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8歳
10
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魔力の質は髪や目に現れる。
家系によって受け継ぐ魔力には差異がある。
基本的に適正のある魔力は1つ。
というこの世界の法則がある。
例えば皇家なら光魔法。
光魔法の魔力が強い人は瞳とか髪とかが金色になる。とは言っても、皇家の血が入ってないと光魔法は現れないんだけどね。
僕の家。シルヴェスター公爵家なら闇魔法。
闇魔法の魔力が強ければ黒くなる。
真っ黒な髪を持ってる僕とテオ様がいい例だ。
父様は魔力が弱いのかくすんだ色をしてる。グレー?の少し濃い色。
テオ様は2つ魔法適正を持ってるけど第1皇子は光魔法の魔力だけ。
僕は実は魔法適正を3つ持ってる。
闇魔法と光魔法の適性が強すぎてもう1つは外には現れてないけどね。
この適性というもの。貴族社会ではなかなかに面倒な扱いを受ける。
まず、1つの家に1つの適正というのが主流。
その1つの適性を極めることが貴族社会では好まれる。そうすることで他の家との衝突を控えるのだ。
ただ、貴族社会には建前というものの上に立ってるからね。建前上は『〇〇家の純血が生まれた!』と祝われる。
まぁこれだけ貴族がいたら適正は被るわけだけど。その場合は1番身分が高い貴族のは傍系ということで落ち着いてる。
皇家とシルヴェスター公爵家だけは傍系にその魔力持ちが現れたら引き取るって決まってるんだけどね。血の繋がりがなくても、他の家から闇魔法や光魔法持ちが産まれたら世話をするしきたりもあるし。
次に、適性を1つ以上持ってると器用貧乏という扱いになる。
魔法はそれぞれで魔力の流し方が違う。だからいくつも持っていたとしても全部極めるのは至難の業。そしていくら魔力が多くても使われない適正に魔力が使われてるなら、それは宝の持ち腐れ。だから貴族には好まれない。
平民は逆でいくつもの適性を持ってたら持て囃されるらしいけど。僕は貴族生まれ貴族育ちだからそこはよく分からない。
だから黒髪と真っ赤な眼をもつテオ様は器用貧乏という烙印を押される。
僕は3つ適性を持ってるからもっと器用貧乏なわけだけど。
この烙印を覆す方法はただ1つ。
公の場で認められること。
だからゲームのクラウスは8歳で皇帝陛下主催の魔法大会に出るわけだし。僕もテオ様に好かれるために出るわけだ。
誰にもバカにされない完璧超人なクラウスを作り上げる最初の一手。
テオ様に好かれる最初の一手。
この大会、負ける訳にはいかない。
気合いで勝ってみせる。そのために第1皇子と一緒になって魔力が空になるまで魔法打たされてるわけだし。
あぁ…そうなんだよ。僕ね、光魔法の適性があるから魔法の練習は皇宮に行って第1皇子と一緒に練習してる。
母様と皇后が昔からの友人だったらしい。だから僕らも兄弟のように育った。
でもまぁ身分の違いはあるからね。公の場じゃちゃんとしてる。
今日も今日とて物理的にキラキラしてる皇子様と魔法の練習。今日は頼み事もあるから手土産持参してる。
第1皇子は光魔法だけの適性があるから器用貧乏じゃないんだよ。でもいつ見てもキラキラしてて目に悪い。どこを見ても金色なんだよ。本当に目が疲れる。
第1皇子は皇子っぽくない。黙ってたら皇子感はあるけど、口を開けば皇子より悪ガキの方があってる。
高いところが大好きで褒められるのはもっと好き。子供っぽい人。
ほら、今だって公爵家の馬車が見えたのかめっちゃ早く歩いて向かってきてる。メイドが置いてかれてるの気づいてないのかな。皇子に何かあったらあの人たち首切られるのに…。あんな自由奔放な人に付けられてかわいそ。
「くらうすーー!!」
「あんまり走ると転ぶよ。」
「はしってねぇよ!元気だったか?クソ公爵がケバい女を後妻にしたって母様が嘆いてたぞ。」
悪ガキ皇子も貴族だけあって降りる僕の手を取ってくれる。大人用に作られたこの馬車はまだ僕には高いんだよね。早く大人になりたい。
遠慮なく皇子の手を取って降りることにする。
「あんま関わってないけど真っ赤な髪が印象的な女性だよ。」
「ふーん。ま、いいや。後で話しようぜ。」
ニヤッと笑う皇子様。
僕ゲームじゃ、この人あまり好きじゃなかったけど味方にしたらめちゃくちゃ力強い。
直情的で頭をあまり使いたがらないけど、僕が入れ知恵すればスルスルと飲み込めるだけの知力はある。
しかもそれを嫌がるわけじゃないく受け入れるから。そこも好き。
騎士団長の息子は正義感強すぎて相いれなかった。
今日も今日とて皇子と共に魔法をぶっぱなす。
めっちゃ失敗もして自爆したりしながら走り回って魔法をぶっぱなす。
それで歩けないくらいにフラフラになったところで先生から終わりの許可が出る。倒れ込むなんて汚いことしないけど、皇子は倒れ込んでる。たまにうつ伏せで倒れるもんだから使用人達がてんやわんやしてる間に僕はさっさと帰ってる。
毎日が命懸けの魔法の訓練。
今になってこの人を教師に選んだことを後悔してる。今更だけどね。
「マーティン。今日は僕、皇帝陛下と皇后様に会いにいくから程々にしてくれない?」
「はい。分かりました。ですがクラウス様はいつも飄々としてらっしゃいますし、いつも通りで問題ないのではありませんか?」
「無茶言わないでよ。家に帰ったら部屋で倒れてるよ。」
「俺は無理だな。なんで歩けんの?気持ちわりぃ。」
なに気持ち悪いって。テオ様に似た顔で無様さられせるわけなくない?
