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第2章 光と「ウール村」

39話 ウール村

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 一時間ほど歩き、森を抜けると、村が見えてきた。
 村の外側は、動物避けだろうか、1メートルほどの木の柵に囲まれている。
 思っていたよりも、かなり大きい村のようだ。

 村の入り口には、少年が一人、槍を持って立っている。

「おーい」
 先頭を歩いていたポッケルがその門番らしき少年に声をかけた。
 少年は、こちらに気がつくと、槍をその場に置いて村の中へ走って行ってしまった。

――あれ、門番いなくなったぞ・・・槍置きっ放しだし・・・

『――あれは、おそらく人を呼びに行ったのでしょうね』
 ヒカリが通信で説明してくれた。

――そういうことか

 村の入り口までくると、さきほどの門番と思われる少年が、数人の大人を連れてきていた。

「おぉ、ルージュとアマリか・・・」
 真ん中にいた老婆がこちらに話しかけてきた。

「あ、ケナ婆っ」
「ケナ婆さま・・・心配をかけてごめんなさい」
 ルージュとアマリージョが老婆に答える。

「お前達、よく無事で・・・ベニートもよくやってくれた。後でわしの家に来て報告を頼むぞ」
 老婆の隣にいた恰幅良い男性がベニートに話しかけた。

「はい村長。ですが、二人が無事だったのは私が・・というよりは、こちらの方が・・」
 そう言ってベニートがこちらを見た。

「そちらの方は・・?」
 村長と呼ばれた恰幅良い男性が話しかけてきた。

「えーと。クロードと申します・・・」
――仕事だと普通に挨拶出来るのに、なんかダメダメだな。

「村長さん」
 アマリージョが続ける。
「こちらのクロードさんは、ウール村の移住者募集を知ってわざわざ来られたそうで、その道中、私たちが森でオグルベアに襲われていたところを助けて頂きました」

「なんと・・・移住もだが・・・いやオグルベア?やはり、いたのか・・・それで何か痕跡はあったか?」
 村長が驚きながらベニートに確認する。

「後ほどきちんと報告しますが、我々も足跡を確認しました。新しいものでは無かったので、ルージュ達を襲った際のものだとは思いますが」

「そうか・・・間違いならばと思っていたが・・・これはいよいよ組合ギルドに討伐依頼を出さんといかんのぉ」

「でも、そのオグルベアならとっくにクロードが倒してるわよ」

「「「「「はぁ?」」」」」
 ルージュの言葉が全員で反応する。

「倒したって・・・あんたが?」
 ベニートが慌てて聞き直してきた。

「え、あ、まぁ、成り行きで・・・まぁたまたまです」

「オグルベアは、そんなたまたまとかで倒せる魔物と違いますよ!」
――あれ、なんかベニートさんに怒られてるのかな?

 興奮したベニートを村長がたしなめる。
「まあいいベニート。そんなに興奮するな。ここで話していても埒があかん。取りあえずは報告が先だ。わしの家に来てくれ。それと・・・クロードさんだったか?申し訳ないんだが、移住の件も含めてちゃんと話もしたいので、後ほどルージュとアマリと一緒にわしの家まで来てもらえないか」

「あ、はい。分かりました」
 精一杯、愛想よく答える。

「じゃ、クロード。私たちの家まで案内するわ。それから荷物を置いて村長の家に行きましょう」
「そうですね」
 ルージュとアマリージョがそう言うと、ずっと黙っていた老婆が話しかけてきた。

「そこの、その前にちょっとうちに寄っていっては貰えぬかの?」

 ケナ婆と呼ばれた老婆の一言で、村長含めて全員の動きが止まった。

「ケナ婆?何か話でもあるの?」
 その中でルージュがいち早く反応し、不思議そうに聞き返す。

「いやいや、ちょっと話がしたいだけじゃ。ルージュとアマリも一緒においで。サンノ、お前もいいね。 ベニートとの話が終わったらでいいから、私のところまで来ておくれ」

「わかった・・・では、また後で・・・」
 村長がケナ婆にひと言声かけ、こちらに会釈をしてきた。

――お辞儀は同じなんだな・・・
 妙なところで感心してしまったが、あわてて村長に会釈して返す。

「じゃ、ケナ婆、家までおんぶしていってあげるね」
 ルージュはそう言うとケナ婆を軽々と背負い、家と思われる方向へと走り出した。
 アマリージョはルージュが置きっ放しにした荷物を持ち上げながら、あきれた顔でため息をつき
「じゃ、私たちも行きましょう」
 と優しい顔で微笑んだ。

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