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第4章 光と「ブルクハント王国の誘拐犯」

109話 共通の友

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「もう、余計な事はしないでくださいよ。とばっちり来るの私なんですから!」
 ブルットが、悪そうな笑みを浮かべているモンローに冷たく言った。

「いちいち堅いなお前も・・・」
 モンローがため息を吐きながらブルットを見る。

「まあ、クリチュート教会は組織も大きいですし、教皇が高齢ですから。次期教皇を巡っての争いありますから。そういう意味では、きな臭い噂を聞かない訳ではありません。最近、第4派閥の司教のところ・・・ヴェール殿が世話になっていた孤児院の司祭が、裏の組織と取引していたとかで、行方を眩ましてしまいましたしね。中ではいろいろあるんですよ」

「そう、あるんだよ。誘拐犯だって、事情も聞かずに殺しちまったし。人に言えねぇ何かがあるんだろうよ」

「モンローさん・・・何でも陰謀にするのもいいですけど、誘拐犯に関しては、あのままアマリージョさんが連行したら、街中で皆が犯人を目撃してしまうじゃないですか」

「そりゃそうだろ。別に誰も文句いわねぇだろ。犯人の面も拝めるしよ」

「それですよ。街の人が顔見たら生きてるって分かるじゃ無いですか。生きてたら、裁判になりますよ。裁判になったら記録に残りますよ。儀式のこととか。それこそ全部話したら、邪神の呼び出し方まで世界中に広がってしまうじゃないですか」

「ま、まぁ、そういう事は、まぁアレだよ。あれ」

「アレってなんですか。アレって・・・だからこそ、その場で殺す必要があったんじゃないですか? 違いますか? まさか殺すのをアマリージョさんに押しつける訳にもいかないでしょう。そりゃテスターは、嫌味なヤツですが、その辺はしっかりしてると思いますよ。それより、モンローさんはヴェール殿のことで、ただ文句があるだけでしょう、まったく、いい年して・・・その目は節穴ですか? もう老眼ですか?」

「・・・お前・・・怒ると口悪りぃな・・・」
 モンローがなにげに凹んでいるのが分かった。

「あっ・・・すいません。すいません・・・そんなつもりでは・・・申し訳ありません」
 我に返ったブルットが、必死にモンローに謝る。

『今、シスター・ヴェールの名前が出ましたが、彼女が何か関係あるのですか?』
 コントみたいなやりとりをする二人に、ヒカリが空気も読まずに質問する。

「あぁ、テスターとの結婚だよ。あれがな・・・俺は全然納得してねぇんだよ」
 結婚のことは秘密だと言っていたような気がしたが、モンローがあっさりと口にした。

「モンローさん!」
 ブルットも事情を知っているようで慌てて声を張り上げた。

『その話ですか・・・確かに素直に喜べない話ですね』
 ヒカリもそのままスルーして、話に乗っかっていく。

「ん? なんだお前ら知ってたのか?」
 モンローが少し驚いたような表情をした。

『シスター・ヴェールからは直接聞きました。まだ秘密とも言っていましたが』

「なんだ、そんな話をするほど信用されてたのかよ。最初から言えよ。な」
 モンローが、ブルットに同意を求める。

『それは、申し訳ありませんでした』

「謝る必要はないぞ。しかし、ヴェールがなぁ。そうかそれは良かった」
なんだかよく分からないが、モンローは楽しそうに笑っている。

『どういう事でしょうか?』

「つまり、私もモンローさんもヴェールさんとは結構親しくさせて頂いているんですよ。特にモンローさんが現役だった頃は、厄災の討伐で何日もご一緒したりしてましたから。
人前だと私もモンローさんも、ヴェールさんのことはヴェール殿と呼んでますが、周囲に人がいない時は、モンローさんは呼び捨てですからね。ちなみに殿は、自分が認めた人にしか使わないらしいですけど」

「ブルット、余計なことはいい。それよりもヒカリたちはヴェールとはどういう関係なんだ?」

『関係ですか? 友達ってことになってます』

「友達以外の関係もあるってことか?」

『・・・チームに入れました』

「チーム? 冒険者の? エンハンブレにか?」

『はい。ギルドに登録はしていませんが、私たちの中では仲間のつもりです』

「仲間か・・・ヴェールにとっちゃ嬉しくて辛い言葉だな・・・」

『辛い? 何故でしょうか?』

「一緒にいられれば仲間なんだろうが、ヴェールは一人で世界中飛び回ってるからな。会うことも、話すことも無く、仲間だという言葉だけで何年も一人。たまには愚痴でも、聞いてやれたらいいんだが・・・仲間という言葉が返って寂しさを思い出させるんだよ」
モンローには、何か思い当たる節があるようだった。

「モンローさん、なんだかんだ2年くらいですか・・・親代わりみたいな感じでベッタリでしたからね。いろいろ心配なんですよね」
 ブルットも、モンローと同じような気持ちらしい。

