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8歳
97 番外編《テオ編》
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言われるがままに連れてこられた公爵邸。
見たこともないくらい大きな家。馬車で門を潜れば色とりどりの花に囲まれる壮大な噴水や庭路。
母様は舐めまわすように窓を見ている。母様自体は嫌いじゃないがこういうところは好きになれない。気品がないというかなんというか…。いわゆる育ちが知れると言うやつだ。
逆に父様は気品はあるが知恵が足りていない。
母様に金を借りてドブに捨てたことも知っている。ほかの女に手を出していることも知っている。妻が死んだから男の子供を産んだ母様を次の妻に選んだことも知っている。嫡男がいるというのに何を考えているんだか。俺を引き取るのは嫡男が死んだ最終手段だろうに。
…はぁ。こんな2人の血を受け継いでいると思うと辟易する。公爵家の嫡男も底が知れているな。
そう思っていた。考えていたのに公爵邸で待っていたのは俺と同じ真っ黒な髪質。よく似た顔立ち。違うのは目だけ。
そのはずなのに全然似ていない腹違いの兄弟だった。
腹違いの兄弟は大勢の使用人を従えて父様に挨拶をする。そして次に目をギラつかせてる母様、最後に俺の順に挨拶をする。
母は「公爵様ぁ♡」と甘ったるい声を吐きながら公爵家嫡男を無視した。
仲良くしとけばいいのに。これから先、公爵様が死んだら後を継ぐのはこの人だ。
公爵家の嫡男は男爵家の女に無視されたにも関わらず、微笑みを崩さず俺にそれを向けてきた。
「僕はシルヴェスター家嫡男、クラウス・フォン・シルヴェスター。よろしくね。」
一見優しげな顔。でも感情が読み取れない完璧な貴族な顔。
正直言って怖い。
俺も名乗ろうとするが間違えて母の旧姓を言いかけた。すぐに乳母が俺を静止するけどきっと目の前の兄弟には聞こえているはずだ。
羞恥と情けなさで目の前が歪んでいく。
初対面でこんな恥をかくとは…。きっと幻滅したに違いない。ただでさえ浮気相手の子供だ。よく思われているはずがないのに…。これからのこの屋敷での扱いを思い描くと時間を巻き戻したくなってくる。
にもかかわらず目の前の兄弟は微笑んで俺の手を取った。
「テオ、だね。よろしく。数ヶ月しか生まれは違わないけど良かったら兄と呼んで欲しいな。昔から兄弟というものに憧れてたんだ。」
その手がとても暖かく感じた。祖父母も俺には良くしてくれた。だがどこの誰の子かも分からない俺を家族として受け入れてはくれなかった。
最後の最後に公爵が迎えに来てやっと本当の家族として認めて貰えた気がする。ただそれすら打算だといえば頷くしかないのだが。
母ですら俺に興味があるのは公爵に似たこの容姿と性別だけ。
誰からも打算と下心だけで触れられてきた俺の手を目の前の兄弟は事も無げに握ってくれた。
この兄弟にとって俺は使い物にならないどころか良くて足枷。もっと言えば、公爵家の血を受け継いでる男として邪魔なだけなはずなのに。
そんな俺に手を伸ばしてくれた。別に仲良くしなくても問題ない身分が下の腹違いの弟なのに。
つまるところ、俺がこの人を慕う理由はそれだけ。
初めて打算も下心もなく握られた手があたたかかったから。
ただそれだけ。
他人からすればそんなことかと思うかもしれない。けど俺にとってはそれはかけがえのない、替えのきかないものになってしまった。
兄に褒められるなら、兄に喜ばれるなら、それが兄のためなら、なんでもできる。
たとえ兄が俺の事を換えの聞く駒だと思っていても、兄の手があたたかいのであればそれでいい。
「おはようございます。兄上。」
「おはよう、テオ。よく眠れた?」
相変わらず完璧な微笑みで返してくる兄上。
俺が最も尊敬して、大好きで、越えられない、完璧な兄。
