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第3章 光と「クリチュート教会」
89話 新たな目標
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村長の家で夕食をとる事になった俺とルージュ、アマリージョの3人は、村長にヴェールを無事に送り届けたことを報告した。
村長はヴェールの話を喜び、村長の奥さんは息子のジョセフと話をしながら食事を楽しんでいた。
「クロード。それにルージュとアマリージョ。改めて村の危機を救ってくれたことに感謝する。なんでも褒美を・・・と言いたいところだが。今でこそヒカリのおかげで生活も改善されたが、ついこの間まで飢える手前だったからな。何もしてやれそうにないのが現状だ・・・褒美はまたいずれ、落ち着いたら考えたいが、それでも良いか?」
食事を半分ほど終えた村長が、食べるのを止め背筋を正して真剣な顔で聞いてきた。
「別に俺は褒美なんて・・・それに元々、この村に住まわせて貰う代わりに戦うって約束でしたから・・・」
俺は口に含んだものを急いで飲み込みながら返事をした。
「まあ、そうだったな。だが、ヒカリが村にしてくれた事もあるからな。クロードにはあまり伝えていないと言っていたから知らんかも知れんが、ヒカリは村の井戸を復活させてくれただけでなく、個々の家に水道を引き、お湯を出して風呂を設置。それからトイレも水洗になるよう工事までしてくれた。更にそれを一箇所に集め堆肥に使えるよう施設まで作っただけでなく、結界の魔法陣を婆さまと協力して強化し、農作物も自動で水やりまで出来るようになった。今じゃ収穫まで村人は出番なしの状態だ。その分、みんな狩りやら、内職やら、いろいろな事に手が回るようになってな。村の者は皆感謝しておるよ。まぁ個人的には水が美味くなったのが一番だがな・・・」
村長が少し嬉しそうに説明をしてくれた。
「なんと言うか・・・水と風呂意外なんにも知りませんでしたよ」
ヒカリがここまで村にしていたとは知らず、ちょっとやり過ぎた感に引いてしまった。
「まあ、ヒカリ本人も、好きでやってるからクロードには伝えなくてもいい、とは言っていたから、知らなくて当然といえば当然なのかも知れんが・・・」
「なんかすいません。いろいろと・・・」
生活水準変えちゃうのは、いろいろはダメな気がした。
「はっはっはっは・・・クロードは、すぐに何でも謝るのが悪い癖だな・・・まあいいか。それよりも・・ヒカリからも申し出があったのだが、クロード、お主、冒険者になってみないか?」
「冒険者!?ですか? ヒカリが? 申し出?」
唐突の提案に少し驚く。
ルージュとアマリージョも興味を惹かれたようで、驚きながら村長を見た。
「あぁ、冒険者だ。先ほど言っていた村に住む際の約束はもうこれで果たされたとして良いだろうし、ヒカリのおかげで村も豊かになった。今住んでいる家はそのままクロードのものにしていいから、ここを村を拠点に冒険者になるといい。それで3人で世界を見て回るといいだろう」
「三人で? 確かにそんな話になったことはありますけど」
俺はそう言いながら、ルージュとアマリージョの顔色を窺う。
「私は行きたいわよ」
「私もです」
俺の迷いはどこへやら・・・ルージュもアマリージョも答えは決まっていたようだった。
「でも、この先・・・村に魔物とかが出たらどうするんです? 俺はともかく、ルージュとアマリの2人は村でもかなりの戦力でしょう?」
「それなんだが、ヒカリからは既に提案をされていてな。ヒカリが戦闘用の魔道具を村に配置することになっているから安心していいと・・・警備をしながら、村の周りも巡回して、ついでに狩りもするらしいぞ」
「はぁ・・・知らない所でそんな話になっていたんですね・・・」
やり過ぎはダメな気がするけど・・・大丈夫なのか?