『そうでしたか・・・ではちょっと話してみますか?』

「は?」
 モンローが驚く。

『もしもし、ヴェールですか? はい・・・はい。今モンローさんが話したいと言っていまして・・・はい。よろしくお願いします・・・・モンローさん、どうぞ』
 ヒカリはそう言って、携帯のイヤホンをモンローに手渡した。

「おっ! これ。そうか・・・本当かよ? あっ も、モンローです。はい。突然・・・あ、はい。そうです・・・じゃあまた後で・・・」
 モンローがあり得ないくらい緊張し、直立になっていた。
 言葉が丁寧になっていた事は、突っ込んではいけない感じだった。

『ヴェールは元気でしたか?』

「あ、あぁ。いきなりで焦っちまったが・・・そうか・・・仲間か・・・ありがとうな、ヒカリ・・・」
 笑ったモンローの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 その後、ヴェールと回線をつなぎ直し、スピーカーにしてから皆で話をした。
 俺たちはヴェールとの出会いから、家に泊まりに来た話などを、モンローとブルットは、ヴェールと旅をした2年間などの話をし、盛り上がった。

     ♣

「で、お前らはこれからどうするんだ?」
 結構な時間話をし、ヴェールとの通信も終えたあと、モンローが唐突に聞いてきた。

『どうするとは、なんでしょうか』
 ヒカリが答える。

「この街に住むのか?  どこか他へ旅でもするのか?」

『まだ、ハッキリと決めた訳ではありませんが、とりあえずは家を借りるのが一番の目的ではあります。今は宿屋暮らしですから』

「今朝、コイツも話したんだが、お前ら王都に来ないか?」
 モンローはそう言いながらルージュの頭に手を乗せる。

「「王都?」」
『王都ですか?  確か王都は帝国と戦争になりそうだと聞きましたが』
 俺とアマリージョが驚く横で、ヒカリが冷静に聞き返す。

「そうだ、その戦争になりそうな王都だ。それがな、前々から王からは打診があってな。それが今回、こんな形でギルドをクビになっただろ。そしたら先延ばしにする理由もなくなっちまってな」

『で、その王様からの打診というのはなんでしょうか?』

「戦争になるから、軍を統括しろって話だ。あっちはあっちで、ちゃんとした将軍がいるしな。俺がノコノコ出て行って上司面するのも、なんか嫌だったんだが・・・」

「ていうか、あなた元々上司みたいなものじゃないですか」

「お前、ギルマスになったからか。だんだん偉そうになってきたな!」
 モンローがブルットの頭を両手の拳でグリグリと締め上げる。

「すいません。でもこのモンローさんと、王都で指揮を執ってる将軍は、元々同じパーティの仲間なんですよ。で、モンローさんがリーダー。素直に手伝ってやればいいのに、何故か嫌がるんですよね」

「そりゃ、向こうだって嫌だろうが」

「直接ききましたか? 将軍だって、敵の戦線が拡大し過ぎて、対処しきれないって。本当に困っての王様への進言ですよ。それをモンローさんは・・・」

「あー、うっせーな。結局行くんだからいいじゃねーか」
 モンローのキレ方がルージュと同じだ。

『で、先程の話ですが、モンローさんは私たちに王都までついてきて、モンローさんの部隊に加われと、そういうことでしょうか』

「いやいや。そうしてもらえれば助かるがそうじゃない。ヒカリの探査能力は見たことがないほど優秀だ。それに、その遠くでも会話ができる魔道具も」

『ですから手を貸せということでは?』

「いや、どちらかといえば取引だ。この街は王都に比べると平和でな。王都からの移住者が多いんだ。特に旦那を亡くした家族とかな。だから、ここは空き家が少ない」

『それは、はい。既に承知しています』

「だが、それに比べて王都は流出する人口の方が多くてな。意外と物件が余ってる。そこでだ。ギルドで 買い取った家から、一軒まるごとやるから、一緒に王都まで行ってくれないか」

『ですからそれは、家をやるから部隊に入れという話・・・』
 ヒカリが喋り終わる前にモンローが割って入る。

「向こうは魔物も多いから、依頼も多いぞ。あとはそうだ、ロザリーを助けてくれた礼も上乗せしてやる。ついでにランクもB級に昇格させよう。どうだ?」

『一つ、いえ、二つお聞きしますが、今出して頂いた条件、クビになってしまったモンローさんでは、何一つ叶えられないのではないでしょうか』

「う・・・いや、なんとかなる。ブルットがなんとかする」

『ブルットさんは、完全に目を逸らしているように見えますよ。それと、もう一つ。何故、そんなに必死なのでしょうか?』

「あ、う、それはだな・・・」

「もういいわよ、師匠。だからヒカリには最初から正直に話したほうがいいって言ったのよ。もちろんクロードにも」

『ルージュ? どういうことですか? それに師匠というのは?』

「私がクロードはともかく、ヒカリには、ちゃんと理と利を解かなきゃダメって言ったからよ。それをどう勘違いしたら、ああなるのかしら」

『いえ、そういうことではなく』

「本当は先にアマリに話してからにしたかったのに。仕方ないわね」
 そう言ってルージュは、事の経緯を話し始めた。

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