俺が命も身も心も持ちうる全てで忠誠を捧げる人。
それが俺にとってのクラウス・フォン・シルヴェスター
見たこともないくらい大きな家。馬車で門を潜れば色とりどりの花に囲まれる壮大な噴水や庭路。
母様は舐めまわすように窓を見ている。母様自体は嫌いじゃないがこういうところは好きになれない。気品がないというかなんというか…。いわゆる育ちが知れると言うやつだ。
逆に父様は気品はあるが知恵が足りていない。
母様に金を借りてドブに捨てたことも知っている。ほかの女に手を出していることも知っている。妻が死んだから男の子供を産んだ母様を次の妻に選んだことも知っている。嫡男がいるというのに何を考えているんだか。俺を引き取るのは嫡男が死んだ最終手段だろうに。
…はぁ。こんな2人の血を受け継いでいると思うと辟易する。公爵家の嫡男も底が知れているな。
そう思っていた。考えていたのに公爵邸で待っていたのは俺と同じ真っ黒な髪質。よく似た顔立ち。違うのは目だけ。
そのはずなのに全然似ていない腹違いの兄弟だった。
腹違いの兄弟は大勢の使用人を従えて父様に挨拶をする。そして次に目をギラつかせてる母様、最後に俺の順に挨拶をする。
母は「公爵様ぁ♡」と甘ったるい声を吐きながら公爵家嫡男を無視した。
仲良くしとけばいいのに。これから先、公爵様が死んだら後を継ぐのはこの人だ。
公爵家の嫡男は男爵家の女に無視されたにも関わらず、微笑みを崩さず俺にそれを向けてきた。
「僕はシルヴェスター家嫡男、クラウス・フォン・シルヴェスター。よろしくね。」
一見優しげな顔。でも感情が読み取れない完璧な貴族な顔。
正直言って怖い。
俺も名乗ろうとするが間違えて母の旧姓を言いかけた。すぐに乳母が俺を静止するけどきっと目の前の兄弟には聞こえているはずだ。
羞恥と情けなさで目の前が歪んでいく。
初対面でこんな恥をかくとは…。きっと幻滅したに違いない。ただでさえ浮気相手の子供だ。よく思われているはずがないのに…。これからのこの屋敷での扱いを思い描くと時間を巻き戻したくなってくる。
にもかかわらず目の前の兄弟は微笑んで俺の手を取った。
「テオ、だね。よろしく。数ヶ月しか生まれは違わないけど良かったら兄と呼んで欲しいな。昔から兄弟というものに憧れてたんだ。」
その手がとても暖かく感じた。祖父母も俺には良くしてくれた。だがどこの誰の子かも分からない俺を家族として受け入れてはくれなかった。
最後の最後に公爵が迎えに来てやっと本当の家族として認めて貰えた気がする。ただそれすら打算だといえば頷くしかないのだが。
母ですら俺に興味があるのは公爵に似たこの容姿と性別だけ。
誰からも打算と下心だけで触れられてきた俺の手を目の前の兄弟は事も無げに握ってくれた。
この兄弟にとって俺は使い物にならないどころか良くて足枷。もっと言えば、公爵家の血を受け継いでる男として邪魔なだけなはずなのに。
そんな俺に手を伸ばしてくれた。別に仲良くしなくても問題ない身分が下の腹違いの弟なのに。
つまるところ、俺がこの人を慕う理由はそれだけ。
初めて打算も下心もなく握られた手があたたかかったから。
ただそれだけ。
他人からすればそんなことかと思うかもしれない。けど俺にとってはそれはかけがえのない、替えのきかないものになってしまった。
兄に褒められるなら、兄に喜ばれるなら、それが兄のためなら、なんでもできる。
たとえ兄が俺の事を換えの聞く駒だと思っていても、兄の手があたたかいのであればそれでいい。
「おはようございます。兄上。」
「おはよう、テオ。よく眠れた?」
相変わらず完璧な微笑みで返してくる兄上。
俺が最も尊敬して、大好きで、越えられない、完璧な兄。
俺が命も身も心も持ちうる全てで忠誠を捧げる人。
それが俺にとってのクラウス・フォン・シルヴェスター
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