話を聞きながら、だんだん不安になってくる。
「ああ、ヒカリはいろいろやっておるよ。それにルージュ達もそろそろ限界だろうと思ってな。両親のこと、特に母親の事については何も話さないようにしていたしな。そろそろ両親の過去を追って旅に出たいと・・・正直、いつ言い出されるかと思って、毎日ドキドキしておった」
「母親? 村長は私の母さんのこと知っていたの?」
ルージュが身を乗り出して村長に詰め寄った。
「そんなに興奮するな。知っていると言ってもほんの僅かなことだけだ・・・とにかく旅に出たいと思うなら、今が一番の時だと思うのは確かだ」
「まあ、そうね。それで母さんの事は? 村長は何を隠していた訳?」
ルージュは大きく深呼吸をした後、落ち着いた口調で再度、村長に尋ねた。
「隠していた訳ではないんだが・・・まあ、何も知らずに済めばいい・・・というのが父の、レナード様の願いだったからな」
「「父さんの?」」
ルージュとアマリージョが口を揃えて驚く。
「ああ、そうだ。結論から先に言うとだな・・・お前たちの父親の名は、レナード・ロズトレッフル。今は亡き、ロズワルド王国の国王であった御方だ。そして、母親は王国の専属魔導師であったハーフエルフ。レナード様はファータと呼んでおられたが、おそらく本名ではないと思う」
「ちょっと待って!? 私たちの親は元々貴族だとは知っていたけど、ただの貴族じゃなくて・・・王様だったってこと? それに母親がエルフ? 本気で言っているの?」
ルージュがかなり興奮した様子で、席を立ち、村長に迫る。
「姉さん! 落ち着いてください! 最後まで聞きましょうよ」
アマリージョがルージュをなだめて、席に着かせる。
「まったく・・・いちいち興奮するな・・・で? 話はどこからだったか? えー・・・あ、母親のとこか・・・そうそう・・・まず母親だが、エルフではなく、ハーフエルフだ。元々、エルフの隠れ里自体が、ロズワルド王国領内の森の中にあるという話だしな。それで王国とも交流があったのだろう」
「なんかいろいろ頭が混乱してるんだけど・・・で? そのハーフエルフ? 母さんはどこにいるの?」
「うーん。では、まず知っている事を順に話そう・・・」
そう言ってサンノ村長は、ゆっくりと語りだした。
父親であるレナードの両親が暗殺をされたこと。国が乗っ取られ、母親であるハーフエルフと逃亡生活をしていたこと。
その途中で母親が幼子と夫を守るため犠牲になったこと。
この村に流れてきた経緯。
そして父親の最後・・・。
その衝撃的な内容に俺は何も言えず、ただ2人を見つめていた。
♣
「だいたい理解したわ。まさか両親の仇が両方とも眷属だったとはね」
静まり返った部屋の中で、最初に言葉を発したのはルージュだった。
「それで、その、母さんは、母さんのお墓はどこにあるのですか?」
少し寂しそうに聞こえたルージュの言葉と同様、アマリージョの言葉もどこか寂しそうに聞こえた。
「それなんだが・・・レナード様は最後まで生きていると信じておられた。母であるファータ殿がレナード様、それにルージュとアマリの3人を逃がすために囮になったというのは本当だ。だが、逃げきった後、レナード様が後日その場所に戻ると遺体はなく、5分ほど歩いた先に大きな魔石だけが残されていた、と」
「それって?」
アマリが身を乗り出すようにして聞く。
「ああ、レナード様はその魔石は、その時の眷属のもので、ファータ殿が倒したのだと言っておられた。しかし、辺り一面、血の海だったそうでな・・・怪我をしていたのは間違いないだろうと・・・レナード様は、その後何度もその場所を訪れては手がかりを探し続けていたのだが何の手がかりも得られず、最終的にはあちこちの街や村にも手かがりを求めて探し続けたが、結局何も分からなかった。だが、最後まで必ず生きていると信じておられた」
「村長分かったわ。もう大丈夫。アマリもいいわね」
「ええ、姉さんがいいなら」
ルージュとアマリージョの2人が顔を見合わせながら、二人で頷く。
「何? どういうこと?」
妙に納得する2人に当然の疑問が湧いた。
「では、クロード。この村に住むための約束は果たしてもらった。これからもヒカリと共々この村で暮らして構わないし、暮らして欲しいが、自分の人生だ。今後は好きなようにしてほしい。ルージュとアマリージョも同様だ」
村長もなぜか晴れやかにそう宣言した。
「ええ、分かったわ」
「姉さん!!」
「えーと、だから何が・・・どういうこと?」
妙に納得する3人にもう一度尋ねる。
