推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん

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8歳

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いつものところに馬車が止まる。そしていつものように迎えに来たルディの執事が手を貸してくれるからそれを借りて降りる。

いつもは着いた時点で《疲れたぁ》ってなるけど今日はテオ様がいるからね。ならない。むしろやる気がみなぎってる。いい所見せてやるんだ~!

テオも降りてきたけど緊張してるのか手と足が一緒に出てる。それ以外は普通にしてるから逆に面白い。

「手を繋いでおく?」

「子供扱いしないでください。」

「手と足一緒に出てるよ。ほら落ち着いて。ね?」

手を握ってすぅはぁとテオ様の周りの空気を吸い込む。
うん。心が浄化されてく。幸せ。心做しかいい匂いがする気がする。テオ様の体臭かな。


テオ様もちょっと僕の真似してたけど恥ずかしくなったのかやめちゃった。
でも手は離さないからこのまま行こうかな。こうやって手を繋いで歩いてもおかしくない歳なんてあっという間だもん。


そのまま歩いて訓練場に向かう。今日は剣術と魔法の先生が揃ってるはず。ルディはもうしごかれてんのかなぁ。

少しだけテオ様と握ってる手が湿ってき始めた。テオ様の手汗なら喜んでって感じ。推しってほんと偉大。

訓練場につけば相変わらず犬猿の仲の魔法師と剣士の先生たち。静かに言い合いしてる。木の下でルディがそれを見てる。僕らにいち早く気づいて眉をしかめたけど。

黙ってりゃ威厳があるのに口を開けばその威厳も飛んでっちゃうね。

「は?きっしょ。なにしてんのお前ら。」


第一声がコレの第1皇子殿下。
見てみなよ、テオ様。あんなのに緊張なんてもったいなかったでしょ。

ビクッと肩を揺らせるテオ様。緊張しいなんだね。僕の時も挨拶間違えてたもんね。お手本見せあげようか。

「ご挨拶申し上げます。ルディ第1皇子殿下。」

「はぁ?」

珍しく僕が自ら頭を下げてあげ・・ればなんだコイツみたいな視線を感じた。

まぁその《はぁ?》を顔を上げろの返事として受け取ってやる。

「テオ、こちらはルディ・フォン・モーント・ウォータント第1皇子殿下だよ。ルディ第1皇子殿下こちらは僕の…」

本来は愚弟って下げる場面なんだけどテオ様にそんなこと言えないよね。

少し詰まった僕に2人して変な雰囲気を作ってきた。失礼だなぁ。ちょっと詰まることくらいあるよ。まぁ母様が生きてたうちはできなかったけど。

「クラウス?」
「兄上?」

ちょっとテオ様を見直して見たけど…無理だな。愚弟ではない。第1皇子殿下に嘘なんてつけないからね。

「僕の可愛い可愛い弟のテオ・フォン・シルヴェスター。色目使ったら許さないからね。ルディ。」

「第1皇子殿下にご挨拶申し上げます。シルヴェスター公爵家次男、テオ・フォン・シルヴェスターと申します。」

テオ様ちゃんと挨拶できた。可愛い可愛い可愛い♡
ルディが頭上げていいって言ってないからまだ頭を下げたままのテオ様。顔を取り繕わなくていいってめっちゃ良いね。存分に愛でられる。

「あー。頭を上げていいぞ。俺はルディ・フォン・エーヴィヒ。ルディって呼ぶことを許可してやる。よろしくな。」

ちょっと僕に目で合図してきたルディを確認して顔を取り繕う。ゆったりと微笑む感じにね。


「茶番は終わりましたか?」

待ってくれてた魔法師がそう絡んできた。てか、茶番て。こんなにこーんなにテオ様が頑張ってるのに?
人を見る目がないな。やっぱり魔法師は魔法にしか興味がないみたい。


「マーティンも貴族でしょ。ちょっとは僕らを見習いなよ。」

僕とテオ様は完璧だからね。ルディは喋らなきゃ完璧。

「お互い知っているのに時間の無駄でしょう。私はマーティン。よろしく。…このくらいで終わらないものですかね。」

ちょっと分かる。マナーってわかってるからそんなことしないけど。

「常識人のテオと俺はその中には入れねぇわ。なぁ、テオ?」

「は、はい。」

「敬語も敬称も要らねぇよ。同い年なんだし仲良くしようぜ。お前はクラウスみたいに嫌な奴でもなさそうだし。」

むぅ。
それって僕がダメダメみたいじゃん。ちょっと不服。テオ様に完璧じゃないって思われたらどうすんの。

「僕ほどいい子はいないよ。ルディは現実が見えないの?」

「そういうとこだわ。腹黒で性格悪くて。そのうちテオにも愛想つかされんぞ。」

は?なんつった。そんなこと許すわけがない。本気でいらないことを言うな。

「は?」
「あ"?」

魔力と怒りを飛ばし合う僕らに嬉しそうな先生たち。

「いいですね~。では魔法の打ち合いから始めましょうか。」
「まずは走り込みだな。」

「これだから脳筋は。」「これだから魔術オタクは。」

「「クラウス様!ルディ様!どちらか選んでください/選べ!!」」

息ぴったりじゃん。
この2人も大概仲がいい。

「…ルディどっちも嫌なんだけど…どうする?」
「俺に聞くなよ…。走り込みからやるか?」
「いいよ。どっちも嫌だし。」

テオ様は静かに後ろにたってるだけ。だよね。何が何だかわかんないもんね。可哀想に。

「テオ。無理しちゃダメだよ。しんどくなったらちゃんと言うんだよ。」

「マジでそう。同い年だからって無茶すんな。訓練を始めた時期が違ぇんだ。いいな。」

切実にそうして。こればかりはどうにもなんない。
テオ様はこの訓練をしたことがないからのほほんとしてる。

可愛い。可愛いんだけどね。
…とにかく頑張って。


「じゃあまずはこの宮の周りを20週。テオ様は10週。1周目は俺と回ろう。では、はじめっ!!」

僕とルディは同時に思いっきり地面をける。
初めはサボっても…とか思ってた。でもこの剣士の先生怖いの。バレたら次の練習で滅多打ちにされる。虐待だと嘆きたくなるくらいには滅多打ち。

僕が母様に言いつけたら、そんな事も出来ないのかと怒られ、恥をかかすなとご飯を抜かれた。
ルディが皇帝陛下にいいつけたら、あの人は武勲を立てた素晴らしい人だからもう少し頑張って見なさいと頼りにならない。
前世ではベットの上の病人だから殴られたことはない。でも病気よりしんどいの。
頑張れば先生はそれなりで戦ってくれる。でもサボれば次の日立てないくらいに滅多打ち。立ち上がれなくても、母様には屋敷から追い出されるし使用人たちは母様の手先だし。行くしかない恐ろしさ。怖いなんてもんじゃない。

ルディも似たようなもんで皇帝陛下は話を聞いてくれない。皇后陛下には嫌われてる。僕らに逃げ場はなかった。

しかも僕ら自身で選んだのが悪かった。貴族というものは決定を覆せない。相手に瑕疵があるなら別だけどこれは強くなるための訓練。自分で選んだ先生。訓練がきついから辞めさせろなんていえなかった。

しかもどんなに頑張っても初めの走り込みという競走にで負けた方は同じ運命だ。
だからお互い負けられない。テオ様に構ってる余裕がないくらいには。

先生は自分に勝てるくらい強くなればいいと言うけれどいつのことになるのやら。
しんどいよぉ。そんな姿テオ様に見せられないから頑張るけど。


「今回は殿下の勝ちだな。」

まげだぁ!!こんなのクラウスじゃない。完璧さがない…。完璧超人のポテンシャル持ってんのに負けた。しかもテオ様が来てる今日に限って…。
やる気ゼロ。

ぜぇはぁと二人して死にそうになってるのに先生はにこやかに笑うだけ。恨んでやる。

その隅でガッツポーズしたルディも今日の訓練でギタギタにしてやるからな。



「では次は魔法の基礎訓練と行きましょう。」

こいつら…僕らを殺す気か?







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