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第2章 光と「ウール村」
73話 ロズトレッフル
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突然、口の中に突っ込まれた拳にオーガがギョッとし、次の瞬間燃えるような憤怒の表情を浮かべた。
オーガは、腹の底から怒りに満ちた恐ろしい声を絞り出すと、牙をむきだし狂ったように噛みついてくる。
人間を喰らう魔物が、都合良く飛び込んできた獲物を食べない訳がなかった。
――――ガキンッ!!
俺の腕は内側から土の魔法で補強がしてある。
補強といっても石程度の硬度だが・・・
だからって、噛みつかれても平気なわけではない。
些細な違いと言えば、食いちぎられるまでの時間だろう。
すぐか・・・
3秒後か・・・
でも、今は、その数秒に全てをかけていた。
噛み付かれた腕に激痛が走る。必死に手を伸ばし、オーガの喉の奥深くに握ったスマホを投げ込んだ。
そして、手のひらからは、大量の砂が放出される。
慌てたオーガが、俺の腕を噛みちぎろうと、さらに強く牙をたてた。
このままじゃちぎれる・・意を決して無理矢理引っぱると、ゴリッという嫌な音と共に腕が抜けた。
腕の肉は削がれ、骨がむき出しになっている。辛うじて繋がってはいた。
「ソレハ、サキモ、ミタ。オナジテハキカナイ」
「クロード!!! 何やってるの!!? 腕が・・腕が・・・」
ルージュの声が震える。
「いいんだ・・アマリも・・命をかけた。俺もだ」
朦朧とする意識をなんとか必死につなぎ止める。
「バカじゃないの!? なにやってんのよ!! 命かけたって、もうこれで、完全に勝てなくなったわ。 私の攻撃も効かないし・・・もう手がないのよ・・」
「ルージュ・・・違う・・」
「何が違うのよ!! なにが・・・っ、腕が・・・骨見えてるのよ」
ルージュの頬を涙が伝う。頬を伝う涙が、地面にこぼれ落ちる。
「いや、ちがう・・違うんだよ。こういう時は・・・こう言うんだ。俺の名前は箱崎玄人。ここにいる仲間と以前殺された、仲間の父親の仇のために、お前を討つ」
俺がそう言うと、オーガが急に苦しみ出した。
「ほら、ルージュ・・君がとどめをさすんだ・・・」
取れかけた腕を押さえながら、ルージュを促す。今はもう、意識を保って立っているのが精一杯だった。
「一体何が起きてるのよ!! なんで・・?」
「オーガの身体をよく見てよ。内側から剣で刺されてるだろ。あれ、もともと携帯の収納にしまってた剣とかのガラクタなんだよ。それを無理矢理食わせてから、ヒカリが中で元のサイズに戻したんだ」
ルージュを見て、柄にも無くウインクしてみせた。意識が途切れ途切れになってきていた。
「それで・・そのために腕を・・・。クロード、無茶し過ぎ。でも・・ありがとう」
「あぁ、気にするな・・・」
ルージュが涙を手で拭う。そして大きく深呼吸をして顔を上げると、凜とした空気があたりに張り詰めた。
「我が名はルージュ・・・ルージュ・ロズトレッフル。そしてあそこにいるのが、アマリージョ・ロズトレッフル。昔、眷属に殺された父の恨み、そしてアマリージョの安らぎのために・・・お前が何度蘇ろうと、その度にお前らを一掃してやるから、私たち姉妹の名前を覚えておけ!」
ルージュが折れた剣を片手にオーガに真っ直ぐに近づいていく。
腹のなかで大量の剣が飛び出したとはいえ、致命傷にはならなかったオーガ。
だが、近づくルージュに反撃しようと身体を動かすと、内側から突き刺さった剣が邪魔をして動けない。
「死ね!」
ルージュがオーガの後ろ側に回り、折れた剣に力を込めて少しずつ喉を切り裂いていく。
「グオオオオオオオオォォォォォ!」
オーガの断末魔が響き渡り、オーガが黒い霧と化す。ゴブリンとは比べものにならないほどの濃く、暗黒のような霧が立ちこめた。
霧が晴れると、そこには腹の中で飛び出た剣とスマホ、そして禍々しく光る魔石が転がっていた。
「アマリっ・・・!!!」
ルージュがアマリージョの元へ駆け寄り、しゃがみ込む。
