立ちはだかる。

威力はわかった。
俺の氣なら防げる。

「よくもエドガーをやってくれたな」

全力で殺気をぶつける。
切り裂き魔の行動一切を許さないように。
俺の気迫を押し付けて思考を奪う。

認識阻害魔法のせいで奴の印象は読めない。
だけど奴の魂は酷く冷たくなった気がした。

俺の全力の威圧で意識を保っていられる奴は相当場慣れしているか感情が死んでいるか。

切り裂き魔の行動の予測を立てながら一歩踏み出す。
瞬間切り裂き魔は俺から距離を取るように力を込めたバックステップの行動を取る。

好きにさせるつもりはない。
奴の動きに反応してすかさず発動させた水球の魔法に思いっきり突っ込み、切り裂き魔は勢いを失って態勢を崩す。

「逃すわけねえだろ」

俺は更に水球の魔法を発動。
直径50センチほどの水球が大量に辺り一帯に漂よわせる。
これで動きを制限する。

態勢を崩した奴に向かって歩みを進める。

ガンッ!!

再び大きな音が鳴る。
相変わらず魔力の動きも見せずに鋭い斬撃の魔法が俺を狙うが、俺の大きく纏う氣にあっさりと弾かれる。
魔法の発動と同時に奴は跳ねるように動き出し俺を迂回し後方のエドガーたちへ駆けるがそれも読んで備えている。

「くぁっ!!」

エドガー達の前に準備していた防御魔法即展開。激突した奴が大きく吹き飛び地面に倒れる。
そしてすぐ横には俺がいる。

そのまま力で地面に押さえつけローブをひっぺがす。
ローブの下に隠し持っていたナイフを俺に突き立ててくるが氣を纏っている俺には通らない。
ここで今まで上手く認識できなかった切り裂き魔の存在がはっきりと認識できた。
認識阻害の効果はローブに付与されていたようだ。
ローブの下から出てきた切り裂き魔の姿は、あまり見ない珍しい種族だった。

『魔人族』

魔族とは別のこの世界に暮らす人類種の一つ。
硬い鱗に覆われた手、青い肌に縦長の瞳孔の瞳、頭に生えた角は折られている。
切り裂き魔の正体は魔人族の女だった。

魔人族は尻尾と羽を持つはずだかこいつには何故か無い。
体は痩せて着ている服もぼろぼろだ。

「離せ!死ね!!」

激しく抵抗し何度もナイフを突き立てているが俺にはなんの意味もなく地面に押さえ込んでいる。

「なぜエドガーを狙った?」
認識が出来ればこっちの者だ、こいつの意識を正確に捉えて押しつぶすように威圧する。
「っっっ!」
完全に気迫に飲み込まれた切り裂き魔は震え涙を流し出す。

「言え、なぜ狙った?」
「はーっ・・・・はっ、はっ・・は」
切り裂き魔は口をパクパクさせて苦しみだす。
過呼吸か?
いや、様子がおかしい。
切り裂き魔の魔力を読むと体の中で酷く乱れている。
これは俺せいじゃない。

すぐに俺の氣を切り裂き魔の体内にぶつけるように流して、切り裂き魔の氣を大きく乱す。
氣を乱された切り裂き魔は意識を失い動かなくなる。
魔力を探ると少しずつ乱れが落ち着いているようだ。

威圧されると魔力の流れは酷く遅くなるのが通常の反応だが違った。
意思とは真逆に暴走させているようだった。

「終わったっすか?」
「殺してはないよね?」
「タイガ、怪我は無いか?」

様子を見ていた3人が話しかけてくる。
「ああ、俺は何ともない。
こいつも意識を奪っただけだ。」
「そうか、やったな!」
「最初の攻撃、俺死んだかと思ったっす」
「僕らだけだと何ともならなかったねー」
「見立てが甘くて完全に防ぎきれなくてすまん」

ほんと初撃防げてよかった。
もしもう少し魔力が薄かったら3人に怪我をさせたかもしれない。
防御魔法ももっと練習しておこう。

「しかし、ちょっと厄介だ。
こいつは多分奴隷印使われてる」
「ええ!それは厄介っすね」
「奴隷印ってなんだ?」
もと奴隷の経験のあるエドガーが聞いてくる。
「行動を強制的に縛って服従させる印だよ。
破れば死ぬような制限をかけることもできる。
これや服従の魔法なんかはどこの国でも使用が禁止されているし習得方法も秘匿されているようなものだ」

人の尊厳を簡単に奪ってしまうものだ。倫理的に良くない。
昔はかなり使われていたようだが、300年ほど前にギルド主体で世界的に禁止されるように法改正が進められた。
今ではエドガーみたいに存在すら知らない人も多い。

「奴隷印だとしたら聞き出すのも難しいかも知れないねー」
「そうだな、俺が問い詰めると魔力が暴走しそうだった。
そのままだと死んでたかもな」
「これは魔法兵団の管轄っすね」
「そんじゃとっとと運んじまうか」

地面に倒れ込む切り裂き魔を担ぐ前に眺めるとやっぱり気になる。

「羽と尻尾は暗殺に邪魔だから切ったのか?」
「プロ根性だねー」
「角、羽、尻尾は魔人族の誇りみたいなもんだと聞くけど。よくやるよ。
俺が仕事の為に去勢するとかなったら死んだほうがマシだ」
「俺も」
「俺もっす」
「俺もー」

みんな即同意を返す。
そらそうよな。
男でなくなるなんて真っ平だ。

切り裂き魔の心中は気にしない。
こいつはエドガーを殺した奴だからな。
同情の余地なし。
雑に切り裂き魔を担ぎ上げ、俺たちは魔法兵団の詰め所を目指した。
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