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第4章 光と「ブルクハント王国の誘拐犯」
101話 犯人像
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邪神の名を聞き、驚きを隠せない俺たちをよそにモンローは、話を続けた。
「まぁ、まずは順を追って話すか。知っているかどうかは知らんが、邪神は、厄災がほかの厄災を喰らうことで生まれる最悪の化け物だ。そして、その厄災は、同じように眷属がほかの眷属を喰らうことで進化する。この冒険者ギルドは、元々商業ギルドの援助で作られ、商人達の護衛を主な仕事としていたが、今はそういう仕事のほかに、増えていく魔物を倒すことで、眷属が生まれづらい世の中を作るという隠された目的もある。それとは別に、クリチュート教会は、邪神や厄災が出た時に、それを殺すことで世界の平和を守っている。まあ、世界は魔物で溢れてはいるが、世界中の人間が邪神や厄災を生み出さないように協力をしているってわけだ」
『はい。眷属がほかの眷属を喰らうとは知りませんでしたが、クリチュート教会のことはなんとなく分かります。ヴェールからも聞きましたので』
俺も厄災や眷属の話は聞いたことがあるが、それぞれが喰い合っていると初耳だった。
ヒカリが知らないなら当たり前だが、アマリージョもそれは初耳だったようで、眉をひそめながら聞いていた。
「世界はみんなが協力して守る。これは人間、亜人、魔族、この世界に住む者の常識だ。だが、ここ数年、殺しても殺しても湧いてくる魔物は、人間が今後進化するべき姿ではないか、という考えを持った人間が現われた。彼らは、魔物を崇拝し、意思疎通が出来る魔物と協力し、人間を喰らったりするらしい。そして、その考えが最も浸透している国が、隣のインペーラ帝国だ。だから帝国では人間が魔物の奴隷となるケースも珍しくもないし、魔物のエサとして人間が提供されたりするらしい」
『では、今回の誘拐事件はインペーラ帝国の仕業ということですね?』
「誘拐された人間は全員、血を抜かれていたからな。俺も、当初は血液を好む魔物がいて、そいつがエサ欲しさに王都で誘拐をしているのかと思ったよ」
『違うのですか?』
「絶対違うかと言われると自信はない。だが、あの国の奴らは、魔物と人間の垣根を取り払い、交わることで、新たな種を生み出し、世界を支配しようとしている。間違って邪神を生み出してしまう可能性は捨てきれないが、わざわざ呼び出そうとはしていないのは確かだな」
『そう言い切れる根拠はあるのでしょうか?』
「だってな・・・今、帝国はこの国対して戦争を仕掛けようとしているんだぞ。邪神が生み出せるなら戦争する意味がないだろ。全員おっ死んじまうんだからな。それに、元々誘拐事件はこの国の王都で始まったんだ。それが帝国との戦争になるかも知れないと軍が増強され、警備が厳しくなると、誘拐犯はあっさりハンク市に移動して活動を再開した」
『確かにそれはおかしいですね。戦争のための陽動なら王都で誘拐を続ければいい。ハンク市に移動しても誘拐を続けられるなら邪神が復活できるので、戦争は仕掛けなくていい。そもそも、血液が儀式に必要であれば、食糧となる人間を使えば良い話ですし。まあ、あくまでも帝国が一枚岩で、本当に邪神が復活できる儀式があればの話ですが』
「お、おチビちゃんは優秀だな。頭の回転が速くて助かる。まあ、俺も誘拐犯がハンク市に来たときに疑問に思ってな。結局、同じ結論に達したって訳だ」
『では誘拐犯の手掛かりは、今は本当に何もないのですね?』
「それでお前達を、この部屋に呼んだんだ」
「え? 犯人俺たちじゃないですよ!」
モンローの纏う空気感が変わったので、俺は焦ってヒカリとの会話に割り込んだ。
「わははははっ! そう構えるな。そんなこと分かってるさ。今言いたいのは、元々、誘拐犯が現われたとき、最初に帝国を疑ったのはクリチュート教会だってことだ。筋も通るし皆が納得した。今でもそう思っている奴も多い。だが、さっき話した通り疑問が俺の中で生まれた。それで、もしかすると誘拐犯は帝国とは関係ないのではないか、と王に進言をして再調査をお願いしたんだよ」
