雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎

文字の大きさ
上 下
113 / 160
第3章 商都地変編

第109話 ヒーラー、バルバドスの国へ

しおりを挟む
 演説が終わり、協会内へと戻ってきたウォルターは早速、次なる行動のために資料をまとめていた。
 資料というのはこれからウォルター達の大きな壁になるであろう、聖騎士協会の最上位騎士長を除く4人の最上位騎士、通称”四大天ケルビム”についての情報である。
 ウォルターはアイギスが煎れてくれた紅茶のカップを持ちながらその資料を眺めていた。
 四大天はその名の通り、強力な力を持った4人の騎士の事である。
 他人の精神を自在に操る状態異常の使い手”慈悲無き天使アポミュイオス”ヴェルゼーブ、巨大な大蛇に変身する”渦巻いた天使メルビル”レヴィーア、痛みを快楽に力を貪る”色欲の天使アエーシェマ”アスモディー、そして騎士団筆頭”悪魔なる天使フォールンエンジェル”バルベリットの4人である。
 最上位騎士長のバルバドスが聖騎士協会内で直属の配下としてる最強の騎士である。4人はバルバドスの国内の聖騎士中央協会に居るため、常にバルバドスの近くに居るのだ。近くに居ればバルバドスの命令を直接受ける事が出来るし、バルバドスの護衛も行う事ができる。
 また、バルバドスの側近に居るのは四大天だけではない。バルバドスの配下には精鋭の魔人集団”魔人六柱スレイマン”もいるのだ。戦力的に真っ正面に向かっても返り討ちどころか、我が軍及びパーティは壊滅させられてしまうだろう。
 それほど勝ち目の無い戦いに、勝利を見いだすためウォルターは真剣に情報収集を行っているだ。

「ウォルター様、そんなに仕事ばかりでは身体に毒ですよ? こちら、街の方から頂いたお菓子よ。一緒に食べましょう?」

 突然アイギスが資料の上に白い皿を乗せる。皿には可愛らしい形をした可愛らしいお菓子が乗っていた。

「……」

 しかし、ウォルターはそれを無視して資料を眺める事をやめなかった。そんなウォルターを見て、アイギスは大きな溜息を吐くと資料が並ぶウォルターの机の上にそのムチムチとしたお尻を乗せた。

「疲労は”毒治癒ポイズンヒール”では治らないわよ?」

「はぁ……アイギス、邪魔をしないでくれないか?」

「いやよ。だって、邪魔しないと永遠に仕事するでしょ? 昨日の夜も仕事して、寝てないの分かってるんだから」

 アイギスの言うとおり、ウォルターは仕事続きで身体を休める時間を与えていなかった。自分の休憩時間、休み時間を全て犠牲にして騎士団としての仕事及び情報収集を行っていたのだ。勿論、自称愛人のアイギスはそれを見落とさないはずが無い。

「ねぇウォルター? 大きな戦いに向けての準備はしなきゃいけないのかもしれないのだけど、身体も休ませないと……戦いが始まる前から倒れてしまうわよ?」

 アイギスはウォルターへ心配の眼差しを向けた。これがアイギスのウォルターに対する優しさだというのは長い間、一緒に居たウォルターでも分かっていた。この優しさに助けられた事は何度もあったが、今回ばかりはアイギスの提案を承諾することをためらってしまう。
 しかし、自分の体調管理すらできずにいたら折角団結したウッサゴの民達を統率する事など出来るだろうか? それは先導者としてあるまじき姿なのだろうか? そんな考えがウォルター頭によぎった。
 気持ちが葛藤している時にアイギスがそっとウォルターの手元にティーカップを寄せた。

「言ってくれれば私達何でもするから」

 ウォルターは観念したかのように溜息を吐いた。

「一杯だけだ。一杯だけ飲んだらお前にも仕事を手伝って貰うからな」

「うふふ♪ 分かりました♪」

 ウォルターは持っていた資料を机に置き、代わりに紅茶が入ったティーカップ手に取って口に運ぼうとした瞬間、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。

「フールか。どうしたんだ?」

「セシリアが、攫われた」

「何だって?」

 アイギスは慌てて立ち上がり、俺を座らせるための椅子を差し出そうとするがそれを制止しつつウォルターの前に立った。

「夜からセシリアの姿が見当たらなくて、あんたの演説を聴いた後、街外れの草むらにセシリアの刀が落ちていたんだ。それと魔方陣の後もあった。恐らく転移魔法の類いだと思う。これをやれる奴の心当たりとかあるか?」

