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第3章 光と「クリチュート教会」
幕間-04 「テスター」
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眷属討伐から5日、ようやく体調も回復し、提出しなければならない報告書を全て書き終えたテスターは、ハンク市の教会の自室で、一人酒を飲みながら荒れていた。
「全く今回の遠征は腹立たしいことばかりだ。そもそもの発端はあの女が討伐隊に加わったせいだ。お飾りならお飾りらしく大人しくしていれば良いものを・・・」
空になったグラスに、酒を注ぎながら酒のボトルを強く握る。
「おい、テスター入るぞ」
ノックもせずに部屋に男が一人入ってきた。
「ん? 親父殿か? 報告書ならもう出したぞ」
「いや、報告書の件ではない。お前あの娘とはどうなっている? 先程、聞いた話では護衛を他人に任せて、魔物を狩っていたと」
「何かと思えばその話か。いちいち枢機卿自らが聞きに来るような話ではないだろう? それに別に任せた訳じゃない。あの女が勝手に他人のところへ行ったんだ」
「だとしたら尚更だ。お前な・・・何のためにあの娘に同行してると思ってるんだ!」
テスターの父親である枢機卿が苛立って声を荒げた。
「何って、妻にするためだろう」
「ただの妻じゃない! お前はこの計画の重要性を理解しているのか?」
「あぁ、分かってるよ」
テスターはグラスに入れた酒を一気に飲み干した。
「ならばもう少し考えながら行動してもらわんといけんな」
「何がだよ! やる事はちゃんとやってるぞ。戦闘には加わらせていないし、余計な魔素を吸収しないように、監視もしている。まあ、昨晩は村人の家に泊まりたいとか言いやがって・・・さすがにずっと監視という訳にはいかなかったが・・・」
テスターは寝てしまった自分を思い出しながら、少し口ごもる。
「お前があの娘を嫌っていることは知っている。だが我々の計画には、あの娘は必要不可欠だ。それだけは肝に命じておけよ」
「ああ、分かってるよ!」
「それとだ。こっちに戻ってからあの娘の魔素量が急激に上昇しているんだが、昨日から今日にかけて、何があった?」
「魔素量? いや知らん。昨日は俺もすぐに寝てしまったからな。した事と言えば・・・死にかけの女に回復魔法をかけたのと、その助けた女の家に泊まったくらいか・・・」
「その女はどこの誰だ?」
「知らん! 村はヘールだか、フールだか・・・そんな名前の田舎の村だ。女はその村のやつで、クソ生意気な女とマヌケ面の男と3人組のパーティだ」
「3人? もしかして其奴ら、眷属を倒したという3人組か?」
「ああ、そうだ。回復魔法はその戦いで死にかけた一人を助けるために使った」
「それで、その時の様子は?」
「別に何もねーよ。あ、いや・・・いつもは魔法を使うとぶっ倒れるはずなのに、あの時は倒れてなかったな・・・」
「では、その回復魔法を使う直前までに魔素量が上がったいうことか・・・」
「いや、いくらなんでもそれはないだろ。俺はずっとあの女の馬車と並走してたんだぞ。あの女の魔素量が上がるなら、俺が上がらないのはおかしいだろ」
「戦闘は?」
「参加させるわけないだろ」
「だとすると、怪しいのはその3人組の方か・・・」
枢機卿が腕組みをしながら考える。
「いや、だが・・・丸っ切り初対面という感じだったぞ」
「なるほど・・・と言うことは元々の知り合いで内通していた、ということでもない訳か・・・」
「その辺は大丈夫だ。別に怪しい素振りもなかったからな」
「だが、一晩泊まったとなると・・・」
「気にしすぎだ親父。泊まったのも全員同じような歳だったからで、ただ話し相手が欲しかったんだろ。リーダーっぽい女は単細胞丸出しだし、男の方は女に言われて馬車を引いてた下男みたいなやつだったからな。どこからどう見ても心配する必要ねーよ。いつも孤独な聖女様だからな。誰かに哀れんで欲しかっただけだろ」
テスターがグラスに酒を注ぎながら、面倒くさそうに言い放つ。。
「そうか。だがあの娘の魔素量が上がったのは事実。今後はもう少し監視も徹底しろよ。じゃないと・・・」
「分かってるよ。あの女が必要なんだろ。封印を解くには、対になる封印魔法が使えないとならない。何度も言われりゃ嫌でも覚えてるよ」
「ああ、そうだ。覚えているならいい。計画を実行するためには、あの娘の力が必要だ。だがまだその時期ではない。いずれその時が来た時には、あの娘には神の依り代として、命を捧げてもらう。そうすることで世界は救われるのだ。そのためにも出来るだけ魔素量は抑えておかなければならない。いざという時に力ずくで何とかせねばならんからな」
「心配しなくても大丈夫だ。やる事はちゃんとやるし、来年には婚約を発表するからな。そうなればあとは体調を崩したとでも言って、監禁して監視を強化出来る」
「まあ、確かに婚約さえしてしまえば関係無いか。そうなれば女遊びも好きに出来るんだから、それまではちゃんと我慢しろよ」
「ああ、分かってる」
「それまでは問題を、特に女関係は・・・」
「うるせーよ。だからもう分かってるって!」
テスターは苛立ちを抑えられず、グラスの酒を一気に飲み干して、机に叩きつけた。
「そんなにイライラするな。もう帰るから・・・。最後にさっきの話の3人組だが・・・何もないとは思うが、一応、警戒だけはしておけよ」
枢機卿はそう言い残すと、振り返らずに部屋から出ていった。
