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第4章 光と「ブルクハント王国の誘拐犯」
93話 城塞都市・ハンク
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ウール村を出て5日目の昼。
俺たちは城塞都市・ハンクの北門の前に到着した。
到着までにこんなにも日数がかかった理由は、野営の訓練をしたいという事もあったが、転移してきたマンションを最後に見ておきたいという、自分のワガママもあったからだ。
そして、そのマンションはと言えば、現在は王都の兵士に管理され、数百人の労働者が押し寄せるゴールドラッシュ状態で、マンションも約半分がすでに解体されていた。
マンションからは、食料やパソコンなどの主だったものは先に持ち帰っているし、たいした物は残ってはいないはずだったが、この世界の人にとっては異世界のものは何でも貴重なようで、労働者は全員、目の色を変えて働いていた。
よっぽど給料が良いのだろうか・・・
俺自身としては遠回りをしたお陰で、少し気持ちの整理もついたのだが、ルージュとアマリージョ2人は、早く風呂に入りたいと愚痴をこぼしていた。
♣
「何か身分を証明するものはお持ちですか?」
馬車を引いたまま、北門の入口まで近づいていくと門番の一人が近づき話しかけてきた。
「身分証? 馬車を引くのに免許証とかいるの? 違うか・・・なんだろ?」
この世界では何が身分証になるのか聞いていなかったので、馬車の中にいるルージュとアマリージョに助けを求めたが、2人も首をかしげるだけでよく分かっていないようだった。
「申し訳ありません。普段、出入りは自由なのですが、このところ市内で事件が頻発しておりまして。そのため警備が厳重になっているのです。商会に所属でしたら商会札を、ギルド所属でしたらギルド証で確認が出来ますので」
門番は、丁寧に説明してくれたが、やはり何も無いことには変わりない。
「すいません。俺たちは、ウール村から来た者で・・・それで冒険者になろうとここまで来たのですが・・・身分証が無いとやっぱり駄目です・・・よね?」
俺がしどろもどろになりながら説明をする。
「あ、そうでしたか。それならば大丈夫です。冒険者ギルドに登録をした後に、身分確認を兵士の詰所でして貰えれば問題ありませんので。それと、今は全員のお名前をこちらに記入して頂ければ大丈夫ですから」
門番がそう言いながら分厚い台帳らしきものと、ペンを持ってきたので、俺が全員の名前を台帳に記入した。
門番の話だと、事件とは誘拐事件の事らしく、先月までは王都で、今月からはこのハンク市で起こっているとのことだった。
そのため、出入りの名前を記録して、犯人逮捕はもちろんのこと、被害者が出た場合に早急に探せるようにと言うことらしい。
「はい。ありがとうございます。クロードさん・・・と、あと3人ですね。馬車を停める場合は門を入って左手に空き地がありますから、そちらにお願いします。それと先程も言いましたが、誘拐事件が頻発していますので、街全体で警戒はしているといえ、充分お気をつけ下さい」
門番はそう言うと、馬車を中に通すように後ろの兵士達に指示を出した。
♣
ブルクハント王国・第二の都市「城塞都市ハンク」。
元々は、東方からの備えとして作られた出城であったが、人が集まるに連れ発展し、今では王都に次ぐ第ニの都市として栄えていた。
周囲を囲む城壁は厚さ約5メートル、高さ約10メートル。
かなり頑強に作られた城壁の上には、通路が設けられており、一定間隔で見張り台も設置されていた。
俺は門番の指示に従い馬車を引いて門の中に入る。
薄暗い城壁の下を抜け、街の中へ入る。
街の中心だろうか、正面には高い建物がそびえ立っている。
見上げると、降り注ぐ太陽が眩しい。
「おぉ! ヒカリ、ルージュ、アマリ。見てよ。凄いよ」
興奮しながら場所の中にいた3人に話しかける。
よく見れば、どこかで見たことがあるような中世ヨーロッパ風の建物。
