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第4章 光と「ブルクハント王国の誘拐犯」

107話 目覚め

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「あいたたたたっ・・・ここどこだ?」
 俺は全身が重だるい状態で、目が覚めた。

『おはようございます。玄人クロード。と言っても、まだ夜明けまで少しありますが』

「ヒカリか・・・ん? ここは宿屋か・・・そうか、俺、結局気を失って・・・」

『あれから丸二日寝ていました。夜が明ければ、あの日から3日目ですよ』

「え!? そんなに? ルージュは? アマリとモンローさんはどうした? あっロザリーは?」

『大丈夫。ロザリーは無事に助け出しました。アマリージョは元気ですし、ルージュとモンローさんも魔素切れで倒れていましたが、昨日の朝には目が覚めてます』

「はあぁ~、良かった。みんな無事だったんだ」
 俺は皆が無事だったことと、自分が足手まといにならず、役目を果たしきった事に安堵した。

『では、もう少し休んで下さい。明日、もう今日ですね。昼前にギルドで今回の事についての報告会議が開かれますので』

「そうなの? 俺はまだ寝てたのに・・・酷くない?」

『遅くても、今朝までには目覚めると、医師の方が言っていましたから。誰も忘れてませんよ』

「まあ、いいか。みんな無事だったし。でももう眠れそうにないし、トイレにでも言ってくるよ」

『はい、まだ多少フラフラするはずですから、気をつけて下さい』

「あぁ、ありがとう」
 そう言って、トイレに行こうとベットから起き上がり、ドアの方へ歩いて行くと、アマリージョがノックもなしに部屋に入ってきた。

「クロードさんが、目が覚めたって・・・」

「あ、アマリ。おはよう。もうすっかり! おかげさまでこの通りだよ」

「はあ~、もう心配させ過ぎです。姉さんもクロードさんも・・・」
 アマリージョは安心したのか、特大のため息を吐きながらそう言った。

「ごめん、ごめん。それに、さん付けもいらないよ」

「あ、そうでしたね。すいません・・・クロード」
 アマリージョが改めて、言いづらそうに言い直す。

「いえいえ、心配してくれて、ありがとう、アマリ」
 続けて、俺も言い直す。

『二人とも、私がここに居るのに、何イチャイチャしてるんですか?』

「え!?」
「別にイチャイチャなんて・・・」
 アマリージョは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

『冗談ですよ。ではちょっと早いですが、食堂もやってますから。下でゆっくり食事をしてから、ギルドに向かいましょう』
 ヒカリは、あまり冗談を言うタイプでは無いが、言うときは直球の冗談をいつもと変わらない口調で言う時があって怖い。
 そういうところは是非、直してほしいと思う。

「クロードさん、2日ぶりの食事ですけど、いきなり食べて大丈夫ですか?」
 アマリージョが階段を降りながら聞いてきた。

「大丈夫そうだけど・・・あ、アマリ、また、さん付けしてるね」

「うー、でも、やっぱりクロードさんは、クロードさんです。ヒカリさんもヒカリさんです。よくよく考えたら姉さんもさん付けですし。やっぱり駄目ですか?」
 アマリージョが困った感じでヒカリにお願いをした。

『まあ、仕方ないですね。それなら好きにして構わないですよ』

「やった!なんだか肩の荷が下りた感じです。さあ、いっぱい食べましょう」
 呼び名のことは、彼女なりに悩んでいたようで、少しホッとしたように見えた。

「じゃ、俺も頑張って2日分食べるか」

「じゃ、クロードさん。いろんな種類たくさん頼んで、分けっこしましょう」
 アマリージョが楽しそうにウキウキしている。

「あっ、アマリが大食いなの忘れてた」

「大食いじゃないです! いろんな物をちょっとずつ沢山食べたい派です」
 アマリージョが少しむくれて言い返してくる。

「そっか、ごめん。大食いじゃなくて、食いしん坊だった」

「うー、そうなんですけど、どっちにしても言い方が・・・」
 それから、いつも注文する量の倍くらいを注文し、アマリージョと仲良く分けて食べた。
 ヒカリは、相変わらず物を食べないが、身体の冷却に必要だから言って、酒ばかり注文していた。
 そういう時の冷却剤って、普通は水じゃないのだろうか。

「そう言えば、ルージュはどこ?」
 姿が見えないことに、今更ながら気がついた。

「姉さんなら、朝から魔物を狩りに行ってますよ。先日、捜索するのにヒカリさんが見つけた抜け穴ですか? あそこは魔物の数が多いから、いい運動になるって」

「いい運動って・・・昨日、目覚めたばかりじゃなかったっけ?  元気だな」

「姉さんが言うには、魔素切れの時こそ、魔物を狩った方が早く治るそうで」

「そうなの? そんな単純な話なの?」

『まあ、一理あるかも知れませんね。この2日で動けるほどには回復しましたが、全回復というには、まだまだ時間がかかります。私も戦闘で魔素量はギリギリですし、魔物を倒して奪うのもよいかも知れません』

