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第2章 光と「ウール村」

41話 鯉でごじゃいます

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 小麦畑を見ながら歩くこと数分・・・村長の家に着いた。
 奥にはハシゴのついた、高さ20メートルくらいの見張り台が見える。
 ケナ婆の家はその見張り台の隣にあるらしい。

 ルージュ達は既に中にいるようだ。
 アマリージョの案内で中に入ると、部屋の真ん中にある大きなダイニングテーブルで、ルージュとケナ婆がお茶を飲みながら、なにやら会話をしている。

「よく来てくれたね。まあ、こっちに来て座りなさい。あんたたちも何か飲むかい?」
 ケナ婆がこちらを見て話しかけてきた。

「あ、いえ。お構いなく」
 荷物を入り口に置きながら、遠慮がちに返事をした。

「でも本当に無事で戻って来られて良かったわ。アマリがやられた時はもうダメかと思ったもの」
 どうやらルージュは先に、何があったのか話していたようだ。
 ルージュの言葉にアマリージョも深くうなずく。

 ケナ婆に促され、それぞれ席に着く。
 テーブルの正面にケナ婆、両側にルージュとアマリージョ。

――なんか逃げづらい上に、正面からのプレッシャーが半端ないな・・・

 そわそわと落ち着かない気持ちで、部屋の中に視線をさまよわせていると
「はて、そちらの方は座らんのかね?」
 ケナ婆が入り口の方に向かって呼びかけた。

――???これで全員座っているはずだが?

「そんな所に居ないで中に入って座ってくれんか?」
 ケナ婆が再度、話しかける。

――???

「私とアマリと、クロードの三人しかいないわよ」
 ルージュがケナ婆に不思議そうに言った。

「そうなのか?入り口にかなり分かりづらいが、漏れている魔素を感じたんでな。最近は目も悪いし魔素でばかり物を見ていて・・・これは失礼なことをしたかな」

「あ、いえいえ。大丈夫です」
――!これ絶対ヒカリだよな。大丈夫って言ってたのに・・・

「それでケナ婆、話ってなんなの?」
 ルージュがその場の空気を変えるように、俺とアマリージョのお茶をカップに注ぎながら、ケナ婆にたずねる。

――ナイス、ルージュ。やれば出来る子!

「おぉ、そうじゃそうじゃ。まずはクロード殿。ルージュとアマリージョを助けて頂き感謝する。それとオグルベアの件も、にわかには信じ難いが、本来なら金を払って冒険者に依頼するところを討伐までして頂けた。本当に感謝する」

「あ、いえ。さっきも言いましたけど、たまたまの成り行きだったので。気にしないでください」

「あ、そうだ、ケナ婆さま。これです。オグルベアの魔石です。見てください」

――そうだ、魔石はアマリージョに持たせたままだった。まあいいか

「おぉ・・・この大きさならば、まず間違いなくオグルベアであろう。しかし、よくこの大きさを一人で倒せたものじゃ・・・」

 ケナ婆は驚きとも呆れともとれる表情を浮かべ、魔石をアマリージョに返す。
 魔石を受け取ったアマリージョは、そのままポケットに魔石を押し込んだ。
「アマリ、魔石袋はどうした?」

「あっ、すみません。襲われた時に落としてしまいました」
 アマリージョが申し訳なさそうに答える。

「そうか・・おぉ! そうじゃった。お前たちの荷物はうちで預かっておったんじゃ」
 ケナ婆はそう言いながら立ち上がり、奥の棚から大きめの袋と、弓矢とナイフを出してきた。

「あ!落とした荷物はケナ婆さまが預かって下さっていたのですね」
「あ!私の弓も」

「ああ、サンノが持ってきたんじゃ。それよりも、ほれ」

「すみません。これからは気をつけます」
 アマリージョは、そう言って、大きな袋の中から、10センチくらいの小さな袋を取り出して、魔石をその中に入れた。

「それは?」
 何が何だか分からないので、そのまま聞いてみた。

「あ、これは魔石袋と言って、魔石を入れておく袋です」
 アマリージョが説明してくれる。

「魔石は、そのまま放置しておくと魔物になってしまう時があるのよ。でもその袋に入れておくとそれが防げるの。まぁ狩りに行くとき必ず持って行く袋ね」
 ルージュが補足してくれた。

「なるほど」

「もうええか? それはそれとして・・クロード殿は、この村に移住をしたいと、先程、アマリも言っていたが、そうなのか?」
 ケナ婆の目の奥に真剣な光が宿る。
 どうやら、こちらが本命の質問のようだ。

「はい。可能であるならば、こちらの村に移住をしたいと考えています」
 ヒカリとシミュレーションした通り、当たり障りがなく、かつ足下も見られないように返答する。

「移住はお主一人でええのか?後ろの御仁は?」

――こんなの練習してないぞ。というか、全部見透かされてる気がしてきた

 予言までは出来なくとも、恐ろしく勘が鋭いのは間違いない。
 ヒカリが気づかれるほど漏れていないと言った魔素も感知されている。

――もう、正直に話して助力を得たほうがいいんじゃないだろうか
 大きく息を吐き、下を向きながら考える。
 ルージュとアマリージョは、心配そうにこちらを見ている。

――ヒカリ、どう思う?