『王にですか? 話はそこまで大きいことだったんですね』
「あぁ、誘拐犯は王都で起こった未解決事件だったからな。それに今となっては邪神に繋がる事件だ。もうこの国だけでなく、世界中が注目している事件の一つだ。それはいいとして問題はこれだ・・・俺が進言をした2日後、クリチュート教会がこの報告書を王に提出した」
モンローはそう言うと、俺たちが座る目の前の机に、5センチほどの厚みがある書類の束を無造作に投げた。
机の上に書類が少し散乱する。
『ちょっと失礼します』
ヒカリはそう言うと書類を無造作に手に取り、パラパラとめくった。
めくり終わるとその束をページ毎に並べていき、綺麗に整頓出来た状態に戻してから、机に置き直した。
『モンローさんが、言わんとしている事が分かりました』
「ん・・? なんだ? もしかして今見ただけで内容を把握したのか?」
『はい。誘拐が始まった当初は、クリチュート教会の見解では、【帝国の誰かが食糧のために誘拐を始め、帝国は王国側がそれで混乱するならと誘拐犯を黙認している】とあります。ですが、モンローさんが王に進言した途端、儀式の詳しい内容にまで触れた上で、【邪神を復活させるための儀式を行う者がいる】可能性について言及しています。当初、帝国を疑っている時には、儀式についての記述はなく、進言して2日でここまで詳しく触れる。これは明らかに最初から知っていて隠していたが、進言により隠すのが難しくなりそうなので、教えても問題ないところまで、一気に情報を開示した。そんな感じではないでしょうか』
「おチビちゃん、すげぇな。多少変わってる奴らだと思ったが・・・何者だ、お前らは?」
『ただの冒険者ですよ。昨日登録してくれたじゃないですか?』
「いや、そういう事じゃなくて・・・」
『それに、報告書では単独犯を臭わせていますが、おそらく犯人は、複数人、組織だった集団でしょうね。儀式については気づきながら隠し、間違った犯人像を示す。これはクリチュート教会が黒幕、いや、少なくとも内部に事情を知るものがいる可能性があると思います』
「俺も同じ事を思ったよ」
『モンローさんも教会の内部に、犯人か協力者がいると・・・そう考えているのでしょうか?』
「そこまでは思いたくはない。それに今は騎士団副長のテスターの隊が、この邪神復活の儀式を行う奴らを追っていてな。その追い方を見たら分かるが、教会はかなり本気だぞ。あの遊び人のテスターでさえ、昼夜問わず働いているしな」
「ここでテスターかよ・・・」
『玄人、今は・・・』
「お前らテスターを知ってるのか? まあいい。とにかくその教会からしたら、真逆のことをやろうとしてる連中だ。そんな事を考える奴が、この世界にいること自体、許せないのだろうな。そう考えれば、最初の調査で儀式のことを隠していたのも、分からないでもないしな」
『確かにそうですね・・・ですが、教会の内部とまではいかなくても、それに近しい人間、もしくは貴族のようなある程度の権力を持った人物が関与しているのは間違いないと思います。誘拐の手際、監禁場所や儀式を行う場所の提供。それが王都とハンク市の両方で犯行が可能で。これはある程度、資金的にも余裕がないと難しいと思います』
「そうだな・・・おれは貴族ではないかと睨んでいる。そこそこの貴族なら、今言った条件は全てクリア出来るからな。それに貴族ならば、教会も簡単に手出しが出来ない。なんとなく口を濁すのも頷けるってもんだ」
「すいません。詳細は後でヒカリに聞くとして、一つ疑問が?」
大体の背景が分かってきたので、俺も思い切って質問することにした。
「なんだ?」
「魔物が人間の進化の先だとしても、邪神が復活したら世界は滅ぶんですよね。世界中の人間はおろか、魔物も殺されてしまうのではないですか?」
「あ、私もそれ思いました。そうですよね。だとすると、その誘拐犯の組織の人は、自分たちも死ぬのが分かっていて邪神を復活させるのでしょうか?」
アマリージョも俺と同じ事が気になっていたようだった。