中心地へ向かうほど、土地が高くなっているようで、建物が高く見えた。
ヒカリ、ルージュ、アマリージョの三人も馬車から降りて周囲を見渡した後、中心にある一際大きな建造物に目を奪われていた。
「あの中心の建物は領主様のお城ですよ。その横にあるのが教会になります」
突然、後ろから声がしたので、振り返るとそこには、先程の門番が立っていた。
「すいません。ちょうど交代の時間で詰所まで戻るところだったもので。4人とも動かないまま、立ちすくんでいたもので・・・思わず声をかけてしまいました」
「あ、いや思っていたよりも立派な建物があったもので・・・」
そう返してはみたものの、田舎者が都会にきたみたいで恥ずかしかった。
「ここは城塞都市で、敵に侵入されても容易に攻め込まれないよう、街の中を三層に分けているのです。今いる下層から、中層に入ると土地が5メートルほど高く、その上の上層だとさらに5メートルほど高くなります。下層からこうして上層を眺めると、建物が高く見えて圧倒されるのも分かります。王都も似たような作りで、私も見慣れてはいるのですが、こちらの街の建物のほうが少し無骨な感じで、私も初めての時は見惚れてしまいました」
門番はそう言いながら、照れくさそうに笑う。
「たしかに・・・建物も頑丈そうだし、結構好きかも・・・あ、なんか、ありがとうございます。いろいろと丁寧に・・・えーと」
「あ、ショーンです。ショーン・ロナード。貴族の生まれですが、分家の三男でして。今は放り出されて、この街で兵士をしています」
「放り出さ・・・? 貴族の方も大変ですね・・・」
「三男くらいなると、だいたい、どこの家も同じですからね。貴族とは名ばかりで・・・あ、いけない! そろそろ行かなければ。馬車を停めるなら、あちらで手続き出来ますので。それでは、また機会があれば・・・」
ショーンはそう言い残すと、足早に詰所がある方へ走って行った。
「貴族ってさぁ、テスターしか知らなかったけど、偉ぶらない貴族もいるんだね・・・」
「でもあの人。クロードと話をしながら、アマリのことばかりチラチラ見てたわよ」
俺が感心したように呟くと、ルージュが少し不快そうに返してきた。
「え!? そうでしたか? 全然気付きませんでしたけど・・・」
アマリージョが少し驚いた様子で答える。
「アマリは自分に興味がないものは、意外と鈍かったりするのよね」
――鈍いのはルージュの方だと思うが・・・言わないでおこう
「まあ、タイプではないですし、今は街並みを眺めている方がいいですね」
アマリージョは興味がないものには、本当に興味がないようだった。
「それで? まず何からどうしようか?」
話題も変えたくて俺から三人に質問をする。
『ではまず、馬車を収納しておきます』
ヒカリがそう言うと、馬車がヒカリの手の中に吸い込まれていった。
「何・・・今の?」
「!!?」
「!?」
馬車が吸い込まれたヒカリの手を見ながら3人で驚く。
『あ、収納の魔法陣ですよ。馬車と同じです。この身体を作るときに、ついでだったので、馬車を2台分くらい収納できるようにしておきました』
「凄いな・・・もうなんでもアリだな。これなら、もうスマホに荷物入れなくてもいいじゃない?」
ヒカリの能力に感心しながらヒカリの手を握る。
『運ぶのは問題ありませんね。ただ、容量を使えるようにしてしまった分、取り出すのに30秒ほど時間がかかってしまうので、スマホの収納ほど利便性は高くないですよ』
「そうなの? じゃあ戦闘中に取り出すとか、なかなか難しいか」
『そうですね、すぐ使うものなどは、なるべくスマホに入れた方が良いと思います』
「そうか。じゃあ大きいもの専用って感じか・・・それでもかなり便利だけど・・・」
ヒカリの収納の能力について、感心ついでに使い方を考える。
「ねえ、馬車も大丈夫なら、私はそろそろ食事にしたいわ」
「私はお風呂に入りたいです」
ルージュとアマリージョは、俺とヒカリの会話に飽きていたようだった。
「ごめん、ごめん。でもまずはお金の事あるし、情報も欲しいからまずはギルドから行こうよ」