「警戒だと・・・そんな必要はないが、多少ムカついてはいるからな。次に会った時は田舎者に世間の厳しさを教えてやるぜ」
テスターは下卑た笑みを浮かべながらそう言うと、窓の外に見える王都の街並みをいつまでも見下ろしていた。
「全く今回の遠征は腹立たしいことばかりだ。そもそもの発端はあの女が討伐隊に加わったせいだ。お飾りならお飾りらしく大人しくしていれば良いものを・・・」
空になったグラスに、酒を注ぎながら酒のボトルを強く握る。
「おい、テスター入るぞ」
ノックもせずに部屋に男が一人入ってきた。
「ん? 親父殿か? 報告書ならもう出したぞ」
「いや、報告書の件ではない。お前あの娘とはどうなっている? 先程、聞いた話では護衛を他人に任せて、魔物を狩っていたと」
「何かと思えばその話か。いちいち枢機卿自らが聞きに来るような話ではないだろう? それに別に任せた訳じゃない。あの女が勝手に他人のところへ行ったんだ」
「だとしたら尚更だ。お前な・・・何のためにあの娘に同行してると思ってるんだ!」
テスターの父親である枢機卿が苛立って声を荒げた。
「何って、妻にするためだろう」
「ただの妻じゃない! お前はこの計画の重要性を理解しているのか?」
「あぁ、分かってるよ」
テスターはグラスに入れた酒を一気に飲み干した。
「ならばもう少し考えながら行動してもらわんといけんな」
「何がだよ! やる事はちゃんとやってるぞ。戦闘には加わらせていないし、余計な魔素を吸収しないように、監視もしている。まあ、昨晩は村人の家に泊まりたいとか言いやがって・・・さすがにずっと監視という訳にはいかなかったが・・・」
テスターは寝てしまった自分を思い出しながら、少し口ごもる。
「お前があの娘を嫌っていることは知っている。だが我々の計画には、あの娘は必要不可欠だ。それだけは肝に命じておけよ」
「ああ、分かってるよ!」
「それとだ。こっちに戻ってからあの娘の魔素量が急激に上昇しているんだが、昨日から今日にかけて、何があった?」
「魔素量? いや知らん。昨日は俺もすぐに寝てしまったからな。した事と言えば・・・死にかけの女に回復魔法をかけたのと、その助けた女の家に泊まったくらいか・・・」
「その女はどこの誰だ?」
「知らん! 村はヘールだか、フールだか・・・そんな名前の田舎の村だ。女はその村のやつで、クソ生意気な女とマヌケ面の男と3人組のパーティだ」
「3人? もしかして其奴ら、眷属を倒したという3人組か?」
「ああ、そうだ。回復魔法はその戦いで死にかけた一人を助けるために使った」
「それで、その時の様子は?」
「別に何もねーよ。あ、いや・・・いつもは魔法を使うとぶっ倒れるはずなのに、あの時は倒れてなかったな・・・」
「では、その回復魔法を使う直前までに魔素量が上がったいうことか・・・」
「いや、いくらなんでもそれはないだろ。俺はずっとあの女の馬車と並走してたんだぞ。あの女の魔素量が上がるなら、俺が上がらないのはおかしいだろ」
「戦闘は?」
「参加させるわけないだろ」
「だとすると、怪しいのはその3人組の方か・・・」
枢機卿が腕組みをしながら考える。
「いや、だが・・・丸っ切り初対面という感じだったぞ」
「なるほど・・・と言うことは元々の知り合いで内通していた、ということでもない訳か・・・」
「その辺は大丈夫だ。別に怪しい素振りもなかったからな」
「だが、一晩泊まったとなると・・・」
「気にしすぎだ親父。泊まったのも全員同じような歳だったからで、ただ話し相手が欲しかったんだろ。リーダーっぽい女は単細胞丸出しだし、男の方は女に言われて馬車を引いてた下男みたいなやつだったからな。どこからどう見ても心配する必要ねーよ。いつも孤独な聖女様だからな。誰かに哀れんで欲しかっただけだろ」
テスターがグラスに酒を注ぎながら、面倒くさそうに言い放つ。。
「そうか。だがあの娘の魔素量が上がったのは事実。今後はもう少し監視も徹底しろよ。じゃないと・・・」
「分かってるよ。あの女が必要なんだろ。封印を解くには、対になる封印魔法が使えないとならない。何度も言われりゃ嫌でも覚えてるよ」
「ああ、そうだ。覚えているならいい。計画を実行するためには、あの娘の力が必要だ。だがまだその時期ではない。いずれその時が来た時には、あの娘には神の依り代として、命を捧げてもらう。そうすることで世界は救われるのだ。そのためにも出来るだけ魔素量は抑えておかなければならない。いざという時に力ずくで何とかせねばならんからな」
「心配しなくても大丈夫だ。やる事はちゃんとやるし、来年には婚約を発表するからな。そうなればあとは体調を崩したとでも言って、監禁して監視を強化出来る」
「まあ、確かに婚約さえしてしまえば関係無いか。そうなれば女遊びも好きに出来るんだから、それまではちゃんと我慢しろよ」
「ああ、分かってる」
「それまでは問題を、特に女関係は・・・」
「うるせーよ。だからもう分かってるって!」
テスターは苛立ちを抑えられず、グラスの酒を一気に飲み干して、机に叩きつけた。
「そんなにイライラするな。もう帰るから・・・。最後にさっきの話の3人組だが・・・何もないとは思うが、一応、警戒だけはしておけよ」
枢機卿はそう言い残すと、振り返らずに部屋から出ていった。
「警戒だと・・・そんな必要はないが、多少ムカついてはいるからな。次に会った時は田舎者に世間の厳しさを教えてやるぜ」
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