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第2章 森林炎上編
第31話 "特別精鋭パーティ"『グリフォン』
しおりを挟むちくしょ、悔しい。
一度好きだと認めたら、すべてが虚しくなる。
どうせこんな風にキスをしても、どんなに想いを募らせても、1年で終わるのだ。いや、自称ストーカー製造機のこの男のことだ、好きだと伝えようものなら絶対斬り捨てられる。
>お前も他の女と同じなんだな。
>なんだかガッカリだよ。
とかなんとか言われて、距離を置かれるに違いない。きゅうううん…可哀想な私の恋心。
ようやく唇が離され、『ウォーター』の言葉を言わせようとヘレン・ケラーの頬をピタピタと触ったサリバン先生みたく、課長は私を撫でた。
え?例えが古いうえに長すぎるですって?それはもう、慣れてくださいとしか言い様が…。えと、とにかく課長はそんな私に問うのだ。
「ったく、お前、俺のことが大好きだよな」
「好きじゃないです」
いやいや、そんなに動揺しなくても。
「え、でも、以前、言っただろ?零のお兄さんの前でさ、俺のこと、ほら」
「何か言いましたっけ」
本当はガッツリ覚えていますけどね。
「『愛しまくってます』って言っただろ?」
「ああ、あれ。だって兄の前ですよ?そう言わないと納得してくれなかったでしょ?安心してください、課長のことは何とも思っていませんから」
「そ、それじゃあなんでお前、わざわざ会いに来てキスまでしてんだよっ?!」
「それは…サ、サービスです」
冷や汗タラタラ状態の私に、課長は言う。
「零、何を怖がっているんだ?俺のことが本当は好きだよな?いいから正直に答えろよ」
「す、好き…じゃないです」
「バカだなあ。『好きじゃない』って、そんな顔して言ったらすぐに嘘だとバレるぞ?」
「本当に本当に好きにはなりませんッ」
だからお役御免にしないでください。そう願いながら私はオウムのように繰り返す。
>好きじゃない、好きじゃない…。
なぜか課長は嬉しそうにウンウンと頷き、優しく私の頭を撫で続けていた。
貧乏なのも、両親がいないのも、それを糧に強く生きてきたつもりだが。結局、ことあるごとに思い知らされてしまう。
私には“自信”というものがキレイサッパリ無いのである。
嵐の中、荒野にポツンと取り残されているような、そんな心細さがいつでも付き纏い。シッカリした両親の元で育った課長や茉莉子さん、極端な例を挙げると同じ貧乏なのに高久さんにすら劣等感を抱いている。
向こう側とこちら側の境界線は存在し、絶対に分かり合えることは無いと思ってしまうのだ。だから肝心なことはいつでも口にしないまま心を押し殺し、傍観者のようにして生きて来た。
きっと今回の結婚も、このまま本当の想いを告げずに終わるのだろう。…そんなことをボンヤリ考えていたら、課長が餅でも捏ねるみたいに私の頬を揉み出す。
「ったくもう、分かった。今晩は頑張って早目に帰るから、俺んちに来い」
「じょんなに、む、…り…にゃくても」
正しい日本語を話せないのは、課長が頬をコネコネしているせいだ。
「はあ?そのくらいの無理はさせろよ。と言っても早くて21時くらいになるかもな。どうせ今日は料理教室の日だろ?茉莉子さんに車で零を送るよう頼んでおくから」
『そんなに無理しなくても』と言ったのが伝わっていることに驚きつつ、私は無言で頷く。そして、昼休憩が残り3分になったところで慌てて営業部へと戻った。
…面倒臭い女にだけはなるまい。
何故かそのことを右人差し指で左手の平に書き、ひたすら呑み込む私。そう、落ち着くための儀式である『人』という文字を書いてエア食いするアレと同じ要領だ。
「め、ん、ど、う、く、さ…」
隣席に座っている茉莉子さんが、憐みの表情で私の肩を叩きながらこう言った。
「いや、そんなことしてる時点で既に面倒臭い女になっちゃってるけどね。もう昼休憩も終わるからその辺でヤメたら?」
す、すごいね!どうして私のやっていることが分かったんだろう?帯刀家の人たちってもしやエスパーなんじゃ?
「いやいや、アナタ思いっきり呟いてたし。普段大人しい人ほどキレると怖いって言うから、座席替えを要求しようかと思ったほどだし」
「あ…そ…でしたか。ご心配お掛けして申し訳ございませんでした」
本当にもう、どうしよう。
これがストーカー製造機の底力なの?!
あんなにサッパリスッキリしていた私が、こんなに思い詰めているんですけどっ。しかも、課長に好かれるには理想のタイプである『俺に興味を持たず、仕事の邪魔をしない女』を目指さなくてはいけないんですけどっ。
難易度高すぎるよ…。
とにかく、その晩、思い詰めている私は料理教室の試食をフード・ファイター並みの勢いで済ませ。一心不乱に課長宅を目指したところ、予定より1時間も早く到着してしまう。いつもの如く合鍵で中へと入ると、誰もいないはずの台所から声が聞こえてきた。
それも、明らかに女性の声である。
「…で、…の、……じゃない?」
何となく嫌な予感がして、身を隠しながら話がよく聞こえる食糧庫へと移動した。そこは玄関から直接入ることが出来る、一畳ほどの狭いスペースだ。
「うわっ、それは契約違反だわ。いざとなれば期間を縮めて放り出しましょう」
「こんな時に面倒を起こさないで欲しいのに、正直とても困っているんだよ」
声の主は課長と…元カノの公子さんだった。よく通る声で公子さんは続ける。
「大丈夫よ、私たち2人なら絶対に上手く行く。まだ道のりは遠いけど、一緒に頑張りましょう」
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