黄昏一番星

更科二八

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序章 新天地と仲間との出会い

76話 スズナ・ランダバウト

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ギルダナ西街区貴族街、ランダバウト辺境伯屋敷
現当主ジェイク・ヴァン・ランダバウトの夫人であるスズナ・ランダバウトはジェイクの仕事のいくつかを請け負い、兵士団や領民などから上がってくる報告を捌いていた。

スズナは勤勉であり領民からの反応も良い。
他国の生まれであって最初こそ領民の支持はなかったが、懸命に仕事をし、家族に深かい愛情を注ぐ姿からすぐに受け入れられたという。

魔法の才能にも優れ、この街の魔道具感知魔法を作り上げたのはこの人である。

「奥様、魔法部隊からの報告書が届いております。それと申し訳ないのですが、ギルド、戦士部隊からの報告書の確認もお願いできますか?」
「主人から言われたのかしら?」
「はい、明日の聖女様との会食の準備に集中したいとのことでして」
「はー全く、大規模討伐の後処理もまだ残っているというのに」
「それも聖女様の貢献が大きかったですからね。王家への謁見のこともありますので」
「それにしても3回はやりすぎでしょう。
王子からの手紙もさっと渡して内容だけ知らせればいいのに、毎回こんな豪華にしなくても」
「そう言われましても、旦那様も張り切っておられますし」
「まあ気持ちも分かるのよね・・・」

スズナには最近悩みがあった。
旦那であるジェイクが少々聖女に入れ込みすぎていることだ。
聖女とはこの国で広く信仰されるリリエス教という宗教の聖職者の1人だ。
莫大な魔力と類稀な治癒魔法の才能の持ち主で普通の治癒魔法では難しい致命傷になりうる傷でも治療ができる。

先日このギルダナの北部にある山脈から大量の魔物が降りてきた際に行われた大規模討伐に合わせてこのギルダナにやってきている。
大規模討伐で大量の負傷者を癒やし続け魔物の侵攻を抑えることに大きく貢献した。

その事でランダバウト辺境伯としても聖女の功績を讃えて最大限の礼を尽くした。
聖女が功績を立てたことを聞きつけた王家からは是非謁見にとの通達も来ている。
爵位の授与や王子との婚約もあるのではないかとなどとも噂されるほどである。

聖女の人気は凄い。
類稀な才能もそうだが、女神と表されるほどの美貌、献身の精神が多くの民の心を掴んでいる。
教会への寄付も多く、聖女が現れてからのリリエス教の発展が目覚ましい。
聖女に一目会いたいと全財産を寄付するものまでいるほどだ。

スズナも会ったがそうさせるのも納得の美しさがあった。
あの美貌を知ると他のどんなものでも霞んでしまうと思うほどだ。
旦那が入れ込むのもわかる。
わかるがモヤモヤするのだ。
「はー」
ため息も出る。
「仕事は私に回してちょうだい。
あー聖女様は早く王都へいってくれないかしら」

そう愚痴をこぼしつつ受け取った報告書を確認していく。
その中で1人の名前を見た。

不認可の魔道具利用についての報告のまとめに載った名前。
それはスズナの記憶の中にあるものだった。
一緒に書かれた鬼族という文字。
今はもう久しく見ていない種族。
スズナは鬼族のカタラギ タイガという人物にはっきりとした心当たりがあった。
スズナと同じ故郷の人物。
数回会ったこともある。

スズナと同じく貴族であり、建国時代から続くと言われる由緒ある家に生まれた問題児。
彼とは違い普人族であった彼の双子の姉とは仲が良かった。
親友と呼べるほどだったと思う。

タイガはというと普通に好みじゃなかった。
ゴツくて男くさくて野蛮で下品。
コントロールが効かず危険。
貴族として品格を学び育ったスズナにとって全く好ましくなかった。

許嫁候補として名前があがったときは速攻で文を燃やしたほどだ。
後から分かったがタイガの姉がスズナを揶揄っただけらしい。反応を聞いて爆笑していた。
姉も姉であるがこちらは品格もあったのだ。
とある理由でタイガとは離されて育てられていて、幼い頃から貴族としての教育を受けて世間受けはかなりよかったのだ。

「生きていたのね・・・」

国が滅んだ時に死んだと思っていた。
国の護りの一翼を担う一族のものだから。

「奥様、失礼します。
明日の会食でのお召し物のことなのですが・・・」
明日の会食の準備に追われるメイドの1人が執務室へとやってきていた。
旦那が急かしたのだろう。

「悪いけど、私は明日の会食には出れないと主人に伝えてちょうだい。
少しいくところができたの」
「えっ!!どちらに?」
「戦士部隊の第二兵舎にね、重要案件よ」
「かしこまりました!手配のほう進めますね」
「目立つようにはしないでね」
「はい!」
メイドは勢いよくすっ飛んでいった。
働き者だ。

スズナは明日会うことになるだろう男のことを思い出す。
相変わらずそうではありそう。
当時はいい印象のなかった男だが今思うと懐かしい。
滅亡した故郷の同輩だ。
再会には少し期待感があった。
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