雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎

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最終章 奈落ノ深淵編

第134話 数にはデカさをぶつけてやれ

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 フール達がバルバドスの国を脱出してから数時間、荷馬車を全力疾走させていた。
 荷馬車に乗る者達はいつも以上にけたたましく揺れる馬車から、フールの焦燥感が伝わってくる。
 これほど激しく馬を走らせているフールを見たことが無い。しかし、全員がフールの気持ちと同じだった。
 急がなければ、世界を、大切な仲間を失ってしまう。フール達に与えられた使命はとても責任が重い。
 それでも、約束してきた者達を裏切るようなことは出来ない。
 フールの手綱を握る力が強まる。近道の為に整備されていない森を無理矢理草木を掻き分けながら進んでいく。ようやく森を抜けた時、視界には巨大な溝が現れる。
 フール慌てて馬の進む軌道を変え、ギリギリのところで溝に落ちることはなかった。溝の向こうには巨大な大穴が見える。

「あれだ!」

 フールが声を上げる。遂に奈落ノ深淵付近に辿り着いた。しかし、その溝を辿った先を見て思わず馬を止めた。
 急ブレーキによって荷馬車の中にいた者たちが宙を舞う。

「フールさん! 急ブレーキはダメですよぉ!!」

 ルミナが荷馬車の窓から顔出して膨れっ面を見せた。
 その時、窓の外を見たことによってフールがどうして馬を止めたのか、ルミナは理解する。奈落ノ深淵に唯一繋がる石橋が大勢のバルバドス軍によって封鎖されているのを見る。

「嘘、何よあの数!?」

 ルミナは堪らず、首を引っ込めると荷馬車から降りた。ルミナに続いてゾロゾロと仲間達が荷馬車から降りてくる。

「バルバドスは国の兵力の殆どを奈落ノ深淵の防衛に回したのね。通りで国に残った残党の数が少なかった訳か」

 冷静に判断するシュリンと反対にアルはオロオロと怯えている。

「で、でもあんなにいっぱい人が居たら私達捕まっちゃうよぉ……」

 肩を落とし、耳も尻尾も力なく垂れてしまったアルの方をポンッとイルが置いた。

「大丈夫」

「え?」

 イルは目を光らせながアルを見つめる。

「お姉ちゃんの力で蹴散らそう!」

 イルの言葉を聞いてアルは驚き、毛が逆立った。
 イル……逞しくなったな本当に。

「ええ!? イルからそんな物騒な言葉が出るなんて思わなかった!! けど……」

 アルは少し考えた後、目を丸くして耳と尻尾が立つ。

「それ悪くないかも!! ねぇねぇフール! イルの言う通り、私の力でお父さんを呼び出せば、あそこにいるみんなが恐れてもしかしたら道をあけてくれるかもしれないよ!!」

 アルの目も輝きだし、俺の右腕の袖をつかんで尻尾を振りながら目を合わせてきた。それに合わせてイルも左手を掴んで目を輝かせながら俺に訴えてきた。
 本当にこの2人はあの一件で色々成長したんだなとしみじみ思った。だが、2人の成長を呑気に感動してる場合ではない。
 改めて2人の提案を冷静に考えてみる。アルの四神能力を使用して前のような竜を生み出せば戦えるかもしれない。しかし、その作戦が上手くいくかは分からない。

「みんなはどう思う?」

 俺は皆にも意見を伺うことにした。

「それ良いアイデアじゃなーーい!! あんなに人が居たらどうすることもできないんだし、アルちゃんの能力で道を切り開きましょ♪」

「わ、私も賛成です! 明らかに多勢に無勢です」

「オイラも賛成だぞ!! 数にはデカさをぶつけてやるんだぞ!!」

 ルミナとソレーヌに加えてパトラは乗り気な様子だった。
 俺は恐る恐るシュリンの方を向いた。やはりシュリンは呆れた様に溜息を吐くがその後、下がっていた口角が上がった。

「本当クールじゃないけど、それくらい派手な方が良いかもしれないわね」

 どうやらシュリンも賛成している様子だった。
 シュリンも賛成するならと俺は頷き、アルとイルを見て笑顔で示した。

「よし、じゃあやってみるか。アル、行けそうか?」

 俺の言葉に2人は花が開いた様な笑顔を見せ、2人でハイタッチをした。


 ☆☆☆☆☆


 一方、奈落ノ石橋の入り口では綺麗に整列する騎士や冒険者達の間をニコニコと笑顔を振りまきながら歩き回るレヴィ―アの姿があった。

「うんうん♪ みんな誰も来ないのにしっかり整列しててえらいえらい♪ ゼーブたんもみんなみたいにしっかりしなきゃダメだよ?」

 レヴィ―アが視界を下げると自分の背丈と同じくらいの抱き枕を片手で持ちながら大きな欠伸をするベルゼーブがいる。

「はーーい……」

 ベルゼーブは気だるげそうな返事をして、千鳥足で歩く。彼女は寝ぼけ眼で目を擦りながら、周りの監視をしているが10歩に1回、意識を失いかける。そんなベルゼーブの様子を見てレヴィ―アが近づくとベルゼーブの手をぎゅっと握りながら歩き始めた。さながら、姉と妹と言われてもおかしくない。

