光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第2章 光と「ウール村」

71話 姉妹の絆

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 森に入ってすぐに、敵の増援と遭遇する。
 ゴブリンは10匹程度。
 残りは獣型の魔物だ。

「くそっ! ちょこまかと・・・《ストーンブレッド》」
 苛立ちながら、直線上に入る敵を、石の弾丸で次々と倒していく。

『敵も勝てない事を悟っていますね。さきほどから一定の距離を保ったまま、それ以上は近づいてきません』

「チッ! 今度は向こうが時間稼ぎかよ。仕方ない・・・あれやってみようか」

『了解しました』

 大きく息を吸いながら、その場に膝をつき、両手を地面につける、

『魔法陣展開、魔素を充填します』
 身体から、大量の魔素が持っていかれるのが分かる。

『構成魔法陣置き換え、複製・・・転送準備・・・再構成・・・索敵・・・ターゲットロックオン・・・いけます』

「よし! ・・・《アーススピア》」
 地面に置かれた両手から、周囲に向かって魔法が発動する。

 地を這う雷が如く、地面を魔力が駆け抜ける。
 円周上に広がった魔力は、魔物の足下で止まり、小さな魔法陣を無数に形成する。

 目の前に閃光が走った瞬間、世界がゆっくりと暗転した。

     ♣

『・・・ド! ・・玄人クロード。起きてください! 大丈夫ですか?』
 遠くからヒカリの声が聞こえる。

「・・・ん・・あぁ、ごめん。どれくらい意識失ってた?」
 ぼんやりした頭を振りながら、体を起こす。

『5分ほどです』

「なら、まだましか」
 周囲を見渡すと、土の槍が地面から無数に飛び出している。
 その槍の先には、先ほどまで周囲を囲んでいた魔物。
 所々に魔石も転がっていた。

「魔素の消費が激しすぎて気を失うなんて、やっぱり実戦向きじゃないよね、コレ」
 自嘲しながら、肩をすくめる。

『まだまだ、改良の余地ありです。と、それよりも早くルージュたちと合流を』

「ああ、そうだった。急がないと!」
 体内の魔素を急激に失ったため、焦れば焦るほど身体が思うように動かない。
 それでもなんとか気力を振り絞り、ふらつく足取りでルージュたちの元に向かった。

     ♣

「姉さんっ!!」
 ルージュは、アマリージョが思っていたよりもはるかに強かった。
 だが、オーガを圧倒するまでには至らなかった。
 なぜなら、ルージュの持つ武器では、オーガの皮膚を貫けないからだ。

「せめて、一箇所でも穴が開けられれば・・・」
 ルージュが悔しそうに、歯ぎしりしながら呟いた。
 斬りつけるルージュの動きは目を見張るほどに素早く、攻撃が次々に当たる。

 しかし、斬れるのはオーガの薄皮一枚のみ。
 一滴の血を流すことすらない。

「あとは口の中か・・・そこなら・・・それに敵が合流する前になんとかしないと」
 自分のやれることはすべてやった。覚悟を決めるルージュ。
 アマリージョに出来ることは、もう何もなかった。

「フハハハハハハ。ニンゲンミナゴロシ、オレハ、ジャシンニウマレカワル。ジャマヲスルナ」
 オーガが不気味な笑い声をたてながら、不敵な笑みを浮かべる。

「なっ!?  邪神に変わる・・?  生まれ変わるって言った今?」
 ルージュの顔色が変わる。

「アア、ニンゲンノイケニエ、コロシテ、チカラエル。オマエタチツヨイ。コロシテチカラエル」

「アンタ、何言ってんの? 全っ然わかんないわよ!」

「眷属は邪神を呼ぶ存在ではなく、邪神になる存在? 姉さん・・ここは一旦、撤退しましょう。 せめてクロードさんが戻ってくるまで・・・」
 アマリージョが懇願する。

「コイツはどうせここで死ぬんだから、邪神とかどうでもいいって言ってんのよ!!」
ルージュはそう叫ぶと、一瞬でオーガの背後に回り込み、背中を斬りつける。
 だが、浅い傷が一筋ついただけだった。

「バカガ・・ダカラ、ムダダト・・・」
 オーガが勝ち誇ったような口調で言い、ゆっくりと振り向く。

「バカはアンタよ!!」
 振り向きざま、ルージュの剣がオーガの口の中に吸い込まれるように突き刺さる。

「イヤ、オマエダ!」
 オーガの目がキラリと光ると、口に刺さったはずの剣を噛み砕かれる。

「!!」

 ルージュの一瞬の隙を突いてオーガが剣を振りかぶる。
「シンデ、ワレノカテトナレ」
 振りかぶった剣が、真っ直ぐ、ルージュに打ち下ろされる。


「姉さんっっ!!」
 どこかでアマリージョの声がする。

 その瞬間、世界がスローモーションに変わる。
 目の前に近づく鉄塊。
 オグルベアに襲われた時の事を思い出す。

 だが今、ここにクロードはいない。

 アマリージョと復讐しようと誓ったあの日。
 父親も死んでしまった。

 村に移り住んだ日。
 母親が出て行ってしまった。

 もう何もない。

 もうアマリしか。
 アマリージョ・・・可愛い、可愛い、私の妹。
 アマリージョ・・・ごめん。
 絶対に一人にしないって約束したのに。

 静かに目を閉じる。
 頬を生暖かい感触が伝わる。

 その濡れた頬を誰かがそっと優しく拭う。
 ・・・誰?
 ・・この手・・・ア・マリ・・?

「・・っ!! アマリージョ!?」
 ルージュが我に返る。

 目に光が戻る。
 空がまぶしいほどに明るかった。

「助かった・・・」
 そう呟いて、辺りを見回す。なんだか体が生暖かく、ひどく重い。

 次の瞬間、目を見開いてギョッとする。
 アマリージョが仰向けに横たわる自分の上に覆い被さるように倒れていた。

「アマリ!!」

「姉さん・・・良かった。姉さんは負けちゃ駄目。私の姉さんは世界で一番強くて・・・カッコいいんだから・・・」
 アマリージョが微笑んだ。
 だが彼女の声はひどく掠れていた。

「うん。アマリ・・・ありがと」
 微笑みながら答える。

「・・・」

「アマリ?」
 アマリージョから返事はない。

 アマリージョを抱きかかえながら、そっと上体を起こして息をのんだ。
 周囲が真っ赤に染まっている。
 その瞬間、体を包む生暖かい感触が、大量に流れた血液だったことに気がつく。
 なぜ!? 自分はどこも斬られてはいない。

「!! ・・・アマリ!?」

 アマリージョの体に目をやった瞬間、全身の血の気が引き、体が凍りつく。
 大きく斬られたアマリージョの背中からは、大量の血液が止めどもなく溢れ出ていた。  

「いやあぁあああああああ!!」
 ルージュの絶叫がこだました。
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