「アマリ! アマリ!! 聞こえてる? やったわよ! アイツを倒した。クロードにも迷惑かけたけど・・・ほら、だから・・アマリ・・ アマリ・・・」
ルージュがアマリージョの肩をに手をかけ揺さぶった。
だが、アマリージョが反応することはなかった。
『残念ですが、治せる術がありません』
ヒカリの沈痛な声が響く。
「ヒカリ、俺の時みたいに魔石を入れたりして何とかならないの?」
『腕の傷くらいなら、その方法も使えますが・・・もうその時間も、体力も・・・』
「アマリ・・・ルージュ・・・すまない」
自分の無力さに泣けてくる。自分は魔石を入れてから、なんだかずいぶん強くなった気がしていたがそんなのただの思い上がりだ。女の子一人救うことができない。
「なんでクロードが謝るのよ・・」
「あ、いや・・でも・・ごめん」
涙で視界がゆがむ。
「クロードも手・・・握ってあげて・・・喜ぶから・・」
ルージュはアマリージョの手をしっかりと握り、反対の手で優しく彼女の髪をなでていた。
彼女たちは 小さいときから二人で支え合って生きてきたのだ。
きっとルージュは昔から、アマリージョに悲しいことがあると、こうして慰めていたのだろう。ルージュの心境を考えると胸が締め付けられる思いだった。
「あぁ」
短く返事をすると、左手でアマリージョの手を握る。
『人が来ます。おそらく後から現れた増援と戦っていた、討伐隊の方だと思われます』
「討伐隊? それで、ゴブリン達が来たわけか・・・て、その人達、傷薬とか持ってないの?パッと一瞬で治って、アマリも助かるんじゃ・・」
なんとかしたい一心だった。
「そんなの薬あるわけないじゃない。多少の傷は癒やせても・・・こんな深い傷は・・・」
「じゃ魔法は? 回復するようやつ・・・」
藁にもすがる思いで、口にする。
「そんな回復魔法が使えるのは、教会の司祭様くらいよ。寄付も高いっていうし。気持ちはうれしいけど、もうそっと・・・静かに眠らせてあげて・・・」
「そうか・・・そうだよね、ごめん」
なんだか、自分だけがひどく取り乱していて恥ずかしい。
「いえ、いいの。でも・・クロードありがとう。きっとアマリージョも感謝してるわ」
「そんな・・・俺、なにもできなくて・・・ごめん」
人が死ぬという事を、自分は本当に考えたことがなかったのだと今さらながら痛感する。
自分が死ぬこと、親しい人間が死ぬこと、そんな違いさえ理解していなかった。
後悔があるとすれば、自分の考えの甘さだった。
こんなことなら・・・俺が。
後悔してもしきれなかった。
・・・
「骨は骨、肉は肉となり、皮は皮へ。神に仕えし小さき者たちに、祝福の光と癒しの風を・・・《エリアヒール》」
暖かい新緑の光が、アマリージョを中心に3人を包む。
全てを忘れてしまいそうになるくらいの優しい光。
ちぎれかけていたはずの腕が、再生していく。
「えっ、なんだ!?」
「クロード! アマリがっ!!」
再生しているのは、自分の腕だけではなかった。
アマリージョの顔にみるみる生気が戻ってくる。頬がうっすらピンクに染まっていく。
よく見るとルージュについていた、細かい切り傷も無くなっている。
「なんだ・・・これは!?」
驚いてルージュに尋ねる。
「何って・・・私だって分からないわよ・・・」
ルージュが呆然と答える。
「・・・すみません。緊急だと思ったもので、勝手に回復魔法を使わせてもらいました」
「!? 回復魔法? 今のが?」
声がした方を振り向きながら、ルージュが尋ねる。
「はい。そちらの方も助かりそうで本当に良かったです・・・あっすみません。申し遅れました。私はヴェール。ヴェール・アルビコッカと申します」
そこには、背の小さい、長い髪の少女が立っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ベールの名前をヴェールに変更しました。2019.1.27
オーガは、腹の底から怒りに満ちた恐ろしい声を絞り出すと、牙をむきだし狂ったように噛みついてくる。
人間を喰らう魔物が、都合良く飛び込んできた獲物を食べない訳がなかった。
――――ガキンッ!!