俺は、ルージュとアマリージョをなだめながらギルドに行くことを提案する。
『そうですね。でも少しお待ちを。今ギルドの場所を探しておりますので』
「探す・・・ってどうやって?」
そう聞くと、ヒカリは無言のまま空を指差した。
ヒカリが指を指した方を、3人で見ると、1匹の鳥が不自然な飛び方をしているのが見えた。
『あれ、私の偵察用の鳥の魔物です。もう少しで街の地図が出来上がりますので、お待ち下さい』
「本当にヒカリって、何でもありになってきたわね。このまま行けば、そのうち世界でも征服できるんじゃないの」
ルージュが少し呆れた顔で、冗談っぽく笑いながら言う。
『8年ほどあれば出来ると思いますが、あまり気は進みません。それに・・・あ、地図が出来ました。取り敢えず建物と道、ギルドや宿屋、食事処など分かる範囲で色分けしてあります。今、スマホに送りましたので確認してください』
「お、結構大きいな、街」
目の中に表示された地図を見たが、一目で街が大きいことが分かった。
「ほんとね、あのお城の向こう側、更に大きいわよ」
「でも意外と、こちら側の方が重要な施設が多いですね」
ルージュとアマリージョはスマホの画面を見ながら確認する。
『おそらく、この街はこちら側ではなく、向こう側、南から敵が来ることを想定して作られたのでしょう。北側に大事な施設が多いようですから。それにお城の周りも南側の方がより攻めづらくなっています』
「地図一つでいろいろな分かるもんなんだね。それで・・・冒険者ギルドはどこ?」
街が広すぎて、地図を見ても見つからなくて聞いた。
「こっち側だと中層? あっちの階段の先にあるわよ。向こう側だと下層ね。でも施設の大きさが向こう側の方が大きいわね」
ルージュは既に見つけていたようで教えてくれた。
ルージュのスマホを見せて貰い、地図で場所を確認する。
目の中に地図を表示する機能は、まるでゲーム画面を見ているようで、移動中に地図を確認し、自分の位置や敵の位置を把握するのは楽だったが、大きい地図から何かを探すには、別の表示方法が必要に思えた。
ヒカリに通信で相談すると、地図全体を目の前に大きく表示してくれた。
気になる箇所に注目すると地図が大きくなって見やすい仕様だ。
ご丁寧に地図の左側には、施設の名称が一覧表になっている。
さすがはヒカリ。仕事が早い。
通信でヒカリにお礼を言ってから、改めてギルドの場所を確認する。
「・・・あ、ほんとだ。これか。確かに南のギルドの方が、中層のギルドより3倍以上大きいし、隣の建物が商業ギルドになってるね」
ルージュの言う通り、南側のギルドはかなり大きい施設みたいだった。
『空から見る限り、人の出入りも向こう側の方が多いようなので、あちらの方まで回った方が情報も入りやすいかも知れませんね。ちょうど城壁沿いに屋台も多く出ていますから、壁沿いに屋台を見ながら南側に行くのはどうでしょうか?』
「さんせい~、ヒカリ、いい事言うじゃない。お腹もペコペコだし、私は何か食べながら行くわ」
そう言うとルージュは、屋台目掛けて走って行ってしまった。
「お金も少ないし、ギルドに着いたらまず素材を換金して、団長さんが言っていた報奨金が出ればいいんだけど。今日はとりあえず宿を探して・・・、でもしばらくここで暮らすなら、まずは拠点の家が欲しいか・・・とりあえずいろいろ聞ける場所があればいいんだけど・・・」
俺は走っていくルージュを見ながら、一人、ボソッと呟いた。
「あっ、拠点は私も欲しいです。やっぱりお風呂入りたいですし。お風呂付きの宿は高額でしょうし、もしかしたら貴族の方しか利用が出来ないかもしれませんし・・・」
アマリージョが俺の独り言が聞こえたようで、お風呂の件を念押ししてきた。
『それでは、今日はこのままギルドによって、一度宿を探してから全員で作戦会議を開きましょうか』
「あぁ、そんな感じで。それとやっぱりお金だよな・・・宿を借りるにしても、拠点の家を借りるにしても相場が全然分かんないからな・・・」
「そうですね。あっ姉さんに無駄遣いしないように言っておかないと・・・ほらっクロードさんも早く!! 早く、行きましょう!!」
