雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎

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最終章 奈落ノ深淵編

第117話 隠された安息所

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 俺たちはエミーリアの歩く後ろをついていく。エミーリアは地図を見ることなくこの広大で入り組んだ地下水道の中を歩む。まるで、地下の構造を熟知しているようだった。

「ここですわ」

 止まった場所は道の途中にある鉄格子の扉だった。エミーリアが修道服の袖から鍵束を取り出し、1本の鍵を差し込むと扉が開いた。扉の先はさらに地下へと続く階段になっており、地下には開が広がっている。
 俺たちは入るのを躊躇ったが、エミーリアは笑顔で降りていく。

「大丈夫です、危険なものはありません」

 俺の方を見て、ほほ笑むエミーリア。
 俺たちは顔を見合わせて、覚悟を決めると地下のさらに下へと進む道を歩んだ。
 深い、深い下り階段を降りると一本道が続いている。勿論、松明の明かり以外の光源はない。
 重い足取りでエミーリアについていくと鉄の扉に出くわした。
 エミーリアは鍵束の中の別の鍵を差し込むとの錠が解かれる音が鳴る。

「ようこそ、隠された安息所ハーミットヘイヴンへ」

 その音楽と共に扉が開かれるとそこには想像もしていなかった光景を目の当たりにした。
 人間や人族の子供が修道女達と楽しそうに遊んでいるのだ。
 松明の灯りが神々しく輝いており、ここへ至るまでのギャップがより一層驚きを大きくさせた。

「エ、エミーリア様!? その者達は一体!?」

 1人の修道女が子供たちを背に隠し、俺たちを見て警戒していた。

「安心して。この方は私を助けてくれた方々よ。勿論、悪意がないことは確認してあるから」

 エミーリアがなだめると、修道女は少しだけ警戒を解くような素振りを見せるが、あまり良い顔はしていなかった。

「ごめんなさい。気にしないで、さあこちらへ」

 エミーリアについていくと別の部屋へと入った。
 そこには5つのベッドに対して数十人の負傷した者、せき込む子供。生きているのかどうかも怪しい寝たきりの者がいた。その大人数の患者を数人の修道女が看病している。
 さらに、驚いた事にここにいる患者全員が獣人族なのだ。

「ここでは、地上で生活することが困難な者たちを引き入れて、無償でお世話をしたり、治療を行ったりしております。さっきの子供たちは親に捨てられ属所を無くした孤児たちです。そして今いるここはお金がなく正規の病院で治療を受けられないもの達をお世話する治療場です。ですが、私たち修道女ができることは少しだけこの世で生きる時間を延ばしてあげられることのみです。病気を完全に治療することはできません。専門家ではないので」

 周りを見ていて、心が痛くなる光景だった。ここにいるものは最終的には救われることはない残酷な結末を迎えることになってしまうのだ。それを分かっていても助けようとする修道女達を思うと、とても悲しい。
 治療場を通過し、更に奥の部屋へと入った。
 そこは簡単に敷物が敷かれ、周りには食料などを入れておく棚や木箱がんでいる場所へとやってきた。壁には教会らしく十字架が飾られている。

「ここは修道女達が休憩する部屋です。お客様をおもてなしするにはふさわしくない場所ですがお許しください。お好きなところにお座りください」。

 俺たちは各々座ると、エミーリアは俺たちの前に乾燥した豆を木の皿に乗せて出してくれた。

「これしか差し出せないことをお許しください」

「いやいや、お構いなく。それよりもエミーリアさん達はどうしてここに居て、このような事を?」

「言ったではないですか、私たちは訳ありなのです」

「その、訳ありというのは?」

 エミーリアは一息置いたあとに、話を始めた。

「私がまだ幼かった10年前の話です。私たちは元々バルバドスの国の城下町の教会で活動する修道女でした。その教会の院長であった方には特別な力があり、迷える者たちを救う力
 あると言われ、教会へ訪れる方々が多かったのです。ところがある日、突然城の方々が現れて、私達を取り押さえると言い出したのです」

「なんだと」

「その時、院長は私たちをかばって1人、城へ連行されてしまったのです」

 話をしていくうちに穏やかな口調のエミーリアに段々と力がこもってくる。

「ですが、ある時……」

 話の途中でエミーリアの目から涙がこぼれる。

「言いたくなければ言わなくていい」

「……ごめんなさい」

 袖で涙を拭い、目線を俺に向けた。

「少し時間が経ったのですがその時、まるで一部分の記憶がぽっかりと空いたような感覚になったのです。何か大事なことを忘れている気がしたのです。そう思っていた時、教会に大きな木箱が届いたのです。誰が送ってきたのかわからぬまま、その木箱を開けたら……」

