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第2章 光と「ウール村」

56話 配達と買取

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「こんにちは。ブルーノ商会です。クロードさん、商品お届けに参りました」
 ドアがコンコンとノックされた。

「はーい。わざわざすみません」
 そう言いながら玄関のドアを開ける。
 そこには、ブルーノと部下らしき男が5人立っていた。

「どうも、クロードさん。さきほどはお買い上げありがとうございました。では、商品をお運びしますね。ベッドなどは、場所をおっしゃって頂ければ、こちらで設置いたしますので」
 ブルーノはにこやかに言い、軽く頭を下げた。

「ありがとうございます。じゃあ、さっそくですが、ベッドは二階の一番手前の部屋で、保存庫は台所に、テーブルセットはそっちのスペースにお願いします」

「はい、かしこまりました。では作業に取りかからせていただきます」
 ブルーノはそう言うと、部下の男たちに指示を出す。
 馬車からは荷物が次々と下ろされ、手際よく運ばれていく。
 無駄の無い、実に見事な仕事ぶりのおかげで、がらんどうだった家がみるみると生活感あふれる空間に変わっていく。
 30分ほどで、全ての作業が終わった。完璧な仕事ぶりが、ブルーノ商会の有能さを物語っているようだった。
 見違えるようになった部屋に、軽く感動すら覚えながらブルーノと部下5人に、丁寧にお礼を言う。

「こちらこそ、たくさんお買い上げいただいてありがとうございました」
 とブルーノが言うと、部下の中で一番年長らしき男が
「ありがとうごさいました。また、何かご入り用の際はいつでもお声がけ下さい」
 と愛想よく言い、頭を下げた。
 その後、ブルーノの部下たちは馬車とともに一足先に帰って行った。

「では、さっそくで申し訳ありませんが、先ほどお話いただいた貴金属を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
 ひとり残ったブルーノの顔が、愛想の良い商人の顔から、抜け目のない、やり手の商人の顔つきに変わる。

「はい。じゃあ、そこのテーブルに並べるので、座って待ってて下さい」
 そう言って台所に行き、奥に隠すように置いてあった袋を取り出す。ずっしりとした重みを両手に感じた。

「お待たせしました」
 そう言いながら袋をテーブルの上に置き、ひとつひとつ取り出してテーブルの上に並べていく。

「では、拝見させていただきます」
 ブルーノはそう言うとルーペを取り出し、慎重かつ丁寧な手つきで鑑定していく。
 邪魔をしないように、音を立てず、そっとブルーノの向かい側の席に着く。
 ブルーノの真剣な仕事ぶりに引き込まれるように、時間も経つのも忘れ、目の前で繰り返される作業を眺めていた。
 鑑定が終わりにさしかかる頃、ふと気づくと、いつの間にかルージュとアマリージョも席に着いていた。

「二人も興味あるの?」

「そりゃあるわよ!」「はい。綺麗ですから」
 アマリージョはともかく、ルージュも興味あるんだ・・・てっきり木製のものにしか興味が無いのかと 思ってたけど、やっぱり女の子なんだな。
 そんなことを思っていると、ブルーノがルーペをコトリとテーブルに置いた

「どうでしたか?」
 ブルーノがすべて鑑定し終えたのを確認して声をかける。

「ええ、品物は悪くないです。金製品は買い取ることも出来ますが、値段が格段に安いです。せっかくですから、ご自身で大切にされるのも悪くないと思います。あと、申し訳ありませんがこちらは買い取りできません」

ブルーノはそう言いながら、シルバーで出来た品や金のネックレスなどを返してきた。

「金は人気が無いんですか?」
 日本にいた時の金の価値とは、だいぶ違うような気がしたので聞いてみた。

「そうですね、このくらいの品だと単純に金貨のほうが純度が高いので価値は薄いです。もちろん金を加工した装飾品もあるのですが、見ようによっては嫌味なお金持ちに思われるので、装飾品としては、人気がないんですよ」

「あぁ、なるほど確かに。それに人気があったら金貨溶かして、加工したほうが儲かりそうですもんね」
 うんうん、と納得しながら答えると、

「冗談でもやめてください! 通貨を勝手に加工したら死罪ですからね!」
 いつも冷静なブルーノからは想像もつかない、咎めるような口調だった。

「そりゃ、そうですよね。すみません」
 頭をかきながら、つい軽口を叩いてしまったことを反省する。
 どこの国でも通貨を偽造したり、鋳つぶしたりするのは犯罪なんだな。
 確かに、好き勝手に出来たらお金の信用が無くなるか・・・

「一応、説明しますと金貨だけは、特別通貨と呼ばれていて、純度が細かく規定されているんです。この純度は7年に一度、各国の代表が集まって決定されるもので、国によって形や紋様が違うのですが、重さと純度が同じなので共通の通貨として、国をまたいでの取引にも用いられるんです。ですから、余計に金に対する扱いが難しいのです」

