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第二章 乙女ゲーム?

今度は、俺が。

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お互いに自己紹介を済ませた俺たちは、噴水に腰かけて、他愛もない話をしている。
キールは俺の名前を聞いても態度を変えることなく接してくれている。
どうやらキールは5歳らしい。
なのにこんなに落ち着いているのは、彼の器が大きいからか。 

「ねえ、サザンカはどうして騎士団の訓練場にいるの?」 

「転んじゃった所を助けて貰ったんだよ。
ほら、膝のところにガーゼが貼ってあるでしょう。」 

膝を指さして、ガーゼを見せて笑う。

「本当だ。
結構な怪我じゃないか。痛かっただろう」 

「それがね、全然痛くなかったんだよ。」

きっとあの時は、逃げるのに必死だったから痛くなかったんだろう。
だが、これ程大きな傷は普通の子供ならば大泣していてもおかしくないレベルである。 

「本気か…?強がってるだけじゃないか?
サザンカには、嘘はつかないで欲しいんだが。」 

「ほ、本当だって!ホントに全然痛くなかったの!俺が嘘ついてるように見える!?」 

俺の勿忘草色の瞳と、キールの杜若色の瞳がにらめっこする。 

「……見えない…が、目のところに泣いた跡があるぞ。
なんで泣いたんだ?」 

「…っそ、それは!
えっと、なんていうか、……ちょっと怒られちゃって。
それで、泣いてたんだよ。」 

一応、嘘は言っていない。
(公爵に理不尽に)怒られてしまって、
(命の危険を感じて逃げて)泣いた。
うん。嘘は言ってない。 

「キ、キールは?なんでここに?」 

あからさまに話をそらしたことに疑わしげな目を向けられたが、気付かないふりをする。 

「…叔父さんが、騎士団に入っててさ。
その付き添いで来たんだ。」 

「叔父さんが騎士なんだ!
キールは騎士になろうとは思わないの?
身内に騎士がいたら、俺憧れちゃうかも!」 

他愛もない言葉のキャッチボール。
だがここで、キールの纏う雰囲気が、少しだけ暗いものになった気がした。


「騎士になりたい……か。
確かに、俺も普通の子供だったら、そう思ったのかもしれないな。


でも俺、なりたいものが分からないんだ。
かっこいいとか、そういう憧憬の対象にだって、出会ったことがない。」


キールがどこか遠くを見てそう言った。
なんだか茶化して返事してはいけない気がして、俺なりに真摯に向き合い、返答する。 

「5歳なら、これからなりたいものが見つかるかもしれないよ?

……この階級社会では、なんにでもなれる、という訳じゃないけど、こんな人になりたい。とか、逆にこんな人にはなりたくない、とか。
そういう抽象的なものもないの?」


キールの綺麗な瞳は、濁っている。

「うまく説明出来ないけど、
夢とか、希望とか、逆に嫌いとか、そういう5歳なら当然持ってあろうモノが、俺にはないんだ。だから当然、ああなりたいこうなりたいとも思えない。

なにかが、スッポリ抜き落ちて生きてるみたいなんだ。



───この胸の孤独感は、きっと一生消えない。
だから俺は、生きる意味が分からないんだ。生まれてきた意味もな。」 

キールのその瞳には、悲観の感情はない。
強いて言うのならば──····諦め。



そこで俺は、何となく、キールにを重ねていた。
前世の、乙女ゲームでみた、俺の推し。 

だからだろうか。前世で俺に希望を与えてくれた人と同じ瞳をしていたから、オレは放っておけなかったのだ。 

そして、俺は決心をする。


「なら!それなら!俺をそばに置いてみない!?」 

「そばに…おく?」 

不思議そうにこちらを見つめるキール。 

「そう!俺がそばにいて、キールの好きなものを見つけてみせるよ!」 

俺は決心をした。
前世で俺を救ってくれたその瞳を、は俺が救うのだ。
そう、確かゲームの彼の名前は──···


「キール!

俺が君の生きる意味を見つけてみせる。」



キールの瞳に、初めて光が入った気がした。
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