「ほんとクロードは鈍いわね。眷属も倒したし、村も豊になったから3人で冒険者になるって言ってんの」
「あぁ、その話なら分かってるよ。だから2人は何が・・・」
「クロードさん。私と姉さんは冒険者になって母さんを探そうと決めました。一緒に手伝って貰えませんか?」
「あぁ、そういう話か。別に構わないかな。元々、元の世界に帰る方法とか、ほかの渡り人とかも気になってはいたし・・・」
「なんか軽い感じが気になるけど・・・決まりね」
「よろしくお願いしますね、クロードさん」
ルージュとアマリージョ、2人が抱き合って喜んでいた。
「あ、あぁ・・・よろしく」
もうこちらを気にしていない2人に、とりあえず返事だけする。
――なんかちょっと寂しいかも・・・
「それで、村長。母さんがいなくなった場所って分かる?」
「眷属と出会った場所だな。それならハンク市と王都の丁度中間辺りに森林地帯がある。その森を北へ抜けていくと帝国との国境線の所に小さな渓谷がある。まあ、渓谷と言っても山は帝国側だけで王都側は殆ど平地なのだか・・・レナード様によるとその辺りだそうだ。帝国側に山に小さな滝が見えるのが目印で、近くにあった古い小屋で数日過ごしていたそうだ」
「村長ありがとう。お陰で目標が見つかったわ」
「はい。ありがとうございます」
「それはいいことだが、無理だけはするなよ。特に・・・ルージュ」
「なんで私だけなのよ!」
「今回アマリが死にかけたのも、お前に責任がある。お前はなんでも一人で、自分の力だけでやろうとするところがあるからな。お前の横にはアマリとこれからはクロードがいることを忘れるなよ。時には全員の命を守るために、ワザと負けることも選択しなければならん時もある。くれぐれも意地の張り方、通し方を間違えないようにな」
「・・・ええ。分かったわ」
ルージュは村長を真っ直ぐに見据えたまま、静かに答えた。
「じゃあ、今日はここまでだな。ゆっくり身体を休めてから、支度して、出発の日が決まったら知らせに来い」
「ええ」
「分かりました」
「村長、何から何まで・・・本当にお世話になりました」
俺は立ち上がって、村長に頭を下げてお礼を言った。
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。ヒカリにもよろしく伝えてくれ。寂しくなるが・・・たまには戻って顔を見せてくれよ。それとクロード・・・二人を頼んだぞ」
村長は頭を下げた俺の手を取り、その手を力強く握った。
「・・・はい。分かりました」
村長の手からは、自分の子供同様に育ててきたルージュとアマリージョに対する思いが感じ取れた気がした。
俺はそんな村長に少しでも安心してもらいたくて、村長の目を見ながら静かに返事をした。
村長はヴェールの話を喜び、村長の奥さんは息子のジョセフと話をしながら食事を楽しんでいた。
「クロード。それにルージュとアマリージョ。改めて村の危機を救ってくれたことに感謝する。なんでも褒美を・・・と言いたいところだが。今でこそヒカリのおかげで生活も改善されたが、ついこの間まで飢える手前だったからな。何もしてやれそうにないのが現状だ・・・褒美はまたいずれ、落ち着いたら考えたいが、それでも良いか?」
食事を半分ほど終えた村長が、食べるのを止め背筋を正して真剣な顔で聞いてきた。
「別に俺は褒美なんて・・・それに元々、この村に住まわせて貰う代わりに戦うって約束でしたから・・・」
俺は口に含んだものを急いで飲み込みながら返事をした。
「まあ、そうだったな。だが、ヒカリが村にしてくれた事もあるからな。クロードにはあまり伝えていないと言っていたから知らんかも知れんが、ヒカリは村の井戸を復活させてくれただけでなく、個々の家に水道を引き、お湯を出して風呂を設置。それからトイレも水洗になるよう工事までしてくれた。更にそれを一箇所に集め堆肥に使えるよう施設まで作っただけでなく、結界の魔法陣を婆さまと協力して強化し、農作物も自動で水やりまで出来るようになった。今じゃ収穫まで村人は出番なしの状態だ。その分、みんな狩りやら、内職やら、いろいろな事に手が回るようになってな。村の者は皆感謝しておるよ。まぁ個人的には水が美味くなったのが一番だがな・・・」
村長が少し嬉しそうに説明をしてくれた。
「なんと言うか・・・水と風呂意外なんにも知りませんでしたよ」
ヒカリがここまで村にしていたとは知らず、ちょっとやり過ぎた感に引いてしまった。
「まあ、ヒカリ本人も、好きでやってるからクロードには伝えなくてもいい、とは言っていたから、知らなくて当然といえば当然なのかも知れんが・・・」