俺の腕は内側から土の魔法で補強がしてある。
補強といっても石程度の硬度だが・・・
だからって、噛みつかれても平気なわけではない。
些細な違いと言えば、食いちぎられるまでの時間だろう。
すぐか・・・
3秒後か・・・
でも、今は、その数秒に全てをかけていた。
噛み付かれた腕に激痛が走る。必死に手を伸ばし、オーガの喉の奥深くに握ったスマホを投げ込んだ。
そして、手のひらからは、大量の砂が放出される。
慌てたオーガが、俺の腕を噛みちぎろうと、さらに強く牙をたてた。
このままじゃちぎれる・・意を決して無理矢理引っぱると、ゴリッという嫌な音と共に腕が抜けた。
腕の肉は削がれ、骨がむき出しになっている。辛うじて繋がってはいた。
「ソレハ、サキモ、ミタ。オナジテハキカナイ」
「クロード!!! 何やってるの!!? 腕が・・腕が・・・」
ルージュの声が震える。
「いいんだ・・アマリも・・命をかけた。俺もだ」
朦朧とする意識をなんとか必死につなぎ止める。
「バカじゃないの!? なにやってんのよ!! 命かけたって、もうこれで、完全に勝てなくなったわ。 私の攻撃も効かないし・・・もう手がないのよ・・」
「ルージュ・・・違う・・」
「何が違うのよ!! なにが・・・っ、腕が・・・骨見えてるのよ」
ルージュの頬を涙が伝う。頬を伝う涙が、地面にこぼれ落ちる。
「いや、ちがう・・違うんだよ。こういう時は・・・こう言うんだ。俺の名前は箱崎玄人。ここにいる仲間と以前殺された、仲間の父親の仇のために、お前を討つ」
俺がそう言うと、オーガが急に苦しみ出した。
「ほら、ルージュ・・君がとどめをさすんだ・・・」
取れかけた腕を押さえながら、ルージュを促す。今はもう、意識を保って立っているのが精一杯だった。
「一体何が起きてるのよ!! なんで・・?」
「オーガの身体をよく見てよ。内側から剣で刺されてるだろ。あれ、もともと携帯の収納にしまってた剣とかのガラクタなんだよ。それを無理矢理食わせてから、ヒカリが中で元のサイズに戻したんだ」
ルージュを見て、柄にも無くウインクしてみせた。意識が途切れ途切れになってきていた。
「それで・・そのために腕を・・・。クロード、無茶し過ぎ。でも・・ありがとう」
「あぁ、気にするな・・・」
ルージュが涙を手で拭う。そして大きく深呼吸をして顔を上げると、凜とした空気があたりに張り詰めた。
「我が名はルージュ・・・ルージュ・ロズトレッフル。そしてあそこにいるのが、アマリージョ・ロズトレッフル。昔、眷属に殺された父の恨み、そしてアマリージョの安らぎのために・・・お前が何度蘇ろうと、その度にお前らを一掃してやるから、私たち姉妹の名前を覚えておけ!」
ルージュが折れた剣を片手にオーガに真っ直ぐに近づいていく。
腹のなかで大量の剣が飛び出したとはいえ、致命傷にはならなかったオーガ。
だが、近づくルージュに反撃しようと身体を動かすと、内側から突き刺さった剣が邪魔をして動けない。
「死ね!」
ルージュがオーガの後ろ側に回り、折れた剣に力を込めて少しずつ喉を切り裂いていく。
「グオオオオオオオオォォォォォ!」
オーガの断末魔が響き渡り、オーガが黒い霧と化す。ゴブリンとは比べものにならないほどの濃く、暗黒のような霧が立ちこめた。
霧が晴れると、そこには腹の中で飛び出た剣とスマホ、そして禍々しく光る魔石が転がっていた。
「アマリっ・・・!!!」
ルージュがアマリージョの元へ駆け寄り、しゃがみ込む。
「アマリ! アマリ!! 聞こえてる? やったわよ! アイツを倒した。クロードにも迷惑かけたけど・・・ほら、だから・・アマリ・・ アマリ・・・」