アマリージョはそう言うと、俺とヒカリの手を取って、楽しそうに走り出した。
俺たちは城塞都市・ハンクの北門の前に到着した。
到着までにこんなにも日数がかかった理由は、野営の訓練をしたいという事もあったが、転移してきたマンションを最後に見ておきたいという、自分のワガママもあったからだ。
そして、そのマンションはと言えば、現在は王都の兵士に管理され、数百人の労働者が押し寄せるゴールドラッシュ状態で、マンションも約半分がすでに解体されていた。
マンションからは、食料やパソコンなどの主だったものは先に持ち帰っているし、たいした物は残ってはいないはずだったが、この世界の人にとっては異世界のものは何でも貴重なようで、労働者は全員、目の色を変えて働いていた。
よっぽど給料が良いのだろうか・・・
俺自身としては遠回りをしたお陰で、少し気持ちの整理もついたのだが、ルージュとアマリージョ2人は、早く風呂に入りたいと愚痴をこぼしていた。
♣
「何か身分を証明するものはお持ちですか?」
馬車を引いたまま、北門の入口まで近づいていくと門番の一人が近づき話しかけてきた。
「身分証? 馬車を引くのに免許証とかいるの? 違うか・・・なんだろ?」
この世界では何が身分証になるのか聞いていなかったので、馬車の中にいるルージュとアマリージョに助けを求めたが、2人も首をかしげるだけでよく分かっていないようだった。
「申し訳ありません。普段、出入りは自由なのですが、このところ市内で事件が頻発しておりまして。そのため警備が厳重になっているのです。商会に所属でしたら商会札を、ギルド所属でしたらギルド証で確認が出来ますので」
門番は、丁寧に説明してくれたが、やはり何も無いことには変わりない。
「すいません。俺たちは、ウール村から来た者で・・・それで冒険者になろうとここまで来たのですが・・・身分証が無いとやっぱり駄目です・・・よね?」
俺がしどろもどろになりながら説明をする。
「あ、そうでしたか。それならば大丈夫です。冒険者ギルドに登録をした後に、身分確認を兵士の詰所でして貰えれば問題ありませんので。それと、今は全員のお名前をこちらに記入して頂ければ大丈夫ですから」
門番がそう言いながら分厚い台帳らしきものと、ペンを持ってきたので、俺が全員の名前を台帳に記入した。
門番の話だと、事件とは誘拐事件の事らしく、先月までは王都で、今月からはこのハンク市で起こっているとのことだった。
そのため、出入りの名前を記録して、犯人逮捕はもちろんのこと、被害者が出た場合に早急に探せるようにと言うことらしい。
「はい。ありがとうございます。クロードさん・・・と、あと3人ですね。馬車を停める場合は門を入って左手に空き地がありますから、そちらにお願いします。それと先程も言いましたが、誘拐事件が頻発していますので、街全体で警戒はしているといえ、充分お気をつけ下さい」
門番はそう言うと、馬車を中に通すように後ろの兵士達に指示を出した。
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ブルクハント王国・第二の都市「城塞都市ハンク」。
元々は、東方からの備えとして作られた出城であったが、人が集まるに連れ発展し、今では王都に次ぐ第ニの都市として栄えていた。
周囲を囲む城壁は厚さ約5メートル、高さ約10メートル。
かなり頑強に作られた城壁の上には、通路が設けられており、一定間隔で見張り台も設置されていた。
俺は門番の指示に従い馬車を引いて門の中に入る。
薄暗い城壁の下を抜け、街の中へ入る。
街の中心だろうか、正面には高い建物がそびえ立っている。
見上げると、降り注ぐ太陽が眩しい。
「おぉ! ヒカリ、ルージュ、アマリ。見てよ。凄いよ」
興奮しながら場所の中にいた3人に話しかける。
よく見れば、どこかで見たことがあるような中世ヨーロッパ風の建物。
中心地へ向かうほど、土地が高くなっているようで、建物が高く見えた。
ヒカリ、ルージュ、アマリージョの三人も馬車から降りて周囲を見渡した後、中心にある一際大きな建造物に目を奪われていた。