『その辺りは報告書にも書かれていませんでしたね。しかし、それはおそらくですが、自然に発生した邪神は世界を滅ぼす存在でも、なんらかの方法で復活させた邪神は、呼び出した者がある程度コントロール出来るという可能性を示しています』
モンローの代わりにヒカリが説明をしてくれた。
「おチビちゃん、たぶん当たりだ。俺もそう考えている。それならば、わざわざリスクを犯してまで誘拐や殺人をする意味も出てくるって話だからな。それに、もしそうであれば、教会の関与もそうだが、帝国と内通している貴族が犯人という可能性も残る」
『そうですね。黒幕までは分かりませんが、そうなると誘拐犯はやはり【儀式を行う者たち】でまず間違いないでしょう。だとすると儀式が行われる日までにロザリーは殺されてしまう。つまり、次の二重月の日、つまりロザリーは長くても後3日の命・・・ということに』
「それも希望的観測だな。血液が何日ストック出来るかはわからんが、前日でもいいなら後2日ってことだからな」
『だいたいの事情は把握しました。それでギルドの偵察の方は?』
「さっき戻った気配がしたから、隣の部屋にいるだろうよ。おい! 入っていいぞ!」
モンローが大声でドアに向かって叫ぶと、一人の男性が入ってきた。
『あなたは昨日の・・・』
そこには、昨日商業ギルドで、買い取り作業をしてくれた上司の男が立っていた。
「おお、ギルマスとの面会はエンハンブレの方々でしたか。改めましてブルットと申します。昨日はありがとうございました」
「ブルットが来たということは全員戻ったのか。で、どうだった?」
「それが、ダメでした。空き家から、商店の倉庫まで、全て探しましたが・・・。ただ門番によれば、昨晩から街から外へ出た者はおらず、朝からは出入りを取り締まっているとの事なので・・・」
「まだ、街の中にいるかも知れないということか。そうか。人探しは専門じゃないのに悪かったな。お前のチームにもお礼を言っておいてくれ」
「分かりました。ですが私は本日このまま休みを頂き、チームと引き続き捜索に出たいと思います。残りはもうあそこしかありませんので・・・」
「・・・そうか、わかったが、あまり無理はするなよ」
ブルットは無言で頷くと、こちらに一礼して足早に外へ出て行った。
「・・・・しかし、手がかりなしか、いよいよ困ったな」
モンローが深いため息をつきながら、頭を抱える。
『モンローさん。質問をよろしいですか? 今、報告では家や倉庫などを調べたと言っていましたが、他には無いのですか? 最後に、まだ心当たりがありそうな感じでしたが・・・』
「あーあれは、中空部と地下のことだ。中空部は上層と中層の下の部分だ。倉庫がいくつもあるが、中には軍事施設もあってな。万が一入れても定期的に見回りがいる。とても監禁したり、儀式をやったりは出来ないだろう」
『すると残りは地下ですか?』
「ああ・・・下水だ。それと都市が襲われた時に備えて昔に作った抜け道だ。中には数日住めるような部屋があったり、たしかに隠れるには適しているかも知れないが、魔物の数が尋常じゃないぞ。一匹ずつは弱くても、数が多い。全部合わせたら数千はいる。そんな中で血を抜くような儀式を行えば、血の臭いに誘われて、あっという間に数百匹の魔物が集まるからな・・・可能性としては除外してた」
『ですが、おそらくそこが一番怪しいですね』
「そうだな。だが、どうしたものか・・・下水はともかく、抜け道は基本、入り口が見つからないようになっている。あるがない。それがこの街の抜け道なんだよ」
『いえ、充分です。ではすぐに調査を開始しますので、このままこの部屋を使わせてもらってよろしいですか?』
ヒカリはそう言ってから、【手の収納】から紙とペンを取り出すと、白紙の紙に街の地図を書き出した。
地図を書きながら、所々に×印を付けていく。
「おい! なんだよそれ! 地図か!? この町の地図だな・・・こりゃ驚きだ」
『地図の類いは戦争で利用されるため作らないと学びましたので、自分で作成しています。今回はモンローさんにもご確認頂きたくて、紙に写しています』
「確認? ってことは、お前らはいつも地図を見てるってことかよ。長年、この業界で生きてるが・・・いや、能力は聞かないのが礼儀だな・・・だが、こりゃあ、凄いな」