テオ様に知られたら蔑んだ目で睨まれて暴言吐かれるに違いない。それはそれでいいんだけど、テオ様の場合それは本気だから。絶対に言われたくないの。
だから第1皇子みたいに地面に倒れ込むことはできない。
「僕からしたら地面に倒れ込むルディの方が分からないよ。」
「んだよ。皇子様だぜ?文句あんのかよ。」
「だから、その皇子様みたいに人前で無様晒せないって言ってるの。」
「あ?」
「なに?」
お互いの魔力が漏れる。魔術のエキスパートはこれを感じ取れるらしい。
隣でいつもの喧嘩をはじめた僕らを、ニコニコ見守ってた先生が今度は頬を赤らめてニマニマし始めた。
この人魔法に関わったら天才で変態だから強い魔力とか大好きなの。
僕らのことを弱い弱いってすぐに言うけど、魔力は強いから好きなんだって。「弱いし時間の無駄だけど魔力が強い者が成長するのは好きだからこの仕事受けたんだ」って、初めの方に言ってた。
皇子はそこが気に入ったらしい。やっぱり2人とも変態だよね。
「んーーー!!いい魔力ですね。今日は実践訓練と行きましょう。いつも通り、回復魔法は光魔法特有の魔法ですので手当は各自でするように。では━━━はじめ!!」
「ライトボール!」
「プロテクション!」
皇子は直上型の脳筋だから絶対に一発目は攻撃力が高めのやつぶつけてくる。
しかも魔力バカ高めで打ってくるんだよ。1回僕も攻撃魔法で対抗しようとして怪我した。あとのことも考えて魔力使えばいいのにこの人それをしない。
魔力が多いっていうのも考えものだ。僕も皇子くらいはあるけど使い方は考えてるし。
皇子の魔法を適当に避けてこっちも迎え撃つ。
基本的に光と闇魔法しか使わないけどね。
もうひとつ適性のある風魔法は苦手だから全然上達しない。ゲームのクラウスは使ってた気がするけど僕の推しはテオ様だからよく覚えてない。
初級魔法は魔力しだいで強くなったり弱くなったりするから僕は基本的に初級魔法で凌いでる。1体1で上級とか神級魔法使うなんて馬鹿げてるよ。
そういうの使う時は複数戦か見世物になる時だけでいいと思う。
でも皇子はポンポン多い魔力に物を言わせて上級魔法を打ち込んでくる。それ止めるための防御魔法も馬鹿にならないのに。
まぁある程度防御したりやり返してたら勝手に魔力切れで倒れてくれるから楽でいいけど。
実践訓練って皇子相手ならめちゃ楽。脳筋とハサミは使いようだよね。
「ダークエリア」
僕の好きな魔法。
相手を拘束できる影の檻。便利だし魔力使わないし。つまりコスパがめっちゃいい魔法。
闇魔法と光魔法は特殊だからね。皇子とはお互い相性悪いけど魔力が空の皇子には屁でもない。
「また僕のかーち。」
「うっぜぇ!!なんでなんだよ!お前より俺の方が強ぇのに!!」
「魔力の使い方の違いですね。さすがです。クラウス様。」
教師の『止め。』という音頭を聞いて魔法を止める。
実践じゃ僕が勝つ。でも、皇子の強みはその魔力を生かした範囲攻撃だ。戦争などになればきっと皇子の方が活躍する。何より見栄えがいいから兵士の士気向上にもつながるからね。
僕も範囲攻撃を練習しなきゃとは思うんだけど如何せん使う場面がない。
平和というのも困ったもんだ。
このゲームただ好感度上げて犯人見つけるだけだから場合によってはなにも悪いことは起きないしね。
…とはいえだ。ままあるんだよね。
国を巻き込むような事件。シルヴェスター家も数回。まだ先のことだしちょっと注視してるくらいでいいとは思うけど。
皇子を引き起こしてあげる。
訓練の次は皇后とのお茶会。その後皇帝陛下との謁見だ。
この2つでテオ様の皇宮への出入り、それと僕の次期公爵という立場を認めてもらう。もちろんテオ様が公爵になりたいって言うなら喜んで譲るけど。
「ほら、ルディ、立って。次は皇后様にお会いするんだから。」
「俺もう昼食入んねぇよ。」
「バカスカ、力任せに撃つからでしょ。」
グダグダ言ってる皇子を力任せと魔法で起こしてやる。動きたくないとかまだ言ってるから影で包んで持ち上げたら子供みたいに喜んだ。
うるさい。というか、本当に皇子らしくない。
先生はニコニコしながら僕らに手を振ってる。皇子は機嫌良さそうに影球から手を出して降ってる。
「庭園に行くのにこのままでいいの?」
「いいって。母様どうせなんも言わないし。」
まぁ、皇后様は何故か第2皇子を気に入ってるからね。特に口出しはしてこないだろう。
僕は皇后に見かけ上は気にいられてるし。皇子が嫌われてようが好かれてようが、別に問題ない。
皇帝陛下にさえ気に入られれば問題ない。皇帝陛下は子供を平等に愛してるからちょっと対応がめんどいけどね。
「帝国の母、皇后陛下にご挨拶申し上げます。」
「そんな挨拶いいのよ。クラウス。私と貴方の母は友人だったのだから。」
本当にそう思ってんだか。
母の日記には使える友人だと書かれていた。母に対抗意識を向けてることもそれを隠しきれてないことも扱いやすい、と。
まぁ確かに我らが国母にしては感情の隠し方がド下手くそ。そんなのでよく社交界の花と言われるのかよく分からない。
母様が上手く祭り上げた可能性はあるか…。
「どうぞおかけになって。今、菓子を持ってこさせますわ。」
「ありがとうございます。皇后様の用意する茶菓子はいつも美味しいものばかりなので会える日は楽しみにしているんです。」
ホントそう。
僕の家じゃまだその余裕ないし。もちろんお客様用はあるよ。料理長と母様が思考しまくって作った美味しくて安いお菓子。
でも皇宮はほんとにお高くて美味しいから好き。
なにより、皇后様が母様に対抗してたっかいやつ出してくれるからね。これ一ついくらするんだろ。
「ふふ。お上手ね。公爵家で食べ慣れているでしょうに。」
「やめてください。あの継母と父ですよ。」
ふふふ。と愛らしく笑う皇后は本当に愛らしい。
嬉しいんだろうなぁ。母様が死んでこれから公爵家は落ちぶれると思い込んでるから。もうちょっと持ち上げてからテオ様のこと頼も。
僕がいる限りテオ様に苦労なんてさせないから落ちぶれることなんて有り得ないけど。
「皇后様の話は僕の耳にも届きますよ。義母が嫉妬しておりました。」
「まぁ。恥ずかしいわ。」
本当に嬉しそう。煽ててるって気づかないのかな。蝶よ花よと可愛がられた皇后様には分からないのかもしれないね。
母の家系と違って猫可愛がわりしてたらしいし。良い事なんじゃない?本人がいいなら。マナーも見れる程度だし文句ないと思うよ。
「新しいお母様にいじめられたりしていないの?心配だわ。」
思ってもないことをよくペラペラ言えるものだね。尊敬する。
「少し無邪気な所もありますが概ね仲は良好ですよ。」
父様の弱みも義母様の弱みも握って両親共々僕に逆らえないからね。父様またほかの女に手を出して遊んでいるらしい。そのまま帰ってこないで欲しい。義母はほかの男と遊んでたんだから永遠に僕に逆らえないと思う。追い出されたら行くとこないもんね。
似た者夫婦だね。ピッタリじゃん。
それにちょうどいい話も出たしそろそろいいかな。
「皇后様、実は義母の連れ子のことなんですが。魔法と剣術を皇宮で学ばせても良いでしょうか?」
「ここで?理由を伺ってもよろしい?」
「はい。連れ子も闇魔法の適性があるようです。学びがないのならそれはそれで良いのです。ただ、才能はある。義母や父がアレを使って帝国に対してなにをしでかすか…。あの人たちの考えることは分かりませんから。」
昔、父様は貴族が通う学園で好き放題して今の皇帝陛下にめちゃくちゃ迷惑をかけたらしい。
皇帝陛下の婚約者を寝とったり、それを捨てたり。貴族家を剥奪されかけたらしいけど闇魔法の使い手で帝国創設の立役者の子孫を手放すなんてできなくて結局はそのまま。
理性と普通の考え方ならそんなことはしない。
無駄に力があるのも問題だよね。だから有能な母様が嫁いだわけだけど。
母様の日記で見たけど侯爵家と皇家の取引だったらしい。よく母様も受け入れたよね。一体なにを取引材料にしたんだか。
その考え無しの行動を皇后も理解してるからこれだけかもし出せば通じるだろう。
もし、連れ子を使って反乱起こしたらどうするつもりだ?っていう脅しが。
僕の父ならやりかねない怖さがある。
そのくらい魔法の才能はある人だ。そこに頭が伴ってないだけで…。
その頭が伴ってないのが怖いんだけどね。
「それもそうねぇ。確かにクラウスが手網を握っていた方が帝国としても安心ね。いいわよ。連れていらっしゃい。」
「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、来月に隣国から取り寄せたワインが領地に届きます。入手できれば1番に伺いますね。」
「嬉しいわ。貴方の領地のワインに負けず劣らずのお味ですもの。」
まぁそうだろう。領地と隣国は隣だし。気候も似ている。
農業、漁業、貿易いろんな産業が盛んな土地だから皇家も僕たちを突き放せないのだ。
その色んなものが盛んな領地を荒廃させたのが父様なんだけども。逆にこんないい土地を荒廃させるとか才能を感じる。
僕も母様の手がけた事業を主軸に立て直そうとしてるけど中々ね。特に農業とか漁業も狩猟は持ち直させるのに時間がかかる。自然相手にできることなんて限られる。
僕が水とか土魔法持ってたら別なんだけどいかんせん持ってるのが光と闇と風だ。どうにもならない。
だから貴族の中では下賎だと軽んじられてる錬金術に手を出した。
ゲームの中のクラウスは魔法より剣術よりも錬金術の才能があった。それを魔法やら剣術に応用してたからの、あの強さ。
錬金術の才能がなければ誰よりも弱い。って攻略本に書かれてた。それ知った時は驚いたよね。
テオ様の羨望と嫉妬を受けに受けてた公式最強のクラウスがまさかの才能自体は凡人レベルだなんて。
ほんとテオ様が不憫で可哀想で好き。
それならこのゲームの才能1番はテオ様なわけじゃん。
あー。本当に可哀想。そういうとこ好きだわ。
皇后様とのお茶会も終わり、次は皇帝陛下との謁見。
と行きたいところだけどまだ時間が余ってるんだよね。
「ルディ。皇帝陛下との謁見まで時間あるから休ませて。」
「一国の皇子にそんなこと言えんのお前だけだから。」
「僕とルディの仲じゃない。それに今のうちに恩売っとけばいい事あるかもよ。」
「…それを返してくれる保証なんてどこにもねぇだろ。」
「ま、それはそうだね。」
「お前、すぐ裏切りそうだもんな。」
なんてこと言うんだよ。僕これでも義理堅いよ。
クラウスもなんだかんだでちゃんと最後まで第一皇子のケツ持ちしてあげてたし。
第一皇子がもうダメだって分かったら速攻手を引いてたけど。
でもあれくらい冷徹でないとテオ様を幸せにはできないのかな。人付き合いが家族と看護師さんだけだったからよく分からない。どうしたらいいんだろう。
今はゲームのクラウスの人生を辿ってる。でもいつかそれじゃきっと無理が来る。
だから僕自身が学び、成長する必要がある。
だから今のうちにできる限り手を打っておく必要がある。皇后と皇帝陛下のコネクション作り。皇宮にはいっぱい情報が集まるからね。
貴族会のトップたる皇帝とお嬢様たちのトップの皇后だ。仲良くしとくに越したことはない。
特に社交界は女性が引っ張ってる。でも、シルヴェスター家には女がいない。義母はダメだ。マナーも頭も悪すぎる。まだ、皇后の方がマナーもなってるし扱いやすい。
だからシルヴェスター家としては皇后にトップに立ってもらい、その恩恵にあやかりたい。
