雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎

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第3章 商都地変編

幕間 魔人六柱~スレイマン~

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 フール達がセシリアを求めて新たな旅に出かける数時間前、ここバルバドスの国の象徴とも言えるバルバドス城の最上階にて、夜の明るい城下町の街並みを見下ろす黒い影が居た。
 椅子に座り、ペットである魔兎アルミラージの子供を膝に乗せて可愛がる大柄の男。灰色寄りの黒色、長髪、片眼が傷によって塞がれている隻眼の男こそ、この国の王であるバルバドスであった。
 バルバドスはこの国の景色を眺めるのが好きだ。この国はどの国よりも栄えており、正にソローモ世界を代表する国とも言える。それに伴い人口も多く、経済力、国内生産量は高いため様々な国との交易が盛んである。そんなのような国を眺めることは国王として全く違和感はない。
 そんな穏やかそうな国の裏側がどす黒い物だとは国民は誰も思ってはいないだろう。それを考えるだけでバルバドスの笑みはこぼれるばかりである。

「またお外を見て微笑んでいらっしゃって、今度は何を考えているのかしら?」

 バルバドスの横で編み物をする女性がいた。しかし、その女性は普通の人間では無い。人間の腕とは別に横から細い、まるで蜘蛛の足のような物が複数着いており、それを使って器用に編んでいるのだ。また、使っている良いとは自身の指先から出ているものを使っている。紫色の編み込まれたサイドテールの髪に黄色い目した妖美な女の名は”蜘蛛ノ女王アラクネー”ウィーンドールである。

「気にするな、いつもの笑いだ。お前はまた編み物か」

「うっふふ、ええ、私の可愛い可愛いマルルクちゃんに着せたいお洋服を作っているのです」

 ウィーンドールは鼻歌を奏でながら、さくさくと服を編んでいく。出来上がる服はフリルが着いた可愛らしいゴシックな服ばかりであった。そんなウィーンドールの様子を見て、溜息を吐く者が1人居た。部屋の隅で腕を組んで壁により掛かっている獣人の女である。服は最小限の軽装で筋肉質な身体、髪は長い藍色のウルフヘアに尖った耳、藍色の尻尾を揺らし、6つに割れた腹筋が色っぽいその女は”餓狼ノ女王フェンリル”ノンナだ。

「ノンナちゃんも着てみるかしらぁ~~?」

「……」

「あ、でもサイズが合わないわねぇ~~ノンナちゃん筋肉質で身体大きいし」

「……デリカシーのかけらも無いな」

「ノンナちゃんもこちらにいらっしゃい? そんな隅っこに居て寂しくない? お姉さんが良い子良い子してあげますよ?」

「行かない、なでなでもいらない」

「もう、素直じゃ無いんだから」

「……はぁ」

 ノンナは呆れたような溜息を吐いた。それを見たバルバドスが大きく笑い出す。

「お前達は、本当に仲が良いみたいだな」

「ええ♪ とっても♪」
「ないから」

 そう3人が話している時、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。現れたのはびしょ濡れのロノウェーザとエリゴースだった。そして、青い顔をしたロノウェーザは雪崩れるようにバルバドスの元へ駆け込みそのまま跪いた。エリゴースも後に続いてゆっくりではあるがバルバドスに跪く。

「も、申し訳ございませんバルバドス様!! 私達としたことが虫数匹を駆除するのに失敗してしまいました!! お恥ずかしくも何も得られずに帰還してしまった事をお許しください!!」

 ロノウェーザの言葉に先ほどまで笑っていたバルバドスの表情が一変する。

「顔を上げろロノウェーザ。いつも言っているだろう。結果話したら直ぐに経緯を説明しろと」

「は、はい! 私共……私、エリゴース、そしてダンドリオンの3人で玄武の確保の命を受け向かいました。しかし、私とエリゴースが向かったときには先に玄武を追う者がおりまして、エリゴースと私で排除を試みたのですが、その……失敗してしまいました」