モンローはその後も、驚いた表情のまま、ヒカリが書き上げていく地図を瞬きもせずに見ていた。
「まぁ、まずは順を追って話すか。知っているかどうかは知らんが、邪神は、厄災がほかの厄災を喰らうことで生まれる最悪の化け物だ。そして、その厄災は、同じように眷属がほかの眷属を喰らうことで進化する。この冒険者ギルドは、元々商業ギルドの援助で作られ、商人達の護衛を主な仕事としていたが、今はそういう仕事のほかに、増えていく魔物を倒すことで、眷属が生まれづらい世の中を作るという隠された目的もある。それとは別に、クリチュート教会は、邪神や厄災が出た時に、それを殺すことで世界の平和を守っている。まあ、世界は魔物で溢れてはいるが、世界中の人間が邪神や厄災を生み出さないように協力をしているってわけだ」
『はい。眷属がほかの眷属を喰らうとは知りませんでしたが、クリチュート教会のことはなんとなく分かります。ヴェールからも聞きましたので』
俺も厄災や眷属の話は聞いたことがあるが、それぞれが喰い合っていると初耳だった。
ヒカリが知らないなら当たり前だが、アマリージョもそれは初耳だったようで、眉をひそめながら聞いていた。
「世界はみんなが協力して守る。これは人間、亜人、魔族、この世界に住む者の常識だ。だが、ここ数年、殺しても殺しても湧いてくる魔物は、人間が今後進化するべき姿ではないか、という考えを持った人間が現われた。彼らは、魔物を崇拝し、意思疎通が出来る魔物と協力し、人間を喰らったりするらしい。そして、その考えが最も浸透している国が、隣のインペーラ帝国だ。だから帝国では人間が魔物の奴隷となるケースも珍しくもないし、魔物のエサとして人間が提供されたりするらしい」
『では、今回の誘拐事件はインペーラ帝国の仕業ということですね?』
「誘拐された人間は全員、血を抜かれていたからな。俺も、当初は血液を好む魔物がいて、そいつがエサ欲しさに王都で誘拐をしているのかと思ったよ」
『違うのですか?』
「絶対違うかと言われると自信はない。だが、あの国の奴らは、魔物と人間の垣根を取り払い、交わることで、新たな種を生み出し、世界を支配しようとしている。間違って邪神を生み出してしまう可能性は捨てきれないが、わざわざ呼び出そうとはしていないのは確かだな」
『そう言い切れる根拠はあるのでしょうか?』
「だってな・・・今、帝国はこの国対して戦争を仕掛けようとしているんだぞ。邪神が生み出せるなら戦争する意味がないだろ。全員おっ死んじまうんだからな。それに、元々誘拐事件はこの国の王都で始まったんだ。それが帝国との戦争になるかも知れないと軍が増強され、警備が厳しくなると、誘拐犯はあっさりハンク市に移動して活動を再開した」
『確かにそれはおかしいですね。戦争のための陽動なら王都で誘拐を続ければいい。ハンク市に移動しても誘拐を続けられるなら邪神が復活できるので、戦争は仕掛けなくていい。そもそも、血液が儀式に必要であれば、食糧となる人間を使えば良い話ですし。まあ、あくまでも帝国が一枚岩で、本当に邪神が復活できる儀式があればの話ですが』
「お、おチビちゃんは優秀だな。頭の回転が速くて助かる。まあ、俺も誘拐犯がハンク市に来たときに疑問に思ってな。結局、同じ結論に達したって訳だ」
『では誘拐犯の手掛かりは、今は本当に何もないのですね?』
「それでお前達を、この部屋に呼んだんだ」
「え? 犯人俺たちじゃないですよ!」
モンローの纏う空気感が変わったので、俺は焦ってヒカリとの会話に割り込んだ。
「わははははっ! そう構えるな。そんなこと分かってるさ。今言いたいのは、元々、誘拐犯が現われたとき、最初に帝国を疑ったのはクリチュート教会だってことだ。筋も通るし皆が納得した。今でもそう思っている奴も多い。だが、さっき話した通り疑問が俺の中で生まれた。それで、もしかすると誘拐犯は帝国とは関係ないのではないか、と王に進言をして再調査をお願いしたんだよ」
『王にですか? 話はそこまで大きいことだったんですね』