「なんかすいません。いろいろと・・・」
生活水準変えちゃうのは、いろいろはダメな気がした。
「はっはっはっは・・・クロードは、すぐに何でも謝るのが悪い癖だな・・・まあいいか。それよりも・・ヒカリからも申し出があったのだが、クロード、お主、冒険者になってみないか?」
「冒険者!?ですか? ヒカリが? 申し出?」
唐突の提案に少し驚く。
ルージュとアマリージョも興味を惹かれたようで、驚きながら村長を見た。
「あぁ、冒険者だ。先ほど言っていた村に住む際の約束はもうこれで果たされたとして良いだろうし、ヒカリのおかげで村も豊かになった。今住んでいる家はそのままクロードのものにしていいから、ここを村を拠点に冒険者になるといい。それで3人で世界を見て回るといいだろう」
「三人で? 確かにそんな話になったことはありますけど」
俺はそう言いながら、ルージュとアマリージョの顔色を窺う。
「私は行きたいわよ」
「私もです」
俺の迷いはどこへやら・・・ルージュもアマリージョも答えは決まっていたようだった。
「でも、この先・・・村に魔物とかが出たらどうするんです? 俺はともかく、ルージュとアマリの2人は村でもかなりの戦力でしょう?」
「それなんだが、ヒカリからは既に提案をされていてな。ヒカリが戦闘用の魔道具を村に配置することになっているから安心していいと・・・警備をしながら、村の周りも巡回して、ついでに狩りもするらしいぞ」
「はぁ・・・知らない所でそんな話になっていたんですね・・・」
やり過ぎはダメな気がするけど・・・大丈夫なのか?
話を聞きながら、だんだん不安になってくる。
「ああ、ヒカリはいろいろやっておるよ。それにルージュ達もそろそろ限界だろうと思ってな。両親のこと、特に母親の事については何も話さないようにしていたしな。そろそろ両親の過去を追って旅に出たいと・・・正直、いつ言い出されるかと思って、毎日ドキドキしておった」
「母親? 村長は私の母さんのこと知っていたの?」
ルージュが身を乗り出して村長に詰め寄った。
「そんなに興奮するな。知っていると言ってもほんの僅かなことだけだ・・・とにかく旅に出たいと思うなら、今が一番の時だと思うのは確かだ」
「まあ、そうね。それで母さんの事は? 村長は何を隠していた訳?」
ルージュは大きく深呼吸をした後、落ち着いた口調で再度、村長に尋ねた。
「隠していた訳ではないんだが・・・まあ、何も知らずに済めばいい・・・というのが父の、レナード様の願いだったからな」
「「父さんの?」」
ルージュとアマリージョが口を揃えて驚く。
「ああ、そうだ。結論から先に言うとだな・・・お前たちの父親の名は、レナード・ロズトレッフル。今は亡き、ロズワルド王国の国王であった御方だ。そして、母親は王国の専属魔導師であったハーフエルフ。レナード様はファータと呼んでおられたが、おそらく本名ではないと思う」
「ちょっと待って!? 私たちの親は元々貴族だとは知っていたけど、ただの貴族じゃなくて・・・王様だったってこと? それに母親がエルフ? 本気で言っているの?」
ルージュがかなり興奮した様子で、席を立ち、村長に迫る。
「姉さん! 落ち着いてください! 最後まで聞きましょうよ」
アマリージョがルージュをなだめて、席に着かせる。
「まったく・・・いちいち興奮するな・・・で? 話はどこからだったか? えー・・・あ、母親のとこか・・・そうそう・・・まず母親だが、エルフではなく、ハーフエルフだ。元々、エルフの隠れ里自体が、ロズワルド王国領内の森の中にあるという話だしな。それで王国とも交流があったのだろう」
「なんかいろいろ頭が混乱してるんだけど・・・で? そのハーフエルフ? 母さんはどこにいるの?」
「うーん。では、まず知っている事を順に話そう・・・」
そう言ってサンノ村長は、ゆっくりと語りだした。
父親であるレナードの両親が暗殺をされたこと。国が乗っ取られ、母親であるハーフエルフと逃亡生活をしていたこと。
その途中で母親が幼子と夫を守るため犠牲になったこと。
この村に流れてきた経緯。
そして父親の最後・・・。
その衝撃的な内容に俺は何も言えず、ただ2人を見つめていた。
♣
「だいたい理解したわ。まさか両親の仇が両方とも眷属だったとはね」
静まり返った部屋の中で、最初に言葉を発したのはルージュだった。
「それで、その、母さんは、母さんのお墓はどこにあるのですか?」
