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第1章 光と「クロード・ハーザキー」

14話 魔物

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 正直なところ、気休めにもなっていない気がするが、武器が完成したので、湧き水を汲みに行くことにする。
 
 残った水を鍋に移して、ペットボトルを空にする。
 リュックにヒカリと空のペットボトルを詰めて、出来立てのモップの槍と包丁を持っていく。

 むしろ使い勝手は包丁の方が数倍いい。
 だが、魔物とはいえ、生きているものを接近して刺せるかと言えば、無理な気がする。

 俺は不安を抱えながら湧き水が湧いているところへと向かう。

 ヒカリによると、湧き水は周辺にいくつかあるらしいが、あのツヤツヤの木から湧き出た水は本当に美味しかったので、ほかの場所を見に行く気にはならなかった。

 場所も一番近いし。
 あの味は心が洗われるようで、活力が漲る感じ。
 まさに「名水・湧き水」、そんな感じだった。

 湧き水の場所には迷わず、すぐに着いた。
 不思議なことに昨日切った木の切り株からは、相変わらず水が勢いよく湧き出ていた。

「生命力ハンパねぇな・・・」
 この世界の植物は、地球の常識とはかけ離れているのだろうか・・・

 手ですくって一口飲んでみる。
「うまっ」

 リュックを下ろし、空のペットボトルを取り出して、湧き水を入れていく。
 1本目を入れ終わりリュックにしまう。
 2本目も入れ終わり、3本目を入れている時にヒカリが話しかけてきた。

『魔物です。正面12時の方向、距離500メートル』

「え! マジで? しかも500メートルって。もっと遠くから探知できるんじゃなかったの!?」

『探知は3キロほど出来ますが、近づいて来たのではなく、突然現れた感じです』

「魔石から生まれたとか?」

『その通りかと』

「逃げた方がいいと思う?」

『魔素の反応も大きくはないので、ここは情報収集のためにも、様子を見に行くのが良いかと思われます』

「ええ!? マジで?」
 ヒカリの思わぬ提案に、不快感を示す。

『夜中に近づかれて、暗闇の中、初めて目撃するほうが危険かと思います』

「たしかにそうだけど・・・。なんかヒカリと話してると、上手く誘導されてる気がするんだよな。嫌な訳じゃないけど・・・」

『長い付き合いですので、性格も女性の趣味も把握しております』

「誘導していることは否定しないんだ・・・秘密のフォルダの件もあるし、なんか全部知られているみたいで恥ずかしいよ」

『フォルダの件でしたら、玄人くろとさんの言葉を借りるなら、「男というものは、リスがどんぐりを集めるがごとく、エロいものを見つけると収集してしまう生き物」だそうですから、私としましては、大事にすることはあっても、文句を言ったりすることはありませんよ』

「おれ、そんな恥ずかしいこと言ってた? きっと誰か別の人が言ったか、漫画かなんかの引用だと思うよ」

 ヒカリから見て、箱崎玄人はこざきくろとという人間は、いったいどのように見えているんだろうか。
 確認するもの怖いし、あまり考えないようにしよう。

 話している間に、3本目のペットボトルもいっぱいになった。

「魔物の位置は、今どの辺り?」
 このやりとりの間に、魔物が遠くへ行っていればと期待を込めて、ヒカリに確認してみる。

『方角は少しずれて2時の方向。距離は約300メートルです』

「近づいてんじゃん。一度、洞窟に水を置きに行ってから偵察でもいいと思う?」

『そうですね。幸い向こうはこちらに気づいていない様子ですので、動きやすいように水だけ置いてくるのは良いと言えます』

――少しでも時間を延ばしているうちに、どこかに居なくなったりしないかな
 言葉には出さないが、心の底からそう願ってみる。

『ちなみに、洞窟に戻っている間に魔物がいなくなったり、見失うという可能性はゼロに近いですよ』

「・・・・・・・・」
 こいつはエスパーか?

玄人くろとさん、何か心の中で呟いているとしたら、それは違うと否定します』
 
「・・・・・すみません」
 性格を知られている以上、浅はかな考えは読まれているみたいだった。

 俺は、リュックの中にペットボトルを詰めながら
――あんまりヒカリには逆らわないようにしよう
 そう心に誓った。


 リュックを背負い、モップ槍と包丁を持って洞窟へ急ぐ。
 入り口付近に掘った穴に気をつけながら、洞窟に入り、リュックからペットボトルを出す。
 改めてヒカリ入りのリュックを背負い、再度モップ槍と包丁を持って外へ出る。
 ヒカリに場所を再度確認する。

『方向はこのまま、距離約250メートルです』

「目視したいから、100くらいまで近づいたら教えてもらえる?」

『了解しました』
 包丁をベルトの後ろに差し込み、槍を両手で構えながら進む。

『そろそろ魔物までの距離100メートルです』

――何も見えない

「どのへん?」

『95メートル、真正面です』

「・・・・?」
 見えない。

「まっすぐ歩いて行くから、移動したら教えてくれる?」

『了解しました』

 ゆっくり進む。
 何もいない。
 木の上にいるかもと思い、木の上も確認する。

『正面、50メートルです』
 まるで見えない

『1時の方向、30メートルです』
 何もいない

『正面、20メートルです』
 やはり、いない。
 ・・・いや何かいた。

「ウサギしか見えないけど・・・」

『あのウサギが魔物です』

「え?そうなの?よかった~、なんか凄いのが襲ってくるんじゃないかとドキドキしてたもん」

『小さくても魔物ですよ』

「もう少し近づいてみようか」

『はい。気は抜かないようお願いします』

 一応、両手でモップ槍を持ち、ゆっくりと近づいていく。
 ウサギもこちらに気づいたようだ。
 もう少し近づく。

「あ、逃げた・・・・」
 結局、魔物と会えたのはこの一度だけ。
 
 この日、周囲500メートル圏内に近づく魔物は、一匹も現れなかった。
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