「すまない、その情報だけでは個人を特定することは不可能だ。しかし、あの騒動から直ぐにセシリアが攫われたとなると偶然では無いかも知れない。考えられるのは……魔人」

「やっぱり、あんたもそう思うか。このタイミングで俺たちの仲間に手をかけようとする奴はやつしか考えられない。だから、俺は行こうと思う。バルバドスの国へ」

 俺の言葉にアイギスの顔が強ばる。アイギスは慌てたようにウォルターの顔を見る。

「ウォルター! いくら何でも指名手配のパーティが大ボスの下へそのまま行くだなんて!!」

 ウォルターは少し考えるような素振りを見せた後、口を開いた。

「確かに、馬鹿正直に正面から入っても直ぐに見つかって、牢屋に送られるだろうな」

 もしかすると、俺の考えが却下されるかと思った。

「1つ提案として、地下水道を通って国内へ侵入するという手段がある。バルバドスの国周辺に地下水道へ通じる入り口がある。そこから地下水道を通って国の中へ入れば潜入はできる。しかし、地下水道も安全とは限らない。近年は水性生物が住み着いていることもある。だが、捕まるよりはましだろう?」

「地下から入って出る所はどこだ?」

「城の裏側だ」

「ありがとう、じゃあそれで行こう」

「ならば、これを渡しておく」

 ウォルターは俺に小さなスクロールと俺のパーティ人数分の黒マントを差し出した。

「地下水道の地図と顔を隠すためのマントだ。それさえあれば何とかなるだろう。これくらいしかバックアップできないが、検討を祈る」

「十分さ。ありがとう」

 俺はウォルターからそれらを受け取ると早々と部屋を後にした。

「良かったの? 行かせても」

「彼は止めても勝手に行ってしまうだろう。なら、せめて手助けをしなくては」

 ウォルターは冷め切ったティーカップの紅茶を改めて飲んだ。



 早々と皆のいる部屋へと戻ってくると、全員が準備が完了している状態だった。その中にはアルとイルもいた。

「みんな早速だけど出発するぞ!」

「セシリー奪還作戦開始です!!」
「みんな! 頑張りましょう!!」
「おう! まかせとけい!!」

 3人の後に続いてアルとイルも返事をする。

「私達も負けずに頑張る!!」
「……頑張る!」

 全員の身支度と心構えが整い、外へと出ると、預けていた荷馬車が出ていた。そこにはシュリンもいたのだ。

「シュリン?」

「……行くんでしょ? バルバドスの国へ」

 シュリンは荷馬車にもたれかかる。

「一緒に来てくれるのか?」

「ビフロンス湿地へ向かった時、彼の気配は確かにあったの。でも、見つけられなかった。別に、仲間になりたい訳じゃないけど、貴方に着いて行けば、ダレンに出会えると思ってね」

「とか何とか言って方向音痴で国に行けるか分からないから着いて行くんでしょーー!!」

 ルミナが横からそう言うと、顔を赤くして俺に叱咤する。

「で! どうするの! 私を連れてくの!?」

「勿論だ、改めてよろしく頼むシュリン」

「……」


 シュリンは無言で荷馬車へと乗り込む。
 仲間全員が荷馬車の後ろへ乗り込み、俺とパトラは馬を操る手綱を握った。

「じゃあ行ってくる!」

 荷馬車を連れてきてくれた兵士が俺へと敬礼する。
 そして、出発と同時にメリンダも外へと駆け出て来た。

「お母さん!!」
「ママ!!」

「2人とも!! 気を付けて行ってらっしゃーーい!! フールさん、そして皆さんもお気を付けてーー!!」

 メリンダが俺たちに向けて精一杯大きく手を振って見送ってくれた。俺たちが見えなくなる最後の最後まで。

「「いってきまーーす!!!!」」

 2人も大きく手を振って別れを告げた。俺たちにとっても、2人にとっても新たなる冒険が再び始まったのである。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜

妄想屋さん
ファンタジー
 最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。  彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、 「このパーティを抜けたい」  と、申し出る。  しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。  なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...