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第2章 光と「ウール村」

62話 カーリング

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「うっ・・ん? 気持ちわる・・いってぇぇぇ! 頭・・痛い・・・」
 吐き気と頭痛、猛烈な喉の渇きに襲われた、最悪の目覚めだった。
 ふかふかのベッドで目覚める2回目の朝。
 格好はなぜかパンツ一枚。
 昨晩の記憶はおそろしいほど無く、完全に二日酔い。
 酒は日本でも普通に飲んでいたのに、こんなに酔ったのは初めてだった。
 身体の構造が変わって酒に弱くなったのか・・・それとも異世界の酒が身体に合わないのか・・・いろいろと考えを巡らせるのも煩わしかった。

――ヒカリ・・・おはよう。昨日って・・・

『――おはようございますクロード。昨夜は早々に酔ってしまったようで、ご機嫌で昔のことをいろいろ話したあと、酔いつぶれて寝てしまいましたよ。ちなみにこの世界のお酒には魔素が多く含まれていますが、身体が魔素に慣れてきていて、中途半端に順応していたため、必要以上に酔いやすかったのだ思います』

――魔素ね・・・え、でも昔のことって・・あ、頭いてっ・・なんだか、おでこがガンガンするな・・腰も痛いし、まぁいいや。それより俺、自分でベッドまで来たのかな? みんなどうしてたの?

『――酔って寝てしまった後、ブルーノも片付けを手伝うと言っていましたが、朝早くに村を発つ彼を気遣ったルージュとアマリージョが無理矢理帰していました。その後で二人で皿洗いをして部屋を軽く片付けた後、アマリージョが風魔法を使いクロードの体を軽くしながら抱えてベッドまで運んでいました』

――そうか・・・アマリが運んでくれたのか。でも二人には迷惑かけちゃったな

『ちなみに、運んでいる時にルージュが面白そうだから自分にもやらせてくれと言って、玄人クロードを二階まで運んだ後、廊下を滑らせたりして遊んでいました。その時に一度階段から滑り落ちてしまい、あちこちぶつけていましたので、おでこが少し腫れているのはそのせいだと思います。その後、彼女なりに反省したらしく、そっと抱えて運んでいましたが、アマリージョにものすごく怒られていました』

――・・・ルージュ・・・じゃ今、頭が痛いのは、二日酔いというより、ぶつけたからなのか・・・なんで二日酔いで腰が痛いのかも謎だったけど、それって床滑らせたりして階段から滑り落ちたからだよね? まあ、ひとりで勝手に酔いつぶれた俺が一番悪いんだけどさ・・・。

 なんとなく釈然としない思いを抱きなからも、大いに迷惑をかけてしまったのは事実なので、後で謝りに行こうと、重い頭で考える。

『――えぇ、ちゃんと謝っておいてくださいね。あと、服を脱いでいた件ですが・・・』

――!! え!? 服脱いでたのって何かあるの? 普通に脱いで寝たんじゃないの?

 まさか、まだ何かあるのか? いや、きっとまたヒカリジョークだろう。うん、きっとそうだ。

『――ベッドに運ばれて、布団をかけてもらった途端、ガバッと起き上がり「俺は勇者だー!!」と大声で叫びながら脱いでいましたよ』

――!! 嘘だ!! 嘘だよね? そんなことあるわけない! 俺はマナーの良い酔っぱらいだったんだよ、少なくとも日本にいたときは・・・。

『――魔素ってこわいですね』

――・・・うん。そうだね、なんかごめん。あの、その時・・ルージュとアマリージョは・・?

『――そうですね。大笑いして、呼吸困難になりかけていましたよ、特にルージュが。あ、言い忘れていましたが二人はそのまま泊まって、隣の部屋でまだ眠っていますよ』

――!! また失態を見られてしまった挙げ句・・・泊まっていったのか。ヒカリ・・なんか記憶を消す装置とか作ってないの? あっ、でも布団とか、何も無かったのにどうしたんだろう?

 完全に頭が混乱して、考えが全然まとまらない。

『――昨日の収穫で残った藁がまだ沢山ありましたら、それでベッドを作って休んだようですよ』

――何そのアルプスの少女的なベッドは・・・羨ましいけど・・・でも、そんなことしたら部屋の中、藁だらけじゃん

『――使っていない部屋ですし私が許可しました。だから文句は言わないで下さいよ。まずはお礼ですからね・・・お・れ・い』

――ヒカリがすでに許可してるのか・・・じゃあ、まぁしょうがないか

 なんだか朝から途方もない疲労感を感じていた。もはや重いのは気分なのか、体なのかわからなかったが、なんとかベッドから起き上がりとりあえず目に付いた服を着ると、よろけながら部屋を出て、階段を降りた。
 台所で顔を洗い、湧き水をコップになみなみと注ぎ一気に飲み干す。
 体のすみずみにまで染み渡るような美味さだった。
 そうしているうちに、なにやら2階から話し声がして階段を降りてくる足音が聞こえた。
 先手必勝だ、昨日の失態を先に謝ってうやむやにしてしまおう。

「あのっ・・昨日・・・」

「あっ! 勇者だ!! おっはよー」
「ふふっ・・姉さん! クロードさん、おはようございます。気分はいかがですか?」
 無邪気なルージュと、困った顔をしながらも口元の笑いが隠しきれていないアマリージョに先手を取られてしまった。

「うん・・おはよう。なんか、ごめんね・・・昨日すっごい迷惑かけちゃったみたいで」
 完全に出鼻をくじかれ、素直に謝罪することにした。
 しょんぼりしている俺を見て、アマリージョは、「酔っていたので仕方が無いですよ」と慰めてくれたが、ルージュはひたすら笑いをこらえているように見えた。
 この一件で、少し距離が近くなったような・・・それは気のせいか。

 その後、3人で話し合い戦闘力強化のため2日に1度狩りに行くことになった。

 数日が経過し、俺の土魔法は、毎日練習して強化に努めているので、日を追う毎に強くなっていくのが分かった。
 それに3人での立ち回りも日々向上しているようで、狩りはもちろんのこと、単体の魔物にも苦戦するようなことが無くなっていた。

 ルージュが前衛、俺が中盤で、アマリージョが後衛。
 基本的にルージュが好き勝手に戦う。
 アマリージョがそれを補助をする。
 俺はその状況を見極めつつ、たまに土の弾丸を撃って援護する。

 魔物が2匹以上で現われた時は、俺も前へ出てルージュの邪魔にならないように、ひたすら殴って、どんどん土魔法を使うように努めた。

 3人で行く狩りも含めて、生活は楽しかった。
 食べ物が基本的に肉オンリーになりがちなのが残念と言えば残念だったが、慣れてくると肉本来の味が美味しいと感じ始めてきた。

 そんな毎日だったが、この世界の生活にもずいぶん慣れた。
 ヒカリは相変わらず部屋にこもりっきりで、何か忙しくしているようで、たまに会話に入ってくる程度だった。

 酔って醜態をさらしたあの日から、2カ月が過ぎようとしていた。


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