雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎

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第3章 商都地変編

第94話 死神退散

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「焦ってはいけませんよ、マスター」

「ああ、分かってるさ」

 俺とシルフ、そして周りの助けがあって溜まった、みんなの想いが籠ったこの魔力を俺の回復魔法魔法に乗せて放つ。

「癒しの強風よ、現世に彷徨うその亡霊を浄化したまえ……"完全治癒(パーフェクトヒール)"!」

 爽やかな緑色の風がゆっくりと生み出されていくと、それはいつも仲間達に靡く気持ちの良い癒しの風ではなかった。癒しの風が徐々に死神ノ鎌の周囲に漂うと、膨大な魔力が一気に風に注ぎ込まれる。それはもう風では無く竜巻だ。
 癒しが暴走し、浄化の竜巻が死神ノ鎌を包む。人にとってそれは傷を癒す神の息吹は奴にとっては浄化を促す神の天罰そのものだ。
 癒しの暴風によって過剰治癒を受けている死神ノ鎌は大きな苦しみの雄叫びを上げて部屋の中をのたうち回った。
 身体中に襲い掛かる激痛を死神ノ鎌は感じているのだ。

「やった! 効いてるわよ!」

 ルミナが手を叩いて飛び跳ねる。しかし、それに対をなしてウォルターは至って冷静だ。それどころか眉間に皺を寄せている。

「効いているが……あれだけでは倒せん……」

「え?」

「確かに回復魔法はアンデッド系の魔物に対して有効だが、奴のような強力なアンデッドには回復魔法のみでやつを倒すことはできない」

「そんな……じゃあどうすれば」

「核(コア)だ。フールの膨大な魔力を溜め込んで解き放った回復魔法ならやつは苦しみ、核を守る闇の衣が剥がれ、核が剥き出しになる、その時がチャンスだ。核を攻撃し、事だ」

 そう話していると、のたうち回る死神ノ鎌の身体に纏っていた黒い闇の衣から虹色の玉が顔から出てくるのが見えた。あれこそが死神ノ鎌の心臓部である核である。

「あれが核!? なら、急いで攻撃を……」

 ソレーヌが弓を弾こうとした時、ウォルターがそれを止めた。

「まだ話は終わっていない。やつは核が剥き出しになると、これまで以上に暴れ回るんだ」

 ウォルターの言葉と共に死神ノ鎌は耳に響くほどの奇声を吐きながら、鎌を持った腕を周囲に向けて大きく振り回す。
 まるで、自身の核を守る様に乱雑に振り回している。
 幸い、俺の回復魔法の威力が強力なお陰が、死神ノ鎌の動きを制御する事ができており、回復魔法の範囲内から外へ出る事はできないようだった。
 しかし、だからと言って奴の核を攻撃する隙が無い為、死神ノ鎌を倒す事もできない。正に停滞状態だ。
 この勢いに乗せて、俺の魔力を込め続ける事はできるがこのまま一生魔法を行使するなど現実的ではない。

「くっ……そ……!! しぶとい奴だ!!」

 一所懸命に魔法を行使し、敵と奮闘するフールをアルとイルが見ていた。

「フール……」

 イルが心配そうにフールの事を見守っている。それを隣にアルは固唾を飲んで見守るだけしかできない自分を情けなく感じた。

「フール……」

 隣でセシリアもフールの事を見守っていた。
 アルは死神ノ鎌を見る。死神ノ鎌は相変わらず動きが収まる様子などなく、一心不乱に鎌を振り回して暴れ回っていた。

 やっぱり……私は何も……

 そう思った時、ふと自分の短剣を見た。お父さんから貰った紅い宝石が埋め込まれた大切な短剣。
 アルは思い出す……イルと2人で盗賊に捕まった時、この短剣で錠を開けて抜け出した事を。

「違う……開けたんじゃない」

 アルはあの時の鍵の構造を思い出す。

「確かあの錠は……」

 その時、アルは一つの可能性を見出した。
 アルにとってそれは一か八かの事かも知れなかった。
 しかし、それでも今はその可能性に賭けるしかない。
 もしかしたら、自分にしかこの状況を打破することができないかもしれない。
 そう考えた時にはもうアルは立ち上がっていた。

「イル! この石人形であの攻撃を抑えられる!?」

「ええ!? 抑えられると思うけど……当たりどころが悪かったら壊れちゃうかも……」

「イル……お願い、私をあの虹色の玉の所まで運んで欲しいの」

 あるの言葉に1番驚いたのはセシリアだった。

「な……アルちゃんだめよ! 危険よ!」

「分かってる! でも……」

 アルは短剣を見つめた。

「色々みんなに迷惑掛けちゃって、私だけ何もできてない。イルも頑張ってるのに……もしこれが失敗しちゃったらごめんなさい。でも、私は試してみたい! みんなを救いたい! 力になりたい! だから……私の最後の我儘を聞いて欲しいの!!」