ルージュがアマリージョの肩をに手をかけ揺さぶった。
だが、アマリージョが反応することはなかった。
『残念ですが、治せる術がありません』
ヒカリの沈痛な声が響く。
「ヒカリ、俺の時みたいに魔石を入れたりして何とかならないの?」
『腕の傷くらいなら、その方法も使えますが・・・もうその時間も、体力も・・・』
「アマリ・・・ルージュ・・・すまない」
自分の無力さに泣けてくる。自分は魔石を入れてから、なんだかずいぶん強くなった気がしていたがそんなのただの思い上がりだ。女の子一人救うことができない。
「なんでクロードが謝るのよ・・」
「あ、いや・・でも・・ごめん」
涙で視界がゆがむ。
「クロードも手・・・握ってあげて・・・喜ぶから・・」
ルージュはアマリージョの手をしっかりと握り、反対の手で優しく彼女の髪をなでていた。
彼女たちは 小さいときから二人で支え合って生きてきたのだ。
きっとルージュは昔から、アマリージョに悲しいことがあると、こうして慰めていたのだろう。ルージュの心境を考えると胸が締め付けられる思いだった。
「あぁ」
短く返事をすると、左手でアマリージョの手を握る。
『人が来ます。おそらく後から現れた増援と戦っていた、討伐隊の方だと思われます』
「討伐隊? それで、ゴブリン達が来たわけか・・・て、その人達、傷薬とか持ってないの?パッと一瞬で治って、アマリも助かるんじゃ・・」
なんとかしたい一心だった。
「そんなの薬あるわけないじゃない。多少の傷は癒やせても・・・こんな深い傷は・・・」
「じゃ魔法は? 回復するようやつ・・・」
藁にもすがる思いで、口にする。
「そんな回復魔法が使えるのは、教会の司祭様くらいよ。寄付も高いっていうし。気持ちはうれしいけど、もうそっと・・・静かに眠らせてあげて・・・」
「そうか・・・そうだよね、ごめん」
なんだか、自分だけがひどく取り乱していて恥ずかしい。
「いえ、いいの。でも・・クロードありがとう。きっとアマリージョも感謝してるわ」
「そんな・・・俺、なにもできなくて・・・ごめん」
人が死ぬという事を、自分は本当に考えたことがなかったのだと今さらながら痛感する。
自分が死ぬこと、親しい人間が死ぬこと、そんな違いさえ理解していなかった。
後悔があるとすれば、自分の考えの甘さだった。
こんなことなら・・・俺が。
後悔してもしきれなかった。
・・・
「骨は骨、肉は肉となり、皮は皮へ。神に仕えし小さき者たちに、祝福の光と癒しの風を・・・《エリアヒール》」
暖かい新緑の光が、アマリージョを中心に3人を包む。
全てを忘れてしまいそうになるくらいの優しい光。
ちぎれかけていたはずの腕が、再生していく。
「えっ、なんだ!?」
「クロード! アマリがっ!!」
再生しているのは、自分の腕だけではなかった。
アマリージョの顔にみるみる生気が戻ってくる。頬がうっすらピンクに染まっていく。
よく見るとルージュについていた、細かい切り傷も無くなっている。
「なんだ・・・これは!?」
驚いてルージュに尋ねる。
「何って・・・私だって分からないわよ・・・」
ルージュが呆然と答える。
「・・・すみません。緊急だと思ったもので、勝手に回復魔法を使わせてもらいました」
「!? 回復魔法? 今のが?」
声がした方を振り向きながら、ルージュが尋ねる。
「はい。そちらの方も助かりそうで本当に良かったです・・・あっすみません。申し遅れました。私はヴェール。ヴェール・アルビコッカと申します」
そこには、背の小さい、長い髪の少女が立っていた。
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