光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第4章 光と「ブルクハント王国の誘拐犯」

102話 捜索

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 全員が黙ったまま、ヒカリが書き上げていく地図を見ている。
 そして、3分ほどが経過した時、街の地図が完成した。

「おっ 出来上がったのか? ・・・凄いな・・・しかも恐ろしいほど正確だ。おチビちゃんは、ひょっとしてギフト持ちなのか?」
 モンローが地図を手に取り、眺めながらヒカリに聞いた。

『そのギフトというのは、なんでしょうか?』
 珍しくヒカリも知らない単語が出てきた。

「知らないのか? ギフトってのは、言わば稀にある特殊能力みたいなものだ。神様から贈り物だからギフト。まぁ、その肝心の神様がどこにいるかまでは、知らねーけどな。有名なところだと、教会の教皇とヴェール殿が使える封印魔法がそれだな。魔法じゃないところだと、飲まず食わずで生きられるとか、涙が宝石になるとか、空が飛べるとか。後は、屁が死ぬほど臭いとか、勘が鋭いとか、目が光るとか、顔から火が出るとか・・・」

『あっ・・・』
「あっ・・・それって」
「2人とも、それらしく、〝あっ〟とか言わないでよ。それに後半のラインナップおかしいし」
 ヒカリもアマリージョも、俺が顔から火を噴いたことは忘れていないようだった。

「まぁ、基本的に魔法が使えたらどうでもいいものばかりか、そうじゃなくても何の役に立たないものばかりだな。稀に凄いのがあるらしいが、噂ばかりで見たことは無い。おチビちゃんの場合、稀にある役立つギフトで、地図が書ける能力かと思っただけだ、すまない」
 モンローが膝に手を置き直して、気持ちよく頭を下げた。

『全然気にしませんから大丈夫です。でも私は違いますよ。地図は細かく街の情報を集めていますし、正確に速くものを書けるのは、私の技術の一つです』

「そうか・・・なら忘れてくれ。それで、その地図だが、この×印はなんだ?」
 モンローが地図を机に置き直し、地図上の×印を指さした

『これは、地下道への入り口です。先ほど言われた昔の抜け道ですね。街の中に合計68カ所見つかりました。下水の方はまだですが、抜け道の方はこれで全部です』

「おいおい・・・マジかよ。俺でも5カ所くらいしか、知らねーんだぞ」

『今68カ所、順番に中を調べていますので、お待ち下さい』
 ヒカリはそう言うと、今度は別の紙に通路をいくつも書き始めた。

 行き止まりの通路。
 北側の森まで通じている通路。
 下層と上層を結ぶ通路。
 下水へと続く通路。

 紙を新しいものに取り替えながら、次々に書き上げていく。
 初めて見るモンローは当然ながら、俺もアマリージョもその雰囲気に圧倒されて、何も言わずヒカリを見守る。

『あっ、これはブルットさんですね。下層の入り口、地図でいうとここにいます。こちらから入り、現在、魔物多数と戦闘中です。敵は400程度ですが、大丈夫でしょうか?』

「400? そんなことまで分かるのかよ。ブルットは・・・チームは何人で行ってるか分かるか?」

『人の反応は全部で5ですね』

「ブルットを入れて5人か。それなら大丈夫だ。それよりもここにいてなんで分かる? 反応を見る限り嘘をついているとも思えねぇ。いや、待てっ・・・もしかしてこのまま探りを入れれば、ロザリーの居場所も分かるのか?」

『はい。抜け道にどこかいるならば分かると思います』
 モンローの質問に、ヒカリが静かに答える。

「そうか・・・だが恐ろしいほどの索敵能力だな・・・俺でも探れるのは周囲500メートルくらいだぞ。それに400もの敵は判別がつかねぇ。俺なんざいつも1、2、3、いっぱいだからな」

『あ、やられました』
 ヒカリが突然、静かに呟いた。
「何!? ブルットか?」

『いえ、ブルットさんは問題ありません。やられたのは私の部下です』

「なんだお前、部下もいるのかよ」

『部下と言ってもネズミや虫ですけど』

「おぉっ! そうか・・・おチビちゃんはテイマーか! テイマーのギフト持ちじゃねーか! 始めて見たよ。噂には聞いていたが、こんなチビっ子のお嬢ちゃんがな・・・ん? お嬢ちゃんでいいんだよな?」

『はい女性のつもりです。それとテイマーが何だか分かりませんが、そういう事で納得して頂けるなら構いません。それよりも、もしかすると見つけたかも知れません。1カ所だけ、どうやっても偵察に入れない通路があります』

「どういうことだ?」
 モンローの顔から笑みが消え、真剣な顔に戻る。

『下層の入り口から入った、通路の1カ所がどうしても奥まで偵察できません。魔物はほかの通路と同じようですが、何故か統率された動きをしています。進入しようにも、ある地点を越える襲われてしまいます。これ以上は危険ですね。もし先に敵がいるならば、こちらが探っていることを悟られるかも知れません』

「よし、じゃあ行ってみるか」
 モンローが、散歩にでもいくような軽い感じで言う。

『あまりお薦めは出来ませんが、直接行かないことには、どうしようもありませんね』

「よし!じゃあ決まりだな。取りあえず場所だけ教えてくれねぇーか」
 どうやらモンローは一人で行くようだ。

「モンローさん、一人で行く気なんですか?」
「ここは、せめて全員で行きましょう。私も何かの役に立てるかも知れませんし」
 モンローの言葉に俺とアマリージョが反対する。

『そうですね。その方が良いと思います。もしもこの通路がハズレだった場合、モンローさん一人だとそれに気づかず、一人で彷徨うことにもなりますし』
 俺とアマリージョに続き、ヒカリも一人で行くことに反対する。

「確かにそうか・・・だが、さっきも言ったが通路全体で数千だぞ。ほとんどがネズミの類いだが、時折デカイのもいる。それに同時にやってくる数は少なくとも100匹単位、かなり気持ち悪いし、しばらく夢に出るぞ」
 モンローが今さらながら、こちらに迷惑をかけまいとしているのが手に取るように分かった。

『モンローさん。貴男は良い方ですね。さきほどから私の詳しい能力については聞かないですし、今も万が一に備えて一人で行こうとしている』

「そ、そんな事はないが・・・はっきり分かっているならまだしも、これはただの偵察だからな、全員で危険を負うことはないんだよ」

『ですが、ここが当たりなら応援は多い方が良いですし、今の現状だと、私たち以外に同行をお願いするにも、証拠が無い。ましてや他人に説明の出来ない私の能力が絡んでいる』

「あーもう、分かったよ。おめーらも一緒に来い。・・・いや、違うな、お前らに俺を同行させてくれ」

『ふふっ・・分かりました。では4人で行きましょうか』
 ヒカリが少し笑ったように思えた。

「先頭を歩くのは俺でいいからな・・・あと、あの元気なお嬢ちゃんはいいのか?」

『そんな遠くには行っていませんから、ロザリーさんの居場所が分かったら呼び戻します』

「そうか・・・どう連絡を取るかは知らねーが、もう多少のことじゃ驚かねーからな。好きにしてくれや」
 モンローはそう言うと、部屋の奥に飾られていた剣を手に取った。

 そして、俺とヒカリとアマリージョ、ギルドマスターのモンローの4人は、ヒカリが地図に示した下層の抜け穴の入り口に向かった。
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