 アルの真剣な眼差しがセシリアの瞳に入ってきた。
 セシリアはその瞳から目を離すことが出来なかった。
 そのまっすぐな視線から、明らかにアルがはじめて出会った時よりも大きく成長した事を表した視線なのだ。
 もう、アルもイルも子供ではない。
 私たちと色々な経験をして気持ちが強くなったのだ。
 2人はもう、仲間なのだ。
 そう思った時、庇護の気持ちよりもアルの言葉を信じたいと思ったのだ。

「分かった……イルちゃん大丈夫そう?」

「が、頑張ってみる!」

「アルちゃん、私も全力でアルちゃんの事守るから」

 そう言って、セシリアはゆっくりと剣を構える。

「気をつけて、倒して!」

「……うん!」

「進んで! 石人形!」

 イルの掛け声と共に石人形は暴れ狂う死神ノ鎌へ向けて走り出す。
 石人形は鎌の刃を腕を使って止めた。
 石でできたその腕に流石に一撃必殺の鎌であろうと、刃が入らなければ意味はない。
 抑えられた事によって動きが弱まったその隙を突いて、アルを背中に乗せたセシリアが石人形の腕を伝って走りはじめる。

「な!? セシリア!?」

 フールが2人に気がつく。

「フール大丈夫! そのまま魔法を続けて!」

 セシリアはただそれだけを伝えて走る。

 自分の核が狙われている事を察した死神ノ鎌は止められた刃を抜き、その鎌の柄の部分で石人形の身体を強く突いて押し返した。
 石人形は押されて、大きく体勢を崩し、大きく転倒する。

「きゃあぁああ!!」

 吹き飛ばされたイルをウォルターがギリギリの所で受け止める。衝撃によってイルは気絶してしまった。

 崩れ行く石人形の腕からセシリアは大きく飛び上がる。
 そして、核が目前という所で鎌の刃がセシリアを襲った。

「!!」

 セシリアは咄嗟に剣で身を庇ったお陰で事なきを得たが、身体が吹き飛ばされ、核との距離が遠ざかっていく。
 しかし、それに合わせてアルはセシリアの肩を蹴って核に向かって飛んだ。

「アルちゃん!?」

 アルとセシリアの距離が離れていき、1人になったアルは短剣を引き抜く。

「私が……みんなを!!」

 しかし、大きく飛んだアルだったがあと数メートル核との距離が離れておりこのままでは攻撃が当てられなかった。
 そして、空中で身動きの取れないアルに向けて死神ノ鎌が容赦なく鎌を振った。

「あ……」

 アルが刃の方へ顔向ける。
 鎌はもう目前まで来ていた。
 この時、アルは恐怖、後悔、悲しみという恐怖が全て消えた。ゆっくりと時間が流れている様な感覚がアルに広がる。
 そして、ただ一言だけがあるの口から溢れた。

「お……父……さん……」

 その時、1つの大きな影があるの前に立ちはだかる。

「うぉおおおおおおおーーーー!!!!!!」

 アルの目の前に立ちはだかったのはあの玄武だった。
 玄武は大地を揺らし、地面を隆起させて壁を作ると死神ノ鎌の刃を弾き返した。地面に落ちそうになるアルの身体をもう一本の玄武の頭で受け止める。

「玄武……!」

「行けぇ!! やるんだ!! !!」

「……うん!!」

 玄武は更に大地を隆起させ、アルが進む核への道を生み出すとアルは直ぐにその道を走った。
 一心不乱に、例え息が苦しくてもその虹色の元凶へ向けて駆け走る。

「くーーらーーえぇえええええ!!!!!!!!!!!」

 そして、待ちに待った時間が訪れた。
 アルが突き立てた短剣が勢いよく核に突き刺さるとその瞬間、核全体に罅が入り、粉々に砕け散った。
 アルは地面に身体を強く打つが今のアルにとってそんな痛みはどうでもよかった。

 一方で核が壊された事で、呆然とただ項垂れているだけになった。

「たおした……の?」

 アルは呆けた顔をしながら玄武の顔を見る。
 玄武はアルの顔を見た後、周囲に目を向けた。
 それに合わせて、アルが周囲に目を向けると全員がアルに向けて暖かい目を向けてくれていた。 
 そして、アルはフールの方へと顔を向けた。
 フールは驚いた様子だったが直ぐに口元を緩ませた。
 フールはゆっくりと詠唱を取りやめる。

「私……私やっ……」

 アルが喜ぼうと両手を上げた時、死神ノ鎌は最後の力を振り絞り、鎌を握るとアルに向けて鎌を放り投げた。
 予期せぬ不意打ちに誰もが驚いた。

「アル!!」
「アルちゃん!!」

「えっ……」

 フールとセシリアの声が届いた時、

 ドッ……

 と、鈍い音が聞こえた。

 アルがゆっくりと振り向く。
 そこにはあるを庇って首に鎌が刺さった玄武の姿が居た。

「ア……ル……」

 玄武はその場に大きく倒れた。
 力を使い果たした、死神ノ鎌はゆっくりと腕が消えるとただの黒い布切れだけが地面に落ち、消滅していった。

「え……え……?」

 喜びから絶望に変わったその一瞬の出来事に、アルは状況を理解する事ができなかった。
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