「もう、危ないよゼーブたん! やっぱりゼーブたんは私が居ないとダメなんだから♡ ほら私の手、握って歩こうねーー♪」

「うーーん……んっ!?」

 ベルゼーブは寝ぼけ眼を急に見開くとレヴィ―アの手を振り払うと、頬を赤く膨らませてレヴィ―アを睨みつける。

「子ども扱いしないで」

「子供扱いなんてしてないよぉーー! ゼーブたん可愛いから甘やかしたくなっちゃうんだよねーー♪」

 レヴィ―アは膨らんだベルゼーブの頬を突いて空気を抜かせる。ぷしゅーーと言う擬音が似合うように口から空気が抜けたベルゼーブの頬を両手で優しく掴んでムニムニと遊び始めた。

「あはは! ゼーブたんもちもちーー」

「やーーめーーろーー」

 戦闘準備で整列しているピリピリとした周囲の様子とは裏腹に遊び半分な様子でいる2人の後ろから歩いてくる影があった。

「2人とも、遊びに来たわけではないのですけど」

 2人が振り向いた先には濃い緑色の髪をなびかせながら、自信の背丈と同等の大杖を持ちながらズルズルと蛇の尾を使ってこちらへとやってくるロノウェーザが居た。
 ロノウェーザはこの全ての防衛線の軍事的指揮を任されている。恐らく見回りの為にやって来たのだろう。

「ロノたんやっほーー! 勿論、遊びに来てるとは思ってないから安心してねん」

 レヴィ―アは舌を出しながらウィンクをする。ちゃらちゃらとするレヴィ―アを含めた四大天達の態度に、以前からロノウェーザは少し苛立っていた。
 それに、今回の任務は自身の汚名返上の為にも必ずミスをしてはならない重大なことであるため、ロノウェーザ自身も大きな責任感とプレッシャーに襲われていた。
 今、重大な任務に対して一切の真剣さを感じられていない2人の姿を見て、内なる血液が煮えたぎりそうになる。しかし、そんな精神の乱れによって感情的になってしまえば大きなミスをしかねない。
 これ以上ミスが許されないロノウェーザは深呼吸をしながら、自信の血液を冷ましてから会話を始めた。

「今回の目的の殆どはバルバドス様に掛かっている。私たちの任務はその重大な目的を支えるために入口ここを守ること。失敗は許されないの。だから、少しは真面目にやってもらいたいわ」

 鋭い目つきをレヴィ―アに向けてロノウェーザが言うと、さっきまでキラキラの笑顔だったレヴィ―アの顔は真顔になった後、ニタリと気味の悪い笑みへと変わった。

「大丈夫、大丈夫。私たち、超強いから」

 レヴィ―アの目を見た、ロノウェーザは背筋が凍りつく。一体何を考えているのか、良くわからない事ほど嫌なものは無い。
 四大天のについてはベールに隠されており、思考も力も良く分からないのも相まって気味の悪い存在でもある。
 魔人六柱でさえも四大天の事はあまり知らない。知っているのはバルバドスと四大天達のみである。もし、私たちと協力関係ではなかったらと思うだけでロノウェーザはめまいがするだろう。
 ロノウェーザはこれ以上は関わるまいと、見回りを続けようとした時だった。周囲の雑兵たちがざわつき始めていた。

「お、おい! 何かがこっちへ来るぞ!!」

 1人の冒険者が大声を挙げて知らせる。

「さてさて、到頭、来たみたいじゃないかしら?」

「お昼寝できなかった」

「終わったら沢山寝ていいからねゼーブたん」

「ういぃ~~」

 ロノウェーザは報告が行われた方向を向くと、この広大な土地の向こう側から巨大な影がこちらへ向かってきているのが見えた。
 目を凝らしてみると、その巨大な影は体全体が土の色をした、二足歩行のドラゴンだった。

土砂竜アースドラゴンか? それにしては大きすぎる」

「いや、違うわ。恐らくだけど、大地巨竜ガイアドラゴンの模倣ね。さて、そろそろ指揮した方が良いんじゃない? もうそこまで来てるけど?」

 竜は止まらずに猪突猛進の勢いで段々と近づいてい来る。眼前の竜頭に数人の人影が見えるほどに近づいていた。
 その人影の正体をロノウェーザははっきりと確認できた。

「等々来たか、忌々しき回復術士の一行共が! 迎え撃つぞ! 魔法を使える者は魔法行使の準備を! 弓士は矢を放て!!」

 迅速に周りへ指示をし、交戦体勢を取り始める。

「エリゴース!!」

 ロノウェーザの一声に瞬時に黒曜の金属鎧を身に纏ったエリゴースが現れる。

「貴方の力で竜の進行を止めるのです」

 ロノウェーザの指示にただ首を縦に振ると兵たちを掻き分けて、先頭へと出る。そして、グレートソードを抜いて構えた。

 そして、竜頭の上に乗っている俺たちも戦闘態勢を構えた。

「さぁ!! 行っくぞーー!!」

 アルの一声で竜の走る勢いが上がった。アルの作った大地の竜は咆哮を上げ、石橋を守る軍団へと突進していった。
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