「それって下手にネックレスとか持っていたら、国によっては捕まったりするって事ですか」
 また、怒られると嫌なので、おそるおそる聞いてみた。

「そういうことですね。ですから金は買い取りづらいんです」
ブルーノは、優しく諭すような口調で言った。

「ちなみに、その共通で金貨が使える国ってどれくらいあるんですか?」

「えーと、そうですね。世界で特別通貨を使っているのは、エルフの里というか規模的に言うと国ですね。それと魔王が治める国、この2つの国以外全ての国で使えます。この二つの国も使えないことはないのですが、基本が物々交換なので、金貨は迷惑がられてしまいます」

「エルフと魔王!?」
 ゲームやアニメで見慣れたキャラクターたちだが、実際に居るとなるとやはり興奮してしまう。

「はい。まぁエルフの里に入れるのも限られた人だけですし、私もエルフは一度しか会ったことがありません。魔族に関しては、北の大地にいますが、遠くて取引自体をしたことがないので、通貨が使えても使えなくても、あまり関係ないですね」

「あの・・・すみません、何度も。その魔王っていうのは・・やっぱり世界征服とかするやつですか?」
 ひどく子供っぽいことを聞いているような気がして、ためらいながら口を開く。

「え、あぁ・・・それは厄災ですね。魔王は魔族の王で魔王です。悪い魔族もいるとは思いますが、魔物とも違いますので。長命で賢く、エルフと同様、魔法に長けた者が多いと聞きます。昔、厄災を討伐するために、人間と合同で戦ったという記録ありますし」

「そうなんですか? なんだ・・・別に悪い訳じゃないんだ」
 なんとなくホッとして気が楽になる。やっぱ魔王って聞くと、どう考えても最強ラスボスのイメージだもんな・・・。

「クロードのところじゃ魔王は悪い奴だったの?」
ルージュが興味津々に聞いてくる。

「あ、いや、そういう訳じゃ無いんだけど・・・まあ、いろいろとね・・・すみません、ブルーノさん。話を横道へ逸らしてしまって」
「いいえ、構いませんよ。雑談も商売の基本ですからね。むしろ疑問に思ったり、変だと思ったことがあれば、何でも言って頂きたいものです。実はそういう所にこそ、新たな商売の元が隠れていたりするものですから」
 ブルーノはそう言って微笑んだ。

「ありがとうございます。じゃ続きをお願いします」

「えぇ、あと残りのこちらが買い取り出来るものです。金額は全部合わせて金貨で31枚、310万ギリルです。内訳としては、一番高いのが、この青い宝石で100万ギリル。それから、こちらの透明な石が一つ5万~15万ギリル買い取りですから、18点分、合計で170万ギリル。残りの宝石などが43点、合わせて40万ギリル。合計で310万ギリルになりますね」
 ブルーノは、ひとつひとつ丁寧に指さしながら説明してくれた。青い宝石はサファイア、透明な石とはダイヤモンドのことだった。

「この青い宝石はサファイア、透明な石はダイヤモンドと呼ばれるものなんです。でも、ダイヤよりサファイアのほうが高いんですか? 俺の居た世界では逆なんですが・・・」
 釈然とせず、怪訝そうに聞き返してしまう。


「あぁ、そうですね。ダイヤモンドは確かに綺麗で貴重なのもわかるのですが、価値としては渡り人が好む価値ある装飾品というだけなんです。いわばプレミアがついただけの商品でして、買って行くのもコレクターばかりですね。それに引き替え、サファイアはとても人気がある商品なんです。元々青い色の宝石は、勇者伝説にある勇者が持つ指輪の色と同じとされていて、現存するものでは、渡り人が持ち込んだもの以外では、その伝わっている指輪しかないそうです」

「そんなに珍しいものなんですか? というか青い宝石くらいいくらでもありそうですけど・・・」

「それがそんなに簡単ではないんです。この世界で流通している宝石は大きく分けて2種類あります。一つは鉱山から掘り出されるものです。ただこれは全て濁った色をしていて、透明で透き通っている感じにはほど遠いですね。もう一つは、魔石を特殊加工する方法です。これは透明度も高く人気がある宝飾品です。ただ。こちらは元が魔石なので、自由に色を選べるという訳にはいかず、色や純度によって価値が違ってくる訳です。特に青色の魔石を落とす魔物は珍しく、大粒なものはブルードラゴンからしか取れないと言われていて、もし見つければ人生10回分は遊んで暮らせると言われています」

「なるほど・・・だからサファイアの方が価値が高いんですね」
 深く納得し、何度となくうなずく。

「その通りです」
 ブルーノは、すべてを理解してうなずく俺を見て満足げに笑う

――それにしても、ブルードラゴン・・・まさかそんな値段だったとは・・・今からヒカリを解体して、魔石を売れば・・・

『――クロード! 聞こえてますよ! 私を解体しようとすれば即、秘密フォルダが流出します』

――ギャー! ごめんなさいヒカリさま。冗談です・・・冗談・・・


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