女性の噂話は貴族社会になくてはならないものだから。その話から情報を選別して金儲けにどれだけ役立てられるかが肝になる。
「ねぇルディ。そろそろ歩かない?」
「部屋まで連れてけ。そうしたら時間までいさせてやるよ。」
「はぁ…殿下の仰せのままに。」
僕も皇子の部屋には何回も行ったから道は覚えてるしね。
にしても、いつ来てもこの第1皇子の宮は人材がいい。一体誰がそろえたんだか。その代わり皇宮の第1皇子に付き従う人にしては少ないけど。
優秀な人材に金を払ってるのか。それともただ払われる金が少ないのか。
そこまではゲームに明記されてなかったけど。貴族として生きてきたからには分かる。
どうせ皇后の仕業だ。皇宮は皇后の管轄。なんで自分の子供で差別するのかはしらないけど第1皇子はあまり皇后に好かれていない。
僕が着くのはゲームでも今でも第1皇子だから皇后がどっちを気にいろうがどっちでもいいけどね。
僕さえ見かけ上仲良しでいてくれたら文句はない。もし、僕とも縁を切ろうとしたり貶めようもんなら違う傀儡を探せばいいだけ。
皇后は母のお下がりで扱いやすい立場と頭だから使ってるだけだ。
万が一に備えてもう1人傀儡作っとこうかな。
「シルヴェスター公子様。そろそろ我が小さな太陽を下ろしてくださいませんか?」
笑顔の第1皇子の専属執事。こっわいんだよね。顔がいいのもあるけど圧がすごい。昔騎士だったってホントなのかな。本人は否定してるけど。
今はこの人と敵対したい訳でもないし。
「ルディ。下ろすよ。」
「はぁ?運べよ。」
「皇子。」
「…へーへー分かりましたよ。」
わがまま皇子を一言で制しちゃった。すごいなこの人。
「クラウス、行くぞ。」
第1皇子も地面に下ろせば使用人に身なりを整えさせたりと見た目だけなら皇子らしくなった。
さっき迄運ばれてた姿とは思えないくらい
皇子が前を歩くので大人しくそれに続く。いくら仲がいいからって立場は分かってるし。
あくまでルディはこの国を背負うだろう第1皇子。
僕は少しばかり皇帝陛下の血が入ってるこの国1番の貴族。
ほら、身分が違いすぎる。まぁ?僕の方が強くて賢いけど。
皇子の専属執事が開けるドア。当然のように入る僕達。貴族なんてこんなもんでしょ。
入ってすぐに闇魔法お得意の空間魔術で部屋全体に盗聴器とか盗聴魔法が仕掛けられてないから調べる。
今回はないみたい。たまに仕掛けられてるんだよね。ほんと誰がしてんだか。
「クラウス、あったか?」
「ないよ。防音魔法お願い。」
「お前の方が魔力余ってんだろ?」
皇子はほんと疲れてるのか、ソファに寝っ転がっちゃった。
まぁあんなに魔法打ちまくってたもんね。
「分かりましたよ。殿下。」
便利な魔法は僕らの先祖が色々開発してくれてるからそれをなぞるだけでいい。ほんと便利な世の中だよ。
探知魔法も防音魔法もそれぞれの適正にある。精度は変わってくるけどね。
闇魔法は闇魔術と空間魔術が得意。
光魔法は光魔術と刻魔術が得意。みたいな感じ。
また僕は空間魔術を使って部屋の外と中の空間を分断する。
これが闇魔法のやり方。光魔法なら外と中の時間を変えたりとか。
本人はケロッと説明してきたけど、難しそうだよね。
ソファに寝っ転がった皇子の前のソファに腰かける。
「親父になに仕掛けに行くんだ?」
見計らったように皇子が聞いてきた。
疲れた疲れた連呼してた割には鋭い眼光を僕にぶつけてくる。
「いくらお前でも皇家になにかしでかすなら俺が止める。」
かっこいい。さすが皇子様。
テオ様に害をなすなら言えるけど。たかが皇国のためとか家のためにそんなこと、僕には言えないな。
それでもちゃんと答えてくれたからには僕も答える義務がある。思う存分僕のテオ様への気持ちを聞くが良い。
「僕に新しく弟ができたの。」
「アバズレの子だろ。」
アバズレの子でもテオ様は可愛くて天才なんだから。
「一目見た時に気に入っちゃった。才能も頭もマナーも悪くない。だからね、愛して可愛がって逆らえないくらい可愛がろうかなって。」
「趣味悪ぃの。」
悪くて結構。
それがテオ様にとっての幸せだもん。クラウスに対して劣等感を抱かせない。そうすればテオ様は歪むことなく幸せになるはず。
それくらいに甘やかしてデロデロにして可愛がって幸せにしてあげるの。
「ねぇ、ルディ。話を変えよう。僕もそろそろ立場を決めようと思ってる。ルディ、お前皇帝になりたい?」
第1皇子は僕の考えを見透かすように見つめたあと重い息を吐き出した。分かんなかったのか。分かった上でか…。
僕には見定められないけど微笑んでおく。
「…なりてぇよ。」
「なんで?」
「王になったら食いっぱぐれもねぇ。みんながチヤホヤしてくれる。なにより、弟に俺の席を奪われてのうのうと生きてらんねぇよ。弟にお情けで貰う爵位?笑わせんな、俺のプライドが許さねぇ。」
プライドねぇ。そんなに大事なのかな。よくわかんないや。プライドがなくても元気な体とお金があれば生きていける。
前でそれを実感したもん。
「お前は?本当に公爵になりてぇの?」
「さぁどうだろ。ならなくても僕なら生きていけるし。時と場合によるかな。」
「プライドとかねぇのかよ。」
「生きてくためにそんなものはいらないよ。」
今もソファに沈んでるのとは思えないような目を向けてきた。
野性味のある皇子だと思ってたけどここまで野性的な目ができるもんだ。
「俺はプライドがねぇ生き方なんて死んだ方がマシだ。」
「分かり合えないねぇ。」
分かり合えないことに時間を割く趣味は無い。だって分かり合えないんだもん。仕方ないじゃん。
皇子もそうなのかソファに顔を埋めた。
「殿下、我らシルヴェスター公爵家が殿下の支援をさせて頂いてもよろしいですか?」
また顔をあげて訝しげに僕を見てくる。
いや。僕だって真面目な話する時は真面目な顔とか言葉使いするよ?