「あぁ、誘拐犯は王都で起こった未解決事件だったからな。それに今となっては邪神に繋がる事件だ。もうこの国だけでなく、世界中が注目している事件の一つだ。それはいいとして問題はこれだ・・・俺が進言をした2日後、クリチュート教会がこの報告書を王に提出した」
モンローはそう言うと、俺たちが座る目の前の机に、5センチほどの厚みがある書類の束を無造作に投げた。
机の上に書類が少し散乱する。
『ちょっと失礼します』
ヒカリはそう言うと書類を無造作に手に取り、パラパラとめくった。
めくり終わるとその束をページ毎に並べていき、綺麗に整頓出来た状態に戻してから、机に置き直した。
『モンローさんが、言わんとしている事が分かりました』
「ん・・? なんだ? もしかして今見ただけで内容を把握したのか?」
『はい。誘拐が始まった当初は、クリチュート教会の見解では、【帝国の誰かが食糧のために誘拐を始め、帝国は王国側がそれで混乱するならと誘拐犯を黙認している】とあります。ですが、モンローさんが王に進言した途端、儀式の詳しい内容にまで触れた上で、【邪神を復活させるための儀式を行う者がいる】可能性について言及しています。当初、帝国を疑っている時には、儀式についての記述はなく、進言して2日でここまで詳しく触れる。これは明らかに最初から知っていて隠していたが、進言により隠すのが難しくなりそうなので、教えても問題ないところまで、一気に情報を開示した。そんな感じではないでしょうか』
「おチビちゃん、すげぇな。多少変わってる奴らだと思ったが・・・何者だ、お前らは?」
『ただの冒険者ですよ。昨日登録してくれたじゃないですか?』
「いや、そういう事じゃなくて・・・」
『それに、報告書では単独犯を臭わせていますが、おそらく犯人は、複数人、組織だった集団でしょうね。儀式については気づきながら隠し、間違った犯人像を示す。これはクリチュート教会が黒幕、いや、少なくとも内部に事情を知るものがいる可能性があると思います』
「俺も同じ事を思ったよ」
『モンローさんも教会の内部に、犯人か協力者がいると・・・そう考えているのでしょうか?』
「そこまでは思いたくはない。それに今は騎士団副長のテスターの隊が、この邪神復活の儀式を行う奴らを追っていてな。その追い方を見たら分かるが、教会はかなり本気だぞ。あの遊び人のテスターでさえ、昼夜問わず働いているしな」
「ここでテスターかよ・・・」
『玄人、今は・・・』
「お前らテスターを知ってるのか? まあいい。とにかくその教会からしたら、真逆のことをやろうとしてる連中だ。そんな事を考える奴が、この世界にいること自体、許せないのだろうな。そう考えれば、最初の調査で儀式のことを隠していたのも、分からないでもないしな」
『確かにそうですね・・・ですが、教会の内部とまではいかなくても、それに近しい人間、もしくは貴族のようなある程度の権力を持った人物が関与しているのは間違いないと思います。誘拐の手際、監禁場所や儀式を行う場所の提供。それが王都とハンク市の両方で犯行が可能で。これはある程度、資金的にも余裕がないと難しいと思います』
「そうだな・・・おれは貴族ではないかと睨んでいる。そこそこの貴族なら、今言った条件は全てクリア出来るからな。それに貴族ならば、教会も簡単に手出しが出来ない。なんとなく口を濁すのも頷けるってもんだ」
「すいません。詳細は後でヒカリに聞くとして、一つ疑問が?」
大体の背景が分かってきたので、俺も思い切って質問することにした。
「なんだ?」
「魔物が人間の進化の先だとしても、邪神が復活したら世界は滅ぶんですよね。世界中の人間はおろか、魔物も殺されてしまうのではないですか?」
「あ、私もそれ思いました。そうですよね。だとすると、その誘拐犯の組織の人は、自分たちも死ぬのが分かっていて邪神を復活させるのでしょうか?」
アマリージョも俺と同じ事が気になっていたようだった。
『その辺りは報告書にも書かれていませんでしたね。しかし、それはおそらくですが、自然に発生した邪神は世界を滅ぼす存在でも、なんらかの方法で復活させた邪神は、呼び出した者がある程度コントロール出来るという可能性を示しています』