「あの中心の建物は領主様のお城ですよ。その横にあるのが教会になります」
突然、後ろから声がしたので、振り返るとそこには、先程の門番が立っていた。
「すいません。ちょうど交代の時間で詰所まで戻るところだったもので。4人とも動かないまま、立ちすくんでいたもので・・・思わず声をかけてしまいました」
「あ、いや思っていたよりも立派な建物があったもので・・・」
そう返してはみたものの、田舎者が都会にきたみたいで恥ずかしかった。
「ここは城塞都市で、敵に侵入されても容易に攻め込まれないよう、街の中を三層に分けているのです。今いる下層から、中層に入ると土地が5メートルほど高く、その上の上層だとさらに5メートルほど高くなります。下層からこうして上層を眺めると、建物が高く見えて圧倒されるのも分かります。王都も似たような作りで、私も見慣れてはいるのですが、こちらの街の建物のほうが少し無骨な感じで、私も初めての時は見惚れてしまいました」
門番はそう言いながら、照れくさそうに笑う。
「たしかに・・・建物も頑丈そうだし、結構好きかも・・・あ、なんか、ありがとうございます。いろいろと丁寧に・・・えーと」
「あ、ショーンです。ショーン・ロナード。貴族の生まれですが、分家の三男でして。今は放り出されて、この街で兵士をしています」
「放り出さ・・・? 貴族の方も大変ですね・・・」
「三男くらいなると、だいたい、どこの家も同じですからね。貴族とは名ばかりで・・・あ、いけない! そろそろ行かなければ。馬車を停めるなら、あちらで手続き出来ますので。それでは、また機会があれば・・・」
ショーンはそう言い残すと、足早に詰所がある方へ走って行った。
「貴族ってさぁ、テスターしか知らなかったけど、偉ぶらない貴族もいるんだね・・・」
「でもあの人。クロードと話をしながら、アマリのことばかりチラチラ見てたわよ」
俺が感心したように呟くと、ルージュが少し不快そうに返してきた。
「え!? そうでしたか? 全然気付きませんでしたけど・・・」
アマリージョが少し驚いた様子で答える。
「アマリは自分に興味がないものは、意外と鈍かったりするのよね」
――鈍いのはルージュの方だと思うが・・・言わないでおこう
「まあ、タイプではないですし、今は街並みを眺めている方がいいですね」
アマリージョは興味がないものには、本当に興味がないようだった。
「それで? まず何からどうしようか?」
話題も変えたくて俺から三人に質問をする。
『ではまず、馬車を収納しておきます』
ヒカリがそう言うと、馬車がヒカリの手の中に吸い込まれていった。
「何・・・今の?」
「!!?」
「!?」
馬車が吸い込まれたヒカリの手を見ながら3人で驚く。
『あ、収納の魔法陣ですよ。馬車と同じです。この身体を作るときに、ついでだったので、馬車を2台分くらい収納できるようにしておきました』
「凄いな・・・もうなんでもアリだな。これなら、もうスマホに荷物入れなくてもいいじゃない?」
ヒカリの能力に感心しながらヒカリの手を握る。
『運ぶのは問題ありませんね。ただ、容量を使えるようにしてしまった分、取り出すのに30秒ほど時間がかかってしまうので、スマホの収納ほど利便性は高くないですよ』
「そうなの? じゃあ戦闘中に取り出すとか、なかなか難しいか」
『そうですね、すぐ使うものなどは、なるべくスマホに入れた方が良いと思います』
「そうか。じゃあ大きいもの専用って感じか・・・それでもかなり便利だけど・・・」
ヒカリの収納の能力について、感心ついでに使い方を考える。
「ねえ、馬車も大丈夫なら、私はそろそろ食事にしたいわ」
「私はお風呂に入りたいです」
ルージュとアマリージョは、俺とヒカリの会話に飽きていたようだった。
「ごめん、ごめん。でもまずはお金の事あるし、情報も欲しいからまずはギルドから行こうよ」
俺は、ルージュとアマリージョをなだめながらギルドに行くことを提案する。
『そうですね。でも少しお待ちを。今ギルドの場所を探しておりますので』
