13 / 13
伝言2
12 猫、ときどき女の子
しおりを挟む
ある日の昼下がり。
昼休憩を終えた一ノ瀬はそろそろ昼休みが終わりそうなので、缶コーヒーを買って戻ろうかと思い、市役所のロビーを通りかかっていた。
「今週は月締めだから、例のごとく課長から残業させられるんだろうなあ……」
自分は公務員であるため、本来なら"残業"というものとは無縁なはずであるのに。どうも伝言課ではそう言った一般常識的なものは皆無らしい。
(まあ、あの人に仕事任しちゃ前みたいな羽目になるから、帰るに帰れないんだが)
この件に関しては移動したばかりだった4月に経験済みであるため、手の打ちようがないのは一ノ瀬も十二分に分かっている。
本当にあの時は大変だった。てか、良く今まで課が回ってたなと思ったし、同時に課に人が寄り付かない理由も、少し分かった気がする。
まあ、この話はまた後日にするとしよう。
所のロビーを出た所で、ふと視線を外に向けた。すると、1人の女の子がロビーの植木の前に座り込んでいたのが目に映った。
(あれ、親御さんはいないのかな?…あ、市役所に用があって待ってるとか?)
少し心配ではあったが、市役所前は人通りも多いし、所員もどうやら様子を伺っているようだった。
まあ、自分が気にするまでもないかとその日はそこを後にした。
だが次の日。はたして、あの女の子はまた植木の前に座り込んでいた。どうやら親御さんを待っているのではないらしい。さすがに心配になったので、「どうしたの?」と声を掛けた。
「お母さんかお父さんはどこかな?」
そう声をかけたが、女の子はジッと黙ったままこちらを見つめている。
「昨日もいたよね?俺、この建物の人なんだけど…」
気持ち優しめな声で、少し身をかがめてそう声を掛けたのだが……
「おじさん、ストーカー!」
「へっ?」
そう言いすてると、女の子はバッと突然立ち上がり、走り去ってしまった。
一方一ノ瀬はというと、今しがた起こった一瞬の出来事に対し、何が何だか分からない状態で一ノ瀬は頭にハテナを浮かべたまま、一時動けないでいた。
(え、てか"おじさん"て言った?言ったよね?…俺、おじさんなの!?)
軽くショックを受けた、いや、大きなショックを受けた一ノ瀬は、少しめまいを覚えながら、所の中にフラフラと入る。
まさか、あんな小さな子に「ストーカー」といわれ、おまけにおじさんとまで言われてしまった。
あれくらいの子から見て、30の俺はもう"おじさん"の部類なんだ……
「そんなに老けたのかな……?」
所内に戻って、市役所1階の隅にある伝言課の扉を開いた。
今はやけに入り口から伝言課までが遠く感じる。
何度目か分からない、大きなため息を吐きながら室内に入ると、三井が書類を片手に持ったままこちらを向いて、にんまりとした表情をしていた。
一ノ瀬は気づかない振りをして(相手にするほど暇ではない)、午後の業務のために、コーヒーを淹れてデスクに戻る。
が、10分近くそのままの状況に我慢ならず、三井の方に振り返る。
さっきから、三井の視線がイタイ。
「なんですか…ニヤニヤして。昼休みはとっくに終わりましたよ」
「はいはい、分かりましたよ。お仕事しましょうかね、"おじさん"」
「っな、なんでそれを……!」
そう言うと、クスクスと笑いながら三井は奥の部屋に消えて行った。
なぜ課長がその事を知っているんだ。てか、それを気にしていたのバレバレだったのか。
一ノ瀬は赤面しているであろう顔を右手で覆い、三井を振り返ったままの体勢で固まっていた。
恥ずかしすぎて、言葉もでない。
「昼休みおわってるよー」という三井の声でハッとし、お前に言われたくない、と内心毒吐きながら、午後の作業に取り掛かりはじめた。
昼休憩を終えた一ノ瀬はそろそろ昼休みが終わりそうなので、缶コーヒーを買って戻ろうかと思い、市役所のロビーを通りかかっていた。
「今週は月締めだから、例のごとく課長から残業させられるんだろうなあ……」
自分は公務員であるため、本来なら"残業"というものとは無縁なはずであるのに。どうも伝言課ではそう言った一般常識的なものは皆無らしい。
(まあ、あの人に仕事任しちゃ前みたいな羽目になるから、帰るに帰れないんだが)
この件に関しては移動したばかりだった4月に経験済みであるため、手の打ちようがないのは一ノ瀬も十二分に分かっている。
本当にあの時は大変だった。てか、良く今まで課が回ってたなと思ったし、同時に課に人が寄り付かない理由も、少し分かった気がする。
まあ、この話はまた後日にするとしよう。
所のロビーを出た所で、ふと視線を外に向けた。すると、1人の女の子がロビーの植木の前に座り込んでいたのが目に映った。
(あれ、親御さんはいないのかな?…あ、市役所に用があって待ってるとか?)
少し心配ではあったが、市役所前は人通りも多いし、所員もどうやら様子を伺っているようだった。
まあ、自分が気にするまでもないかとその日はそこを後にした。
だが次の日。はたして、あの女の子はまた植木の前に座り込んでいた。どうやら親御さんを待っているのではないらしい。さすがに心配になったので、「どうしたの?」と声を掛けた。
「お母さんかお父さんはどこかな?」
そう声をかけたが、女の子はジッと黙ったままこちらを見つめている。
「昨日もいたよね?俺、この建物の人なんだけど…」
気持ち優しめな声で、少し身をかがめてそう声を掛けたのだが……
「おじさん、ストーカー!」
「へっ?」
そう言いすてると、女の子はバッと突然立ち上がり、走り去ってしまった。
一方一ノ瀬はというと、今しがた起こった一瞬の出来事に対し、何が何だか分からない状態で一ノ瀬は頭にハテナを浮かべたまま、一時動けないでいた。
(え、てか"おじさん"て言った?言ったよね?…俺、おじさんなの!?)
軽くショックを受けた、いや、大きなショックを受けた一ノ瀬は、少しめまいを覚えながら、所の中にフラフラと入る。
まさか、あんな小さな子に「ストーカー」といわれ、おまけにおじさんとまで言われてしまった。
あれくらいの子から見て、30の俺はもう"おじさん"の部類なんだ……
「そんなに老けたのかな……?」
所内に戻って、市役所1階の隅にある伝言課の扉を開いた。
今はやけに入り口から伝言課までが遠く感じる。
何度目か分からない、大きなため息を吐きながら室内に入ると、三井が書類を片手に持ったままこちらを向いて、にんまりとした表情をしていた。
一ノ瀬は気づかない振りをして(相手にするほど暇ではない)、午後の業務のために、コーヒーを淹れてデスクに戻る。
が、10分近くそのままの状況に我慢ならず、三井の方に振り返る。
さっきから、三井の視線がイタイ。
「なんですか…ニヤニヤして。昼休みはとっくに終わりましたよ」
「はいはい、分かりましたよ。お仕事しましょうかね、"おじさん"」
「っな、なんでそれを……!」
そう言うと、クスクスと笑いながら三井は奥の部屋に消えて行った。
なぜ課長がその事を知っているんだ。てか、それを気にしていたのバレバレだったのか。
一ノ瀬は赤面しているであろう顔を右手で覆い、三井を振り返ったままの体勢で固まっていた。
恥ずかしすぎて、言葉もでない。
「昼休みおわってるよー」という三井の声でハッとし、お前に言われたくない、と内心毒吐きながら、午後の作業に取り掛かりはじめた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる