推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん

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8歳

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うーーんっと背伸びをして客間に向かう。
アルフレートにはしたないと窘められたけど知ったこっちゃない。誰もいないんだしいいじゃんね。


よしっ!やるか!クラウス・フォン・シルヴェスターとして舐められる訳にはいかない。もちろんそうじゃなくてもテオ様がいるしめちゃくちゃ頑張るけどね。

アルがドアに手をかけたからいつものように微笑みを顔に貼り付ける。

「待たせたね。」

神官もテオ様も立ち上がったから手で座ってていよと合図する。遅れたのは僕だし。さっきまで眠りこけてたし。

「テオ、やり方とか注意事項は聞いた?」

「はい。問題ありません。」

さっすがテオ様。頭も顔もいいんだね。

「じゃあ早速検査してみようか。アル、部屋は準備してあるんだよね?」

「はい。あとはクラウス様の結界のみです。」

「じゃあ行こうか。」

僕が前を歩く。テオには視線で隣に来いと合図。いつでもどこでもテオ様を視界に入れてたいから仕方ない。
これがテオ様が嫌がるならただのストーカーだけど嫌がってないから合法だから。…だよね?
さすがにテオ様に嫌われて生きてはいけないから自重するけど。

「兄上?」
「ん?」

かわいいかわいいテオ様が話しかけてくれた。嬉しい。もっと話したいな。でもテオ様の用事はなんだろう。
ちょっと微笑んでテオ様を見たら視線を泳がされた。え…僕なんかした?

「あの、兄上。部屋を通り過ぎましたよ。」
「へ?あぁ。そっか。ぼーっとしてたかも。ありがとうね。」

ちょっとテオ様のことを悩みすぎた。僕本当にストーカーじゃないよね?大丈夫だよね?使用済みのなにかを盗んだりしてないから大丈夫のはず…。監視はつけてなにしてるかは把握してるけど…。
本気で相手がクラウスだからテオ様が強く言えないだけじゃないよね?

僕が振り向いた時にはアルフレートがドアを開けて待ってた。
お前そういうとこあるよね。いつも礼儀正しいくせにさ。


「兄上、行きましょう。」

立ち止まってこっちを見てニコニコしてるアルフレートを睨みつけてたらテオがおずおずと手を握って引っ張ってきた。

テオが初めて来た日、勝手に盛りあがって手を引いて部屋を案内したなぁ。ふっとその事がよみがえってきた。
テオ様の手、フニフニしてたなぁ。いつか剣を持つゴツゴツした手になるのかなぁって考えながら心の中でデヘデヘしてたわ。
今の手はまだフニフニ。気を抜いたらヨダレ出そう。

「兄上?」

「うんうん。可愛いなぁ。」

「可愛くないです。早く行きましょう。兄上。」

いやいやいやいや。可愛いって。世界を統一できる可愛さだって。もしそうなったら世界平和だね。テオ様のためなら僕頑張るよ。もちろん勇者には敵も必要だから魔王にだってなってみせる。


「仲が良いのですね。義母兄弟とは思えません。」

「口が上手いね。さてと。結界張るからゆっくりしてて。」


これが初めてテオ様に魔法を見せる瞬間だ。何がいいかな。
皇族しか使えない光魔法?シルヴェスター家ならではの闇魔法?風魔法は苦手だから却下で。

「テオ、光と闇どっちがいい?」

「え、では兄上の瞳の色である金色こんじきで。」

よし。いいよ。見せてあげよう。
光魔法での結界を。



本当は1秒もかからず簡単な結界なら作れるんだけど相手がテオ様だからね。強固にしといて損はない。下手したら洗脳魔法がこの屋敷を覆うことになりかねないからね。


多すぎる魔力がキラキラと目に見える形で現れる。粉のように降り注ぐ金色の雨。人に当たれば霧散するから気にするほどのことでもないけれど。このくらい濃い魔力で包めば問題ないかな。