「今日は腹違いの弟のこと。それと公爵家がどの皇子の支援をするのか。それを皇帝陛下に伝えに来たの。ルディが嫌なら第2皇子殿下と思ってたんだけどルディもやる気みたいだしね。」
「ふぅん。」
「皇后様は第2皇子に付く。皇帝陛下はどちらかに肩入れはできない。だからルディのことを助けてやって欲しいって言われたの。その時は保留にしてたけどもう逃げきれそうもないからね。皇帝になりたいか聞いたの。」
「で?お前のお眼鏡にかなったわけ?」
「もちろん。ルディは僕と幼なじみだし友人だからね。いくらでも手を貸すよ。」
「…ほんとかよ。」
嘘じゃない。
第1皇子の方が扱いやすい頭だし。
ゲームでは第2皇子の『主人公が秘密にするルート』以外では皇帝になってたし。それさえ避ければ問題ないわけだ。
もしそうなっても、勝ち抜ける自身はある。だって本当に殺したのは第2皇子なんだから。僕と第1皇子の刻魔術を使えば真実を映し出せるかもしれない。そのためには魔術を簡略化させる魔具が必要なわけだけど。クラウスの1番の得意分野は錬金術だからね。
今から着手すれば問題ないでしょ。
1口だけ出された紅茶を飲んで立ち上がる。そろそろ皇帝陛下陛下との謁見の時間だ。ここからも離れてるし早めに出とくにこしたことはない。
「相変わらずいい茶葉と入れ方だ。また飲みに来るよ。」
▽
▽
▽
皇帝陛下から指定されたのは皇帝の執務室。
「帝国の主、皇帝陛下にご挨拶申し上げます。」
「よいよい。貴殿と私との仲だ。顔を上げなさい。」
皇后様と同じようなことを言うね。政略結婚と言っても夫婦だ。お互い似ていくのかもね。
家系によって受け継ぐ魔力には差異がある。
基本的に適正のある魔力は1つ。
というこの世界の法則がある。
例えば皇家なら光魔法。
光魔法の魔力が強い人は瞳とか髪とかが金色になる。とは言っても、皇家の血が入ってないと光魔法は現れないんだけどね。
僕の家。シルヴェスター公爵家なら闇魔法。
闇魔法の魔力が強ければ黒くなる。
真っ黒な髪を持ってる僕とテオ様がいい例だ。
父様は魔力が弱いのかくすんだ色をしてる。グレー?の少し濃い色。
テオ様は2つ魔法適正を持ってるけど第1皇子は光魔法の魔力だけ。
僕は実は魔法適正を3つ持ってる。
闇魔法と光魔法の適性が強すぎてもう1つは外には現れてないけどね。
この適性というもの。貴族社会ではなかなかに面倒な扱いを受ける。
まず、1つの家に1つの適正というのが主流。
その1つの適性を極めることが貴族社会では好まれる。そうすることで他の家との衝突を控えるのだ。
ただ、貴族社会には建前というものの上に立ってるからね。建前上は『〇〇家の純血が生まれた!』と祝われる。
まぁこれだけ貴族がいたら適正は被るわけだけど。その場合は1番身分が高い貴族のは傍系ということで落ち着いてる。
皇家とシルヴェスター公爵家だけは傍系にその魔力持ちが現れたら引き取るって決まってるんだけどね。血の繋がりがなくても、他の家から闇魔法や光魔法持ちが産まれたら世話をするしきたりもあるし。
次に、適性を1つ以上持ってると器用貧乏という扱いになる。
魔法はそれぞれで魔力の流し方が違う。だからいくつも持っていたとしても全部極めるのは至難の業。そしていくら魔力が多くても使われない適正に魔力が使われてるなら、それは宝の持ち腐れ。だから貴族には好まれない。
平民は逆でいくつもの適性を持ってたら持て囃されるらしいけど。僕は貴族生まれ貴族育ちだからそこはよく分からない。
だから黒髪と真っ赤な眼をもつテオ様は器用貧乏という烙印を押される。
僕は3つ適性を持ってるからもっと器用貧乏なわけだけど。
この烙印を覆す方法はただ1つ。
公の場で認められること。
だからゲームのクラウスは8歳で皇帝陛下主催の魔法大会に出るわけだし。僕もテオ様に好かれるために出るわけだ。
誰にもバカにされない完璧超人なクラウスを作り上げる最初の一手。
テオ様に好かれる最初の一手。
この大会、負ける訳にはいかない。
気合いで勝ってみせる。そのために第1皇子と一緒になって魔力が空になるまで魔法打たされてるわけだし。
あぁ…そうなんだよ。僕ね、光魔法の適性があるから魔法の練習は皇宮に行って第1皇子と一緒に練習してる。
母様と皇后が昔からの友人だったらしい。だから僕らも兄弟のように育った。
でもまぁ身分の違いはあるからね。公の場じゃちゃんとしてる。
今日も今日とて物理的にキラキラしてる皇子様と魔法の練習。今日は頼み事もあるから手土産持参してる。
第1皇子は光魔法だけの適性があるから器用貧乏じゃないんだよ。でもいつ見てもキラキラしてて目に悪い。どこを見ても金色なんだよ。本当に目が疲れる。
第1皇子は皇子っぽくない。黙ってたら皇子感はあるけど、口を開けば皇子より悪ガキの方があってる。
高いところが大好きで褒められるのはもっと好き。子供っぽい人。
ほら、今だって公爵家の馬車が見えたのかめっちゃ早く歩いて向かってきてる。メイドが置いてかれてるの気づいてないのかな。皇子に何かあったらあの人たち首切られるのに…。あんな自由奔放な人に付けられてかわいそ。
「くらうすーー!!」
「あんまり走ると転ぶよ。」
「はしってねぇよ!元気だったか?クソ公爵がケバい女を後妻にしたって母様が嘆いてたぞ。」
悪ガキ皇子も貴族だけあって降りる僕の手を取ってくれる。大人用に作られたこの馬車はまだ僕には高いんだよね。早く大人になりたい。
遠慮なく皇子の手を取って降りることにする。
「あんま関わってないけど真っ赤な髪が印象的な女性だよ。」
「ふーん。ま、いいや。後で話しようぜ。」
ニヤッと笑う皇子様。
僕ゲームじゃ、この人あまり好きじゃなかったけど味方にしたらめちゃくちゃ力強い。
直情的で頭をあまり使いたがらないけど、僕が入れ知恵すればスルスルと飲み込めるだけの知力はある。
しかもそれを嫌がるわけじゃないく受け入れるから。そこも好き。
騎士団長の息子は正義感強すぎて相いれなかった。
今日も今日とて皇子と共に魔法をぶっぱなす。
めっちゃ失敗もして自爆したりしながら走り回って魔法をぶっぱなす。
それで歩けないくらいにフラフラになったところで先生から終わりの許可が出る。倒れ込むなんて汚いことしないけど、皇子は倒れ込んでる。たまにうつ伏せで倒れるもんだから使用人達がてんやわんやしてる間に僕はさっさと帰ってる。
毎日が命懸けの魔法の訓練。
今になってこの人を教師に選んだことを後悔してる。今更だけどね。
「マーティン。今日は僕、皇帝陛下と皇后様に会いにいくから程々にしてくれない?」
「はい。分かりました。ですがクラウス様はいつも飄々としてらっしゃいますし、いつも通りで問題ないのではありませんか?」
「無茶言わないでよ。家に帰ったら部屋で倒れてるよ。」
「俺は無理だな。なんで歩けんの?気持ちわりぃ。」
なに気持ち悪いって。テオ様に似た顔で無様さられせるわけなくない?