 エミーリアは前を手で渡う。

「四肢を切り落とされた院長が入っていたのです!!」

 その話のオチにこの空間に居た者たち誰しもが絶句し、時間が停止したかのように固まった。

「そして、その中には手紙も入っていました。『特別とは我が国に反する行いた。こうなりたくなければ余計な行動を禁じろ』と」

「なんてことだ……」

「それから、私たちはすぐに国から出ました。しかし、行くあてのなかった私たちは誰も便用していない地下水道の一角で、私が副院長として教会を新たに作りました。院長を隠す為に」

「院長は生きているのか」

「幸い、私たちの応急処置で息はしています。ただ、四肢の切断によるダメージによって、脳に多大なストレス負荷がかかっているのか寝たきり状態です。院長は奥の部屋にいらっしゃいます」

「医者や高等な医術が使えるものは呼ばなかったのか、高等な回復術士、いや大神官などは?」

「そのような高等な医術者を雇うには多額のお金がかかります。それに考えてみてください。を持つ者などいるはずがありません。1日で1部分を再生させ、毎日少しずつ脳の回復を行う魔法を長期に渡ってかけ続けるのが現実的です。ですが、そんなお金、貴族でも払うことは難しい額でしょう。最悪、治療ミスが起きれば院長は死んでしまいます」

 金段的な問題、それはこの教会内で最も深刻なことだろう。
 これだけの人々を無償で助けていることだけでもコストがかかるのだから当然のことだ。
 となると、この教会の収入や食料の確保はどうしているのだろうか?

「収入はどうなっているんだ。食料はどうやって確保している?」

「収入は私たちが城下町に居た際に教会に通ってくれていた方々が恵んでくださるのです。あなた方も生活があるのだからと断るのですけど、受け取ってほしいと言われ、有難くいただいております。食料は先ほどのように月に1度、私が町に出て、食料を購入してきます。ですが、今回は怪物に襲われた時、籠を下水に落としてしまったのです」

 俺たちが出会ったときはその買い出しの帰りだったというわけか。

 あともう一つ、ここに来た時、ある違和感があった。

「あと1つだけ聞きたい、何でここ居る者の大半が獣人なんだ?」

「......もし、あの方々を地上に放置したら、城に連れて行かれてしまうからです。理由は分かりませんが、重病を持つ獣人や身寄りのない孤児はバルバドスの命によって城へ運ばれ、そのままウッサゴへと連行されると聞きました。ウッサゴからへ行ってしまったものはニ度と帰ってくることはないみたいです」

 これは恐らくフェルメルの人体実験の話だ。病気や必要とされない子供を使えばコストを掛けずに実験台を集めることができたってことか。
 なんて胸糞が悪い。

「それに私も獣人なんです」

 そう言ってエミーリアがかぶっていたウィンプルを外す。
 ウィンプルの下にはきれいな長い水色の髪に可愛らしい小さな犬のような耳が付いていた。

「ここにいる修道女の中で獣人は私だけですけど、同じ種族ですし、何とかして助けたくって」

 そう言う彼女の握りしめていた手が震えていた。その震えは本気の表れだ。
 何だろう、この旅を始めてから獣人が不遇の扱いでならない。どうして、ここまで差別を受けなくてはならないのだろう。どうして、世界はこういった悲しんでいる者たちに手を差し伸べないのだろう。そう考えれば考えるほどセシリアの事が頭に浮かぶ。
 この時、セシリアはいつもなんて言うだろうか?
 頭の中でセシリアが俺に言う。

(フール! あなたの力があれば治してあげられるじゃない!ねぇ! やってあげましょうよ! こんな悲しいこと見過ごせないわよ!)

 俺は思わず、吹き出してしまう。

「ああ、そうだな」

 もし、あいつが今ここにいたら、絶対にそう言うだろう。

「あ、ご、ごめんなさい。お礼をするはずが私たちの話でお時間を奪ってしまいましたね……」

「エミーリアさん」

 旅をしてきて分かった。

「はい?」

 俺の力の意味を。

「俺でよければ、やりますよ。院長の治療」

 俺の力は。

「へ?」

 他者を助ける為にある。
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