雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎

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最終章 奈落ノ深淵編

第146話 受け継いだ想い

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 俺は手紙を読み終えた。恐らく、ケルディアは俺がここに来ることを過去の時代から分かっていたのだろう。それはエリザベスの力によってだと思われる。
 俺は改めてこの箱に入れられた持ち物達を見る。俺たちの為に過去から送ってくれたのだろう。しかし、1つだけ疑問があった。それはこの奈落ノ深淵の仕様に問題があった。
 前にも言ったが、奈落ノ深淵は本来最終地点までの道のりはランダムで形成される。だとしたら、ここに俺たちがたどり着かないことだって起こり得た筈だ。でも、振り返ってみるとまるで奈落ノ深淵自体がここへと俺たちを導くような動きをしていたような気がする。それは一体どういう事なのだろうか。それだけが分からない。
 そう考えていると、パトラが大きく叫んだ。

「ああーー!!!!!! 思い出したんだぞこの杖!!」

 そう言いながらパトラはお腹からメモを取り出すとぺらぺらとめくり始める。ある程度めくったところで手が止まった。

「これなんだぞ!! メモしておいてよかったんだぞ!」

「パトラちゃん、この杖が一体何なの?」

「よく聞いてくれたんだぞソレーヌ! この杖はな『大名医ノ杖アスクレピオス』と呼ばれる神器レジェンダリーウェポンなんだぞ! この杖には装備したものに全ての回復魔法が使用できるようになる装備能力【大名医】が施された回復術士や大神官たちが憧れる最強の回復系の杖なんだぞ!! でも、おかしいんだぞ? どうしてこんな杖がこんなところにあるんじゃ?」

 確かにパトラの言う通り、疑問なところが多いがケルディアも過去の人物だ。もう答えを聞くことは不可能だろう。あと、杖以外にも入っていたものがあっただろう。俺は2つのペンダントを杖から外し、まじまじと見た。
 どこかで見覚えがある作りのペンダントだ。俺は胸元から2つのペンダントを取り出す。やはり、似ていた。風の精霊シルフと炎の精霊サラマンダーを呼び出すことができる緑石と赤石が付いたペンダントと類似していた。
 俺はシルフとサラマンダ―を呼び出してみることにした。

「2人とも出てきてくれないか?」

「はいはーーい!! 寂しかったよマスター♡」

「いつもあなたと一緒に呼ばれるのね……」

「うわっ! サラマンダー! いったん離れて!」

 出てくるや否や抱き着くサラマンダーとため息をつきながらシルフがゆっくり出てくる。俺はサラマンダーを振り払い、2人にこの石について聞いてみた。

「2人ともこの石について見覚えあるか?」

「あら? この石……懐かしい気持ちになりますわね」

「ん? おーー! 久しぶりじゃん2人とも!」

「久しぶり? 懐かしいどういうことだ?」

「マスター、この石は水の精霊ウンディーネと土の精霊ノームの召喚石です。この召喚石は元々あるお方が持っていたと記憶していたのですが、私の力を持っても忘れておりました。ですが、今思い出しましたわ」