「お前達の身体が濡れているのはなぜだ?」

「こ、これは敵の能力によって私とエリゴースは光に包まれ、気がついたら地下水道に落とされていたのです」

「相手の情報は分かるか?」

「聖騎士協会ウッサゴ支部第1大隊長ウォルターです……」

 その名を聞いて、バルバドスの目元がぴくっと動いた。

「なるほど、等々奴らが動き始めた、と言うことか」

 バルバドスは椅子から立ち上がりアルミラージを離すと1人で飼育用ケージの中に戻っていく。
 ゆっくりとロノウェーザとエリゴースの背後に歩み寄る。

「ダンドリオンはどうしたというのだ?」

「逸れてしまい、消息不明です」

「ふむ……」

 緊張感が部屋中に漂う中、高い声が急に部屋に響く。

「ダンドリオンは死んだですよ」

 部屋の隅の暗闇から出て来たのは腹を抱えたマルルクだった。マルルクのお腹には簡単に包帯が巻かれているが、急いで来たのか包帯が取れかかっている。

「帰還したか、マルルクよ」

 マルルクはすぐにバルバドスの元へと向かい、そのまま跪く。

「マルルク、ただいま帰還しましたです」

「ダ、ダンドリオンが死んだってどういうこと!?」

 マルルクの言葉に向けて、ロノウェーザが叱咤した。その目は焦りと恐れで視界が震え、額から汗が垂れる。

「マルルク、報告をしろ」

「ダンドリオン様の命のついでに、ビフロンス湿地へ向かった3人のバックアップ、および監視を行っていたです。3人を【生命探知】で遠くで見ていたところ、2名が急に探知外となり、もう1名は生命反応が消えたです。つまり、ダンドリオンがここに居ないと言う事は真だと言うことになるです。そして、ダンドリオンが命を絶って数分に玄武の力が覚醒し、ウッサゴのフェルメルが城ごと壊滅したのを見たです」

 話を聞いたロノウェーザは力なくその場にうなだれる。ロノウェーザは自分のミスでダンドリオンを殺したと思った。
 ああ、このままではマルルクによって自分の失態がどんどん明るみになってしまう。急いで止めなくては、と思うロノウェーザの手は届くことはない。
 手を振り払うようにマルルクは淡々と続きを話す。

「ですが、僕が何とか軌道修正してきたです。僕の本命であったセシリアをここへ連れてくることは成功したです。しかし、彼女は僕に与えられた情報よりも強くなっていて、お腹を切り裂かれて死にかけたですよ。セシリアは地下牢に閉じ込めておいたです」

「……そうか、セシリアを連れて来れたか。少々難しい命令だとは思っていたが、お前ならできると思っていたぞマルルク」

 そう言いながらバルバドスはマルルクの頭を優しく撫でた。

「はうぅ♡ 仰せのままにです♡」

 うっとりとするマルルクとは裏腹に下あごをがたがたと揺らし、恐怖に慄くロノウェーザは顔を上げることができなかった。隣にいるエリゴースは何も話さず、動じない。
 撫でる手を止めて、バルバドスは後ろの2人へ顔を向ける。

「……ロノウェーザ、エリゴース。今回の件は不問としてやる」

 その言葉を聞いた瞬間、ロノウェーザに乗っていた重圧が消え、笑みがこぼれる。

「バ、バルバドス様……ぐぅっ!?」

 突然、ロノウェーザが胸を押さえてくるしみだす。隣りに居たエリゴースも首元を抑えながらもだえ苦しみ始める。
 2人の背中には鳥を模した刻印が浮かび上がり、それが光を発していた。

「だが、次は無いと思え。1つのミスが私に大きな不利益を被る時もあると言う事を肝に銘じておけ」

「ああ……お許しください! お許しください! 次こそは、か、必ず失敗しません。で、ですから、ですからぁそれだけわぁ……」

 苦しみもだえながら懇願し、床をのたうち回る姿をバルバドスは静かに笑っていた。
 そして、刻印が消えると2人は一気に苦しみから解放され、ロノウェーザの額からは脂汗が大量に流れ出る。
 2人はまた、自分がバルバドスという主人の鎖につながれたペットだという事を改めて分からされた。
 2人が倒れている横を通り、部屋の扉の前へと向かう。

「あら? バルバドス様、どちらに向かわれるのですか?」

 ウィーンドールはにっこり笑顔で聞く。

「会議をする。ノンナ、四大天を集めろ」

「……ん」

 命令されたノンナは霜降りががかった冷気を辺りに充満させると、影の中へと入って消えた。

「お前達も参加しろ」

 こうして、バルバドスの命令によって部下達が集まる天魔会議が始まることとなった。
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