光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第2章 光と「ウール村」

50話 自慢の姉

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 マンションで作業すること3時間。
 ほとんどの荷物を運び出し、馬車に積み込んでいるとルージュが突然叫んだ。
「クロード!!魔物が来るわ!!」

 同時にヒカリも話しかけてきた。
玄人クロード、魔物です。全部で14匹。全てゴブリンです。2~3キロ先をウロウロしていたのですが、どうやら気づかれたようですね。真っ直ぐこちらに向かってきています』

「魔物? 14匹か・・・多いな。逃げるにはまだ積み込みが終わっていないし。武器はとりあえず護身用で持ってきた包丁が3本・・・素手でもなんとかなるとは思うけど・・・どうなんだろう?」

『強さは問題ありませんが、数が多いです。戦闘については、経験不足ですから素手だと不安要素が残ります』

「ゴブリン14匹くらいなら、私とアマリでやるから、クロードは休んでていいわよ」

「そうですね。前回はやられたところしかお見せしてませんし」

「え?うそ、やるって、二人で? 本当に大丈夫なの?」
 冗談とも本気ともつかない二人の言葉に、戸惑ってしまう。

「気になるなら、いつでも助けに来てくれて構わないわよ」
 ルージュの口ぶりには、余裕さえ感じられた。

「そりゃ、そうなんだけど」

『来ました』
 ヒカリがゴブリンの到着を知らせた。

「アマリ、行くわよ」

「はい、姉さん」
 アマリージョが返事と同時にルージュに風魔法を付与する。
 ルージュの走る速度が急激に上がる。

 ゴブリンたちは、ものすごい速さで向かってくるルージュに気づき、戦闘態勢に入る。

「ゴブリン全員、剣とかナイフとか持ってるけど大丈夫なの?」
 不安になりアマリージョに尋ねる。

「大丈夫です」
 アマリージョは自信たっぷりにそう言うと、風魔法をゴブリンの集団めがけて放った。
 風魔法は突風となり、ルージュの背中を押す。
 ゴブリンたちは、目の前から来る突風に一瞬、顔をそむけた。

「!?」
 気がつくと、先頭の2匹の頭にナイフが突き刺さっていた。
 倒れながら黒い霧に変わっていくゴブリン。
 霧が晴れると、小さな魔石が光りながら地面に落ちる。

 ゴブリンたちは、何が起きたか分からずに一瞬動きを止めた。次の瞬間、一番後ろにいたゴブリンが叫び声をあげた。
「グギャー!!」

 ゴブリンたちが後ろを振り返る。

 そこには、喉を切られて黒い霧に変わりつつあるゴブリンと、そのゴブリンの持っていた剣を持って立つルージュがいた。

「すげ・・、かっこいい・・・」
 驚きと感嘆で思わず声が出た。

「はい! 自慢の姉ですから!」
 アマリージョが嬉しそうに、今まで見た中で、一番最高の笑顔で応える。

「でも、ここからが本番ですよ」
 アマリージョが風魔法を発動させながら言う。
 発動された風魔法は、ルージュの身体を覆い、薄い空気の層を作り出しているようだった。

「あれは?」

「防御魔法です。攻撃の軌道を変えて致命傷を避けるんです」

「なるほど、そんな使い方もあるのか」
 その後のルージュは、圧巻だった。
 力強く華麗。
 その姿は息をのむほど美しかった。
 まるで踊っているかのような軽い足取りで、次々とゴブリンを倒していく。

 呼吸するのも忘れ、ただただ見とれた。

 気がつくと、ルージュが最後のゴブリンにとどめを刺していた。

「強い・・・し、綺麗」
 出てきた言葉がこれだけ。

「はい!」
 それでもアマリージョは嬉しそうだった。

「ねぇ、アマリ。ルージュってあんなに強かったの?」
 息をつき、まだ夢見心地のまま、聞いてみた。

「はい。そうですけど」
 アマリージョは誇らしそうに少し胸を反らしながら答える。

「あんなに強かったらオグルベアもなんとかなりそうなのに」

「はい、そうなんです。私がドジを踏まなければ、逃げるくらいは全然問題なかったんですけど・・・」

「え、そうなの? でもアマリって、しっかりしてるから、そういうミスとかしなさそうだけど」

「・・・くも・・・」

「ん?」

「くもです」

「何?」

「あの時、魔法を発動する寸前に、顔の上に大きい蜘蛛が落ちてきたんです。それでびっくりして・・・魔力も全部使っちゃって・・。気を失うまでじゃなかったので、走って逃げたんですけど、もう魔素もなくて、やられちゃったんです」

「そうだったんだ」

「でも姉さんは一人なら余裕で逃げられたんですよ。でも私のことかばってくれて。それで死にかけたのに・・・結局助かったんだし、そんなこと気にしなくていいからもう忘れなさいって・・・姉さん、いつも笑ってるんです」

「いいお姉さんだね」

「はい。最高の姉です!」
 アマリージョは、少し目を潤ませながら、輝くような笑顔で答えた。


「それにしても、アホだ、アホだと思っていたルージュがね・・・でも、何か秘めたるものがあるような気配があったのは確かだし、ちょっと見る目が変わったかも」

「だと、私も嬉しいです。せっかくだから、姉さんにも言ってあげてください。すごく喜びますから」

「そうか、あんまり褒められたりしなさそうだもんね」

「そうなんですよ」

 アマリージョにそう言われたので、2人で一緒にルージュを褒めようと思い、ルージュに近寄っていく。

「おーい、ルージュ! ごめん、俺、ルージュのこと勘違いしてたみたいで・・・本当は・・・すごく・・ん?」

 不審に思い、近づくとルージュが膝をついてがっくりとうなだれていた。

「どうした? 大丈夫か!? どこか怪我でもしたのか!」「姉さん!!」
 アマリージョと2人で慌てて駆け寄った。

「魔石、魔石、魔石・・・なんで? 一個足りないわ・・もう、どこに転がっちゃったのよ~!」

 ルージュは、地面にしゃがみこみ、必死に魔石を探し回っていた。
 呆れながらもホッとしつつ、アマリージョを見ると、
「こういうところが、姉のいいところなんです」
 と、優しく笑った。

「まぁ、俺もそう思う」

 その後、三人で魔石を探し、残っていた荷物を馬車に積み込み、村へと戻った。
 もちろん、ルージュの希望どおり、水を積めるだけ積んで・・・
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