「探す・・・ってどうやって?」
そう聞くと、ヒカリは無言のまま空を指差した。
ヒカリが指を指した方を、3人で見ると、1匹の鳥が不自然な飛び方をしているのが見えた。
『あれ、私の偵察用の鳥の魔物です。もう少しで街の地図が出来上がりますので、お待ち下さい』
「本当にヒカリって、何でもありになってきたわね。このまま行けば、そのうち世界でも征服できるんじゃないの」
ルージュが少し呆れた顔で、冗談っぽく笑いながら言う。
『8年ほどあれば出来ると思いますが、あまり気は進みません。それに・・・あ、地図が出来ました。取り敢えず建物と道、ギルドや宿屋、食事処など分かる範囲で色分けしてあります。今、スマホに送りましたので確認してください』
「お、結構大きいな、街」
目の中に表示された地図を見たが、一目で街が大きいことが分かった。
「ほんとね、あのお城の向こう側、更に大きいわよ」
「でも意外と、こちら側の方が重要な施設が多いですね」
ルージュとアマリージョはスマホの画面を見ながら確認する。
『おそらく、この街はこちら側ではなく、向こう側、南から敵が来ることを想定して作られたのでしょう。北側に大事な施設が多いようですから。それにお城の周りも南側の方がより攻めづらくなっています』
「地図一つでいろいろな分かるもんなんだね。それで・・・冒険者ギルドはどこ?」
街が広すぎて、地図を見ても見つからなくて聞いた。
「こっち側だと中層? あっちの階段の先にあるわよ。向こう側だと下層ね。でも施設の大きさが向こう側の方が大きいわね」
ルージュは既に見つけていたようで教えてくれた。
ルージュのスマホを見せて貰い、地図で場所を確認する。
目の中に地図を表示する機能は、まるでゲーム画面を見ているようで、移動中に地図を確認し、自分の位置や敵の位置を把握するのは楽だったが、大きい地図から何かを探すには、別の表示方法が必要に思えた。
ヒカリに通信で相談すると、地図全体を目の前に大きく表示してくれた。
気になる箇所に注目すると地図が大きくなって見やすい仕様だ。
ご丁寧に地図の左側には、施設の名称が一覧表になっている。
さすがはヒカリ。仕事が早い。
通信でヒカリにお礼を言ってから、改めてギルドの場所を確認する。
「・・・あ、ほんとだ。これか。確かに南のギルドの方が、中層のギルドより3倍以上大きいし、隣の建物が商業ギルドになってるね」
ルージュの言う通り、南側のギルドはかなり大きい施設みたいだった。
『空から見る限り、人の出入りも向こう側の方が多いようなので、あちらの方まで回った方が情報も入りやすいかも知れませんね。ちょうど城壁沿いに屋台も多く出ていますから、壁沿いに屋台を見ながら南側に行くのはどうでしょうか?』
「さんせい~、ヒカリ、いい事言うじゃない。お腹もペコペコだし、私は何か食べながら行くわ」
そう言うとルージュは、屋台目掛けて走って行ってしまった。
「お金も少ないし、ギルドに着いたらまず素材を換金して、団長さんが言っていた報奨金が出ればいいんだけど。今日はとりあえず宿を探して・・・、でもしばらくここで暮らすなら、まずは拠点の家が欲しいか・・・とりあえずいろいろ聞ける場所があればいいんだけど・・・」
俺は走っていくルージュを見ながら、一人、ボソッと呟いた。
「あっ、拠点は私も欲しいです。やっぱりお風呂入りたいですし。お風呂付きの宿は高額でしょうし、もしかしたら貴族の方しか利用が出来ないかもしれませんし・・・」
アマリージョが俺の独り言が聞こえたようで、お風呂の件を念押ししてきた。
『それでは、今日はこのままギルドによって、一度宿を探してから全員で作戦会議を開きましょうか』
「あぁ、そんな感じで。それとやっぱりお金だよな・・・宿を借りるにしても、拠点の家を借りるにしても相場が全然分かんないからな・・・」
「そうですね。あっ姉さんに無駄遣いしないように言っておかないと・・・ほらっクロードさんも早く!! 早く、行きましょう!!」
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