上 下
25 / 119
第1章 光と「クロード・ハーザキー」

25話 必殺技

しおりを挟む
「この3キロくらい先の青い点?」
 マップに映しだされた青い点を見ながら俺はヒカリに改めて聞いてみた。

『はい。おそらく二人です』

「移動してるね。でも一緒に赤い点も移動してるような気がするけど・・・」

『どうやら、魔物に追われているようですね』

「だからか・・・どうしよう」
 不安になりながら尋ねる。

『助けたいのではないですか?』

「そりゃ人間なら、助けたいとは思うけど、そもそも武器が・・・包丁しかないし」

『私は玄人くろとさんの命のほうが大切ですので、助けるという選択には消極的です。ただ、この世界の人間ならば助けるメリットは大きいと思います。それに、助けなかったことを後悔して、後でグズグズされているのを慰めるのも、なかなか骨が折れますので』

「・・・骨が折れるって・・・そんなハッキリ言わなくても・・・」
 こういう時のヒカリに気遣いという言葉にない。

『いえ、言葉の綾です』

「・・・なんか、そういうのは綾って言わない気もするけど・・・うん。助けに行くよ」

『了解しました。では急ぎましょう』

 包丁をリュックからから取り出してから、リュックが背中からずれないよう、少しきつめに背負い直す。
 マップを確認し、2つの点が動いていく先に向かって全力で走る。

『この速度で行きますと、約4分で合流できます』

――追われてるみたいだけど、間に合うかな
 頭の中からヒカリに話しかける。

『今のところはなんとか大丈夫そうですが、逃げている時点で状況はあまり良くないと思われます』

――このまま真っ直ぐ走るから、方向がずれたら教えて
 マップを閉じて、更に加速する。

『了解しました』

 木の枝、木の根、石や草・・・
 全力で走ってみて初めて分かったのだが、全てが鮮明に見えている。
 
 走る速度がありえないほど速いのに、それに思考が追いついていることに驚いた。
 
 魔石のせいで、身体能力だけではなく、思考や視力、聴力なども上がっているだろうか。

玄人くろとさん! 二人の動きが止まりました。2時の方向です』
 何かあったようで、ヒカリが慌てて報告してきた。

――わかった

 方向を変えて全力で走る。
 何か見える。

――あれか?

『熊型の魔物です。思ったよりも大きいですね。あと15秒で接触します』

――あぁ、ちゃんと見えてる

『どうやら、一人は倒れています。もう一人がそれを庇って戦っているようです』

――え? そうなの? どうしよう?

『このまま全力で真っ直ぐ走って、跳び蹴りでもお見舞いしてください。それと威力が50%上昇しますので、必殺技のかけ声も忘れずに!』

――え、なんで、50? ひっ? かけ声ってなに?

「え、え、あ、あっ・・う、きぃぃぃぃっーく!!!」

 無我夢中で放った跳び蹴りは、熊の魔物の肩口に当たった。

 完全に不意を突かれた熊の魔物は、こちらに一切気づくことなく、10メートルほど飛んでいき黒い煙を出して消えた。

「あ・・・・」
 魔物が飛んでいった先の木が、衝撃で折れている。

「これ、俺がやったの?」

『はい。お見事です。衝撃で5本ほど木を完全に折ってしまいましたが、それくらいの被害は仕方ありません』

「死んだの?」

『はい。跳び蹴りの時点で倒せていました。これ以上無い会心の一撃です。かけ声は変でしたけど』

「あぁ・・・急にかけ声とか言うから」

『こういう時は必殺技のようなかけ声があると、ダメージが1.5倍になるのですよ』

「え!そうなの?」

『冗談です』

「・・・冗談はこういう切羽詰まっているときには、言ってはいけないって法律なかったっけ?」

『あ、そんなことよりも・・・二人は・・』
 なんかごまかされた感があるけど、そうだった。

 改めて襲われていた2人を見る・・・・2人とも15、6歳くらいの可愛い女の子だった。
 
 戦っていた女の子は、大きめのナイフをこちらに向けた状態で呆然と立ち尽くしている。
 
 後ろの子は背中に大きな傷を負った状態で倒れている。
 
 まだ生きてはいるようだ。
  
 なんでこんなところをうろついていたのかは分からないが、とりあえず助けられて良かった。

――全力で走って良かったよ
 自分が無力ではなかったことが単純に嬉しく思えた。

「だ、大丈夫?」
 心臓がバクバクするのを悟られないように、少しうわずった声で、立ち尽くす少女に声をかけてみた。

「uiejk s@47Zq 3yqui uieZw.t0ty09」

「へ?」
――やべぇ、言葉が通じねぇ・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

レベルが上がりにくい鬼畜な異世界へ転生してしまった俺は神スキルのお陰で快適&最強ライフを手にしました!

メバル
ファンタジー
元地球生まれの日本人。 こよなくタバコと糖分を愛しタバコは1日5箱。糖分は何よりもあんこが大好物。まず俺は糖分過多で28歳で二型糖尿病というファックなスキルをゲット。更にタバコの吸いすぎで40歳独身のおっさんは、気づいた時には時既に遅し。普通に末期の肺癌で死んだ。 たったの40年。不健康な生活をしてしまった付けだろう。 そして俺は死ぬときに強く思った。 願わくば次に生まれ変わる場所では、不健康な生活を好む体に生まれ変わりますように…… と強く願ったら地球ではなく、まさかの異世界転生をしてしまう。 その場所はベイビーから老人までレベルが存在する世界。 レベルにより生活も変われば職業も変わる。 この世界では熟練度・スキル・アビリティ。これも全てレベルが存在する。 何をしてもOK。 どう生きるかも自由。 皿洗いでも皿洗いの熟練度レベルがある。 レベルが低い者は重宝されない。 全てはレベルの世界。 しかしこの世界のレベルは非常に上がりにくい。 ゆえにレベルが低い者は絶望的な世界。 まさに鬼畜な世界。 そう鬼畜な世界だったのだが……

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...