少し寂しそうに聞こえたルージュの言葉と同様、アマリージョの言葉もどこか寂しそうに聞こえた。
「それなんだが・・・レナード様は最後まで生きていると信じておられた。母であるファータ殿がレナード様、それにルージュとアマリの3人を逃がすために囮になったというのは本当だ。だが、逃げきった後、レナード様が後日その場所に戻ると遺体はなく、5分ほど歩いた先に大きな魔石だけが残されていた、と」
「それって?」
アマリが身を乗り出すようにして聞く。
「ああ、レナード様はその魔石は、その時の眷属のもので、ファータ殿が倒したのだと言っておられた。しかし、辺り一面、血の海だったそうでな・・・怪我をしていたのは間違いないだろうと・・・レナード様は、その後何度もその場所を訪れては手がかりを探し続けていたのだが何の手がかりも得られず、最終的にはあちこちの街や村にも手かがりを求めて探し続けたが、結局何も分からなかった。だが、最後まで必ず生きていると信じておられた」
「村長分かったわ。もう大丈夫。アマリもいいわね」
「ええ、姉さんがいいなら」
ルージュとアマリージョの2人が顔を見合わせながら、二人で頷く。
「何? どういうこと?」
妙に納得する2人に当然の疑問が湧いた。
「では、クロード。この村に住むための約束は果たしてもらった。これからもヒカリと共々この村で暮らして構わないし、暮らして欲しいが、自分の人生だ。今後は好きなようにしてほしい。ルージュとアマリージョも同様だ」
村長もなぜか晴れやかにそう宣言した。
「ええ、分かったわ」
「姉さん!!」
「えーと、だから何が・・・どういうこと?」
妙に納得する3人にもう一度尋ねる。
「ほんとクロードは鈍いわね。眷属も倒したし、村も豊になったから3人で冒険者になるって言ってんの」
「あぁ、その話なら分かってるよ。だから2人は何が・・・」
「クロードさん。私と姉さんは冒険者になって母さんを探そうと決めました。一緒に手伝って貰えませんか?」
「あぁ、そういう話か。別に構わないかな。元々、元の世界に帰る方法とか、ほかの渡り人とかも気になってはいたし・・・」
「なんか軽い感じが気になるけど・・・決まりね」
「よろしくお願いしますね、クロードさん」
ルージュとアマリージョ、2人が抱き合って喜んでいた。
「あ、あぁ・・・よろしく」
もうこちらを気にしていない2人に、とりあえず返事だけする。
――なんかちょっと寂しいかも・・・
「それで、村長。母さんがいなくなった場所って分かる?」
「眷属と出会った場所だな。それならハンク市と王都の丁度中間辺りに森林地帯がある。その森を北へ抜けていくと帝国との国境線の所に小さな渓谷がある。まあ、渓谷と言っても山は帝国側だけで王都側は殆ど平地なのだか・・・レナード様によるとその辺りだそうだ。帝国側に山に小さな滝が見えるのが目印で、近くにあった古い小屋で数日過ごしていたそうだ」
「村長ありがとう。お陰で目標が見つかったわ」
「はい。ありがとうございます」
「それはいいことだが、無理だけはするなよ。特に・・・ルージュ」
「なんで私だけなのよ!」
「今回アマリが死にかけたのも、お前に責任がある。お前はなんでも一人で、自分の力だけでやろうとするところがあるからな。お前の横にはアマリとこれからはクロードがいることを忘れるなよ。時には全員の命を守るために、ワザと負けることも選択しなければならん時もある。くれぐれも意地の張り方、通し方を間違えないようにな」
「・・・ええ。分かったわ」
ルージュは村長を真っ直ぐに見据えたまま、静かに答えた。
「じゃあ、今日はここまでだな。ゆっくり身体を休めてから、支度して、出発の日が決まったら知らせに来い」
「ええ」
「分かりました」
「村長、何から何まで・・・本当にお世話になりました」
俺は立ち上がって、村長に頭を下げてお礼を言った。
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。ヒカリにもよろしく伝えてくれ。寂しくなるが・・・たまには戻って顔を見せてくれよ。それとクロード・・・二人を頼んだぞ」
村長は頭を下げた俺の手を取り、その手を力強く握った。
「・・・はい。分かりました」
村長の手からは、自分の子供同様に育ててきたルージュとアマリージョに対する思いが感じ取れた気がした。
俺はそんな村長に少しでも安心してもらいたくて、村長の目を見ながら静かに返事をした。
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