「そっか。ごめんね。元々携帯に貯めてある魔素は、魔素を使い過ぎて動けなくなるのを避けるために、貯めてたのに」
 こういう事を想定して、ヒカリが全員に携帯に魔素を貯めてくれていたのに、今更ながら全部使い切ったことに反省をする。

『そうですね。あの後、新手が来たら全員死んでましたから。ただ、ルージュの判断は間違ってはいませんでした。次からはルージュには内緒で、予備の魔素も貯めておくようにします』

「内緒で?」
「どうしてですか?」
 俺とアマリージョが聞き返す。

『あると知ったら、ルージュはそれも使ってしまいますから』

「あ、そりゃそうか」
「そうですね」
 俺とアマリージョが笑う中、ヒカリも笑っているように見えた。

『ですが、全員分とはいえあれだけの魔素を貯めるのに、何ヶ月もかかってますから。当分、無茶はしないで頂けると助かります』

「そっか、迷惑をかけるね」
「私も・・・姉さんの分もありがとうございます」

『いえ、それもリーダー、社長の役割ですから』
 ヒカリがそう言うと、なんだか可笑しくなってきてアマリージョと二人で笑ってしまった。

 食事もある程度終わり、話も一段落ついた時、アマリージョが急に思い出したように言った。
「そう言えば、ヒカリさん、腕はもう大丈夫なんですか?」

『はい、もう直しましたので問題ありません。アマリージョの携帯の魔素も私が使わせてもらいましたしね』

「ヒカリ、腕どうかしてたの?」
 腕がどうとか、知らない話だったので、俺からも聞いてみる。

『先日の戦闘で失いました』
 ヒカリが何事も無かったようにさらりと答える。

「凄かったんですよ。オグルベアみたいな魔物が現れて、しかも手が4本もあるんです。いろいろ物は投げるし、魔法は飛ばすし、私はそれを防ぐので精一杯で」

「4本って・・・蛇も7匹いたし。なんでも増やせばいいってもんでもないだろうに・・・」
 俺は自分達が戦っていた合成魔物キメラを思い出しながら呟いた。

「それでですね、その熊。硬くてなかなか切れないから、ヒカリさんがクロードさんみたいにやってみるって」

「ああ、なるほど。それで口の中に腕突っ込んじゃったのね」
 アマリージョが興奮して楽しそうに話していたが、オチが読めたのでちょっと言ってみた。

『いえ、違います』
 お前と一緒にするな、言わんばかりのヒカリ。

「それがビックリですよ。なんと手が飛んでいったんです! びゅーんって。それで胸の辺りに当たったら、腕がドリルの形になってて、回転しながらどんどん食い込んでいっちゃって、急に止まったと思ったら中で〝ボンっ〟て・・・」

「ぼん・・・って?」

「ボンっですよ、ボーン!! 身体の中で何かが爆発したかと思ったら、細くて長い針が身体の内側から何百本も飛び出してました」

「それは酷い。でも凄いな・・・どういう魔法なの?」

『魔法ですが・・・イメージは、やはりロケットパンチです。腕の中に空洞を作り、空気を圧縮して手首から先を飛ばしました。飛ばす同時に手首を形状変化させてドリル型に。回転を加えて敵の体内に侵入後、手首に仕込んでおいた魔方陣から、高圧縮した砂の細い針を360°全方位に撃ち込みました」

「聞いてるだけでムズムズしてきた」

『ですが、やはり手元を離れて魔法を発動するには、相当量の魔素が必要でして、全体の8割近くを使ってしまいました。それに針の材料に腕を使用しましたので、同時に腕もなくなってしまいました。』

「そんなに慌てなくても、時間かければヒカリなら倒せたんじゃないの?」

『倒せるとは思いましたが、玄人クロード達が動けなくなるのが分かってましたから。それに、教会の騎士団も到着寸前だったもので。むやみに戦っている姿を見られたくはなかったもので、少し早計でした』

「全然・・・さすがはヒカリ。完璧じゃん」
「そうですよ。全員無事で、ロザリーさんも戻りました。これ以上はない結果ですよ」

『お二人ともありがとうございます』

 俺たちは、それからしばらく話をした後、ギルドに向かうことになった。
 ルージュは、昼前には勝手にギルドに行くと言っていたそうで、3人でそのまま向かった。
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