「んーー、あーーしも誰が持ってたか忘れてたけど流れ的にケルディア女王? て人が持ってたってことでおけ?」

「ええ、恐らく。マスター、一度魔力を流して2人を召喚させてみましょう」

「ああ、やってみるよ」

 俺は2つの石に魔力を注ぐ。ゆっくりと青と橙色の光が取り戻されていく。ある程度魔力が注がれた時、まばゆい光と共に石から2体の物体が飛び出してきた。

「んっふぁ~~良く寝たぁ」

 1人は青と水色が混ざった長いカールのかかった髪の少女ともう1人は橙色の服に身を纏った少女が地べたに寝転がっていた。顔はフードをかぶっていて見えない。

「あれあれ? 久しぶりに呼び出されたけどここどこなんだろーー?」

「久しぶりねウンディーネ」

「ディーネたんよろーー♪」

「あれあれあれ? シルフちゃんとマンダちゃんがいるーー? えーーなんでーー?」

「マンダちゃんはやめろし、サラちゃんにしとけし」

「ウンディーネ、貴方達はマスターに呼び出されました」

 シルフが俺の方を指す。ウンディーネは眠そうな垂れ眼でこちらを見ると何かを思い出したかのように跳ね起きる。

「んーー? ……はぇ!? ま、まさかこの人があの例の!! ちょちょちょちょっとノームちゃーーん! 起きて起きてーー!!」

 ウンディーネはノームを揺さぶるとゆっくりと起き上がる。

「むーー?」

「ノームちゃん!! こ、この人だよ多分ご主人さまが言ってた人!!」

「むーー?」

 ノームは寝ぼけ眼を擦りながらこちらを向く。ノームは青と黄色のオッドアイをこちらへ向けて眉間に皺を寄せて凝視している。

「むーー? むーー?」

 ノームはひょこひょこという擬音が鳴りそうな歩き方でこちらに寄ってくるとぐるりと俺の周りを一周みまわる。

「むーー……む!」

 そして、少し考えた後ウンディーネに向かって目を輝かせながらサムズアップをした。

「やっぱりそうかもだよねーー! だって私達を呼び出せたんだからきっとそうだよーー」

 ウンディーネはぴょんぴょんとスキップしながら、俺の前へと立つ。

「初めましてーー♪ 私はウンディーネ! こっちは友達のノームちゃんだよ!」

「む」

 ノームはブカブカの袖を揺らして挨拶をする。

「ああ、よろしくな。俺はフールだ」

「フールさんですねーー貴方が次の私達のご主人様になると言う事は聞いておりましたーー。いやーーあれから10年くらい待ちましたよーー、ねーーノームちゃん?」

 ノームはこくこくと頷く。

「聞いていたって言うのは誰からだい?」

「もちろん、ケルディア様ですーー。私達は元々ケルディア様がご主人様だったのですーー。だけど、ケルディア様は10年後の次に私達を召喚した人が次の主だと仰ってそのまま私達を石へ封じました。もーー退屈でしたーー」

 ノームはキョロキョロと周りを見渡す。すると、パトラが持っていた大名医ノ杖を見つけると目を光らせて、その杖の方へと向かった。

「わわわ!? 何だぞ何だぞ!?」

 ノームはパトラからひょいと杖を取り上げるとウンディーネの方へと向かい、杖を見せた。

「あれ? これはご主人様が使ってた杖ですね?」

「何だって?」

「知らないのですか? ご主人様は大神官だったのですよ! 凄く魔力が高くてみんなから尊敬されていたのですーー」

 ……って事はこの木箱に入っていたのは全てケルディアの所持品だったと言うことか。そして手紙の内容から察するに俺はこれらを託されたと言う事か。
 もしかしたら、ウンディーネに聞けば俺たちが知らないケルディアの事が色々聞けるかもしれない。

「なぁウンディーネ、俺たちはケルディアさんの事をよく知らないんだけど。頼む、君たちがここに入れられる事になった所まで教えて欲しい」

 俺がそう頼むとウンディーネは思い出したかのように続けた。

「ああーー!! そうだった!! ご主人様から次のご主人様にことの経緯を説明するのですよって言われておりました!!」

 ウンディーネは一度咳払いをすると話を始めた。

「ケルディア様は大神官で素晴らしい力を持っていました。女王でありながらも仲間の皆さんを癒す為に戦場へと赴き、一緒に戦っておりました。勿論、私達もご主人様の力になる為に頑張ってたんだけど、ある日突然ご主人様は急に元気が無くなってしまったのです。陰で見守っておりましたが、部屋で何か色々書いていたのです。そして突然言われたのです。次の召喚者が私たちのご主人様になるからねって。その後は箱に詰められてからは記憶にないのーー」

 ノームは隣でしょんぼりとした様子で頭を下げていた。

「あ、でも最後に聞こえたご主人様の声だけは覚えてるの」

「それはなんだい?」

「『私の思いを貴方に託します』って」

 その言葉を聞いた時、俺は思わずはっとした。
 この箱に詰められていたのはケルディアの所持品だけではない。この中には彼女の想い、未練、そして願いも入っていたのだ。その時、できなかった使命をこの装備と彼女達を俺に託したのだ。

「ウンディーネ、マスターと私達は大事な使命を背負っております。恐らく……いえ、確実に貴女達のマスターに関係のある事です。ですから私達と共にマスターの協力をして頂けますか?」

 シルフがウンディーネとノームに頭を下げる。
 2人はきょとんとした顔を見合わせた後、お互いが頷いた。

「勿論ですーー、私達を召喚できた時点で素質ありなのです! それにケルディア様からの約束もあるのですから勿論協力するですよーー」

「む!」

 ノームは俺達に向けてサムズアップをしてみせた。

「ありがとう2人とも!」

 こうして、新たなる精霊ウンディーネとノームが仲間に加わった。ノームは持っていた杖を俺へと差し渡す。
 俺が杖を持つとかなりズッシリとした重みのある杖だった。
 持った瞬間、自分の潜在能力が引き出されている様な不思議な気持ちになった。これが【大名医】の能力か……
 見ててくれ、ケルディア。貴女の想いは俺が受け継いだ!

 精霊達が石の中へと戻ると共に、再び奈落ノ深淵が動きを見せた。前を向くと行き止まりだった道に道ができていた。

 これも貴女の想いか、ケルディア。

「わ!? 道ができてるぅ!?」

 ルミナが頬に両手を当て驚く。

「みんな、進もう」

 俺は声をかけ、再び俺達は歩き出す。

 どうか、俺たちを無事に導いてくれよ。

 そう願いながら、松明の光を新たな道へとかざした。
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