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第1章 光と「クロード・ハーザキー」

13話 最強の武器は運

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 さわやかな朝を迎えた。
 差し込む日差しが心地よい。
 今日は何して過ごそうか。
 
 そんな事を考えながら、大きく背伸びをする。

『おはようございます。少し気になることがありますので、食事をされた後に聞いて頂けますか?』

 昨晩の楽しかった思い出はどこへ行ったのやら。
 急に仕事モードに切り替わった口調のため、一気に目が覚めてしまった。

 口をゆすいで、顔を少量の水で洗う。
 パスタを茹でて、塩、こしょう、醤油を適当にまぶして食べる。

 食べ終わってから、自宅から持ってきた歯ブラシで歯を磨きながら尋ねる。

「それで? ヒカリ、気になることって何?」

『はい。その件ですが、昨晩から周辺の魔素の濃度が上がり始めています。以前にも申し上げましたが、魔素は魔石を生み出し、魔石は魔物を作ります。生み出される魔物が邪悪かどうかまでは分かりませんが、このままのペースで魔素の濃度が上がる、今日の夕方頃にはあちこちで魔物が出始めると思われます』

「マジで? それってヤバくない? あんなオーガみたいのに襲われたら、100%死ぬよね」

『魔石は出来たばかりのものなので、そこまで強力な魔物は出ないと思われます。ですが魔物は魔物ですので、備えがなければ命を落とす危険もあり得ます。幸い、まだ時間がありますので、今のうちに準備をすることを提案いたします』

「準備って・・・この洞窟も危ないの?」

『この洞窟の中は、なぜだか分かりませんが魔素の上昇がほとんどありません。ですから外から襲われることはあっても、中から急に襲われることはないと思います』

「なんでここだけ少ないんだろ? まあ魔物が出ないなら、それはそれでいいか」

『気配は私の方で察知出来るので、近づいてくればお知らせすることが出来ます。しかし、戦うとなるとさすがに私ではなんともなりません。出来ましたら武器を作り、罠などを用意して、身を守ることが最善かと』

「武器に罠か・・・」

『武器としては、ナイフ、フォーク、包丁、ドライバーなどが使えます。木を削って棒状にし、その先にくくりつける事で槍としても使えます。対象となる魔物の想定もつきませんので、なるべく離れた場所から攻撃出来る方が、より安全だとは思います』

「槍か・・・多めに作って逃げながら刺すとか? ていうか包丁とかで倒せるのかな・・・」

『罠に関しては、落とし穴などが思いつくかとも思いますが、作り方に関しては、これまでインターネットで検索もしたことが無かったので、全く分かりません』

「落とし穴か・・・やっぱり竹やりとか仕込むのかな。そもそも、そんな穴掘れる自信がないな。それにしても検索か・・・意外に何でも知っていたように思えたけど、それはパソコンだからじゃなくて、検索の履歴が元だったんだね」

『はい。動画やチャットの履歴からも学習はしていますから、知識量としては多いと思うのですが・・・申し訳ありません』

「別に謝ることじゃないし、むしろちゃんと能力にも上限があって、ホッとしたよ」

『それでしたら良かったです。では、罠はともかく、武器はどうしますか? やはりもう一度、武器になるようなものをマンションに探しに行かれますか?』

「うーん・・・そうだね・・・木を削るよりも、何か鉄製のものがあればそっちのほうが強そうだし」

『では、善は急げです。さっそくマンションに向かいましょうか。マンションの周辺も魔素が濃くなってきていますので、お昼くらいまでが安全に探索できる、最後の機会かもしれません』

「最後か・・・よし、行くか」

 確かに魔物が出るようなら、もう行けないか。
 もし戦うことになれば、それこそ次の機会はないかも知れない。
 普段何気なく使っていた「最後」という言葉。
 命がかかっている今の生活だと、なんだか重く感じるな・・・

     ♣

 最後になるかも知れないマンションの探索に向かうため、パソコンをリュックにつめて背中に担ぐ。
 普通に話せるようになったので、ヒカリは背中側で問題がない。

 何度も往復した道。
 慣れた足取りでマンションに向かう。

「ねぇヒカリ、魔物はまだいない?」

『周囲に人や魔物は見当たりません。マンションの中も大丈夫です』

 小走りでマンションに着く。
 とりあえず1階の奥の部屋から物色する。

「バットとか、鉄パイプとか、あとは、なんだろ。あっゴルフクラブとかは?」

『前回、全室回ったので一応部屋にあった物はデータ化してありますが、その類いのものはありませんでした』

「データ作ったのか・・・凄いな。でもゴルフクラブは本当にないの? 鉄パイプはともかく、バットかゴルフクラブくらいはありそうなものだけど」

『基本的になんでも記録するのが仕事ですから、そこは黙っていてすみませんでした。それからバットですが、プラスチックの子供が使うものしかありませんでした。ゴルフはこのマンションの住民は誰もやっていなかったみたいですね』

