推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん

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プロローグ

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僕には産まれた時から記憶があった。

だから母親が会いに来なくて乳母の顔を母親より早く覚えたときも。
父親が女を連れ込んでそれに鉢合わせた時も。

別になんとも思わなかった。

だって親と思えないし。



僕の親は死んだ時に泣いてくれた両親だけ。


生前の僕は病弱で直ぐに入院するような子供だったから。両親には迷惑をかけたと思う。
病院代、すぐに倒れるあの体。金も心身も両親は限界だったんじゃないのかな。
会いに来る度にニコニコしててくれたけど僕がいない所で泣いてるのも見たことがある。

入院してた時、僕は治療よりもオタク街道へ突っ走った。だって学校行けないから友達いないし。ベットから外にも出られないからやる事ないし。本も飽きるし。こんな体じゃ一生ベットの上。良くて家のベットの上。

治療して今から普通の体になってなにするの?
外で駆け回る?友人もいない。そんな無邪気な歳じゃないのに。
勉強する?もう飽きるほどしたよ。することないもん。
将来を考えて大学に行く?いって何するの?
運動選手になる?治ったところで走れるのかな。もう歩くのもままならないのに。

それでも外を駆け回ることとか。ピクニックとか、BBQとかすごく興味ある。今の体じゃ、日に当たりすぎると次の日寝込むし。煙にあたれば咳き込んで死にかける。どんだけ病弱なんだよって感じ。外なんて駆け回った暁には次の日目覚めないんじゃないのかな。


だから外を駆け回る漫画とかゲームとかにハマった。
少年漫画はいいよね。僕のしたいことを全部してる。見てるだけで僕も世界を回った気になれる。だからとっても好き。

あとね。恋。
男同士も女同士も男女も。全部好き。
僕には縁がないから。
下手したら血圧上がって死ぬ。


主人公が人を愛してその人も主人公を好きになる。それってとっても奇跡だよ。だから見ててとってもワクワクドキドキした。

それが祟って大人向けのBLゲームもGLゲームもNLゲームもとことんやり尽くした。

好きだからね。仕方ない。

だから僕は立派な腐男子に成長しました。

そういえばあの隠し持ってたゲームたちどうなったんだろう。両親にバレたのかな。

あんな感動的な別れをして遺品整理したらやばいゲームに漫画が出てくるとかちょっと同情しちゃうな。

そんなこともう僕には関係ないけれど。死んじゃったから。

だから別に今の親がクソだろうがゴミだろうが関係ないんだよ。

今の僕は走れるし、なんなら剣だって握れる。それに魔法使えるし。なにも不自由なことはない。

だから親が何しようが関係ないんだよ。



そんな今の母親はなんか忙しそうにしてるからほとんど会ったことはない。
会っても『勉強はどのくらい進んでいるの?』『魔法のできは?』『剣術はまともになったのかしら?』『食事のマナーがなってない。それでも私の子ですか。』そう言って教師たちを怒鳴るわ、叩くわ。

僕に手を出さないのは我が子だからじゃない。傷物になったら社交界で恥をかくから、らしい。本人に言われたからきっとそう。

それで、ここの当主である父親は女に会いに家を空けてばっかり。前、庭見てたら女連れこんでるのを見かけた。
裏庭でメイドに手を出してるのも見つけた。
良くもまぁそこまで性欲が湧くものだ。
ある意味尊敬する。元気な証拠だね。なによりなにより。




小さい時には気づかなかったけどある程度大きくなったら違和感を感じてきた。

なんで前世の記憶あんだろって。
今まではなにも思わなかったし、何故かそれが普通だと信じてた。前の父母がいるからこの生活に耐えられたのもあるけど。
なのに急に悟った。


   ━━━━あ。ここ、BLゲームの世界じゃん。





気づいた当初は人気の異世界転生かよ。金持ちそうだし悪くないな。と思ってた。

でも時間が経つにつれて自分の顔を見るのがなんかうーんって感じの違和感が出てきた。なんか違うなって感じ。前世の顔と違うせいでもない。ただ本当に……なんか違う。

それでしばらく過ごしてたら母親は過労で死んだ。公爵様ちちおやが働かないからだね。
うん。最終的には僕まで領地経営も商いも手伝わされてたし。過労死だ。元気なからだでも死ぬんだなぁって思ったことは覚えてる。

それにも関わらず、死んですぐに父親が新しい母親を連れてきた。
女好きな父親のことだ。分かってたから僕も受けいれた。

その時、俺と同じくらいの背の子供を見て気づいてしまった。


あ。僕の推し。テオ様。


それから次々と前世の忘れてた記憶が蘇る。
僕この世界知ってるわ。
《君の心臓にたどりつけたら》というBLゲーム。その世界だ。



なんで気づいたのかって?そりゃあ目の前にいる同い年くらいの男の子。それが僕の推しテオ様だから。

今まで感じてた僕の顔の違和感の正体はこれだった。僕とよく似た顔。よく似た黒髪。でも決定的に違うところがある。目だ。

僕は皇族に引き継がれる魔力が先祖返りしたせいで金色の目。

けど目の前の子供は真っ赤な目だ。火の魔力が強いから現れた真っ赤な目。

それ以外は僕にそっくりな子供。
僕の推し。あー。やっちまった。このゲーム中々にシビアだから……。

なんて最悪で最高なんだろう。





僕はゲームに出てくる推しテオ様の兄、クラウスに成り代わったらしい。


しかし困ったことにこのクラウスというキャラ。完璧超人なのだ。
魔法も剣も1級品。どの大会に出ても1位。オマケに人柄も優しく、平民も貴族も差別しない人。本当は興味がないだけなんだけど。
それでも推しテオ様が大好きで尊敬している公爵家の嫡男様だ。
それに成り代わった。 

