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12歳《中等部》
25 テオside
しおりを挟む「義母様、テオ。こんな夜中にどこへ行くつもりなのかな?」
急に聞こえた暗闇からの柔らかい声に猫のように飛び上がってしまった。
真っ黒な髪が暗闇に溶け込んでいるようななか兄上の白い肌だけが目立つ。その後ろには当たり前のようにアルフレートがいた。
「あ、兄う「あんたには関係ないことよ。」
ずっと扉側に引いていた手を不意に引いて俺を背中に隠すようにしてきた。この人は一体何を考えているんだ。今までのやり取りを見て兄上が怒るならきっと母上にだ。
案の定兄上は階段の上で困ったような顔をした。怒ってはないのか?
「昔、説明しましたよね。テオも僕もシルヴェスターの子であり国に管理される存在だと。」
母上の肩が少しだけ上がった。
俺も何度も聞かされたことだ。シルヴェスターはこの国唯一の公爵家。そのぶん、皇室にも劣らない権力と兵力を持つことが許されてる家紋だ。その代わり皇室に必ず従うことということを憲法に名言されている家紋。
何度も言い聞かされた。
それを破ろうとした母上。兄上が怒るのもわかる。きっと兄上なら「義母様1人でどこかに行けばいいのに。」と、考えてそうだ。
なにかきっかけがあれば母上はいつものように怒るだろう。
少しだけ張りつめた…いや。俺と母上だけそう思っているのかもしれない。スっと兄上が玄関のドアを指さした。
「出口はあちらです。ですが、この敷地内から出た瞬間に帝国規定107条、貴族の誘拐罪。そして帝国規定12条、帝国への反逆の意思有りとみなしてブラザ・フォン・シルヴェスター、貴女を殺します。」
兄上はこういう時に嘘つくような人じゃない。この数年でよくわかった。兄上にとって最後の情なんだろう。
なんとかして母上を説得しなければ。時間が欲しい。
「あ、兄上!お待ちください!!」
「テオ、母親を守りたいなら分かってるね。」
ゾッとするような冷たい目でそう告げてくる。声は全く変わらないのに背筋に汗が伝う。
なんだかんだと兄上が俺に向けてくる目はいつも暖かかったのに。
「こんなところに縛られるわけにはいかないのよ!あんたとは違うの。」
「なら父様との関係をもたなかったならいいだけのこと。もう遅すぎます。」
「テオ、あんたもこんなところ嫌でしょう!」
俺に振らないでほしい。俺の答えは兄上と一緒だ。
権利と利益に付きまとうのは義務と不自由だ。そんなこと俺でもわかる。兄上もよくわかってる。シルヴェスターはなにからも優遇されるぶん、しがらみも付きまとう。
母上もそれを享受していたなら返すべきだ。今更母上が男爵家どころか逃亡者の生活ができるとは思わないし。
「2人とも。シルヴェスターにはすべての責任が付きまとうと教えたよね。命を賭けて国に仕えて皇族を守る。一生、国に追われる覚悟はできてるの?」
俺は嫌だ。
平民に囲まれて生きるなど寒気が走る。
平民に下に見られるなど絶対に手が出てしまう。
「母上、部屋に戻りましょう。兄上になにかされたわけでも無いのでしょう…?」
「こんなところテオは耐えられるの?」
平民に囲まれるよりマシだ。
逃亡犯という汚名もごめんだ。
「今まで兄上になにかされたことはないです。母上、やめましょう。」
母上はただでさえ目立つ真っ赤な目を見開いて同じくらい赤い唇を噛んだ。
そして俺の手を離してくるりとドアの方に向かって歩く。
「母上!!!」
本当にやめてくれ。貴女を殺したくない。
「アルフレート。」
「はい。」
兄上はため息混じりにアルフレートを呼べば、スっと兄上の後ろから出て階段を降りる。
せめてアルフレートではなく俺が対応しないとなにされるか分からない。
「はは
母上の周りの影が蠢き影がどんどんと母上の周りを囲っていく。
――――ガシャン
そう音がなりそうなほど重々しく籠が閉じた。
「部屋に義母様を戻してきて。外に出られないように出入口に結界と義母様に追跡魔法を。」
「承知致しました。」
全部全部俺ではなくアルフレートへの命令。
母上に見張りをつけていることは知っていた。それも手練の魔法を使える人たちだ。気配でわかっていた。俺が気づいたことも兄上なら知っていただろうに兄上はなにも俺に伝えてくれなかった。
そりゃあ母上の実子だ。母上に関しては信用できないのも分かる。でもきっと、皇帝陛下になにかするならルディ様と一緒に行動したはずだ。
ルディ様ほどの信用は得られていないということだろう。
籠ごと連れられていく母上。俺も部屋に戻るために顔を上げたら兄上がじっとこちらを見ていた。
そして緩く微笑んだ。相変わらず優しげな表情だ。
「テオ、どうする?戻る?逃げる?」
「部屋に戻ります。母上はどうされるおつもりですか?」
「なにもしないよ。テオは外に出てないもん。」
出てたらどうしていたんだか。
母上ももっと考えて行動してくれ。なにもどこにも出かけるなとか虐げられているとかそういったことは一切ない。頼めば兄上の事だ。「いいよ。」と言ってくれるだろう。
「……もし一緒に逃げてたら?」
「そんなことありえないよ。テオが外に出る前に手は打つから。僕だって家族は殺したくないからね。」
兄上はそうさせないだろうな。
そこまで考えての行動だろう。
「テオ」
いつの間にかロビーまで降りてきた兄上はそっと俺の手引いてくれた。
「帰ろう。」
そうだ。
俺の帰る家はここなんだ。
昔、手を握って部屋を案内してくれた時とは違うんだ。
「はい。兄上。」
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