「そうか・・・俺もゴルフやらないし仕方ないか。あとは・・・どうしようか。まだデータを作ってない、穴場的な場所とかはないの?」

『あります』

「え? あるの? 聞いてみるもんだね。で・・・どこ?」

『マンションの入り口の管理人室と裏のゴミ捨て場です』

「あっ管理人室・・・ドアが壊れてなかったからスルーしてたよ。あとは・・・ゴミ捨て場か」

『はい。管理人室は完全に無人だったため壊されなかったのでしょう。ゴミ捨て場は、生ゴミを中心に運び出されていると思われます』

「じゃあ、まずは管理人室からだな」
 そう言ってマンションの入り口横の管理人室まで戻り、ドアに手をかける。
 カギが閉まっていた。

「そりゃそうか」

『その小さい窓ガラスを割れば侵入できます』

「おっそうか・・・壊していいんだった。意外と盲点だな。なんとなく倫理観が邪魔をするというか・・・」
 そう言って、肘で窓ガラスを叩く。
「痛っ! ガラスとか割ったことが無いから、力の入れ方が全然分かんないよ」

『その当たりに落ちてる物でも使って下さい』
 ヒカリに、少し呆れたようにそう言われ、玄関に落ちてた石を拾い、窓ガラスを割る。
 割れた部分から手を入れ、カギを開けて、窓から侵入する。

 中は2畳くらいの部屋。
「うわっ・・・なにもない・・・」
 動かない防犯カメラ、あとはなんだか分からない何処かのカギ。

 何か持ち帰るのは諦めて、ドアのカギを開けて出ようとした時、ドアの横にあった消化器と小さな棚が目に止まった。
 棚の扉を開けてみる。
 管理人が使っていたのか、長靴と軍手、それに小さい園芸用のスコップが入っていた。

「スコップは使えるな。あとは消化器も役に立つかも・・・」

『役に立ちそうな物があり良かったです』

「よし、これを持って行こう。あとはゴミ捨て場か・・・」
 マンションの裏口からゴミ捨て場に回る。
 ドアは壊され、ゴミが散乱している。

「あっモップだ・・・」
 意外なところから役に立ちそうな物が出てきた。
 木製のモップ1本とプラスチック製のモップ1本。
 
 ほうきは短すぎて使えない。
 ダンボール・・・使えそうでも何も思いつかない。
 空き缶、空き瓶・・・

「空き瓶、割ってあちこちに撒いたら罠に使えるかな」

『それは良い考えです。スパイ映画でもそんなシーンがありましたね』

 とりあえず、使えそうな瓶とモップ2本を持ち帰る。
 管理人室の前の消化器と合わせて、これでなんとかするしかない。

「まあ、モップは収穫だった。槍を作るにしても木を削る作業がなくなるし」
 俺は1時間ほどでマンション探索を終え、洞窟に戻った。

 その後、洞窟周辺のあちこちに、スコップで15センチほどの穴を掘り、足だけが落ちる落とし穴をいくつか作った。
 どうしてこんな小さい穴を作ったのかと言えば、人が落ちれるほどの大きな穴なんて、俺には掘れなかったからだ。
 
一応、ガラス瓶だけは割って周辺にちりばめて置いた。
 足をひっかけるような罠は、意外と難易度が高く断念した。
 モップは先端のモジャモジャ部分を取り外し、包丁を突いてもずれたりしないように調整しながら、ガムテープで固定した。
 消化器は逃げるときに、目つぶしとして使うため洞窟の中程に置いておく。

「なんか、準備したけど不安しかないよ。罠もぶっちゃけ役に立ちそうにないし。槍に至っては、二、三度降ったら、先っちょに付けた包丁がプラプラしてるし。今一番頼れるのは、消化器だよ。こんなのなら、殺虫剤とかのほうが武器としても優秀だったかも」

『今朝も言いましたが、魔石はできたてで小さいです。魔物が発生したとしても小さくて弱いです。遠くから棒で叩いて、包丁でとどめを刺せば、きっとなんとかなると思います』

「そうかなぁ? この槍とか・・・結構、まじめに一生懸命作ったんだよ。でもプラプラしてるの。何回補強しても、全然信用出来ないよ。ホントにこんなので大丈夫なのかな・・・」

玄人くろとさんなら大丈夫です。問題ありませんよ。運がいいですから』

「・・・最終的に運って・・・それなら安心だよね・・・ってなるか!」

『ダメですか?』

「ダメだよ」

『では、運気が上がるものを作るというのはどうでしょうか?』

「相談した俺が悪かったよ。とりあえずは、このプラプラの槍でなんとかするよ」

『はい。頑張って下さい』

「・・・・」
 俺、もうダメかも・・・
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