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第3章 光と「クリチュート教会」

幕間-05 「バーナード司祭」

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「バーナード司祭様、ただいま戻りました」
 眷属の討伐を終え、ウール村からハンク市を経由して王都へと戻ったヴェールが、司祭の部屋を訪れた。

「おお、ヴェールよく戻った。身体は大丈夫か?」

「はい。おかげさまで、今回は大丈夫です」

「ん? 何かいい事でもあったのか? 雰囲気が少し変わったように見えるが・・・」

「いえ、何も。いつもと変わりません。ただ、友達が出来ました」

「友達? ・・・そうか、友達か。それは良かった。それならば体調が良く見えるのもそのせいだな」

「・・・かも知れません」

「その話はまた後で聞くとして、まずは運ばれて来た氷漬けの遺体、いやまだ生きているのか。私も見たが、まずはあれの話からだな。今はあれのせいで教会も王都も大騒ぎだよ」

「はい。私ではどうすることも出来ずにこちらまでお運びしましたが・・・やはり迷惑になってしまいましたか?」

「いや迷惑などではない。教会としては魔法の研究に役立つし、王都・・・というより主に貴族たちだな。氷漬けの渡り人を助ける事が出来れば、渡り人との太いパイプが出来るからな。それこそ一攫千金。そこに権力争いも絡んで大騒ぎだよ」

「そうですか・・・それで、司祭様はあの氷漬けになった方々はなんとか出来そうでしょうか?」

「いや、その事についてはいずれ教会から正式に発表があると思うが・・・無理だな」

「無理・・・ですか・・・」

「そうだな・・・今、分かっているのは、通常の魔法に呪いのようなものが一緒にかかっている・・・それくらいだな。あれを解呪出来るとしたら、北に住む魔族の姫様か、エルフくらいだろうな」

「魔族の姫様・・・私と同じ封印魔法が使えるという噂の・・・あとはエルフですか・・・」

「だが、そう落ち込むこともあるまい。魔族の方はどうしようもなくても、エルフの方なら冒険者にもいるからな。機会があれば話を聞くことも出来るだろう」

「そういうことでしたら・・・それと、渡り人と一緒に転移した居住区と思われる施設はどうなりましたか?」

「あぁ、あれな。あれはマンションとか言うらしいが、何せあの大きさだからな。貴族たちの方は魔素なしの鉱物が手に入って大喜びだ。人工魔石も作り放題のようだし。王都もまた活気づくだろうな。現在は王都から1000人規模の人員を出して解体作業をしているよ」

「そうですか・・・」

「そう残念がるな。王都としては、いつ目覚めるかわからない氷漬けの人よりも、目の前にある魔素無しの鉱石の方が大事なのも分かるだろう。時間はかかると思うが、氷漬けの人の方は、私が責任を持って何とかするから」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いや、いいんだ。それも仕事のうちだよ。それよりも友達が出来たと言ったな・・・その話を聞かせてはくれないか?」

「はい!」
 ヴェールは嬉しそうに返事をすると、クロード、ルージュ、アマリージョとの出会いから、一泊し、翌日の別れの時までのことを司祭に話した。
 ヒカリやスマホなどの魔道具のことは、一応伏せて話していたが、司祭からは不思議な3人組がいるとの認識されたようだった。

     ♣

「しかし、ヴェールのそんなに楽しいそうな顔を見るのは、いつ以来だろうね?」
 長い時間楽しそうに話をするヴェールを見て、司祭が不意に呟いた。

「あっ! すみません司祭様・・・夢中で私ばかり話をしてしまって・・・」

「あ、いやいや・・・構わないよ。孤児院から教会のシスターになって、最初の頃は笑顔が耐えなかったが、ここ数年・・・特に最近はほとんど笑顔を見せなくなってしまっていたからね。私なりに心配をしていたんだよ」

「それは・・・申し訳ありませんでした」

「理由は分かっている。枢機卿とテスターの事だろう。私にもう少し力があれば、何とかしてやれたんだが・・・」
 司祭が申し訳なさそうに頭を下げた。

「司祭様・・・大丈夫です。私、大丈夫ですから・・・」

「そうか・・・何か吹っ切れたようだね」

「はい。友達のおかげです。きっと」

「それならば、いつか・・・私からもその友達にお礼を言わないといけないね」

「・・・はい。その時は紹介します」

「では、ヴェール・・・報告をありがとう。今日はもう休んで大丈夫だよ」

「はい。ではお先に失礼します。司祭様」

「あぁ、ありがとう」
 ヴェールが自室へ戻り、司祭が一人部屋に残された。

「友達か・・・ヴェールには苦労をかけてしまっているな。それよりも枢機卿の方をなんとかしなければならんか・・・このままでは・・・」

 司祭が机にあったベルを鳴らすと、奥の部屋から次女が現われた。
「アンナ・・・すまないが、3日ほど暇をやるから、ちょっとお使いを頼まれてくれないか?」

「はい」
 アンナと呼ばれた次女がドアの前に立ったまま静かに答えると、司祭は急いで3通の手紙を書き、それぞれ封をしてアンナに手渡した。

「これを裏町で闇商人をしているウーという男に渡してくれ。居場所は同じ裏町のカジノだ。ポーカーテーブルの横のバーで、酒を二杯頼み、一方にバラの花びらを浮かべておくと向こうから接触してくる。私からの使いだと言って、この手紙を全て渡してくれ。それで意味は分かるはずだ。手紙を渡し終わったらそのまま3日ほど休暇をとってくれ。身の回りに何も変わったことがなければ、4日目の朝、またここへ来てくれ」

「かしこまりました」

「あっ!! それから裏町は治安も良くない。手紙のこともだが、アンナ自身も充分気をつけるように」

「その点は安心してくださいませ。次女とはいえ、これでも司祭様の護衛も兼ねているのです。短剣の扱いでは誰にも負けませんから」

「そうだな。だが・・・くれぐれも気をつけてな」

「はい。では行って参ります」

「頼んだぞ・・・」

     ♣

 そして4日目の朝。
 次女は司祭の部屋には戻ってこなかった。
 司祭には手紙が闇商人のウーの元に届いたかどうか、確認する術がなかった。

「やはり自分で行くべきだったか・・・いや、それではリスクが高すぎる。しかし、もしもアンナが手紙を渡す前に殺されたとしたら・・・手紙を書いたのが私だと分かってしまう・・・これはもういよいよ覚悟を決めんといけんな・・・。ヴェール・・・最後に彼女だけはなんとかしなければ・・・」
 司祭はそう呟くと、奥の部屋に籠もって身支度を始めた。

 翌日、司祭は数人の助祭と次女を連れ、クリチュート教会の本部がある騎士の国・カヴァリエールを目指し旅に出た。
 一行の中には、ヴェールの幼なじみであるマリク助祭もの姿もあった。

 この日、バーナード司祭が急に旅立ったと知ったヴェールは大変驚いたが、氷漬けの渡り人のことで何かをしてくれるものだと思い、感謝することはあっても不審に思うことはなかった。
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