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第1章 光と「クロード・ハーザキー」

18話 奇跡の木

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 傷が痛む。

 湧き水で浄化され、痛みは抑えられているが、それでもかなり痛む。
 よく見れば、一つ一つの傷がかなり深い。

 ネズミとはいえ、その鋭い歯が突き刺さっていたのだ。
 普通なら縫わなければならない傷だろう。
 
 タオルを巻いて、常に湧き水で濡らした状態で、なんとか冷静にしていられるが、タオルが乾いてくると、たちまち効果が薄れてしまうのか、腕が焼けるように痛み出す。
 
 今のところ化膿していないのが救いだった。
 
 マンションからかき集めてきた薬品類は、包帯は少なすぎて役に立たず、鎮痛剤も飲み過ぎは判断力が鈍くなるからとヒカリに止められていた。

 今更、絆創膏が役に立つわけもない。
 医者もいない。
 針と糸があっても、ランボーじゃないんだから、自力では縫えそうにない。

 このままだと遅かれ早かれ、やはり死ぬかもしれない。

 だから魔石を受け入れる選択は間違っていないと思う。
 何度もそう自分に言い聞かせる。
 
 言い聞かせると言うよりは、死ぬんじゃないかという恐怖から逃げたいだけなんだろうけど・・・。
 いずれにしても、こうなったら仕方ない選択だと思って、流れに身を任せよう。

 明日には魔石が出来る。
 それをヒカリと同じように体内に取り込んで同化して終わり。
 
 傷が治れば、万々歳。
 今はそれだけでいい。
 贅沢は言っていられない。
 それで命拾いするなら、それが正しい選択なのだ。

 夕食には、防災グッズの中にあったピラフを食べた。
 水を入れるだけで出来る優れものだ。
 でも、痛みでさっぱり味がわからなかった。

 今更ながら健康は大事なのだと痛感する。
 怪我をしないことも大切だ。
 
 今回は、たまたま奇跡のような湧き水があったから助かった。
 本当に運のいい出来事だった。

 まったく、湧き水に感謝だ。

――ん? 奇跡の湧き水?

 大事なことが抜けていた。
 
 どうして、あの湧き水は、奇跡のような湧き水だったのだろうか。
 それは、おそらくあのツヤツヤしていた木のおかげだ。
 
 厳密に言えば、あの木に吸い上げられた水が奇跡の水なのだ。
 だから湧き水自体は、ただの湧き水のはず。

――なんで、ちゃんと考えなかったんだろうか

 吸い上げられた水でさえ、この効果だ。
 直接、木を傷口につけるとかしたら、この傷も治るかも知れない。
 奇跡は、水ではなく、木の方なのだから。

 慌てて、コップに入れてあったツヤツヤしている木を手に取る。
 まだ、活き活きとしていた。
 
 木を握る手には、木の持っている生命力が伝わってくる。

「これだ・・・この木の力があれば・・・」

 もう試さずにはいられなかった。
 この奇跡の木の力で傷が治るのだ。
 
 タオルをそっと傷口から剥がす。

 ツヤツヤの木を、どうやって使うかまでは分からないが、まず手始めに木を直接傷口につけてみることにした。

「いたたたた・・・・あーでも、なんか傷口が・・ん・・・なんも変わらない?・・・変化は無しか・・・」

 効果があるのは葉っぱの方だろうか?

 あとは木を削って樹液を取り出すとか?
 
 分からないので、とりあえず試しに葉っぱを一枚ちぎって傷口につけてみる。
 葉の薬は、だいたいそのまま張るか、葉っぱを煎じるか、絞り汁を付けるか・・・そんな感じだし。

「うーん・・・何も起こらない」

「じゃ次・・・葉っぱの絞り汁」
 さっきちぎった葉っぱを丸めて絞り、少し滲んできた汁を傷につけてみる。

「痛っ!!!! うぐぐぅぅ痛すぎ・・・・しみる・・傷口にレモン汁垂らしたみたいだ」
 
 しかし、これは地味に効いている感じがする。
 目を閉じて3分ほど、我慢する。

 効果のほどはどうだろうか。
 葉の汁を、湧き水で洗い流してみる。

「・・・痛かっただけかよ!」
 思わずツッコミを入れてしまった。

 その後も、痛みをこらえながら、木の皮を削って傷口に貼るなど思いつく限りのことを試してみたが、結局、何の効果も得られなかった。

「奇跡の木・・・・・この木は、生命力が強いだけのただの元気な木だった」

 誰だよ、ほんと・・・奇跡とか言って期待持たせた奴は・・・・。

「って・・・オレか・・・」

 俺は、自分に少し呆れながら、ツヤツヤの木を洞窟の奥へと投げ捨てた。
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