モンローの代わりにヒカリが説明をしてくれた。
「おチビちゃん、たぶん当たりだ。俺もそう考えている。それならば、わざわざリスクを犯してまで誘拐や殺人をする意味も出てくるって話だからな。それに、もしそうであれば、教会の関与もそうだが、帝国と内通している貴族が犯人という可能性も残る」
『そうですね。黒幕までは分かりませんが、そうなると誘拐犯はやはり【儀式を行う者たち】でまず間違いないでしょう。だとすると儀式が行われる日までにロザリーは殺されてしまう。つまり、次の二重月の日、つまりロザリーは長くても後3日の命・・・ということに』
「それも希望的観測だな。血液が何日ストック出来るかはわからんが、前日でもいいなら後2日ってことだからな」
『だいたいの事情は把握しました。それでギルドの偵察の方は?』
「さっき戻った気配がしたから、隣の部屋にいるだろうよ。おい! 入っていいぞ!」
モンローが大声でドアに向かって叫ぶと、一人の男性が入ってきた。
『あなたは昨日の・・・』
そこには、昨日商業ギルドで、買い取り作業をしてくれた上司の男が立っていた。
「おお、ギルマスとの面会はエンハンブレの方々でしたか。改めましてブルットと申します。昨日はありがとうございました」
「ブルットが来たということは全員戻ったのか。で、どうだった?」
「それが、ダメでした。空き家から、商店の倉庫まで、全て探しましたが・・・。ただ門番によれば、昨晩から街から外へ出た者はおらず、朝からは出入りを取り締まっているとの事なので・・・」
「まだ、街の中にいるかも知れないということか。そうか。人探しは専門じゃないのに悪かったな。お前のチームにもお礼を言っておいてくれ」
「分かりました。ですが私は本日このまま休みを頂き、チームと引き続き捜索に出たいと思います。残りはもうあそこしかありませんので・・・」
「・・・そうか、わかったが、あまり無理はするなよ」
ブルットは無言で頷くと、こちらに一礼して足早に外へ出て行った。
「・・・・しかし、手がかりなしか、いよいよ困ったな」
モンローが深いため息をつきながら、頭を抱える。
『モンローさん。質問をよろしいですか? 今、報告では家や倉庫などを調べたと言っていましたが、他には無いのですか? 最後に、まだ心当たりがありそうな感じでしたが・・・』
「あーあれは、中空部と地下のことだ。中空部は上層と中層の下の部分だ。倉庫がいくつもあるが、中には軍事施設もあってな。万が一入れても定期的に見回りがいる。とても監禁したり、儀式をやったりは出来ないだろう」
『すると残りは地下ですか?』
「ああ・・・下水だ。それと都市が襲われた時に備えて昔に作った抜け道だ。中には数日住めるような部屋があったり、たしかに隠れるには適しているかも知れないが、魔物の数が尋常じゃないぞ。一匹ずつは弱くても、数が多い。全部合わせたら数千はいる。そんな中で血を抜くような儀式を行えば、血の臭いに誘われて、あっという間に数百匹の魔物が集まるからな・・・可能性としては除外してた」
『ですが、おそらくそこが一番怪しいですね』
「そうだな。だが、どうしたものか・・・下水はともかく、抜け道は基本、入り口が見つからないようになっている。あるがない。それがこの街の抜け道なんだよ」
『いえ、充分です。ではすぐに調査を開始しますので、このままこの部屋を使わせてもらってよろしいですか?』
ヒカリはそう言ってから、【手の収納】から紙とペンを取り出すと、白紙の紙に街の地図を書き出した。
地図を書きながら、所々に×印を付けていく。
「おい! なんだよそれ! 地図か!? この町の地図だな・・・こりゃ驚きだ」
『地図の類いは戦争で利用されるため作らないと学びましたので、自分で作成しています。今回はモンローさんにもご確認頂きたくて、紙に写しています』
「確認? ってことは、お前らはいつも地図を見てるってことかよ。長年、この業界で生きてるが・・・いや、能力は聞かないのが礼儀だな・・・だが、こりゃあ、凄いな」
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