『――そうですね、もうここは正直にお願・・・・』
 ヒカリが通信で返事をしてきたタイミングで、ケナ婆が口を開く。
「そうじゃな・・・それがいいと思うぞ」

「え!? 何がですか? それは、どういう・・・」
――まさかヒカリと通信してたのが、聞こえていたのだろうか・・・
 驚いて激しく動揺していると、ケナ婆が更に続けた。
「移住を認めよう。後ろの御仁もな」

「え!?、なんで?」
 取り繕うことも忘れ、思わず大きい声を出してしまった。
 ルージュとアマリージョも一緒にキョトンとした顔をしている。

「移住したいんじゃろ?それを認めてやると言っておるのに、なんで? とはおかしなもんじゃ」

「え・・あ、まあ、そうなんですけど・・・」

「とりあえず少し落ち着け。しかしお主の魔素はなんと言うか・・・強すぎて目が眩んでくるのぅ」

「あ、すみません・・・」

「かまわんよ。それと後ろ御仁もここへ連れて来てくれんかの?人ではなく、魔道具の一種かとは思うが」

――やっぱり、バレてたよ・・・
「・・・はい」
 入り口に置いてある荷物からヒカリを取り出して、机の上に置いた。

 ケナ婆が、目を閉じて大きく深呼吸してから話しだす。
「お主らは、渡り人じゃな」

「!!」
 突然、核心を突かれ息をのむ。

――もしかしてルージュが話した?

一瞬そう思ったが、ルージュも驚きは同じだったようで
「なんで?何も言ってないのに、どうして分か・・・」
「ルージュ!」
 ケナ婆がルージュの発言を遮った。

「ルージュ。もういい。何も言わんでいいんじゃ。答えが知りたい訳ではない。聞けば、領主様にも報告せねばならんからな」

「・・・・はい」
 ルージュがはっとした表情を浮かべ、そのあとバツが悪そうに小さく返事をした。

「さて、話を戻そうか。まずはお主ら二人は事情があり、住むところが欲しい、だから移住がしたい、そういう事でいいんじゃな」

「・・・はい」
 もう、ぐうの音も出ない。
 もはや、まな板の鯉。
 全てはケナ婆の掌の上で転がされている。

「住むのは、お主とその魔道具?の二人でええのか?」

「・・はい。名前はヒカリです」

「名前まで付けておるのか」

『はい。ヒカリと申します。ケナ婆さま。よろしくお願いいたします』
 ヒカリも諦めたようで、自分で挨拶をした。

「!!なんと、自分でも話せるのか! こんな魔道具は見たこともない! いや、もはや魔道具ではないか。お主は魔物の類いなのか?」

『はい。半分はそうかも知れません。私も元々は魔道具のような存在でしたが、ある魔物の魔石を取り込んだため、このように自我を持つ存在となりました』

「取り込んだじゃと?」

『はい』

「そうか、それで・・・なるほど・・・・それならば納得も・・・」
 ケナ婆はそう言って暫く考えたあと何度か頷き、また話を続けた。

「クロード殿。お主の魔素は、元々お主が持つものではなく、こちらのヒカリが作った魔石から得た魔素じゃな?」

「え、あ、はい。そうです」
 鯉の状態・・・継続中・・・。

「どうりで魔素のコントロールが出来ておらんわけじゃ。これで大体、ほぼ謎が解けたな。ふぉっふぉっほほ。愉快なことじゃ」

――訳が分からない
「はぁ・・・」
 自然とため息が出た。

「とりあえずの事情は分かった。先程、言うた通り移住を認めよう。領主のほうには、うちの遠い親戚と言うことで、身分の保証もしておこう。それと・・やらねばならんことが2、3あるな」

「ケナ婆ぁ!ありがとう!」
ルージュが真っ先にお礼を言う。

「ありがとう!ケナ婆さま!」
『ありがとうございます。感謝致します』
 続いてアマリージョとヒカリ。

「あ、ありがとうごじゃいます・・・」
 一番年上の俺が、一番ダメな感じでお礼言っちゃった・・・しかも噛んでるし。
 でも、やることってなんだろう。
 うまい話には裏があるって言うし・・・・面倒なことにならなければいいけど。


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