テオ様に知られたら蔑んだ目で睨まれて暴言吐かれるに違いない。それはそれでいいんだけど、テオ様の場合それは本気だから。絶対に言われたくないの。
だから第1皇子みたいに地面に倒れ込むことはできない。
「僕からしたら地面に倒れ込むルディの方が分からないよ。」
「んだよ。皇子様だぜ?文句あんのかよ。」
「だから、その皇子様みたいに人前で無様晒せないって言ってるの。」
「あ?」
「なに?」
お互いの魔力が漏れる。魔術のエキスパートはこれを感じ取れるらしい。
隣でいつもの喧嘩をはじめた僕らを、ニコニコ見守ってた先生が今度は頬を赤らめてニマニマし始めた。
この人魔法に関わったら天才で変態だから強い魔力とか大好きなの。
僕らのことを弱い弱いってすぐに言うけど、魔力は強いから好きなんだって。「弱いし時間の無駄だけど魔力が強い者が成長するのは好きだからこの仕事受けたんだ」って、初めの方に言ってた。
皇子はそこが気に入ったらしい。やっぱり2人とも変態だよね。
「んーーー!!いい魔力ですね。今日は実践訓練と行きましょう。いつも通り、回復魔法は光魔法特有の魔法ですので手当は各自でするように。では━━━はじめ!!」
「ライトボール!」
「プロテクション!」
皇子は直上型の脳筋だから絶対に一発目は攻撃力が高めのやつぶつけてくる。
しかも魔力バカ高めで打ってくるんだよ。1回僕も攻撃魔法で対抗しようとして怪我した。あとのことも考えて魔力使えばいいのにこの人それをしない。
魔力が多いっていうのも考えものだ。僕も皇子くらいはあるけど使い方は考えてるし。
皇子の魔法を適当に避けてこっちも迎え撃つ。
基本的に光と闇魔法しか使わないけどね。
もうひとつ適性のある風魔法は苦手だから全然上達しない。ゲームのクラウスは使ってた気がするけど僕の推しはテオ様だからよく覚えてない。
初級魔法は魔力しだいで強くなったり弱くなったりするから僕は基本的に初級魔法で凌いでる。1体1で上級とか神級魔法使うなんて馬鹿げてるよ。
そういうの使う時は複数戦か見世物になる時だけでいいと思う。
でも皇子はポンポン多い魔力に物を言わせて上級魔法を打ち込んでくる。それ止めるための防御魔法も馬鹿にならないのに。
まぁある程度防御したりやり返してたら勝手に魔力切れで倒れてくれるから楽でいいけど。
実践訓練って皇子相手ならめちゃ楽。脳筋とハサミは使いようだよね。
「ダークエリア」
僕の好きな魔法。
相手を拘束できる影の檻。便利だし魔力使わないし。つまりコスパがめっちゃいい魔法。
闇魔法と光魔法は特殊だからね。皇子とはお互い相性悪いけど魔力が空の皇子には屁でもない。
「また僕のかーち。」
「うっぜぇ!!なんでなんだよ!お前より俺の方が強ぇのに!!」
「魔力の使い方の違いですね。さすがです。クラウス様。」
教師の『止め。』という音頭を聞いて魔法を止める。
実践じゃ僕が勝つ。でも、皇子の強みはその魔力を生かした範囲攻撃だ。戦争などになればきっと皇子の方が活躍する。何より見栄えがいいから兵士の士気向上にもつながるからね。
僕も範囲攻撃を練習しなきゃとは思うんだけど如何せん使う場面がない。
平和というのも困ったもんだ。
このゲームただ好感度上げて犯人見つけるだけだから場合によってはなにも悪いことは起きないしね。
…とはいえだ。ままあるんだよね。
国を巻き込むような事件。シルヴェスター家も数回。まだ先のことだしちょっと注視してるくらいでいいとは思うけど。
皇子を引き起こしてあげる。
訓練の次は皇后とのお茶会。その後皇帝陛下との謁見だ。
この2つでテオ様の皇宮への出入り、それと僕の次期公爵という立場を認めてもらう。もちろんテオ様が公爵になりたいって言うなら喜んで譲るけど。
「ほら、ルディ、立って。次は皇后様にお会いするんだから。」
「俺もう昼食入んねぇよ。」
「バカスカ、力任せに撃つからでしょ。」
グダグダ言ってる皇子を力任せと魔法で起こしてやる。動きたくないとかまだ言ってるから影で包んで持ち上げたら子供みたいに喜んだ。
うるさい。というか、本当に皇子らしくない。
先生はニコニコしながら僕らに手を振ってる。皇子は機嫌良さそうに影球から手を出して降ってる。
「庭園に行くのにこのままでいいの?」
「いいって。母様どうせなんも言わないし。」
まぁ、皇后様は何故か第2皇子を気に入ってるからね。特に口出しはしてこないだろう。
僕は皇后に見かけ上は気にいられてるし。皇子が嫌われてようが好かれてようが、別に問題ない。
皇帝陛下にさえ気に入られれば問題ない。皇帝陛下は子供を平等に愛してるからちょっと対応がめんどいけどね。
「帝国の母、皇后陛下にご挨拶申し上げます。」
「そんな挨拶いいのよ。クラウス。私と貴方の母は友人だったのだから。」
本当にそう思ってんだか。
母の日記には使える友人だと書かれていた。母に対抗意識を向けてることもそれを隠しきれてないことも扱いやすい、と。
まぁ確かに我らが国母にしては感情の隠し方がド下手くそ。そんなのでよく社交界の花と言われるのかよく分からない。
母様が上手く祭り上げた可能性はあるか…。
「どうぞおかけになって。今、菓子を持ってこさせますわ。」
「ありがとうございます。皇后様の用意する茶菓子はいつも美味しいものばかりなので会える日は楽しみにしているんです。」
ホントそう。
僕の家じゃまだその余裕ないし。もちろんお客様用はあるよ。料理長と母様が思考しまくって作った美味しくて安いお菓子。
でも皇宮はほんとにお高くて美味しいから好き。
なにより、皇后様が母様に対抗してたっかいやつ出してくれるからね。これ一ついくらするんだろ。
「ふふ。お上手ね。公爵家で食べ慣れているでしょうに。」
「やめてください。あの継母と父ですよ。」
ふふふ。と愛らしく笑う皇后は本当に愛らしい。
嬉しいんだろうなぁ。母様が死んでこれから公爵家は落ちぶれると思い込んでるから。もうちょっと持ち上げてからテオ様のこと頼も。
僕がいる限りテオ様に苦労なんてさせないから落ちぶれることなんて有り得ないけど。
「皇后様の話は僕の耳にも届きますよ。義母が嫉妬しておりました。」
「まぁ。恥ずかしいわ。」
本当に嬉しそう。煽ててるって気づかないのかな。蝶よ花よと可愛がられた皇后様には分からないのかもしれないね。