困ったぞ。
推しテオ様に失望はされたくない。
けと、僕がクラウスの様に完璧超人になれる自信はない。
かと言って、できなくて推しテオ様に嫌われるのはキツい。

どうしよう……。頑張るしかないの?
推しテオ様のために?
確かに推しテオ様のためなら血反吐吐くくらいなら頑張れるけど。



それともうひとつ困ったことがある。

この《君の心臓にたどりつけたら》というBLゲーム。俺は好きだった。ただ、人を選ぶゲームではあった。

だって初恋の相手を殺した殺人犯と恋をするんだもん。現実なら無理。ただこのゲーム、めちゃくちゃ作り込まれてて、めちゃくちゃいいの。好きなの。愛してるの。

聞いてくれる?聞いてくれるなら話すよ。

まず、主人公は商家の平民。だけど商家だけあってめちゃくちゃお金持ち。お金持ちは道楽で孤児院とか色んなとこに寄付するんだけど、その1つが初恋相手の孤児院。

寄付という名目で主人公はその孤児院に通いつめる。通いつめるんだけどある日その初恋の子は他国の貴族の息子ってことが分かるの。そんでその貴族おやは初恋の子を引き取ると言い始めた。

主人公は反対するけど孤児院よりも貴族の家の方がいいだろうと、初恋相手は引き取られることになる。


このゲームの始まりは主人公が幼い恋心を抱いていた子が死んだという報告から話が始まる。

その子は暴漢に襲われて死んだとか、自殺とか。まぁ攻略キャラによって色々変わるんだけどとにかく初恋の子は死ぬの。

死んだことを知って主人公は理由を調べるんだけどおかしなところが沢山出てくる。だから裏を探るために主人公は友人が引き取られた国に留学するんだ。

で、初めに決めた攻略キャラと秘密を探っていく。その中で対象キャラとの親密度をあげていくのだ。

その好感度を必死に上げたキャラが犯人なんだけど。

1番初めにプレイした時は迷った。どうしたらいいかわかんないじゃん。推しが人殺し……。しかも初恋の相手……。
報告?黙っとく?何がいいの?って状態になった。



この《君の心臓にたどりつけたら》ってゲームは少し変わった要素がいくつかある。

まず1番初めに攻略者を選んでプレイしていくのだ。途中でこっちのキャラがいいなと思えば初めからやり直し。ハーレムルートはない。

2つ目、好感度が見えないの。本物の恋愛みたいでしょ。
まぁ見る方法も幾つかあるんだけど。課金っていう手がね。

3つ目、初恋相手を殺した相手はその攻略相手なの。自動的にそうなる。
もちろん他の対象キャラとの関わりもある。あるけど、他のキャラに告白したら振られて、初恋相手を殺した人も分からずに終わる。だからオススメはしてない。下手したら殺される。


あぁ。それでね、最後は

《犯人を捕まえる》
《犯人を知った上で運命を共にする》
《犯人を知らないままで話を終える》
《主人公が代わりに罪を被りにいく》
《主人公が許せなくて殺す》

っていうルートがある。
どのルートも好感度で選べる選択肢が変わってく。好感度に見合わない選択すると殺される。

例えばね、クラウスで《犯人を知った上で運命を共にするルート》を選ぶとする。

その中でも相手にそれを伝えるか伝えないか選べるんだけど、今回は『伝える』を選ぶとする。

このキャラクラウスね、ちょっとというかだいぶ歪んでる。

だから、好感度が90%以上だとコイツ主人公のこと殺すんだよ。
意味わかんないよね。話読んでたら1%くらいは理解できるようになるけどまぁうん。意味はわかんないことしてる。


90%未満50%以上だと身代わりに誰かが捕まって、2人幸せな結婚式をするんだよ。結婚式っていうのがミソだよね。だって結婚後のことは何も書かれてないんだもん。
僕のキャラ、家のためなら何でもする。だから、主人公は僕のキャラにとって利益になるくらいに馬鹿でいい駒で才能があったんじゃないのかな。そうじゃなきゃ近くに置かないだろうし。


50%未満30%以上だとクラウスぼくに罪を擦り付けられる。そんで主人公は処刑される。

好感度が30%以下だとクラウスお得意の錬金術の実験に使われる。どんな事されたとか書いてないけど僕が成り代わったクラウスキャラは目的と手段がえげつない人だから。

僕の推しはそんな兄が大好きなんだけどね。
はぁ辛い。


ほんとにね、このゲームすぅぐに主人公が死ぬんだよ。
ちょっと攻略者の対応間違えたら死ぬ。無駄に好感度高いと監禁される。下手に好感度が低いと死ぬし。

つまりだ。クラウス以外もみんな揃いも揃って歪んでる。だから主人公は直ぐに死ぬんだよ。もちろん僕の推しであるテオ様も歪んでる。
僕がなんでそんなテオ様を好きになったかと言うとね。推しテオ様は剣術の天才なんだよ。

自由自在に剣を操って、魔法を駆使して飛び回って、剣技って言う剣を極めた技まで使える。僕もそんなふうになりたかったから、すっごく好きなの。

それにね。僕ね。元々悪役は好きなんだ。




だからこのゲームはみんながみんな歪んでて可愛そうで好きだった。
そう、好きだったの。だってゲームじゃ死んでもやり直しができるじゃん。推しテオ様のことを沢山知ることができるじゃん。スチル集まるじゃん。
死んだとしても僕は推しテオ様のことを知れて幸せ。
現実じゃそうはいかない。


1回でいいから自由に走り回りたかった前世。
推しが尊敬する大好きな超人兄に成り代わった今世。

どうしよう。どっちが幸せなんだろう。

推しに嫌われるくらいなら外を走れなくていいんだけど。




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