「さすが公子様。ここまで濃い魔力を出せるようになったんですね。」

「お前に馬鹿にされたからねぇ。」

「そ、そのようなことは…!!」

「ふふ。冗談だよ。」

まぁあながち嘘じゃないけど。遠回しに器用貧乏めって言われた。結構ねちっこい性格だからさ。5年前の出来事だろうが覚えてるよ。

濃い魔力というのは質も量も最高峰じゃないと出せない。今まで死ぬほど打たされてもう魔力がない…って言っても絞りだせ。って怒られて絞り出したからね。初めの方なんて魔力絞り出しすぎて何度寝込んだことか…。

そんなこと何年も続けてたら嫌でも質は上がる。正直、魔物狩りと同じくらいは質が上がると思う。命の危機って成長には大事なんだよねぇ。


神官がうぉっほんと空気を変えるような咳払いをして水晶を差し出した。

「では、この水晶に手をかざして魔力を込めてください。」

なんの変哲もない。でもちゃんと魔力やステータスを見えるようにできる水晶。ゲームじゃ課金アイテムだった。


確かにこのゲーム。懐に優しいゲームではなかったなぁ。今だって神官に寄付だって言って金渡してるし。

テオ様がかざした水晶は透明だったんだけど今は新月の夜みたいな色になってる。その中にともる炎。
やっぱり2属性持ちか。


「あぁ。やっぱり溢れてきたね。テオ、そのまま注ぎ続けていいからね。」

もくもくと水晶から溢れ出てくる闇と炎。量が通常より多いとこうなる。魔力の量って生まれ変わりでもしない限り増えないからね。闇も炎も魔力が多いってことだ。いいじゃん。

まぁその闇の魔力から逃げ回ってる神官の気持ちもわかるけど。もしこの魔力の保持者が空間魔法や影魔法ではなく、洗脳魔法をいちばん得意とするのならばこの魔力に触れただけで精神崩壊の恐れがある。
それを上回る魔力で防げば問題ないんだけどこの神官にはそれだけの魔力がないんだろう。
現に執事のアルフレートはケロッとして自分の周りを風魔法で守ってる。

教会での爪弾きものか嫌われ者がだいたいシルヴェスター家に適性検査で来るからね。可哀想に。なにしたんだか。

「クラウス様。お茶のおかわりはいかがですか?」

「ちょうだい。テオも魔力多いね。」

ソファに腰掛けた僕にアルが気の利いた事を言ってくる。ほんとできた執事だこと。
もちろんありがたく貰うよ。テオ様が頑張ってる姿見てたらお茶菓子なくても何杯でもいけちゃう。


しばらくテオ様を見てるとモコモコと赤黒い煙がドライアイスのように出てたのが、ピタリと止まって吸い込まれるように水晶に戻り始めた。どうやら水晶がテオ様の魔力を測り終えたみたい。
だいぶ時間がかかったし、広い部屋が赤黒い霧で埋め尽くされそうだ。神官は壁の隅に縮こまってる。口が動いてるから詠唱でもしてたのかな。


「テオ、水晶の中に手を突っ込んで。」

テオ様は僕が言うように赤黒い水晶に手を突っ込んだ。なんというか…あんな毒々しい色してるものによく手を突っ込めるなぁ。やっぱテオ様は肝の座り方もテオ様レベルらしい。

「兄上!なにか出てきました!」

「良かったね。それはテオの個人情報にもなるから誰にも見せないようにね。」

テオ様はいくら僕の時間使ってくれてもいいんだけどさ。
だが神官。テメーはダメだ。

…これいつか言ってみたい名言だよね。今どこかで言えないかな。

「ねぇ早くしてくれない?僕もさ、暇じゃないんだよ。」

まぁここじゃないことは確か。
神官に圧をかけて早く仕事をしろと視線で命令する。

神官にはもうひとつ仕事をしてもらわないといけない。皇帝陛下に提出書類がいるんだよ。
個人情報の塊は自分の懐に。もうひとつの適性魔力と技量、剣術や魔術の各レベルのみが記載されてる紙。これが必要なの。
これを出せるのは神官だけになるんだよね。この紙、冒険者になる時も騎士になる時も魔法士として塔に上がる時も宮廷魔導師になる時にも必要。身分によって金むしり取ってくの。寄付金とか言ってさ。
金むしり取るとか…神に仕えるやつがやることかよとは思うけど。そうじゃなきゃ組織なんて成り立たないよね。



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