母の家系と違って猫可愛がわりしてたらしいし。良い事なんじゃない?本人がいいなら。マナーも見れる程度だし文句ないと思うよ。
「新しいお母様にいじめられたりしていないの?心配だわ。」
思ってもないことをよくペラペラ言えるものだね。尊敬する。
「少し無邪気な所もありますが概ね仲は良好ですよ。」
父様の弱みも義母様の弱みも握って両親共々僕に逆らえないからね。父様またほかの女に手を出して遊んでいるらしい。そのまま帰ってこないで欲しい。義母はほかの男と遊んでたんだから永遠に僕に逆らえないと思う。追い出されたら行くとこないもんね。
似た者夫婦だね。ピッタリじゃん。
それにちょうどいい話も出たしそろそろいいかな。
「皇后様、実は義母の連れ子のことなんですが。魔法と剣術を皇宮で学ばせても良いでしょうか?」
「ここで?理由を伺ってもよろしい?」
「はい。連れ子も闇魔法の適性があるようです。学びがないのならそれはそれで良いのです。ただ、才能はある。義母や父がアレを使って帝国に対してなにをしでかすか…。あの人たちの考えることは分かりませんから。」
昔、父様は貴族が通う学園で好き放題して今の皇帝陛下にめちゃくちゃ迷惑をかけたらしい。
皇帝陛下の婚約者を寝とったり、それを捨てたり。貴族家を剥奪されかけたらしいけど闇魔法の使い手で帝国創設の立役者の子孫を手放すなんてできなくて結局はそのまま。
理性と普通の考え方ならそんなことはしない。
無駄に力があるのも問題だよね。だから有能な母様が嫁いだわけだけど。
母様の日記で見たけど侯爵家と皇家の取引だったらしい。よく母様も受け入れたよね。一体なにを取引材料にしたんだか。
その考え無しの行動を皇后も理解してるからこれだけかもし出せば通じるだろう。
もし、連れ子を使って反乱起こしたらどうするつもりだ?っていう脅しが。
僕の父ならやりかねない怖さがある。
そのくらい魔法の才能はある人だ。そこに頭が伴ってないだけで…。
その頭が伴ってないのが怖いんだけどね。
「それもそうねぇ。確かにクラウスが手網を握っていた方が帝国としても安心ね。いいわよ。連れていらっしゃい。」
「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、来月に隣国から取り寄せたワインが領地に届きます。入手できれば1番に伺いますね。」
「嬉しいわ。貴方の領地のワインに負けず劣らずのお味ですもの。」
まぁそうだろう。領地と隣国は隣だし。気候も似ている。
農業、漁業、貿易いろんな産業が盛んな土地だから皇家も僕たちを突き放せないのだ。
その色んなものが盛んな領地を荒廃させたのが父様なんだけども。逆にこんないい土地を荒廃させるとか才能を感じる。
僕も母様の手がけた事業を主軸に立て直そうとしてるけど中々ね。特に農業とか漁業も狩猟は持ち直させるのに時間がかかる。自然相手にできることなんて限られる。
僕が水とか土魔法持ってたら別なんだけどいかんせん持ってるのが光と闇と風だ。どうにもならない。
だから貴族の中では下賎だと軽んじられてる錬金術に手を出した。
ゲームの中のクラウスは魔法より剣術よりも錬金術の才能があった。それを魔法やら剣術に応用してたからの、あの強さ。
錬金術の才能がなければ誰よりも弱い。って攻略本に書かれてた。それ知った時は驚いたよね。
テオ様の羨望と嫉妬を受けに受けてた公式最強のクラウスがまさかの才能自体は凡人レベルだなんて。
ほんとテオ様が不憫で可哀想で好き。
それならこのゲームの才能1番はテオ様なわけじゃん。
あー。本当に可哀想。そういうとこ好きだわ。
皇后様とのお茶会も終わり、次は皇帝陛下との謁見。
と行きたいところだけどまだ時間が余ってるんだよね。
「ルディ。皇帝陛下との謁見まで時間あるから休ませて。」
「一国の皇子にそんなこと言えんのお前だけだから。」
「僕とルディの仲じゃない。それに今のうちに恩売っとけばいい事あるかもよ。」
「…それを返してくれる保証なんてどこにもねぇだろ。」
「ま、それはそうだね。」
「お前、すぐ裏切りそうだもんな。」
なんてこと言うんだよ。僕これでも義理堅いよ。
クラウスもなんだかんだでちゃんと最後まで第一皇子のケツ持ちしてあげてたし。
第一皇子がもうダメだって分かったら速攻手を引いてたけど。
でもあれくらい冷徹でないとテオ様を幸せにはできないのかな。人付き合いが家族と看護師さんだけだったからよく分からない。どうしたらいいんだろう。
今はゲームのクラウスの人生を辿ってる。でもいつかそれじゃきっと無理が来る。
だから僕自身が学び、成長する必要がある。
だから今のうちにできる限り手を打っておく必要がある。皇后と皇帝陛下のコネクション作り。皇宮にはいっぱい情報が集まるからね。
貴族会のトップたる皇帝とお嬢様たちのトップの皇后だ。仲良くしとくに越したことはない。
特に社交界は女性が引っ張ってる。でも、シルヴェスター家には女がいない。義母はダメだ。マナーも頭も悪すぎる。まだ、皇后の方がマナーもなってるし扱いやすい。
だからシルヴェスター家としては皇后にトップに立ってもらい、その恩恵にあやかりたい。
女性の噂話は貴族社会になくてはならないものだから。その話から情報を選別して金儲けにどれだけ役立てられるかが肝になる。
「ねぇルディ。そろそろ歩かない?」
「部屋まで連れてけ。そうしたら時間までいさせてやるよ。」
「はぁ…殿下の仰せのままに。」
僕も皇子の部屋には何回も行ったから道は覚えてるしね。
にしても、いつ来てもこの第1皇子の宮は人材がいい。一体誰がそろえたんだか。その代わり皇宮の第1皇子に付き従う人にしては少ないけど。
優秀な人材に金を払ってるのか。それともただ払われる金が少ないのか。
そこまではゲームに明記されてなかったけど。貴族として生きてきたからには分かる。
どうせ皇后の仕業だ。皇宮は皇后の管轄。なんで自分の子供で差別するのかはしらないけど第1皇子はあまり皇后に好かれていない。
僕が着くのはゲームでも今でも第1皇子だから皇后がどっちを気にいろうがどっちでもいいけどね。
僕さえ見かけ上仲良しでいてくれたら文句はない。もし、僕とも縁を切ろうとしたり貶めようもんなら違う傀儡を探せばいいだけ。
皇后は母のお下がりで扱いやすい立場と頭だから使ってるだけだ。
万が一に備えてもう1人傀儡作っとこうかな。
「シルヴェスター公子様。そろそろ我が小さな太陽を下ろしてくださいませんか?」
笑顔の第1皇子の専属執事。こっわいんだよね。顔がいいのもあるけど圧がすごい。昔騎士だったってホントなのかな。本人は否定してるけど。
今はこの人と敵対したい訳でもないし。
「ルディ。下ろすよ。」
「はぁ?運べよ。」
「皇子。」
「…へーへー分かりましたよ。」
わがまま皇子を一言で制しちゃった。すごいなこの人。
「クラウス、行くぞ。」
第1皇子も地面に下ろせば使用人に身なりを整えさせたりと見た目だけなら皇子らしくなった。
さっき迄運ばれてた姿とは思えないくらい
皇子が前を歩くので大人しくそれに続く。いくら仲がいいからって立場は分かってるし。
あくまでルディはこの国を背負うだろう第1皇子。
僕は少しばかり皇帝陛下の血が入ってるこの国1番の貴族。
ほら、身分が違いすぎる。まぁ?僕の方が強くて賢いけど。
皇子の専属執事が開けるドア。当然のように入る僕達。貴族なんてこんなもんでしょ。
入ってすぐに闇魔法お得意の空間魔術で部屋全体に盗聴器とか盗聴魔法が仕掛けられてないから調べる。
今回はないみたい。たまに仕掛けられてるんだよね。ほんと誰がしてんだか。
「クラウス、あったか?」
「ないよ。防音魔法お願い。」
「お前の方が魔力余ってんだろ?」
皇子はほんと疲れてるのか、ソファに寝っ転がっちゃった。
まぁあんなに魔法打ちまくってたもんね。
「分かりましたよ。殿下。」
便利な魔法は僕らの先祖が色々開発してくれてるからそれをなぞるだけでいい。ほんと便利な世の中だよ。
探知魔法も防音魔法もそれぞれの適正にある。精度は変わってくるけどね。
闇魔法は闇魔術と空間魔術が得意。
光魔法は光魔術と刻魔術が得意。みたいな感じ。
また僕は空間魔術を使って部屋の外と中の空間を分断する。
これが闇魔法のやり方。光魔法なら外と中の時間を変えたりとか。
本人はケロッと説明してきたけど、難しそうだよね。
ソファに寝っ転がった皇子の前のソファに腰かける。
「親父になに仕掛けに行くんだ?」
見計らったように皇子が聞いてきた。
疲れた疲れた連呼してた割には鋭い眼光を僕にぶつけてくる。
「いくらお前でも皇家になにかしでかすなら俺が止める。」
かっこいい。さすが皇子様。
テオ様に害をなすなら言えるけど。たかが皇国のためとか家のためにそんなこと、僕には言えないな。
それでもちゃんと答えてくれたからには僕も答える義務がある。思う存分僕のテオ様への気持ちを聞くが良い。
「僕に新しく弟ができたの。」
「アバズレの子だろ。」
アバズレの子でもテオ様は可愛くて天才なんだから。
「一目見た時に気に入っちゃった。才能も頭もマナーも悪くない。だからね、愛して可愛がって逆らえないくらい可愛がろうかなって。」
「趣味悪ぃの。」
悪くて結構。
それがテオ様にとっての幸せだもん。クラウスに対して劣等感を抱かせない。そうすればテオ様は歪むことなく幸せになるはず。
それくらいに甘やかしてデロデロにして可愛がって幸せにしてあげるの。
「ねぇ、ルディ。話を変えよう。僕もそろそろ立場を決めようと思ってる。ルディ、お前皇帝になりたい?」
第1皇子は僕の考えを見透かすように見つめたあと重い息を吐き出した。分かんなかったのか。分かった上でか…。
僕には見定められないけど微笑んでおく。
「…なりてぇよ。」
「なんで?」
「王になったら食いっぱぐれもねぇ。みんながチヤホヤしてくれる。なにより、弟に俺の席を奪われてのうのうと生きてらんねぇよ。弟にお情けで貰う爵位?笑わせんな、俺のプライドが許さねぇ。」
プライドねぇ。そんなに大事なのかな。よくわかんないや。プライドがなくても元気な体とお金があれば生きていける。
前でそれを実感したもん。
「お前は?本当に公爵になりてぇの?」
「さぁどうだろ。ならなくても僕なら生きていけるし。時と場合によるかな。」
「プライドとかねぇのかよ。」
「生きてくためにそんなものはいらないよ。」
今もソファに沈んでるのとは思えないような目を向けてきた。
野性味のある皇子だと思ってたけどここまで野性的な目ができるもんだ。
「俺はプライドがねぇ生き方なんて死んだ方がマシだ。」
「分かり合えないねぇ。」
分かり合えないことに時間を割く趣味は無い。だって分かり合えないんだもん。仕方ないじゃん。
皇子もそうなのかソファに顔を埋めた。
「殿下、我らシルヴェスター公爵家が殿下の支援をさせて頂いてもよろしいですか?」
また顔をあげて訝しげに僕を見てくる。
いや。僕だって真面目な話する時は真面目な顔とか言葉使いするよ?
「今日は腹違いの弟のこと。それと公爵家がどの皇子の支援をするのか。それを皇帝陛下に伝えに来たの。ルディが嫌なら第2皇子殿下と思ってたんだけどルディもやる気みたいだしね。」
「ふぅん。」
「皇后様は第2皇子に付く。皇帝陛下はどちらかに肩入れはできない。だからルディのことを助けてやって欲しいって言われたの。その時は保留にしてたけどもう逃げきれそうもないからね。皇帝になりたいか聞いたの。」
「で?お前のお眼鏡にかなったわけ?」
「もちろん。ルディは僕と幼なじみだし友人だからね。いくらでも手を貸すよ。」
「…ほんとかよ。」
嘘じゃない。
第1皇子の方が扱いやすい頭だし。
ゲームでは第2皇子の『主人公が秘密にするルート』以外では皇帝になってたし。それさえ避ければ問題ないわけだ。
もしそうなっても、勝ち抜ける自身はある。だって本当に殺したのは第2皇子なんだから。僕と第1皇子の刻魔術を使えば真実を映し出せるかもしれない。そのためには魔術を簡略化させる魔具が必要なわけだけど。クラウスの1番の得意分野は錬金術だからね。
今から着手すれば問題ないでしょ。
1口だけ出された紅茶を飲んで立ち上がる。そろそろ皇帝陛下陛下との謁見の時間だ。ここからも離れてるし早めに出とくにこしたことはない。
「相変わらずいい茶葉と入れ方だ。また飲みに来るよ。」
▽
▽
▽
皇帝陛下から指定されたのは皇帝の執務室。
「帝国の主、皇帝陛下にご挨拶申し上げます。」
「よいよい。貴殿と私との仲だ。顔を上げなさい。」
皇后様と同じようなことを言うね。政略結婚と言っても夫婦だ。お互い似ていくのかもね。
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